7月22日に東京証券取引所グロース市場へ上場した自動運転の会社は、前期の営業損益と経常損益の間に50億円の開きを抱えている。その正体を突き止め、黒字に必要な水準を上場書類の全文から組み立てた。

2015年創業のティアフォーが2026年7月22日、東京証券取引所グロース市場に上場した。前の2025年9月期は売上高64億10百万円、営業損失105億6百万円である。赤字を抱えたままの上場で、業界での知名度の高さもあって市場の注目を集めた。創業者で最高経営責任者の加藤真平氏は1982年生まれ、2008年に慶応義塾大学大学院で博士 (工学) を取得し、米カーネギーメロン大学とカリフォルニア大学で研究員を務めた。2015年に同社を創業して取締役最高技術責任者に就き、2023年4月から現職にある。The Autoware Foundation のフェロー、東京大学大学院工学系研究科技術戦略学専攻の特任准教授、名古屋大学未来社会創造機構の客員教授も兼ねる。本誌は金融庁の EDINET から同社が提出した有価証券届出書と訂正届出書、臨時報告書の全文を取得し、報じられていない数字を洗い出した。

上場の確定条件
上場の確定条件

需要は仮条件の上限に集中した

上場の条件はすべて上限で決まった。仮条件は1株1,015円から1,085円で、7月13日に発行価格が上限の1,085円と決まった。届出書はその理由を3つ挙げる。申告された総需要株式数が公開株式数を十分に上回ったこと、申告された総需要件数が多数にわたっていたこと、そして価格ごとの需要の分布が仮条件の上限に集中していたことである。

会社に入る引受価額は1株1,009.05円、会社法上の払込金額は862.75円、資本組入額は504.525円と定められた。国内募集は6,365,900株、海外募集は11,083,700株で、米国、欧州、アジアを中心に販売された。追加の売出し枠として3,212,700株がSMBC日興証券へ貸し出されている。主幹事は三菱UFJモルガン・スタンレー証券、モルガン・スタンレーMUFG証券、SMBC日興証券の3社である。上場後の発行済株式総数は63,524,090株で、発行価格を掛けると689億円になる。

上場承認の前に届出書を出して機関投資家の需要を調べる方式を採ったため、届出書には事前に関心を表明した国内投資家の名前まで載った。りそなアセットマネジメントが取得総額15億円相当 (上場後の発行済株式総数の2.3%)、ニューバーガー・バーマンが785,000株 (1.2%) である。いずれも法的な拘束力のない表明であると明記されている。この方式を採らなければ、上場前にこの情報が公になることはなかった。

204億円は3年に割り振られ、初年度は18億円しか使わない

調達した資金の使い道について、報じられたのは「手取り概算額約204億円のうち4割強の約87億円を研究開発費に充てる」という点である。届出書はさらに細かく、3つの用途を年度ごとに割り振っている。

調達資金の年度別の充当計画
調達資金の年度別の充当計画

研究開発費が87億71百万円で、2026年9月期に9億円、2027年9月期に39億円、2028年9月期に39億71百万円。量産・事業拡張費が82億72百万円で、4億円、40億円、38億72百万円。組織拡張費が34億4百万円で、5億円、17億円、12億4百万円。合計204億47百万円である。

上場した年度に使うのは18億円で、調達額の8.8%にすぎない。残りは安全性の高い金融商品で運用すると届出書は書く。本格的な支出は2027年9月期の96億円からで、量産に40億円を振り向ける年になる。半導体の設計と量産の準備が同じ年に重なる形になり、資金の消費速度は一気に上がる。上場して得た資金がすぐ事業に入るわけではないという点は、投資家が見落としやすい。

用途の中身も具体的である。研究開発費は自動運転技術の高度化と競争力強化を目的とした、主にAI技術と自動運転専用の半導体に関する開発投資と書かれている。量産・事業拡張費は、将来的な数千・数万台規模の供給を見据えた供給網の構築、車載ユニットの原価低減に向けた製造・調達体制の強化、事業管理機能の強化に充てる。組織拡張費は技術者と、供給網の管理や海外事業を率いる人材の採用費と人件費、管理部門の拡充である。

営業損失105億円、経常損失55億円 ― 差の50億円の正体

損益計算書を開くと、報じられた営業損失105億6百万円の下に、まったく違う数字が並ぶ。経常損失は55億4百万円で、営業損失のほぼ半分である。純損失に至っては47億99百万円と、前期の48億34百万円より小さい。

