ロームは、2027年からの次世代のラックでは電源に載る素子が600個から2万2,000個になると試算する。ただし1kWあたりで数えると46個から22個へ半減し、増加の正体は電力の集中にある。
AIサーバーのラック1本の消費電力が1MW(1,000kW)に達する時代が2027年に始まる。ロームは5月の決算説明会で、この移行で電源用半導体の個数が36倍、アナログ半導体が56倍になるという試算を示し、サーバー向けの売上目標を半年前の300億円から1,000億円以上へ引き上げた。数字を分解すると、個数を押し上げているのは半導体の使い方の変化ではなく電力そのものの増加で、1kWあたりの半導体はむしろ減る。増えた個数を取れるかどうかは、直流800Vの各段にSiC、GaN、DrMOSをそろえられるかで決まる。
800V直流では交流から直流への変換をラックの外に出し、ラック内は降圧だけになる
ロームの資料によると、サーバーの電源はいま数kWから10kWが主流で、AIに代表される電動化技術の急速な発展に伴い、800V化、22kW化、33kW化という高電圧・高電力の方向へ移る。現在の構成は「50Vの電源棚」で、送電網から商用周波数の変圧器を経て、ラック内の電源棚で交流を直流に変え、50V直流をサーバー棚へ送る。サーバー棚では50Vを12Vに、12VをGPUが使う1V未満の電圧へ2段で下げる。将来の構成は「HVDC(高圧直流給電)」で、送電網の先に半導体変圧器(SST)を置いて交流を直流に変え、800V直流のままラックへ送る。ラックの中に残るのは、800Vを中間電圧へ、中間電圧をGPUの電圧へ下げる直流の変換だけになる。
この構想の出どころはエヌビディアである。同社は2025年5月20日の開発者向け記事で、54Vのラック内配電はkW級のラック向けで、MW級には対応できないとし、2027年から1MWのITラックに向けて800V直流への移行を主導すると表明した。協業する半導体各社として、アナログ・デバイセズ、インフィニオン、イノサイエンス、MPS、ナビタス、オンセミ、ルネサス、ローム、STマイクロエレクトロニクス、テキサス・インスツルメンツの10社を挙げている。理由は物理的な限界にある。54Vのままラック1本に1MWを送ると銅のブスバー(母線)が最大200kg必要で、1GWのデータセンターでは最大20万kgになる。GB200 NVL72やGB300 NVL72は電源棚を最大8つ積むが、54VのままMW級にすると電源棚がラックの64Uを占め、計算機を置く場所が無くなる。
800V直流では、13.8kVの交流をデータセンターの入口で直接800V直流に変え、中間の変換段を省く。415V交流を800V直流に替えると同じ導体で85%多く送電でき、銅は45%減り、全体の効率は54Vの構成より最大5%良くなるとエヌビディアは説明する。本格生産は2027年のKyberラックと同時で、GTC 2025では1本のKyberラックに576個のRubin Ultra GPUへ給電する800Vのサイドカーを展示した。ロームの白書もこの記事を出所として同じ数字を引き、AC/DC部は効率が、DC/DC部は主基板の面積を空けるための電力密度が重要だと整理している。
1ラックの電源用半導体は36倍に増えるが、1kWあたりでは半減する
ロームは既存サーバーと2027年からの次世代AIサーバーを次のように比べる。既存サーバーは主基板を平積みで18トレイ、消費電力13kW、電源用半導体600個、アナログ半導体300個。次世代AIサーバーは主基板を縦置きで72トレイ、消費電力1,000kW、電源用半導体2万2,000個、アナログ半導体1万7,000個である。ロームはこれを36倍、56倍、主基板の数は4倍、消費電力は70倍以上と表す。割り算をすると36.7倍、56.7倍、76.9倍で、ロームの値は切り捨てたものと分かる。
主基板1枚あたりで見ると、電源用半導体は33個から306個へ9.2倍、消費電力は0.72kWから13.9kWへ19倍になる。消費電力1kWあたりの電源用半導体は46個から22個へ、ほぼ半分に減る。つまり個数の36倍は、電力の77倍と、1kWあたりの個数が0.48倍になることの積である。電力が集まるほど半導体1個が受け持つ電力は増え、個数の伸びは電力の伸びを下回る。ロームが「サーバー構成の進化に伴い員数が飛躍的に増大」と書く現象の中身は、ラックに集まる電力の増加である。
個数の内訳で最も多いのがGPUの直前で電圧を下げるDrMOS(駆動回路とMOSFETを1つに収めた電源用の素子)である。ロームの想定では、GPU1個の消費電力は2023年の700Wから2024年1,200W、2025年1,400W、2026年1,800W、2027年3,600Wへ増え、GPU1個あたりのDrMOSは約20個から約50個へ増える。ロームの第2世代のDrMOSは、オン抵抗と面積の積で第1世代から40%改善し、電源の効率を0.5ポイント上げたとする(2026年4月、ローム調べ)。5月の説明会の質疑で同社は、AIサーバー向けのDrMOSとMPC(多相の電源制御IC)は特定の顧客向けの特注品ではなく汎用性の高い標準品に近く、同じチップで複数のベンダーに対応する開発を目指すと答えた。一方で、顧客からピン配置などの互換性を求められ、競合製品の存在が販売の前提になる場合があるとも述べている。
SiCは電源ラックの交流変換を、GaNはラック内の降圧を担う
