サウジアラビアの武器輸入は米国製が8割近くを占め、HQ-9のような中国製の迎撃兵器を輸入した記録は見当たらない。2026年1月に米議会へ通知された要請では、パトリオット用ミサイル730発を求めた。三菱重工の生産分は中東へ回らない。
サウジアラビアがパキスタン経由で中国製の防空システム「HQ-9(紅旗9)」と戦闘機JF-17を配備し、米国依存から脱し始めたとの見方がある。2026年5月に公開した本稿の旧版もそう伝えたが、当事者による公式発表は見当たらない。そこで、ストックホルム国際平和研究所の武器移転データベース、米国の武器売却の通知、防衛省と防衛装備庁の公表資料、三菱重工の決算資料を読み、サウジの防空がどの国の装備で組まれているかを数字で確かめた。サウジは米国製のパトリオットとTHAADの調達を増やしており、中国からの防空装備の移転は記録にほとんどない。
防衛協定の共同声明に装備名はなく、派遣の報道は匿名の関係者の話
サウジとパキスタンの防衛協力が強まったこと自体は公式に確かめられる。パキスタン外務省が公表した共同声明によると、シャリフ首相は2025年9月17日にサウジを国賓として訪れ、ムハンマド皇太子兼首相と「戦略的相互防衛協定」に署名した。声明は協定の目的を、防衛協力の発展と侵略に対する共同抑止の強化と説明し、いずれか一方への侵略を両国への侵略とみなすと明記した。
ただ、声明は兵力の規模にも具体的な装備にも、中国にも触れていない。協定の本文は公表されていない。
パキスタン軍がサウジに戦闘機や防空システムを送ったとの情報について、確かめた範囲で最も早い報道は2026年5月18日のロイター通信だった。匿名の治安当局者と政府関係者の話に基づくもので、本稿が確かめた範囲では、サウジ・パキスタン両政府は公式に認めていない。同じ18日、パキスタンの治安筋は、報道が偏った見方に立ち両国関係の本質を誤って伝えていると反論した。ただ、派遣した装備については肯定も否定もしなかった。
武器移転の記録では、2025年までに中国からサウジへ渡った防空関連の装備はレーダー5基だけ
同研究所は各国の発表や報道を突き合わせ、国家間の武器の売却・供与・ライセンス生産を1950年から記録している。対象は2025年までの発注と引き渡しで、2026年の取引はまだ載っていない。2026年10月15日にデータベースで取引の記録を調べると、中国からサウジへの引き渡しは8件あった。無人機は機種ごとに1件と数えている。数はいずれも同研究所の推定である。まだ引き渡されていない中国からの発注は1件もなかった。
| 装備 | 引き渡しの年 | 数 | 指標値 |
|---|---|---|---|
| 地対地弾道ミサイル「東風3」 | 1987〜88年 | 50発 | 450 |
| 無人機「翼竜2型」 | 2017〜22年 | 50機 | 200 |
| 無人機「彩虹4B」 | 2015〜18年 | 20機 | 80 |
| 自走砲 | 2008〜09年 | 54両 | 72.9 |
| 無人機「翼竜1型」 | 2015〜17年 | 15機 | 45 |
| 対空捜索レーダー | 2021年 | 5基 | 25 |
| 無人機「彩虹4A」(サウジ国内でライセンス生産) | 2018年 | 5機 | 15 |
| 無人機用の誘導爆弾 | 2018年 | 50発 | 0.5 |
| 合計 | — | — | 888.4 |
指標値は金額ではない。同研究所が既知の単価をもとに、軍事資源の移転量を表すために使う独自の値で、単位は百万である。合計の50.7%を1980年代の東風3が占め、残りの大半は無人機だった。
この中にHQ-9もJF-17もない。防空に関わるのはレーダー5基だけだ。同研究所は、このレーダーがフランス製の地対空ミサイル「クロタル」や対ドローン兵器「サイレント・ハンター」と組み合わせて使われると注記している。JF-17については、サウジの融資をJF-17の購入に振り替える協議が進んでいると、ロイター通信が2026年1月7日にパキスタン側の匿名の関係者2人の話として報じた。翌8日、パキスタン外務省の報道官は週例の記者会見で、現時点でそうした取引は承知していないと述べた。合意は公表されていない。
