2つの一覧は合わせて220件以上を名乗る。1件ずつ転記して数えると160件で、重複と表記ゆれを落とすと139件になった。名乗った数の63.2%しか実体が無く、並ぶ呼び名は2年半前で止まっている。

対象になったのは2つの一覧である。1つは文章で、「100以上のAIツールで数時間の仕事を数分で終える」という見出しのもと、語学からデザインまで13の区分にツールを並べる。もう1つは画像で、「120 MIND-BLOWING AI TOOLS」と題し、中央の輪をCHATBOT、WRITING、PRODUCTIVITY、MARKETING、DESIGN、VIDEOの6区分に割って、その周りにツールのアイコンを並べている。

この種の一覧は、読む側が数を確かめない前提で作られている。本誌は両方を1件ずつ転記し、数え、重なりを測り、そこに並ぶ名前が今も同じものを指しているかを一次資料に当てた。

220を名乗る2つの一覧は、数えると139になる

文章の一覧は13区分で、語学3件、ツールの一覧1件、ウェブサイト5件、資料作成7件、文章7件、AIモデル2件、会議5件、対話5件、自動化5件、UI・UX 5件、画像12件、動画7件、デザイン5件。合計は69件である。見出しが名乗る100件には31件足りない。

2つの一覧の数え上げと、重複を落とした後の件数
2つの一覧の数え上げと、重複を落とした後の件数

画像の一覧は6区分で、CHATBOT 18件、WRITING 18件、PRODUCTIVITY 9件、MARKETING 9件、DESIGN 19件、VIDEO 18件。本誌が判読できた見出しは91件で、名乗る120件には29件足りない。印が小さく読み取れなかったものがある場合、実数はこれより多くなる。

2つを足すと、名乗りの合計は220件以上、単純に足した件数は160件になる。ここから各一覧の中の重複を落とすと156件、2つの一覧に共通して出る17件を1つに寄せると139件になった。名乗った数との差は81件で、実体は63.2%にとどまる。

画像の一覧の6区分と、そこに置かれた見出し
画像の一覧の6区分と、そこに置かれた見出し

区分の当てはめにも無理がある。画像のPRODUCTIVITYには10webとWixという制作のツール、Chatsimpleという対話のツールが入る。VIDEOにはZapier(作業の連携)とDurable(ウェブ制作)とCanva(デザイン)が並ぶ。DESIGNにはReplit、Phind、Codeium、GitFluence、Safuraiという開発者向けのツールに加えて、Dribbble(デザインの作品を公開する場)とNamecheap(ドメイン登録の事業者)が入っている。CHATBOTに置かれたClearscope、Blogseo、Alli AI、Seona AI、LongShotは、検索順位を上げるための文章作成にあたる。

同じツールが別の名前で2度ずつ並んでいる

数が合わない原因の一部は、同じものを2度数えていることにある。

文章の一覧では、画像の区分のなかに「stockimgAI」と「StockIMG」が並ぶ。表記が違うだけで同じツールである。画像の一覧では、TaskadeがCHATBOTとWRITINGの両方に、JenniがWRITINGのなかに「Jenni」と「JenniAI」として、Descriptに至ってはVIDEOの同じ区分のなかに2度置かれている。

2つの一覧に共通して出る17件のうち、表記が一致したのはChatGPT、Claude、Durable、Framer、HeyGen、Looka、Rytr、Tldvの8件だけで、残りは10Webと10web、Bing AIとBing、Copy AIとCopyAI、Designs AIとDesigns、Jenni AIとJenni、Leap AIとLeap、midjourneyとMidjourney、PopAiとPOPAIというように揺れている。機械で突き合わせるときは、大小文字と空白と記号、そして末尾の「AI」や「App」を落として比べないと、同じツールが別物として二重に数えられる。

提供元でまとめると、さらに縮む。ChatGPTとDALL-E 3はいずれもオープンAIの製品で、GeminiとAutoDrawはどちらもGoogleが出したものである。BingとBing createも同じ提供元にあたる。文章の一覧には「Jasper」(文章)と「Clipdrop」(デザイン)が別々の区分に入っているが、この2つは同じ会社の製品になっている。

画像の呼び名は2023年秋から2024年初めで止まっている

一覧に並ぶ名前が、いま何を指しているかは別の問題である。日付で確かめると、画像の一覧は2年半ほど前の呼び名で固まっていた。

一覧に載った名前と、その後に起きた改名と買収
一覧に載った名前と、その後に起きた改名と買収

画像のWRITINGには「Google Bard」がある。Bardは2024年2月8日にGeminiへ改名された。文章の一覧のほうは対話の区分に「Gemini」と書いている。同じ製品が、2つの一覧で別の名前として数えられている。

同じ画像のCHATBOTには「Bing」があり、WRITINGには「Copilot」がある。Bing Chatは2023年11月15日Microsoft Igniteで Copilot へ改名された。改名の前と後の名前が、同じ画像の別の区分に並んでいる。