連結の損益と補助金
連結の損益と補助金

差を生むのは営業外収益55億66百万円で、その99.3%にあたる55億25百万円が補助金収入である。同じ額が研究開発費の側にも出てくる。届出書の研究開発活動の欄には「当連結会計年度における研究開発費の総額は8,551百万円となりました。このうち、補助金受給対象分は5,525百万円であります」とある。研究開発費85億51百万円の64.6%が補助金の対象という計算になる。

補助金の実額と対象事業
補助金の実額と対象事業

事業の名前まで開示されている。キャッシュ・フロー計算書の注記に、ディープテック・スタートアップ支援基金の補助金の受取額10億22百万円 (前期比6億74百万円増)、モビリティDX促進のための無人自動運転開発・実証支援事業の補助金の受取額4億20百万円 (新規) と記される。これらを含む補助金の受取額は43億7百万円で、前期から19億69百万円増えた。

補助金は売上高ではなく営業外収益に入るため、営業損益には現れない。費用だけが営業段階に乗り、収入は経常段階で戻ってくる。会社が「主な経営指標として、売上高、事業利益に加え、経常利益を重視しております」と書くのは、この構造を踏まえてのことである。届出書は危険としても明記する。「当社の研究開発に係る費用は一部日本政府からの補助金に依存していることから…補助金の交付が減少するような場合には、研究開発に重大な支障が生じる」。対策として民間企業向けの案件と海外市場の開拓を挙げ、そのうえで「奏功しない可能性もあります」と書き添えている。

もう一つ、増収の中身も見ておきたい。売上高は65.6%増えたのに、売上総利益は14億28百万円から16億50百万円へ15.6%しか増えていない。売上原価が94.8%増え、売上総利益率は36.9%から25.7%へ11.2ポイント下がった。2026年9月期の中間期には41.5%へ戻しているが、通期の数字は11月ごろの決算を待つことになる。加藤氏が上場の理由として挙げた「売上総利益も伸びている」という説明は、伸び方まで含めて見ると別の姿になる。

運用台数119台と、800台までの距離

同社は非財務の重要指標を3つ定めている。実証実験・実装地域数、車両運用台数、開発プロジェクト顧客数である。このうち車両運用台数について、届出書は「この指標は継続的に積み上がる売上高とも連動する」と位置づける。

非財務の重要指標
非財務の重要指標

2026年3月時点の車両運用台数は、公道が26台、閉鎖空間が93台の合計119台である。2024年9月期は67台、2025年9月期は114台だった。実証実験・実装地域数は29地域から50地域へ増え、半期で40地域。開発プロジェクト顧客数は7社、9社、13社と伸びている。2026年5月時点で全国6自治体において、レベル2もしくはレベル4での通年運行の実績を持つ。

台数の中身は2種類ある。公道の台数は、BYD製の小型EVバスをもとに自動運転に対応する造を施し、同社が自ら製造販売した車両を指す。2026年3月時点で26台の販売実績がある。閉鎖空間の台数は、ヤマハ発動機との合弁である eve autonomy が顧客の工場に導入した搬送車両で、同社は稼働台数に応じたライセンス料を受け取る。前者は車両の売上高、後者は他社経由の使用料であり、1台の意味が違う。

1台当たりの売上高を割り出すと差がはっきりする。モビリティサービスの22億67百万円を公道25台 (2025年9月期末) で割ると9,068万円。デベロップメントサービスの13億30百万円を閉鎖空間89台で割ると1,494万円。公道の1台は閉鎖空間の6.1倍を稼ぐ。全社の売上高64億10百万円を全114台で割った平均は5,623万円になる。

800台で黒字になるかを、費用構造から逆算する

インタビューの見出しに掲げられた「運用車両800台」が何を意味するのか。届出書の費用構造を使えば逆算できる。

黒字化に必要な売上高と台数
黒字化に必要な売上高と台数

経常段階で黒字にするには、売上総利益が販売費及び一般管理費と営業外費用の合計から補助金収入を引いた額を超える必要がある。2025年9月期の数字を当てはめると、121億56百万円に5億64百万円を足し、55億25百万円を引いて71億95百万円。売上総利益率が同期と同じ25.7%なら売上高280億円、半期の41.5%なら173億円が必要になる。1台当たり5,623万円で割ると308台から498台である。

ただし調達した204億円を計画どおり使えば費用は増える。組織拡張費34億円と研究開発費87億円が3年で入るため、販売費及び一般管理費は180億円程度まで膨らむ見当になる。同じ計算をやり直すと必要な売上総利益は130億39百万円、必要な売上高は314億円から507億円、必要な台数は559台から902台になる。800台はこの範囲の上寄りにあたる。投資を続けながら黒字にする前提の数字として、筋は通っている。