パキスタンからサウジへの引き渡しの記録はさらに少なく、2005年の練習機20機だけだ。一方、パキスタン自身は2021年に中国からHQ-9の輸出型1式とミサイル70発を受け取ったと同研究所は推定している。仮にパキスタン軍がHQ-9をサウジに持ち込んだとしても、パキスタンが保有する装備の派遣であり、サウジが中国製の防空システムを買ったことにはならない。「サウジが中国製兵器を湾岸の防衛網に組み込み始めた」とする見方は、記録とも、パキスタン軍の派遣を伝えた報道の内容とも合わない。
2021〜25年のサウジの武器輸入、米国製77%・中国製0.8%
同研究所が2026年3月に公表した年次報告書によると、サウジは2021〜25年に世界の武器輸入の6.8%を占め、3位の輸入国だった。輸入先は米国が77%、スペインが9.5%、フランスが4.6%で、中国は上位3カ国に入らない。サウジは米国にとっても最大の輸出先で、その武器輸出の12%を占めた。
中国の比率は、同研究所のデータベースで年ごとの輸入量(指標値)を調べて確かめた。
| 年 | サウジの輸入 | 米国から | 中国から |
|---|---|---|---|
| 2021年 | 1,747 | 1,335 | 65 |
| 2022年 | 3,053 | 2,006 | 20 |
| 2023年 | 1,326 | 943 | 記録なし |
| 2024年 | 1,238 | 826 | 記録なし |
| 2025年 | 3,042 | 2,860 | 記録なし |
| 合計 | 10,406 | 7,970 | 85 |
5年の合計1万406のうち、中国からは85で0.82%にとどまり、1%に満たない。同じ計算で米国からは7,970、76.6%となり、年次報告書の77%と一致する。2016〜25年の10年に広げても、中国からは331で、サウジの輸入全体(2万5,384)の1.3%だった。
世界全体では、米国が2021〜25年の武器輸出の42%を占め、中国は5.6%で5位だった。中国の輸出の61%はパキスタン向けだった。パキスタンは世界の輸入の4.2%を占める5位の輸入国で、輸入の80%を中国製が占める。2019〜23年の報告書では、米国が42%、中国が5.8%で4位だった。湾岸の他の国を見ると、アラブ首長国連邦が2021〜25年に輸入した地対空ミサイルシステムはイスラエル・韓国・米国製で、中国製は含まれていない。
サウジが求めたパトリオット用ミサイル730発は、これまでの引き渡し(推定600発)を上回る
米国防安全保障協力局が米連邦官報に載せた通知によると、サウジはパトリオット用の改良型迎撃ミサイルPAC-3 MSE 730発の購入を要請した。議会への通知は2026年1月30日で、総額の見積もりは90億ドル、うち主要装備が70億ドルである。主契約者は米ロッキード・マーチンで、通知にはこの売却に先立つ関連の案件はないと記されている。主要装備の70億ドルを730発で割ると、1発あたり約960万ドルになる。
この730発は、サウジがこれまでに受け取ったPAC-3の総数を上回る。ストックホルム国際平和研究所の記録では、米国からサウジへのPAC-3(今回求めた改良型より前の型)の引き渡しは2017〜22年の320発、2021〜22年の130発、2022〜23年の130発、2023年の20発で、合計600発と推定される。要請どおりに売却されれば、これまでの引き渡しの1.2倍にあたる数が一度に加わる。サウジは2021年にPAC-2の改良型300発も発注し、2023〜25年に100発を受け取ったと推定される。この分はサウジ国内での組み立てを含む。さらにサウジは2018年、高高度でミサイルを迎え撃つ高高度防衛ミサイル(THAAD)7セットとミサイル360発を発注し、2025年に2セットと100発を受け取った(いずれも推定)。残りは2028年までに引き渡す予定である。
米連邦官報には2025年以降、購入国をサウジとする通知が16件載った。戦闘機用の空対空ミサイルAMRAAMを1,000発(総額35億ドル、2025年5月2日に議会へ通知)や、空対空と空対地に使う誘導ロケットの誘導部を最大2万個(同19億6,000万ドル、2026年6月15日に通知)が含まれる。隣国カタールも2026年5月1日の通知でPAC-2の改良型200発とPAC-3 MSEを300発(総額40億1,000万ドル)求めており、通知は自国の備蓄の補充が目的だとしている。湾岸諸国のPAC-3 MSEの購入要請は、いずれもこのミサイルを作るロッキード・マーチンの生産能力にかかる。