画像のDESIGNには「DALL-E2」があるが、DALL-E 3は2023年10月3日に公開され、ChatGPT PlusとEnterpriseでは10月19日から使えるようになっている。文章の一覧は「DALL-E 3」と書く。世代が1つずれたまま、両方が別々のツールとして並ぶ。

運営する会社も変わっている。文章の一覧が「自動化」に単独で並べるDriftは、2024年2月13日にSalesloftが取得した。デザインの区分にあるClipdropは、2024年2月20日Stability AIからJasperへ売却された。前述のとおり、この一覧はJasperを文章の区分に別に並べている。

デザインの区分にあるAutoDrawは、2017年4月11日にGoogle Creative Labが公開した実験である。手描きの線を、あらかじめ用意された絵に置き換える仕組みで、生成AIが広まる5年前の技術にあたる。

米当局の提出書類に一度も出てこない26件

名前が古いかどうかとは別に、そのツールが企業の現場に入っているかを測る方法がある。米国の上場企業が当局へ出す書類の全文に、その名前が現れるかを数えることである。本誌は2つの一覧から95件を選んで検索した。

95件の名前を米当局の提出書類で検索した結果
95件の名前を米当局の提出書類で検索した結果

1件も出てこないものが26件あり、検索できた件数の27.4%を占めた。10Web、Blogseo、Chatbase、Chatsimple、Clearscope、Clipdrop、Codeium、GitMind、Gleap、HuggingChat、HyperWrite、Looka、Madgicx、Mindgrasp、Notefolio、Notion AI、Pebblely、PlusDocs、RenderNet、Slidebean、Taskade、Textblaze、Uizard、Vidiq、VisualEyes、Wegicである。1件から9件しか出ないものがさらに15件あり、AdCreative、AutoDraw、Avoma、Chatfuel、DeepAI、Dribbble、HeyGen、Ideogram、Phrasee、Pictory、QuillBot、Respell、SeaArt、Sudowrite、Visilyが並ぶ。

多い側は、Canvaが4,165件、ChatGPTが2,827件、Copilotが1,407件、Grammarlyが512件、Perplexityが310件、Zapierが115件、Midjourneyが89件、Replitが65件だった。

この数え方には限界がある。検索の戻り値は10,000件で頭打ちになり、Gamma、Pitch、Otter、Poe、Drift、Outreach、Monica、Durable、Leonardo、Claude、Geminiはいずれも10,000件を返した。ガンマ線のガンマ、売り込みのpitch、カワウソのotter、人名のPoeやMonicaやLeonardo、漂流のdrift、働きかけのoutreach、耐久性のあるdurableと、いずれも普通名詞や人名と同じ綴りを持つ。一般の語と同じ綴りを持つツールは、この方法では測れない。逆に、0件だった26件はすべて造語に近い綴りで、誤って拾われる余地が小さい方向に外れている。1件も出ないという結果は、そのぶん信用できる。

「数時間が数分」は、統計では生産性9.68%と雇用11.28%減

文章の一覧の見出しは「数時間の仕事を数分で終える」と書く。3時間の作業が3分になるなら60倍、伸び率にして5,900%にあたる。この主張がどの規模で起きているかは、生産性の統計で測れる。

米国の生産性・雇用・物価を、ChatGPT公開前を起点に並べた図
米国の生産性・雇用・物価を、ChatGPT公開前を起点に並べた図

米国の非農業部門の労働生産性は、2026年4〜6月期に120.017(2017年=100)で、前年同期比2.24%の上昇だった。前期比の年率は1.400%である。ChatGPTが公開された2022年10〜12月期は109.423だったから、3年半での変化は9.68%にあたる。見出しの主張とは桁が3つ違う。

同じ期間に、単位労働費用は116.407から123.979へ6.50%上がり、ソフトウェア出版の生産者物価は88.123から97.700へ10.87%上がった。生産性の伸びが9.68%で、人件費が6.50%、ソフトウェアの値段が10.87%上がっている。ツールを買う費用の上がり方のほうが、生産性の伸びより速い。

雇用の側では逆向きの数字が出ている。情報部門の雇用者数は2026年8月に2,745千人で、前年同月比4.02%減、2022年10〜12月期の3,094千人からは11.28%減である。コンピューターシステム設計・関連サービスの雇用者数も2,362.7千人で、2,457.1千人から3.84%減った。ツールの数が増えた3年半のあいだに、それを使う側の人数は減っている。本誌が推論の費用を決める仕組みで分解したとおり、ツールを動かす計算の費用は使った量に比例して積み上がる。人手を置き換えた分がそのまま利益になるとは限らない。

日本の11社が書いたのは、ツールの名前ではなかった

国内の上場企業がこの転換をどう書いているかは、有価証券報告書の語数に出る。本誌はソフトウェアと情報サービスの11社について、2026年5月から8月に提出された有価証券報告書の本文を検査した。

