三菱重工は、次期防衛力整備計画の素案が示す重点分野のいずれにも恩恵企業として名前が挙がる唯一の上場企業だ。国の中央調達でも最大の契約先だが、2026年度の防衛・宇宙の受注は前年度より2,826億円少ない見通しである。

防衛費の拡大で最も大きな恩恵を受ける企業として、三菱重工の名前が繰り返し挙がる。2026年9月16日に共同通信が報じた防衛力整備計画の素案と現行計画をもとに作られた整理では、次の計画の5年間で70〜80兆円規模に膨らむとされる防衛費を4つの分野に分け、分野ごとに恩恵を受ける銘柄を割り当てた。4分野すべてに登場するのは三菱重工だけである。本稿は、防衛省の計画と予算の資料、防衛装備庁の契約の公表データ、三菱重工の決算資料 (いずれも2026年9月17日に取得) で、その恩恵がいつ、どの程度の大きさで業績に届くのかを確かめる。整理に並ぶ金額と銘柄の割り当ては報道された素案と試算にもとづく見方で、政府はまだ計画を決めていない。

素案の防衛費は5年で70〜80兆円規模とされ、現行計画の契約額43.5兆円の約1.6〜1.8倍になる

共同通信によると、政府が年末に改定する安全保障関連3文書の一つである防衛力整備計画の素案で、2027〜31年度の5年間の中身が判明した。政権幹部は、5年間の防衛費の総額が70兆〜80兆円規模に膨らむ可能性を指摘しており、財源の確保が焦点になる。70〜80兆円を5年で割ると、年14〜16兆円である (記者の計算)。高市政権は防衛費を国内総生産 (GDP) 比3.5%に引き上げる新たな中期目標も検討していると、ブルームバーグが9月15日に報じた。北大西洋条約機構 (NATO) は2025年6月のハーグ首脳会議で、2035年までに中核の防衛費をGDP比3.5%、関連経費を含めて5%にする目標を決めている。GDP比3.5%の議論は素案とは別の話だが、防衛費を増やす同じ流れにある。

比べる相手の現行計画 (2023〜27年度) には、2つの総額がある。防衛省の2022年12月の資料によると、5年間の防衛力整備の水準 (歳出総額) は43兆円程度で、新たに必要となる事業の契約額 (物件費) は43.5兆円である。43.5兆円のうち27兆円は期間内に支払い、16.5兆円は期間後に支払う。人件・糧食費は11兆円、前の計画から流れ込む既定分は5兆円である。共同通信は現行計画を43兆円程度と書き、整理図は約43.5兆円と書くが、前者は歳出、後者は契約の数字で、どちらも正しい。70〜80兆円がどちらの数え方かは報道からは分からないが、43.5兆円と比べると約1.6〜1.8倍になる (記者の計算)。

現行計画は終盤に入っている。参議院の調査室の資料によると、2026年度までの経費を合算すると、歳出ベースの43兆円程度のうち77%、契約ベースの43.5兆円程度のうち81%がすでに予算に計上された。防衛省によると、防衛力整備計画の対象経費の当初予算は、歳出ベースで2023年度6.6兆円、2024年度7.7兆円、2025年度8.5兆円、2026年度8.8兆円と増えてきたが、契約ベースでは9.0兆円、9.4兆円、8.4兆円、8.3兆円と2024年度を山に減っている。整理図の「現行は約8〜9兆円/年」は、この範囲にあたる。2026年8月31日に公表された2027年度の概算要求は、現行計画にもとづく事業に歳出ベース約9兆円・契約ベース約8兆円を計上し、3文書の改定に左右される事業は金額を示さない「事項要求」とした。新しい計画の上積みは、年末の予算編成まで金額が決まらない。

4分野の約34兆円のうち、報道で裏付けがあるのはスタンド・オフの9兆円超と無人アセットの約7兆円である

整理図は、防衛費を4つの分野に分けて金額を示す。1つ目のスタンド・オフ防衛 (長射程打撃能力) は9兆円超で、長射程ミサイルや反撃能力 (敵の射程圏外から攻撃する能力) により島しょ防衛と抑止力を強める。2つ目のAI・無人アセット (次世代戦力) は約7兆円で、無人航空機 (UAV)・無人水上艇 (USV)・無人潜水艇 (UUV) とAIによる指揮統制を扱う。3つ目の防空・ミサイル迎撃 (統合防空網) は8兆円超で、ミサイル・レーダー・レーザーの迎撃網を整え、弾道ミサイルや極超音速ミサイルに対処する。4つ目の持続的な対応能力 (継戦能力の強化) は約10兆円で、弾薬・ミサイル・燃料を確保し、長期戦に備えて補給と整備の体制を整える。4分野の合計は約34兆円で (9兆円+約7兆円+8兆円+約10兆円)、残りの約36〜46兆円は領域横断作戦、指揮統制・情報、機動展開・国民保護、施設の強靱化、防衛生産基盤、研究開発、人件費・教育訓練・基地対策などが入る想定で、詳細は決まっていない。

