台湾・新竹県にあるパナソニックインダストリーの基板材料工場で11月4日に火災が起き、生産が止まった。米証券大手は高性能品の大半を福島県で作っているとみており、パナソニックに代わって台光電子材料など台湾勢が需要を取り込むと予想する。

火災は4日未明、パナソニックホールディングス(HD)傘下のパナソニックインダストリーの製造子会社、台湾松下多層材料が新竹県湖口郷に構える工場(以下、湖口の工場)で起き、同日午前に鎮火した。新竹県によると、工場全体の約3分の1にあたる1万平方メートル超が焼けた。5日時点の現地の報道では、従業員5人がけがをし、2人の安否が分かっていない。パナソニックインダストリーは、建屋の被害が大きく、生産再開のめどは立っていないと説明している(日本経済新聞が5日報道)。

台湾松下多層材料は1987年の設立で、従業員は約330人。資本金は7億8,000万台湾ドルで、多層プリント基板や半導体パッケージ基板、高周波・高速通信向けの材料を作っている。台湾の報道によると、消防当局は工場内のメタノールやメチルエチルケトンなどの溶剤が爆発につながった可能性があるとみて、出火原因を調べている。

ただ、米証券大手は、パナソニックの生産全体への影響は限定的とみている。湖口の工場がパナソニック全体の生産能力に占める割合が大きくないためだという。同証券はまた、火災を機に、パナソニックが高性能品の生産へ軸足を移す動きが加速する可能性もあると指摘する。本稿で紹介する米証券会社の見方は、台湾の証券会社が顧客向けのリポートで伝えたもので、リポートは米証券会社の社名を明らかにしていない。銘柄ごとに別の証券会社の見方である可能性もある。

湖口の工場は生産能力の約1割、メグトロンに限れば約2割との報道

銅張積層板(CCL)は、ガラス繊維に樹脂を染み込ませて固めた板に銅箔を貼った材料で、プリント基板の基材になる。パナソニックは、銅張積層板と、それを重ねて接着するシート(プリプレグ)をまとめて多層基板材料と呼んでいる。メグトロンは信号の伝送損失が小さい銅張積層板のシリーズで、2004年に量産を始めたメグトロン6が代表的な製品だ。メグトロン8は伝送損失がさらに小さく、AIサーバーのようにデータを高速で送る機器に向く。

湖口の工場が占める割合は、何を基準にするかで数字が異なる。投資情報サイトのインベスティング・ドットコムは台湾のテレビ局TVBSなどの報道をもとに、パナソニックの多層基板材料の生産能力のうち約1割を台湾の工場が占めると伝えた。台湾紙の経済日報によると、業界関係者は湖口の工場がパナソニックのメグトロンの生産能力の約2割を占めるとみている。高性能な多層基板材料では、世界の供給量の約4%に影響が出るという。米証券大手が割合は大きくないとするのは、多層基板材料全体に占める約1割の数字を指しているとみられる。

高性能品は福島で生産か、拠点を移すには改めて顧客の承認が必要

台湾の業界では、銅張積層板を伝送損失の大きさで等級に分け、メグトロンの番号にならってM6、M7、M8などと呼ぶことが多い。米証券大手によると、パナソニックは伝送損失が特に小さいM7・M8の大半を福島県で生産しているという。パナソニックインダストリーは福島県郡山市にメグトロンの生産拠点を持つ。一方、経済日報は湖口の工場の主力製品をAIサーバー向けのメグトロン6〜8と伝えており、高性能品をどこで作っているかについては米証券大手と見方が異なる。

伝送損失の目安となる値が誘電正接で、信号のエネルギーがどれだけ熱に変わるかを示す。値が小さいほど、高い周波数の信号でも損失が少なく遠くまで届く。パナソニックの公表値では、メグトロン6は0.0037(13ギガヘルツ)だ。メグトロン7は0.0023、メグトロン8は0.0012まで下がる(いずれも14ギガヘルツ)。品種ごとの比較と、光電融合が進んだ後に必要な材料は、「光電融合でCCLはM8からM4へ」で詳しく紹介した。

今回の火災で問題になるのは、性能の高い製品ほど別の工場で代わりに作るのが難しい点だ。高性能の銅張積層板の生産には、クリーンルームの高い清浄度と設備の高い精度が求められる。プリント基板メーカーや納入先のサーバーメーカーは銅張積層板を品番ごとに承認しており、同じメグトロンでも別の工場で作ったものは、改めて承認を得る必要が出ることがある。経済日報によると、市場関係者は建物の修復や設備の入れ替えに加え、顧客の承認も必要になるため、生産の再開には数カ月以上かかるとみている。