計算に入らない要素も押さえておきたい。補助金55億円が消えれば、必要な売上高は約215億円上振れする。800台の内訳が公道に寄れば、1台9,068万円で725億円という別の数字が出る。持分法適用関連会社の損失は台数が増えるほど拡大する可能性がある。会社が独自に掲げる事業利益 (売上高から売上原価と事業経費を差し引いたもの) は、金額が届出書に開示されていない。

売上高の4割は基盤サービス

サービス別の売上高を見ると、車両を売る事業はまだ主役ではない。

3つのサービスと受注
3つのサービスと受注

2025年9月期はモビリティサービスが22億67百万円 (35.4%)、デベロップメントサービスが13億30百万円 (20.8%)、ソリューションサービスが28億12百万円 (43.9%)。最大は両者を下支えする基盤の事業で、政府の委託事業の採択と実証実験の増加が押し上げた面が大きい。会社は将来、自動車メーカー向けに量産用の自動運転システムを開発するデベロップメントサービスが中心になると想定している。

受注は積み上がっている。2025年9月期の受注高68億23百万円 (前期比161.9%)、受注残高13億62百万円 (同120.6%)。2026年9月期の中間期だけで受注高49億39百万円、受注残高19億32百万円に達した。半期の受注高が前期通期の72%に相当し、受注残高は半年で41.9%増えた。

上場前の7割は事業会社が持っていた

株主の構成は、この会社の性格をよく表す。2026年5月31日現在の所有者別の状況では、その他の法人が324,494単元で70.43%、個人その他が125,000単元で27.13%、外国法人等が1.36%、金融機関が1.09%だった。株主数はその他の法人が191、個人が829である。

株主構成と売却制限
株主構成と売却制限

上場に際して売却制限を受けたのは26者にのぼる。事業会社ではSOMPOホールディングス、ヤマハ発動機いすゞ自動車KDDIアイサンテクノロジー、アクセル、台湾のQuanta Computer、大成建設、スズキ、トヨタ・インベンション・パートナーズ、ブリヂストン、三菱商事、イーソル、ソニーグループが並ぶ。投資組合ではジャフコ系2組合、UTEC 4号、RGCM 1号、Takeda Family Office。個人では加藤氏を含む8名である。期間は上場日を含めて180日で、起算は2026年7月22日になる。

議決権の動きも記録に残る。SOMPOホールディングスの議決権の被所有割合は2025年9月期末で25.1%、届出書の提出日現在で24.1%。加藤氏は上場前に50,000個 (10.85%) を保有していたが、上場後は17,873個 (2.81%) となり、臨時報告書で「主要株主でなくなるもの」として届け出た。創業者の持ち分が1割から3%弱へ下がった状態で、事業会社が並ぶ株主構成のまま市場に出たことになる。

信用買い残は6週間で27.6%増え、空売りの報告者は3社になった

上場後の需給は、日本取引所グループの週次残高と日本証券金融の貸借取引残高に残る。証券コードは593Aである。

上場から6週間の需給
上場から6週間の需給

信用買い残は上場翌週の7月24日に3,434,200株、9月4日には4,381,300株となり、6週間で27.6%増えた。上場後の発行済株式総数63,524,090株の6.9%、国内・海外の募集を合計した17,449,600株の25.1%にあたる。信用売り残は7月31日にいったん0株になり、8月28日に315,600株まで積み上がってから9月4日は157,000株へ減った。差引では買いが売りの27.9倍である。

残高0.5%以上の空売りを届け出たのは3社。バークレイズは8月28日の1.62% (1,031,800株) から9月3日に2.07% (1,317,900株) へ増やし、ゴールドマン・サックスは0.49%から0.82% (523,000株) へ。モルガン・スタンレーMUFG証券は9月2日の0.56%から9月4日に0.37%へ下げた。報告義務は0.5%以上に限られるため、これを下回る売りは表に出ない。

日本証券金融の融資残高は9月2日の424,500株から4日には958,100株と2営業日で2.3倍になり、7日は507,400株へ戻した。貸株残高は全営業日で0株のままで、株不足による品貸料は発生していない。制度信用の枠外で調達した株が売られている形になる。回転日数は3.4日から4.0日へ伸びた。売却制限が外れる2027年1月中旬までは、26者が持つ株式が市場に出てこない。

