2021年からの60か月で1度もなかったことが2026年7月に起きた。日本が輸入した原油の36.3%は米国産で、サウジアラビアもアラブ首長国連邦も抜いて最大の相手国になった。サウジの積み出し口が3つとも塞がったからである。

財務省貿易統計の実数である。同じ9月、サウジアラビアの首都リヤドの空港付近で黒煙が上がり、サウジアラムコの燃料タンクが燃えた。この2つは別々の出来事ではない。サウジが原油を船に積む出口は湾岸・紅海・東西パイプラインの3つで、2026年9月にその3つとも塞がった。

リヤドで燃えたのはアラムコの燃料タンクだった

2026年9月19日、リヤドでは2度にわたって空襲警報が鳴った。ロイター通信は目撃者の話として、空港付近で黒煙が上がったと伝えている。燃えたのは空港近くにあるサウジアラムコの燃料タンクで、空港では航空機の離着陸が一時止まった。隣国イエメンの内戦を巡ってサウジと敵対する親イランの武装組織フーシ派が、攻撃を仕掛けた可能性がある。フーシ派は前日の18日、サウジ側がイエメン領内で過去24時間に26回の空爆を行ったと非難していた。報復の応酬が日単位で回っている状態を示す数字である。

石油施設の火災は、9月に入って3度目にあたる。9月8日、サウジ南部のアブハとジザンにあるサウジアラムコの施設、空港、空軍基地が攻撃され、複数箇所で火災が起きて一部が稼働を止めた。サウジ外務省は、女性や子供を含む73人が負傷したと発表している。ジザンにあるのは日量40万バレルの製油所である。続く9月10日前後には、イラクから飛来した複数のドローンが東西パイプラインのポンプ所を攻撃した。衛星画像は複数のポンプ所での火災と、1か所での大きな損傷を示している。

アブハとジザンはイエメン国境に近い南西部にあり、リヤドは内陸の首都である。攻撃の到達点が国境地帯から首都へ移ったこと自体が、この3週間で起きた変化を示している。本稿の数値の取得日は2026年9月19日である。

サウジには原油の出口が3つあり、9月に3つとも塞がった

サウジアラビアの原油の出口は3つ、2026年9月に3つとも塞がった
サウジアラビアの原油の出口は3つ、2026年9月に3つとも塞がった

第1の出口は湾岸側である。東部の油田で採れた原油はアブカイクで処理され、ラスタヌラなどの港からホルムズ海峡を抜けて買い手に届く。米エネルギー情報局によれば、ホルムズ海峡の石油の通航量は2024年に日量2,000万バレルで、世界の石油消費のおよそ20%にあたった。2026年2月に米国とイスラエルによるイラン攻撃が始まって以降、この海峡は事実上閉鎖されている。アルジャジーラは現在の通航量を日量600万〜900万バレルと推定した。

第2の出口が東西パイプライン、通称ペトロラインである。1981年に建設された全長1,200キロメートルの管で、アブカイクから紅海のヤンブーまで原油を横断させる。最大能力は日量700万バレル、世界の石油供給の4〜5%にあたる量を運ぶ。ホルムズ海峡が閉じた後、サウジはこの管に頼った。2026年3月に輸送能力を日量700万バレルへ引き上げ、4月13日にはサウジアラムコが復旧を発表している。ところが8月の流量は日量約200万バレルまで落ち、9月11日の夜、サウジエネルギー省が予防措置として稼働停止を発表した。修理には5〜6週間かかるとの見方が出ている。

第3の出口は紅海側の積み出しである。ヤンブーは2026年6月にサウジの海上原油輸出の92%を扱い、サウジアラムコは日量500万バレルを積み出し目標に掲げていた。その南の関門であるバブ・エル・マンデブ海峡は、海運データ会社ケプラーによればフーシ派に掌握され、サウジ船は南回りでの紅海脱出をやめている。同海峡の石油通航量は2023年平均の日量930万バレルから2025年上期に420万バレルへ落ち、2026年6月にいったん740万バレルへ戻っていた。海運データ会社ヴォルテクサの衛星観測では、2026年9月12日以降、サウジは紅海側の港から原油を1隻も積み出していない。ヤンブーの在庫は2,200万バレルで、最大稼働に換算すれば4〜5日分にすぎない。