日本経済新聞によると、パナソニックインダストリーは、湖口の工場で作っていた品番の代替供給について、メグトロンを生産する日本、中国、タイの拠点と調整を進めている。経済日報は、基板メーカーやサーバーメーカーが調達先の分散を急ぐとの見方を伝えた。

米IT大手4社の設備投資、7〜9月期は前年同期の2.1倍に

基板材料の需給が逼迫しているのは、米IT大手の設備投資が急増しているためとみられる。本誌は、4社が米証券取引委員会(SEC)に提出した7〜9月期の四半期報告書を基に、キャッシュフロー計算書の「有形固定資産の取得による支出」を集計した。アルファベットとメタは年初からの累計額で開示しているため、1〜6月期の累計額を差し引いて7〜9月期の額を算出した。

会社2026年7〜9月期2025年7〜9月期前年同期比
アマゾン772億5,900万ドル350億9,500万ドル2.20倍
アルファベット513億5,500万ドル239億5,300万ドル2.14倍
マイクロソフト393億6,700万ドル193億9,400万ドル2.03倍
メタ339億4,200万ドル188億2,900万ドル1.80倍
4社合計2,019億2,300万ドル972億7,100万ドル2.08倍

これらの支出には、データセンターの建物やサーバーのほか、AI関連以外の設備も含まれる。4社とも前年同期の1.8〜2.2倍に増えた。米エヌビディアも、画像処理半導体(GPU)の販売が伸びている。2026年5〜7月期の売上高は前年同期比2.1倍の962億ドルだった。米IT大手の設備投資とエヌビディアの売上高がともに前年同期の約2倍になっており、AIサーバーに使う基板材料の需要も膨らんでいるとみられる。

AIサーバーに使うプリント基板も、ラック1台あたりの金額が増えている。モルガン・スタンレーの推計では、エヌビディアがGPUの世代交代を進めるたびに膨らみ、2世代で4倍を超える(「AIサーバーのプリント基板、エヌビディアは2世代で4倍超」)。需給が逼迫している時期は、1つの工場が止まっただけでも納期が遅れやすい。

パナソニックは汎用品の価格を3回の値上げで約2倍に、増産は中国とタイで

パナソニックインダストリーは2026年に入り、電子回路基板材料の値上げを3回発表した。値上げの理由には原材料や物流費、エネルギー費の上昇を挙げ、6月の発表では中東情勢を受けた石油化学品の調達難も挙げた。3回の値上げで、汎用の銅張積層板の価格は累計で最初の値上げ前の2.03倍になる。メグトロンなどの高性能品は1.52倍にとどまる(独自試算)。

パナソニックの銅張積層板の価格は、2026年5月・8月・9月出荷分の3回の値上げで、汎用品が2.03倍、メグトロンなどの高性能品が1.52倍になる
パナソニックの銅張積層板の価格は、2026年5月・8月・9月出荷分の3回の値上げで、汎用品が2.03倍、メグトロンなどの高性能品が1.52倍になる

パナソニックは値上げ幅に差をつけた理由を説明していないが、汎用品を大きく値上げしたのは、高性能品に生産を集中させる狙いとみられる。台湾の経済誌「数位時代」は10月19日、パナソニックが汎用の多層基板材料4品種の価格を3倍に引き上げると顧客に通知したと報じた。2027年1月の出荷分から値上げするという。この値上げはパナソニックインダストリーのホームページでは告知されておらず、同社は汎用品の生産から撤退するとも発表していない。

AI向けの需要は、パナソニックHDの業績を押し上げている。インダストリー部門の業績は次の通りだ。セグメント利益は営業利益にあたる。

期間売上高前年同期比セグメント利益前年同期比
2026年4〜9月期6,837億円+19.2%869億円+87.6%
2026年7〜9月期3,495億円+20.5%478億円+77.7%

7〜9月期の増収額を事業別にみると、電子材料が245億円(為替変動の影響を除く)と最も多かった。パナソニックHDが重視する調整後営業利益(売上高から売上原価と販売費・一般管理費を引いた利益)でみると、同じ期間の部門の増益幅271億円のうち、65億円は電子材料によるものだった。パナソニックHDは、AIのデータセンター向けに多層基板材料の販売が伸びたことを増益の理由に挙げた。コンデンサーなどを含む同部門のAI関連事業は、7〜9月期の売上高が886億円と前年同期の1.6倍に増えた。