ロームは材料ごとに受け持つ領域を分ける。SiC(炭化ケイ素)は高電力・600V超の高電圧・20〜200kHzの高周波を担い、AIサーバー用のHVDC 800V電源のほか、EVのインバーター、太陽光・風力、産業用電源、鉄道に使う。GaN(窒化ガリウム)は中電力・100〜650Vの中電圧・65kHz超の高周波を担い、AIサーバー向け電源、通信基地局向け電源、小型ACアダプター、車載充電器、48V DC/DCに使う。電圧と周波数の図では、Siは1,000V未満の低周波、IGBTは高電圧の10kHz前後、SiCは1,000V超から1万Vまでの1MHzまで、GaNは100kHzから1MHz超を受け持ち、その先に酸化ガリウムとダイヤモンドが置かれている。ロームは、従来のSi素子を補完する次世代のワイドバンドギャップ素子としてSiCとGaNの両方を持つ点を強みとする。
白書は各段の回路を具体的に示す。電源ラックのAC/DC部は既存の20〜33kW級を対象に、Vienna整流器による力率改善と三相の絶縁型LLCコンバーターを推奨し、三相400V交流を800V直流にする。三相LLCコンバーターは33kWで約99.5%の効率(半導体の損失のみ)で、損失の約60%はターンオフ損失が占める。4月に量産を始めた第5世代のSiC MOSFETは、高温時の規格化オン抵抗を第4世代から約30%減らし、33kW・周囲温度100℃の合計損失を約33%減らす。DOT-247と呼ぶ2素子入りのパッケージを主スイッチに使うと、部品点数はTO-247の24〜30個から12個に減る。
ラック内のDC/DC部では電力密度が決め手になる。20kWを三相LLCの3並列で組んだ場合の大きさは、SiCで40mm×91mm×700mm、電力密度7.8W/ccだが、1次側にGaNを使うカスコード型なら40mm×55mm×605mm、15W/ccになり、500kHzまで99%の効率を保つ。ロームの試算では、電源ラックにSiC、ITラックにGaNを採用した構成が最大の性能になる。停電への備えにもSiCが入る。5月21日の発表によると、750V耐圧のSiC MOSFET「SCT4013DLL」がAIサーバー電源のBBU(バッテリーバックアップユニット)に採用された。±400Vの電力供給の電源部に載り、800V直流ではバッテリーパックへの供給電圧が560V程度のため同じ750V品が使える。
需要予測は5年で7倍、ロームは売上目標を300億円から1,000億円以上へ引き上げた
ロームの調べによるAIサーバー向けパワー半導体の需要予測は、FY25の約3,500億円からFY30の約2兆5,000億円へ、年平均48%で伸びる。3,500億円に1.48を5回掛けると約2兆4,900億円で、目盛りから読み取った値と合う。内訳はDrMOS、SiC、Si、GaNで、DrMOSが最も大きい。AIサーバーの半導体を金額で分けると、GPUとAIアクセラレーターが65〜70%、HBMが15〜20%、パワーとアナログが10〜15%で、市場の成長は演算性能が引っ張り、電力の壁に直面して電力効率への要求が上がっているとロームは位置づける。参考に挙げるアマゾン、グーグル、マイクロソフト、メタのデータセンター設備投資は、2021年から2026年にかけて年平均41%で伸びている(各社のIR資料からロームが作成)。
自社の目標も動いた。2025年11月7日の中期経営計画では「サーバー関連の目標であるFY30で売上300億円までの道筋を作る」としていたが、2026年5月13日の決算説明会ではFY25実績170億円、FY26計画250億円、FY30目標1,000億円以上とし、年平均成長率42%超と書いた。1,000億円を170億円で割った5乗根は1.425で、42.5%というこの成長率と合う。FY26の250億円はFY25から47%増にあたる。目標は半年で3.3倍になった。内訳はパワーデバイス、アナログ、周辺部品(シャント抵抗、シリコンキャパシター)で、コンピューター・ストレージ分野のSiCは2026年度に前年比2.5倍の売上を計画する。
実績も追いついてきた。2026年4〜6月期のサーバー向け売上高は前年同期比67%増、SiC事業は53%増で、全社の売上高は1,357億円(16.8%増)、営業利益は96億円だった。市場別ではPC・サーバーが2025年度に前年比36億円増で、2026年度は129億円増を計画する。ただしロームの2025年度は売上高4,811億円(7.3%増)で、2026年度は5,100億円(6.0%増)を計画する。LSI部門が245億円の利益(利益率11.2%)を出す一方、パワー半導体を含む半導体素子部門が227億円の赤字(前年は458億円の赤字)で、AIサーバー向けの成長はこの赤字を埋める役目を負う。設備については、2028年まで大規模な投資は不要と5月の質疑で答えており、東芝デバイス&ストレージとの統合が実現すれば、同社が持つデータセンター向けの高性能Si MOSFETで売上拡大の可能性があるとした。ロームの企業情報はロームの会社ページに、800V直流給電の仕組みは800V直流給電の解説記事にまとめている。
1ラック1MWの時代にロームが見込む36倍は、半導体の使い方が変わるからではなく、ラック1本に集まる電力が77倍になるから生まれる。1kWあたりの個数は半分に減り、残る個数を取るには、電源ラックのSiC、ラック内のGaN、GPU直前のDrMOSをそろえて800V直流の各段に入る必要がある。ロームが売上目標を1,000億円以上へ引き上げた根拠はこの構成にあり、実際に取れるかどうかは2027年のKyberラックの立ち上がりで決まる。
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