岐阜県関市の138人の会社が作る門型研削盤は、上下0.0001mm刻みで航空エンジンの端面歯車と超硬金型を削る。中国では「輸出管理品で現物が乏しい」と紹介されるが、日本の省令は平面研削盤をリスト規制の除外品目と定めている。

中国の機械商社や中古機の売買情報には、「日本・岐阜県製、高精密平面研削盤、砥石φ250〜510mm、回転数200〜1,300回転で可変、航空機の端面歯車、精密ゲージ、超硬合金の金型など高付加価値部品の研削専用、工作物の平面度0.5μm、最小切込設定0.1μm、サブミクロン級、輸出管理級の超精密工作機械で中国国内の現物は極めて少ない」という説明が繰り返し現れる。数字は具体的で、一部は正しい。だが「輸出管理級」という一語が、日本側の法令で何を指すのかは示されていない。

本稿はまず、この仕様がどの会社のどの機械を指すのかを公開仕様で特定し、0.1μmと0.5μmという数字が物理的に何を要求するのかを解く。次に、輸出貿易管理令と貨物等省令の本文、2025年10月と2026年8月に施行された制度、中国側の措置を突き合わせ、「現物が少ない」理由が法律のどこにあるのかを確かめる。最後に、財務省の貿易統計、経済産業省の生産指数と県別出荷統計、日本工作機械工業会の受注、金融庁EDINETと米証券取引委員会の決算、米連邦準備銀行の物価指数で、この機械を作る側と買う側の経済を置く。

岐阜県関市の138人の会社 — 仕様が指す機械

砥石φ250〜510mm、主軸15kW、最小設定単位0.0001mmという組み合わせは、岐阜県関市武芸川町に本社と工場を置くナガセインテグレックスの高精度門型平面研削盤SGX-126・168の公開仕様と一致する。同社の製品頁は砥石寸法を「φ250〜510×38〜75×φ127」、砥石軸モーターを15kW、上下・前後の最小設定単位を0.0001mmと記す。テーブルは1,200×600mmと1,600×800mmの2種類である。回転数200〜1,300回転という記載は同社の頁には見当たらず、中国側の説明が別の仕様書から引いたものと読める。同じ会社の超精密成形平面研削盤SGCシリーズは砥石φ200〜510、最小設定単位0.0001mmで、達成精度として真直度0.35μm/1,400mm、平面度2μm以下/3,000×1,000mmを掲げ、大型の門型機ORIGINシリーズは1,400×860mmの面で平面度0.83μmの実績を公開している。中国側が言う「平面度0.5μm」は、テーブルの一部の範囲での値としてこれらの公開値と矛盾しない(本稿の図1)。

門型平面研削盤の構造と数字の意味
門型平面研削盤の構造と数字の意味

図1 — 左は門型平面研削盤の模式図。右は対象の仕様を砥石周速や熱膨張などの物理量に置き直したもの

ナガセインテグレックスは1950年3月創業、1958年設立、資本金5,000万円、従業員138名 (2025年6月現在) の非上場企業で、本社敷地は23,174平方メートル、製造・組立工場7棟を持つ。事業内容を「各種の超精密研削盤、微細加工機、レンズ、タービンブレード、歯車等の加工機、超精密測定システムなどの開発製造」と定め、標語は「転写誤差ゼロ」である。営業所は東京、大阪、仙台、九州、長野出張所のほか海外は韓国 (京畿道城南市) のみで、中国に拠点はない。製品一覧には平面研削盤のほか、タービンブレードを両頭で削る立型研削盤VHG、歯車研削盤NGC-300、非球面レンズの形状創成研削盤N2C、最小単位1nmの微細加工機NIC-74、ウエハー研削盤NSFが並ぶ。2026年10月26日から31日の日本国際工作機械見本市 (JIMTOF2026) に出展予定である。

0.1μmの切込みと0.5μmの平面度が要求するもの

平面研削盤は、回転する砥石の外周で工作物の平面を削る機械である。テーブルが工作物を載せて左右に往復し、砥石頭が前後に送られ、砥石が上下に切り込む。門型 (ガントリー型) は左右2本のコラムでクロスレールを支えるため、片側から腕を出すサドル型より荷重と熱による傾きが小さい。数字を物理量に直すと、この機械が何を管理しているかが見える。