パナソニックHDはこの事業の2026年度の売上高見通しを3,600億円に引き上げた。従来予想は3,100億円で、2025年度の実績は2,300億円だった。2026年度の調整後営業利益の見通しもインダストリー部門を中心に上方修正し、7,800億円とした(パナソニックHDの銘柄ページ)。

パナソニックは多層基板材料の増産を中国の蘇州・広州とタイのアユタヤで進め、2030年度の生産能力を2025年度の2倍以上にする
パナソニックは多層基板材料の増産を中国の蘇州・広州とタイのアユタヤで進め、2030年度の生産能力を2025年度の2倍以上にする

多層基板材料では、中国・蘇州とタイ・アユタヤの工場でそれぞれ2期に分けて新棟を建設し、中国・広州の工場には生産ラインを増設する。これら5件の投資額は、合わせて1,055億円になる(独自試算)。蘇州の新棟の第1期は2026年10〜12月に、広州の生産ラインは2027年4月に稼働する予定だ。パナソニックは、多層基板材料の生産能力を2030年度に2025年度の2倍以上にする計画だ。説明会資料によると、増産の対象に湖口の工場と国内の拠点は含まれていない。パナソニックHDは、火災が業績に与える影響をまだ公表していない。

台光電子材料と台燿科技は9月の売上高が前年同月の2倍超、増産の余地は小さいか

米証券大手は、当面はパナソニックの代わりに台湾の同業他社の受注が増えるとみて、銅張積層板大手の台光電子材料(2383)と台燿科技(6274)について強気の見通しを改めて示した。両社は火災の前から、AIサーバー向けの銅張積層板の需要を取り込み、売上高を伸ばしていた。両社に同業の聯茂電子と騰輝電子を加えた4社について、各社が発表した2026年9月の月次売上高を比べた。

会社2026年9月の売上高前年同月比増収の要因(会社の説明)
台光電子材料215億3,223万台湾ドル2.69倍AIサーバー向けの需要拡大
台燿科技61億2,557万台湾ドル2.15倍高付加価値品の販売増
聯茂電子58億2,421万台湾ドル2.11倍値上げの効果とAI関連需要の拡大
騰輝電子10億2,090万台湾ドル3.02倍高付加価値品の販売増と値上げの効果

台光電子材料の1〜9月の累計売上高は1,412億台湾ドルと、前年同期の2.04倍になった。同じ期間の営業利益は385億台湾ドルで、売上高営業利益率は27.3%に達した。粗利益率は34.5%だった(2つの利益率は損益計算書の売上高と利益から独自に試算)。台燿科技の1〜9月の累計売上高も423億台湾ドルと、前年同期の約2倍になった。

聯茂電子と騰輝電子は値上げを増収の要因に挙げている。顧客が値上げを受け入れるほど需給は逼迫しており、生産能力に余裕は乏しいとみられる。湖口の工場で作っていた品番の注文が台湾の同業に入っても、顧客の承認と増産には時間がかかり、供給はすぐには増えそうにない。

銅箔では金居が汎用品と中級品の生産をやめ、高機能品の加工費を上げた

銅張積層板の材料となる銅箔でも、汎用品から高機能品への切り替えが進む。工商時報など台湾の報道によると、銅箔メーカーの金居開発(金居、8358)は7〜9月から、利益率の低いHTE銅箔とRTF銅箔の生産をやめた。HTEは高温でも伸びやすく割れにくい汎用の銅箔で、RTFは樹脂と密着させるための凹凸を通常とは反対の面に付けた中級品だ。雲林県の工場では、表面の凹凸を抑えて高速の信号が劣化しにくいHVLP銅箔などの高機能品に生産を切り替えた。金居の会長は、銅の価格に上乗せする高機能品の加工費を、2026年に入って5〜10%引き上げたと説明した。

原料の銅の国際価格も上がっている。米セントルイス連邦準備銀行のデータベース(FRED)に収められた国際通貨基金(IMF)の統計では、2026年9月の銅価格は月平均で1トン1万4,473ドルだった。前年同月より44.8%高い。7〜9月の平均は1トン1万4,116ドルで、4〜6月より6.0%高かった(独自試算)。金居の7〜9月期の売上高は31億6,900万台湾ドルで、前年同期より約60%増えた。