11社の合計で「生成AI」は80回、「大規模言語モデル」は23回出てくる。一方で「ChatGPT」は合計3回、「Copilot」も合計3回しか出ない。ChatGPTの3回はすべてアステリアの記述で、CopilotはTISが2回、オービックビジネスコンサルタントが1回である。

これに対し、「業務効率」は合計108回、「生産性」は合計86回出る。「人手不足」は9回、「AI人材」は7回、「SaaS」は11回、「内製」は3回だった。日本の法定開示は、ツールの固有名詞ではなく、そのツールが生む結果の語で書かれている。

社ごとに見ると濃淡がはっきりする。生成AIを最も多く書いたのはエクサウィザーズの33回で、業務効率9回、生産性12回が続く。アステリアは生成AI 10回に大規模言語モデル7回、富士通も生成AI 10回で業務効率16回、生産性14回である。ラクスは生成AI 9回に対して業務効率が21回と、11社で最も多い。AI insideは生成AI 6回に大規模言語モデル9回、TISは生成AI 5回。日本電気とSCSKは各3回、野村総合研究所は1回で業務効率10回だった。

オービックとオービックビジネスコンサルタントは、生成AIが0回である。ただしオービックビジネスコンサルタントは業務効率を15回書き、Copilotを1回書いている。会計と給与の業務向けソフトを売る会社が、生成AIという語を使わずに業務効率を語る形になっている。本誌がAIサーバーの構成比を検算した記事でも、装置と部材を売る側の有価証券報告書には「推論」が1度も出てこなかった。開示に現れる語は、その会社が何で稼いでいるかに沿って変わる。

日本の情報通信業の就業者数については、労働力調査の表側が従業上の地位別に分かれており、情報通信業の総数を一意に取り出せなかった。この項目は未取得とする。

一覧を受け取ったときに確かめる順番

一覧そのものを否定する必要はない。試す候補を広げる用途では役に立つ。ただし受け取った側が最初にやることは決まっている。

第1に数える。見出しの数字と、並んでいる項目の数が合うかを確かめる。今回は220件を名乗る2つの一覧が160件で、重複を除くと139件になった。数が合わない一覧は、中身の点検も受けていない。

第2に重複を落とす。大小文字と空白と記号、末尾の「AI」や「App」を落として比べる。同じ提供元の製品が別の区分に散っていないかも見る。今回はstockimgAIとStockIMG、Taskade、Jenni、Descriptが二重に数えられていた。

第3に日付を当てる。一覧のどれか1つの名前について、いつ改名されたか、いつ運営する会社が変わったかを調べる。Google BardがGeminiになったのは2024年2月8日、Bing ChatがCopilotになったのは2023年11月15日である。1つでも古い名前が残っていれば、その一覧全体の鮮度がそこで決まる。

第4に、自分が使う分野のツールだけを残して、提供元の会社が今も存在するか、当局の提出書類に名前が出るかを確かめる。0件だからといって使えないツールとは限らないが、業務の中核に据えるなら、会社が続く見込みは確かめておく価値がある。

よくある疑問

一覧に載っていないツールは使わないほうがよいのか。
一覧の網羅性とツールの良し悪しは別である。今回検査した139件のうち、米当局の提出書類に多く現れたのはCanva、ChatGPT、Copilot、Grammarlyといった大手の製品で、これらは一覧の中では少数だった。載っているかどうかではなく、自分の作業のどこに時間がかかっているかから逆に選ぶほうが早い。

当局の提出書類に名前が出ないと、その会社は危ないのか。
そうとは限らない。書類に名前が出るのは、そのツールを採用した上場企業が開示に書いた場合や、提供元が上場している場合に限られる。非上場の小さな会社の製品は、どれだけ使われていても0件になりうる。0件が意味するのは「上場企業の開示では確かめられない」ことであって、事業が続かないことではない。

生産性が9.68%しか上がっていないのに、なぜツールが増え続けるのか。
統計に出る生産性は、経済全体を分母にした平均である。個々の作業では大きく短縮されていても、経済全体でならすと薄まる。過去の技術でも、普及から統計に出るまでに時間差があった。ただし今回の期間では、情報部門の雇用が11.28%減っており、生産性の伸び9.68%より大きい。分子が増えたというより分母が減った形になっている。

日本の会社が生成AIを書かないのは、遅れているからか。
語数だけでは判断できない。オービックビジネスコンサルタントのように、生成AIを0回としながら業務効率を15回書き、Copilotを1回書く会社もある。有価証券報告書はリスクと事業の説明のための書類で、製品名を並べる場ではない。日本の開示で追うなら、ツールの名前ではなく「業務効率」「生産性」「人手不足」といった結果の語を数えるほうが実態に近い。


本誌は公的な統計と上場企業の開示書類を機械で読み、ツールや企業の実体を数字で確かめる調査を請け負っている。導入を検討している仕組みや取引先について、提供元の継続性や採用実績を一次資料で裏づけたい方は、データ調査のご相談からご連絡いただきたい。