素案の4分野は約34兆円、4分野すべてに名前が挙がるのは三菱重工だけ
素案の4分野は約34兆円、4分野すべてに名前が挙がるのは三菱重工だけ

報道で裏付けが取れるのは、このうち2分野である。共同通信によると、素案はスタンド・オフ防衛能力の強化に現行計画の倍近い9兆円超が必要と試算し、AI・無人アセットの防衛能力の強化には現行計画の6倍の約7兆円を充てる。無人アセットは約5万2千機の導入を検討しており、内訳は対地攻撃用の無人航空機が約1万機、艦艇攻撃用が約1,300機、情報収集・警戒監視用が約7,500機である。一方、防空の8兆円超と持続的な対応能力の約10兆円は、公開されている報道の範囲では確認できなかった (未確認)。

現行計画の事業費と並べると、伸び方の差が分かる。

表1 4分野の金額 (現行計画は防衛省の2022年12月の資料、素案は共同通信と市場で出回った整理)

分野現行計画素案・試算整理で挙がった銘柄
スタンド・オフ防衛約5兆円9兆円超三菱重工、IHI
AI・無人アセット約1兆円約7兆円三菱重工、川崎重工、NECTerra DroneACSL
防空・ミサイル迎撃約3兆円8兆円超 (未確認)三菱電機、三菱重工、IHI
持続的な対応能力分け方が違う約10兆円 (未確認)三菱重工、IHI、川崎重工

スタンド・オフの9兆円超は、現行計画の約5兆円の約1.8倍である (記者の計算)。現行計画の持続性・強靱性は、弾薬・誘導弾が約2兆円 (他分野も含め約5兆円)、装備品の維持整備費・可動確保が約9兆円、施設の強靱化が約4兆円と分かれており、整理図の約10兆円とそのまま比べることはできない。現行計画ではほかに、宇宙が約1兆円、サイバーが約1兆円、車両・艦船・航空機等が約6兆円、機動展開能力・国民保護が約2兆円、指揮統制・情報関連機能が約1兆円、防衛生産基盤の強化が約0.4兆円 (他分野も含め約1兆円)、研究開発が約1兆円 (他分野も含め約3.5兆円)、基地対策が約2.6兆円、教育訓練費・燃料費等が約4兆円である。その前の中期防衛力整備計画 (2019〜23年度) では、スタンド・オフが約0.2兆円、統合防空が約1兆円、無人アセットが約0.1兆円だった。

4分野すべてに名前が挙がるのは三菱重工だけで、国の中央調達でも3年度続けて最大の契約先だった

整理図は、主要な関連銘柄7社について、製品と技術、今回の計画での注目点、恩恵の大きさを示す。恩恵の大きさは整理を作った側の見立てによる相対評価で、企業ごとの恩恵は決まっていない。これに、防衛装備庁が月ごとに公表する中央調達 (装備庁が本庁で一括して結ぶ契約) の契約額を記者が集計して並べた。

表2 主要関連銘柄と中央調達の契約額 (整理図と、防衛装備庁の公表データを記者が集計)

銘柄主な製品・技術 / 注目点 / 恩恵の見立て令和5年度令和6年度令和7年度
三菱重工 (7011)ミサイル・無人機・防空・艦艇・宇宙 / スタンドオフ・無人機・防空まで広範囲 / 非常に大きい1兆6,798.7億円1兆4,561.1億円9,709.2億円
IHI (7013)ミサイル推進・航空エンジン・UUV / ミサイル (推進)・無人機・防空 / 非常に大きい1,256.6億円577.8億円421.8億円
三菱電機 (6503)レーダー・防空システム・衛星・通信 / 防空網・衛星・指揮統制・センサー / 非常に大きい2,684.6億円4,955.8億円5,284.2億円
川崎重工 (7012)無人機・UUV・航空機・潜水艦 / 無人機・水中無人機・航空分野 / 大きい3,886.4億円6,382.5億円3,307.2億円
NEC (6701)AI・指揮統制・通信・サイバー / AI・無人アセットの統合・情報収集 / 大きい2,891.1億円3,089.9億円2,820.8億円
Terra Drone (278A)小型・防衛ドローン・迎撃ドローン / 5.2万機構想による市場拡大の本命 / 会社規模比で非常に大きいなしなし1億1,543万円
ACSL (6232)国産小型ドローン / 情報収集・警戒監視用ドローン需要 / 会社規模比で非常に大きいなしなしなし