2019年9月にアブカイクとクライスが攻撃されたときは日量570万バレルが止まったが、あのときは残る出口が生きていた。今回は3つともである。2026年8月のサウジアラビアの原油生産量は1990年以来の低水準だった。

迂回は価格ではなく航海日数に出る

止まったのは価格ではなく距離 — 同じ原油を運ぶのに倍の日数がかかる
止まったのは価格ではなく距離 — 同じ原油を運ぶのに倍の日数がかかる

出口が塞がったサウジが取った道は、北へ回って地中海へ出ることだった。スエズ運河は大型原油タンカーが通れないため、原油はエジプトのスメド・パイプライン(最大日量250万バレル)で地中海側へ送られる。地中海のシディクリールからの輸出は、2026年8月に倍増して日量約230万バレルになった。

この迂回が何を意味するかは、日数で見ると一目で分かる。ヤンブーから東アジアまでは、バブ・エル・マンデブ海峡を南へ抜ければ24日で着く。スエズ運河とアフリカ南端の喜望峰を回ると54日かかる。差は30日である。往復に直せば60日ぶん、同じ船が次の荷を運べなくなる。

距離の変化は買い手の側にも及ぶ。米エネルギー情報局の比較では、米テキサス州ガルベストンから中国の寧波までの距離は、サウジのラスタヌラから寧波までの2.6倍である。中東からの原油が細り、米国からの原油が増えるという交代は、そのまま1バレルあたりの航海距離が伸びることを意味する。英海事紙ロイズリストは、ホルムズ危機で大型原油タンカーの荷動きが36%減った一方、1航海の距離は伸びたと伝えた。運ぶ量は減り、運ぶ距離は伸びる。タンカーの需要はこの2つの積で決まる。

日本の税関データは7月に答えを出していた

日本の原油輸入は2026年7月に米国が最大の相手国になった
日本の原油輸入は2026年7月に米国が最大の相手国になった

ここまでは中東で起きたことである。それが日本にどう着地したかは、財務省貿易統計の国別内訳が記録している。概況品30301「原油及び粗油」の相手国別データを月ごとに取り出すと、2026年7月の輸入は米国が4,393,297キロリットルで首位に立った。構成比は米国36.3%、アラブ首長国連邦27.9%、サウジアラビア27.8%である。

相手国2025年通年2026年1〜7月2026年7月
サウジアラビア39.6%42.0%27.8%
アラブ首長国連邦34.6%35.3%27.9%
米国0.7%15.2%36.3%
クウェート8.3%3.0%2.8%
カタール7.5%0.8%0.0%

この入れ替わりが異例であることは、同じ統計を遡れば確かめられる。2021年から2025年までの60か月で、米国が月の最大の相手国になったことは1度もない。その間の米国の月次構成比は0.0%から4.8%の範囲に収まっていた。2025年通年の米国からの輸入は1,061,742キロリットル、構成比0.7%である。2026年7月の1か月だけで、その4.1倍にあたる量が入った。2026年1〜7月の累計は10,097,707キロリットルで、2025年通年の9.5倍になる。

交代の起点は春である。米国からの輸入は2026年5月の576,334キロリットルから6月に2,722,355キロリットルへ、4.7倍に増えた。日本経済新聞によれば、中東情勢の悪化後に最初の米国産原油の輸入者となったのはコスモエネルギーで、テキサス産を積んだタンカーが2026年4月26日に千葉沖へ到着している。ENEOSと出光興産を含む元売り3社が調達先の分散を進めた。野村證券は、米国産原油の輸出先として日本が2025年の13位から2026年6月に船舶追跡データで最大の輸出先になったと整理している。輸入原油の9割超を中東に頼ってきた国の調達先の構図が、4か月で書き換わった。