米証券大手は、製造コストと銅価格の上昇を理由に金居の7〜9月期の粗利益率の予想を27.0%に下げたが、業績予想は引き上げた。10〜12月期は汎用品と中級品の生産をやめたうえ、新たな生産設備も稼働しないため、売上高は前四半期比3%減るとみる。高機能品の比率が高まり、加工費の値上げ効果も出るため、粗利益率は34%に上がると予想した。金居は今後、マレーシアで生産能力を増強し、HTE銅箔を作っていた既存の設備も高機能品の生産に切り替える。報道によると、北部ケダ州のクリム・ハイテクパークに、第4世代のHVLP銅箔(HVLP4)を生産する年産能力3万トンの工場を建てる計画だ。投資額は80億〜100億台湾ドルで、2028年後半に一部稼働する見込みだ。新工場が稼働するまで、高機能の銅箔は供給不足が続く可能性がある。

富世達はサーバー向けが売上高の8割に、研華では部品の納期が20週超え

AIサーバー向けの需要の強さは、基板材料以外の部品にも表れている。折りたたみスマートフォンのヒンジを主力としてきた台湾の部品メーカー、富世達(6805、フォシテック)は、7〜9月期の売上高に占めるサーバー向け製品の比率が81.3%だったと発表した。米証券会社によると、4〜6月期は55%だった。サーバー向けの伸びをけん引したのは、液冷の配管をつなぐ継ぎ手(QD)だ。冷却液を漏らさずに配管を着脱でき、GPUやASIC(特定用途向け半導体)を冷やす液冷式のサーバーラックに多く使われる。

7〜9月期の売上高は45億200万台湾ドルで、前年同期より26%増えた。4〜6月期比でも20%の増収だった。純利益は12億4,200万台湾ドルだった。採算のよいQDの販売が伸び、粗利益率は38.0%と四半期として過去最高になった。4〜6月期より4.0ポイント、前年同期より10.4ポイント高い。

米証券会社は、7〜9月期の決算が自社の予想を上回ったとして、業績予想を引き上げた。富世達はGPU向けとASIC向けの両方に顧客を抱えており、AIサーバーで広がる液冷の需要を取り込めるとみる。10〜12月期は売上高が前四半期比18%増え、粗利益率は39%に上がると予想した。富世達も10〜12月期と2027年の業績に前向きな見通しを示し、サーバー関連の製品が成長をけん引すると説明した。

産業用パソコン大手の研華(2395、アドバンテック)は11月4日の決算説明会で、10月のBBレシオ(受注額を出荷額で割った値)が1.6だったと明らかにした。1を上回れば、受注残高が増えていることを示す。10月の売上高は過去最高の3億5,200万ドルだった。7〜9月期のBBレシオは1.64で、北米に限ると2.12だった。来年以降に出荷する受注残は約25億ドルある。AI関連の事業は売上高の24.5%を占める。

研華について米証券会社は、10〜12月期の売上高は高い水準を保つものの、季節要因で前四半期からの伸びは鈍化するとみる。業績予想は引き上げたが、投資判断は「中立」を維持した。研華は10〜12月期の売上高を9億7,000万〜9億9,000万ドルと見込む。

ただ、受注の伸びは額面通りには受け取れない面もある。研華によると、一部の重要部品は供給元が出荷を制限しており、納期は20週を超えている。受注には、部品の不足に備えた顧客の前倒し発注が含まれている可能性があり、2027年後半から2028年にかけて受注に反動減が出るおそれがあるという。現時点で注文の取り消しや延期は起きていないとしている。基板材料でも不足に備えた前倒し発注が増えれば、湖口の工場が止まっている間、納期がさらに遅れる可能性がある。

生産が止まった湖口の工場は、報道によると多層基板材料の生産能力全体の約1割、メグトロンに限れば約2割を占める。高性能品の大半を福島県で作っているという米証券大手の見方が正しければ、AIサーバー向けの供給への影響は限定的とみられる。パナソニックは日本、中国、タイの拠点からの代替供給について調整を進めており、台湾の同業の受注も増えるとの見方がある。ただ、顧客の承認を改めて得るには時間がかかる。米IT大手4社の設備投資は直近の四半期に前年同期の約2倍に増えており、基板材料の需給の逼迫は続きそうだ。

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