IHIは本体の契約額で、子会社のIHIエアロスペースは令和5年度129.6億円、令和6年度101.8億円、令和7年度91.9億円が別にある。中央調達の総額は令和5年度5兆5,573億円、令和6年度5兆7,573億円、令和7年度4兆7,198億円で、三菱重工の比率は30.2%、25.3%、20.6%だった。3年度の合計では16兆343.9億円のうち4兆1,069億円で、25.6%を占める (いずれも記者の計算)。令和7年度の2位以下は米空軍省の6,470.8億円、三菱電機、川崎重工、米海軍省の3,146.8億円、トライサット・コンステレーションの2,831.2億円 (1件)、NECの順で、IHI本体は15位だった。米空軍省と米海軍省は、米国政府を通じて装備を買う有償軍事援助 (FMS) の契約相手である。装備庁の公表データは防衛装備庁の調達データのページで年度別に確かめられる。

三菱重工の契約の中身は、整理図の4分野と重なる。令和7年度の大型契約は、極超音速誘導弾などの生産準備役務 (その2) が2,390.4億円 (2025年4月16日) で最も大きく、護衛艦 (4,800トン型) 3隻が1,286.1億円、潜水艦が618億円、極超音速誘導弾の研究試作 (その3) が584.6億円、地対空誘導弾ペトリオットが434.4億円、島しょ防衛用高速滑空弾が251.3億円、12式地対艦誘導弾能力向上型 (艦発型) の初度費が160.4億円、23式空対艦誘導弾が149.7億円と続く。誘導弾・ミサイル関連の契約は26件・4,557.9億円で、同社の令和7年度の契約額の46.9%にあたる (記者の計算)。無人機でも、VTOL型無人機の共通化に係る技術の研究試作 (45.5億円) と無人機雷排除システムのマルチロール化の概念実証 (32.8億円) を令和7年度に、無人機同時管制機能の概念検証 (20.9億円) を令和8年度に受けた。令和8年度の公表は4〜7月分だけで総額3,165億円にとどまり、大型の契約は年度の後半に集まるため、年度の途中の数字で比べることはできない。

小型ドローンの2社は、まだ国の中央調達にほとんど現れない。Terra Droneの契約は令和7年度の1件で、モジュール型UAV (汎用型) の教育用300式の1億1,543万円 (2026年3月31日) である。同社の売上高は2026年1月期に47億8,258万円、営業損益は11億4,379万円の赤字で、この契約は売上高の約2.4%にあたる (記者の計算)。ACSLは令和5〜8年度の中央調達の契約相手方に名前がない。同社の売上高は2025年12月期に25億9,873万円、営業損益は18億4,040万円の赤字である。「会社規模比で非常に大きい」という見立ては、5.2万機の構想が小型ドローンの大量の発注につながった場合の話で、今の契約額からはまだ読み取れない。

三菱重工の防衛・宇宙は受注残4兆円超で売上が伸びるが、2026年度の受注は1兆4,000億円に減る見通しである

三菱重工の2026年5月12日の決算説明資料によると、2025年度の受注高は7兆6,536億円、売上収益は4兆9,741億円だった。防衛・宇宙の受注高は2022年度の5,571億円から2023年度に1兆8,781億円へ跳ね上がり、2024年度1兆8,768億円、2025年度1兆6,826億円と高い水準が続いた。2025年度は豪州向けのフリゲートなど複数の大型案件を受注した。売上収益は2022年度4,749億円、2023年度6,064億円、2024年度8,276億円、2025年度1兆1,445億円と伸び、2025年度は前年度比38%増で、全社の売上収益の約23.0%を占めた (記者の計算)。同社は4兆円を超えた受注残をこなすため、生産設備と人員の増強を続けるとしている。

三菱重工の防衛・宇宙は売上が伸びる一方、受注は2026年度に減る見通し
三菱重工の防衛・宇宙は売上が伸びる一方、受注は2026年度に減る見通し

2026年度の見通しでは、売上収益は1兆2,500億円に増えるが、受注高は1兆4,000億円と、2025年度より2,826億円少ない (記者の計算)。同社は「前年度対比で減少するも、高水準を維持」と説明する。同じ資料が参考として示す防衛予算 (契約ベース) は、2022年度3兆8,388億円、2023年度9兆823億円、2024年度9兆4,691億円、2025年度8兆5,353億円、2026年度8兆2,607億円で、2024年度を山に減っている。同社の受注の山と谷は、国の契約ベースの予算の動きと重なる。

記者の見立てでは、防衛装備品は契約から納入まで数年かかり、受注が売上に変わるまでに時間差がある。三菱重工の売上が2023年度以降に伸びたのは、2023年度に始まった現行計画の大型の契約が工事の進み具合に応じて売上になっているためで、70〜80兆円の新しい計画が同社の受注に表れるのは、年末に計画と2027年度予算が決まり、契約が結ばれてからになる。2026年度は、現行計画の最終盤で国の契約ベースの予算が減るため、受注の谷にあたる。

「防衛なら三菱重工」という見方は、国の中央調達の4分の1を占め、素案の4分野すべてに製品を持つという数字で裏付けられる。ただし恩恵の大きさは、70〜80兆円という総額ではなく、年末に決まる計画の分野別の金額と、2027年度以降に結ばれる契約の時期で決まり、それまでの2026年度は同社自身が受注の減少を見込んでいる。

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