7月の統計は輸入9桁速報で、1〜6月は確報である。速報値は後の確報で動くため、7月の順位は確報で確かめ直す必要がある。

4月の輸入は日量94万バレルまで落ちていた

相手国の入れ替わりの前に、量そのものが落ちていた。2026年1月の原油輸入は13,688,222キロリットルだったが、4月は4,480,497キロリットル、5月は4,726,548キロリットルで、1月比では67.3%減である。7月には12,106,280キロリットルまで戻った。サウジアラビアからの輸入に限れば、2026年5月は1,151,222キロリットルで、前年同月の4,105,016キロリットルから72.0%減っている。2026年1〜7月の累計は66,615,539キロリットルで、2025年同期の78,916,845キロリットルを15.6%下回った。

キロリットルは日々の実感に結びつきにくいので、日量バレルに換算して検算する。1キロリットルは6.2898バレルである。2026年7月の12,106,280キロリットルは31日で割ると日量約246万バレル、4月の4,480,497キロリットルは日量約94万バレルになる。同じ方法で2025年通年の144,542,077キロリットルを割ると日量249万バレルになる。7月はこの平常の水準に戻り、4月はその4割を切っていた計算になる。換算した値が平常時の水準と重なることが、統計の読み取りが正しいことの裏づけになる。

量が戻ったのは、米国産という遠い供給源を積み増したからである。2026年7月のカタールとロシアからの輸入はいずれもゼロだった。量を取り戻す代わりに、同じ量を運ぶための船と日数が増えた。

見る数字は価格から運賃と保険へ移った

価格はすでに大きく動いている。野村證券の整理では、ドバイ原油は2026年2月27日の1バレル71.81ドルから、ホルムズ海峡の閉塞後の3月19日に137.82ドルへ上がった。北海ブレントは2026年8月26日の87.77ドルから9月15日に130.80ドルを付けている。

ただし価格の水準より、価格の差のほうが今回の構造を映している。同じ9月15日のWTIは107.02ドルで、ブレントとの差は23.78ドルだった。本誌が既報で確かめたとおり、この差は2026年平均の3.05倍にあたる(原油安は3日分、ブレントは3週間で49%高)。ブレントは船で運ばれる原油の値段であり、海峡と航路の危険をそのまま負う。WTIは米国内陸の原油で、どの海峡も通らずに湾岸の積み出し港へ出る。23.78ドルという差は、長い航海の運賃と保険を払ってなお米国産を買う理由になる。貿易統計が7月に記録した36.3%は、この差が物理的に決済された結果である。

船の側では運賃が跳ねている。中東から中国向けの大型原油タンカーのスポット用船料は1日20万ドルに達し、6年ぶりの高値になった。戦争保険の料率が固定から随時設定へ移った経緯は本誌の既報にまとめた(ホルムズ危機で動く日本株、タンカー通航「6隻」の実相)。運賃と保険はどちらも、積み荷の量ではなく航海の距離と危険に連動する。日本郵船(9101)、商船三井(9104)、川崎汽船(9107)の3社にとって、荷動きの減少と航海距離の伸びは逆向きに効く。元売りの側では、ENEOS(5020)、出光興産(5019)、コスモエネルギー(5021)が調達先の切り替えと在庫日数の管理に直面している。各社の開示の数値は銘柄スキャナーで条件を組んで確かめられる。

リヤドの黒煙が動かしたのは、原油の値段だけではない。同じ1バレルを日本へ届けるのに必要な船の日数と、その1バレルがどの国から来るかである。2026年7月、日本の原油の最大の供給元は米国になった。60か月遡っても前例がない。

投資家向けの個別銘柄レポートと技術デューデリジェンスのご相談はこちら。