名古屋大学の研究室から11年、資本提携が先で上場が後

沿革をたどると、この会社が事業会社との関係を先に築いてきたことが分かる。

沿革と協業
沿革と協業

2015年8月、名古屋大学の研究室で開発された自動運転ソフトウェア Autoware をオープンソースとして初めて公開したのが始まりである。同年12月に資本金1,100万円で会社を設立した。2016年9月に高精度3次元地図のマップフォーを設立し、2017年8月にヤマハ発動機と資本業務提携。2017年12月にKDDIアイサンテクノロジーと連携して運転席無人の遠隔制御型自動運転システムの公道実証実験に成功し、2018年2月にKDDIと資本業務提携を結んだ。2018年12月には国際的な開発体制として The Autoware Foundation を設立し、同社が中心になった。2020年2月にヤマハ発動機との合弁で eve autonomy を設立している。

現在進行中の協業も多い。いすゞ自動車とは大型EVバス ERGA EV の自動運転共同開発を進め、神奈川県平塚市で実証実験を実施した。トヨタ自動車とは次世代モビリティ e-Palette の自動運転化、小松製作所およびEARTHBRAINとは建設機械の自動運転で協業する。Astemo とはAIを使った自動運転技術の量産化に向けて協業し、ルネサスエレクトロニクスとの協業は2026年8月20日に公表された。研究の側では、日本交通と走行データを集め、カーネギーメロン大学、ミュンヘン工科大学、松尾研究所と世界モデルの共同開発を進めている。

ispace との比較と、海外との桁の違い

上場は日本取引所グループの定義でディープテック企業として3社目にあたる。ispace とアストロスケールホールディングスに続く形で、バイオベンチャーは除いた数え方である。

先行するディープテック上場と海外勢
先行するディープテック上場と海外勢

ispace の2026年3月期は売上高33億7百万円で前期の47億43百万円から減り、営業損失115億80百万円、経常損失81億41百万円、純損失81億52百万円。従業員333人、研究開発費39億29百万円、自己資本比率31.58%、現金及び現金同等物296億91百万円である。ティアフォーと比べると、売上高は約2倍の差でティアフォーが上、営業損失は ispace が1.1倍という関係になる。

海外の自動運転企業とは桁が違う。米オーロラ・イノベーションの2026年1〜6月は売上高300万ドルに対し営業損失5億1,000万ドル、研究開発費4億600万ドル。売上高のほぼ135倍を開発に投じている。モービルアイの2026年上期は売上高10億6,600万ドル、営業損失39億2,600万ドル。テスラの同期間は売上高506億2,300万ドル、営業利益13億3,900万ドル、研究開発費43億1,700万ドルで、ティアフォーの通期研究開発費の約74倍にあたる。売上高64億円を立てながら研究開発費85億円を使うという比率は、この一覧の中では健全な部類に入る。

2030年度に1万台という目標と、現在の1.2%

需要の側は政策と結びついている。届出書は3つの政策文書を引く。

政策目標と市場規模
政策目標と市場規模

2025年6月6日の第7回経済財政諮問会議で示された経済財政運営と革の基本方針2025の原案に、地方交通の課題解消に向けた自動運転移動サービスの社会実装の加速、関係制度の整備、実証実験と事業化の全国展開が盛り込まれた。2026年1月に閣議決定された交通政策基本計画は、2030年度までに自動運転サービス車両10,000台を導入する目標を掲げる。2026年4月公表の日本成長戦略会議分科会では、2030年代に日本企業による自動運転車両の販売台数で世界シェア約25%を目指すとされた。

市場規模については、バスの国内稼働台数を6.2万台と推定している。出所は Arthur D Little の2024年5月の調査で、同社からの委託によるものと注記される。タクシーは全国ハイヤー・タクシー連合会の資料を参照した。政府目標の1万台に対して現在の運用台数119台は1.2%、800台まで増えても8.0%にとどまる。ただし政府目標は業界全体の数字であり、1社の目標ではない。

規則で書く方式から、AIが担う方式へ

技術の側では、作り方そのものが変わる途中にある。人が書いた規則に沿って動かす方式に対し、AIが認識・判断・制御を担う方式の開発が加速している。中でも注目されるのが、センサーからの入力を1つのAIモデルで処理して運転操作を出力する一括処理の方式である。米テスラが先行し、米グーグル系のウェイモもAIの比重を高めている。半導体大手のエヌビディアも自動運転向けAIモデル Alpamayo を公開した。

3つの方式とレベル4の責任
3つの方式とレベル4の責任

規則で書く方式は、動作の理由を追いやすく検証もしやすい半面、対応すべき場面が増えるほど規則が膨らみ、例外に弱くなる。AIが担う方式は多様な場面に対応しやすいが、なぜその判断をしたのかの説明が難しい。一括処理の方式はその極端な形で、入力から操作までを1つのモデルが引き受ける。学習に使うデータの量と質、そして推論を回す装置の性能が、そのまま性能を左右する構造になる。