三菱重工のパトリオットは自衛隊向けで、米国へ移転した分も米国政府以外には渡らない
防衛省にパトリオットのミサイルを納めているのは三菱重工である(防衛省の表記は「ペトリオット」)。防衛装備庁の中央調達の実績では、2025年度の主要品目に「地対空誘導弾ペトリオット」434億円が載り、契約相手は三菱重工だった。2024年度には「地対空誘導弾ペトリオット再保証弾」の2件、754億円と200億円を同社と契約した。2025年度の同社の契約は210件・9,724億円で企業別で1位、パトリオットの434億円はその4.5%にあたる。航空自衛隊が結んだパトリオット関連の契約はPAC-3 MSEの装備ページに一覧にしている。
米国へ移転した分も、米国政府以外には渡らない取り決めになっている。日本政府は2023年12月22日、防衛装備移転三原則と運用指針を改め、日本がライセンス生産するパトリオット・ミサイルの米国への移転を認めた。その際、インド太平洋に展開する米軍を含む米国政府以外にはさらに提供しないことを米国政府との間で確認し、目的外の使用と第三国への移転には日本の事前の同意を義務づけた。防衛省は2024年7月28日、航空自衛隊が持つパトリオット・ミサイルを米軍に売却する契約を結んだと発表した。総額は約30億円である。
湾岸諸国の需要が三菱重工の生産に及ぶとすれば、米国の生産能力を補う日米の共同生産を通じてとみられる。日米両政府は2024年7月28日の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で、AMRAAMとPAC-3 MSEの生産能力を広げるため、日米の共同生産の機会を追求する取り組みを歓迎した。両政府は、高性能な装備への需要を満たし、必要な時期に調達できるようにすることを狙いに挙げた。
三菱重工の防衛・宇宙事業は、2025年度の売上収益が1兆1,445億円で、前年度の8,276億円から38%増えた。受注高は1兆6,826億円(前年度1兆8,768億円)で、受注残高は4兆円を超えた。同社は増収の理由を、ここ数年の受注急増を背景にした手持ち工事の進捗と説明しており、中東向けの案件には触れていない。同社は全社の2026年度の業績見通しについても、中東情勢は流動的だとして影響を織り込んでいないと注記している。日本の防衛費の拡大と同社の防衛関連の事業の関係は防衛費70〜80兆円の記事で扱った。
サウジの防空は、中国製への分散ではなく、米国製のパトリオットとTHAADの調達を増やす方向にある。三菱重工のパトリオットは自衛隊向けに作られ、米国へ渡っても米国政府以外には提供されない。湾岸諸国の迎撃ミサイルの需要と同社の生産を結ぶ取り決めは、2プラス2で両政府が追求するとした共同生産を含め、今回確かめた公表資料には見当たらない。
※2026年10月15日、一次資料に基づき全面的に書き直しました。旧版は配備の情報の出所を「2024年5月のイギリスメディア報道」としていましたが、確かめた範囲で最も早い報道は2026年5月18日にロイター通信が匿名の関係者の話として伝えたもので、サウジ・パキスタン両政府の公式発表はありません。サウジが中国製の防空システムと戦闘機を配備したとする記述は、パキスタン軍の派遣を伝えた報道とも、2025年までの中国からサウジへの移転の記録(HQ-9・JF-17の移転はない)とも合わないため改めました。兵力と機数の数字、中国の窒化ガリウム半導体の市場の伸び、HQ-9とPAC-3の価格の比較、グローバル安全保障イニシアチブの支持国数は出所を確認できず削除しました。日本企業の社名を並べた部分は、三菱重工のパトリオットの契約額と移転の条件に置き換えました。分類は「AI」から「軍事」に改めました。
投資家向けの個別銘柄レポートと技術デューデリジェンスのご相談は、編集部のお問い合わせ窓口までお寄せください。
💬 この記事へのコメント 0
まだコメントはありません
最初のコメントを投稿してみましょう!⚠️ エラーが発生しました