ティアフォーの中核は Autoware である。届出書は、公開されたソフトウェアを基盤とするため独自に開発する項目は限られ、効率的な技術開発ができていると記す。開発費を抑える仕組みがここにある。上場資金の使い道の筆頭がAI技術と自動運転専用の半導体であるのは、規則で書く方式からAIが担う方式へ移る過程で、計算する側の部品まで自前で持とうとしているためと読める。松尾研究所とは自動運転2.0に向けた共同開発を、カーネギーメロン大学とミュンヘン工科大学とは世界モデルの共同開発を進めている。世界モデルとは、次に何が起きるかを予測する仕組みを指す。

責任の所在も変わる。自動運転レベル4の運行は道路交通法上の「特定自動運行」にあたり、法律上の「運転」に該当しない。従来型の運転者責任は事実上問題にならなくなる一方、運行供用者責任と製造物責任法に基づくメーカー責任はレベル2と同様に適用される。事故が起きれば、特定自動運行実施者または車両保有者の運行供用者責任に基づいて保険会社等が被害者を救済し、システムに起因する事故であれば保険会社等からメーカーへ求償される流れが想定される。同社は車両を仕入れて自動運転システムを架装して提供する形も取るため、製造物責任法上のメーカーとしての責任を負う可能性があると届出書に明記している。株主にSOMPOホールディングスが並ぶ意味は、この構造と無関係ではない。

届出書が自ら並べた危険

上場前に開示された危険のうち、金額の裏付けがあるものを並べておく。

開示された危険と資金繰り
開示された危険と資金繰り

補助金への依存は前述のとおりで、研究開発費の64.6%が対象である。調達資金204億47百万円は計画以外の使途に充てる可能性があり、変更する場合は速やかに開示すると書かれている。税務上の繰越欠損金は2024年9月期末で25億13百万円あり、これに対する評価性引当額24億96百万円が計上されている。黒字化については「経常損益の赤字幅の善、黒字化に向けて取り組んで参ります」としつつ、「黒字化に至るまでには一定の期間を要する可能性がある」と認めている。配当は実施の可能性も時期も未定で、過去に実績はない。

資金繰りには余裕がある。2025年9月期末の現金及び現金同等物69億32百万円に調達204億47百万円が加わる。同期の営業活動によるキャッシュ・フローは72億82百万円の支出、投資活動は9億91百万円の支出だった。同じ速度が続くなら3年半から4年分にあたる。金融機関3社と総額60億円の当座貸越契約を結び、10億円の長期借入も実行している。

上場を決めた理由について、加藤氏は非公開での資金調達も可能だったが、事業が成長している中では上場のほうが企業の成長物語に合うと判断したと語る。加えて、ディープテック企業の上場を日本でも促したいという狙いを挙げる。米国であればこの段階で上場する、そうした文化を日本でも作りたいという説明である。売上高が2022年9月期から2025年9月期にかけて年平均75%の伸びを示し、それでも研究開発投資を賄えないという状態が、上場の直接の動機になっている。単体の売上高は2021年9月期の7億21百万円から2025年9月期の58億59百万円へ8倍になった一方、単体の経常損失は33億14百万円から49億79百万円へ拡大している。

投資家が次に見る数字

  • 2026年11月ごろの通期決算。2026年9月期の中間期に41.5%まで戻した売上総利益率が続いたかどうかが、黒字化の逆算の前提を左右する。補助金収入が半期で24億98百万円まで来ている点も、通期でいくらになるかで経常損益の姿が変わる。
  • 非財務の重要指標である車両運用台数。119台からどれだけ伸びたかで、800台という水準への到達時期が読める。公道と閉鎖空間のどちらが伸びるかによって、1台当たりの売上高は6倍の開きが出る。
  • 2027年1月中旬に外れる売却制限。対象は26者で、事業会社14社と投資組合、個人が含まれる。上場前の株主構成では、その他の法人が70.43%を占めていた。

自動運転の会社を評価するとき、台数と地域数が真っ先に語られる。ティアフォーの上場書類は、その台数が公道と閉鎖空間で6倍の収益差を持つことと、研究開発費の3分の2が補助金の対象であることを同時に開示している。営業損失105億円という数字が独り歩きした一方で、経常損失55億円という数字と、その差を埋めている資金の出どころは、ほとんど報じられていない。800台という目標が現実味を帯びるかどうかは、台数そのものよりも、1台当たりの粗利と補助金の継続という2つの変数にかかっている。