砥石の周速は、砥石径に円周率と回転数を掛けて求める。φ510mmを1,300回転で回せば毎秒34.7mで、一般砥石の常用域30〜35m/sの上限にあたる。φ250mmの小径砥石を同じ1,300回転で回しても周速は17.0m/sにとどまり、逆にφ510mmを200回転まで落とせば5.3m/sになる。回転数を200〜1,300で可変にする意味は、砥石の径と工作物の材質に応じて周速を選び、ツルーイング (砥石の形直し) や微小切込の仕上げでは低速を使うことにある。切込0.1μmは100nmで、髪の毛の太さ (約80μm) の800分の1にあたり、砥粒1粒の切れ刃が食い込む深さに近い。この深さで削るには、上下軸の送りねじとスケールがその刻みを出せるだけでなく、機械全体がその刻みで止まれなければならない。

平面度0.5μmは温度の問題でもある。鉄の線膨張係数は1℃あたり1mで11.7μmで、1mの工作物の温度が1℃変われば12μm伸びる。0.5μmという値は、温度差にすれば0.04℃に相当し、機械の周囲温度、切削油の温度、主軸モーターの発熱、工作物自身の研削熱をすべて抑えなければ出ない。ナガセインテグレックスがORIGINやSGDで採用する「非接触多面拘束油静圧案内」は、案内面を油の膜で浮かせて金属同士を接触させない構造で、摩耗がなく摩擦熱も小さいため、精度を長期に保てる。同社が「転写誤差ゼロ」と呼ぶのは、研削盤では機械の運動誤差が工作物の形にそのまま写る (転写される) ため、案内の真直度、主軸の振れ、熱変位の3つを機械側で消すという考え方である。

精度の言葉も整理が要る。ISO 230-2は数値制御工作機械の位置決めの試験法で、位置決め精度 A は「指令した位置と実際に止まった位置の差」の広がりを、繰返し精度 R は「同じ位置へ何度も戻したときのばらつき」だけを表す。最小設定単位0.0001mmは指令できる最小の刻みで、機械がその刻みどおりに動く保証ではない。同社が達成精度を「1μmのNC指令値を確実にワークへ転写できる機械運動特性」と別に書き分けているのはこのためである。日本の輸出規制が研削盤の該非を「一方向位置決めの繰返し性」で判定する理由も、機械の素性を表すのは設定単位ではなく繰返し性だからにある。

何を削るのか — 端面歯車・精密ゲージ・超硬金型

中国側の説明が挙げる3つの工作物は、それぞれ違う理由で平面研削盤の精度を必要とする(本稿の図2)。

端面歯車と3つの工作物
端面歯車と3つの工作物

図2 — 左はカービックカップリング (端面歯車) の噛み合いと、割出しテーブル付き平面研削盤での加工。右は3つの工作物の要求精度

航空エンジンの端面歯車はカービックカップリングと呼ばれ、圧縮機やタービンの円盤 (ディスク) を軸方向に重ねて結合するときに、円周上に並ぶ凸歯と凹歯を噛み合わせて2枚の円盤を自動で同心にする部品である。歯面は円錐面で、カップ砥石の外周で1歯ずつ研削し、割出しテーブルで次の歯へ回す。専用機はグリーソンの887と888で、公開の技術資料が示す航空機向けの要求は、歯面粗さRa0.4μm以下、歯と歯のピッチ誤差3μm以下、同心度5μm以下、軸方向の振れは1μm未満である。タービンディスクは数百℃で毎分1万回転を超えて回るため、歯の1μmのずれが回転体の不釣り合いになり、振動と寿命を決める。日本では成形平面研削盤に超精密のロータリインデックス・テーブルを載せて加工する方法があり、ナガセインテグレックスは「唯一無二の割出・回転精度」をうたう同テーブルと、成形研削盤の上で歯車を加工する小型インデックスSPIを製品一覧に持つ。

精密ゲージとゲージブロックは、平面度と平行度がそのまま測定器の基準になる工作物で、研削の後にラップ (研磨) 工程で仕上げるのが通例だった。同社のSGCシリーズが「ラップレス鏡面加工」を掲げるのは、砥石だけで鏡面と平面度を出してラップ工程を省くという意味で、加工時間だけでなく、ラップで生じる面の「だれ」を避けられる。超硬合金の金型は硬さがロックウェルAスケールで90前後あり、切削工具では削れず砥石でしか加工できない。ダイヤモンド砥石と0.1μm刻みの微小切込で、プレス金型やモーターコアの金型に±0.5μm以下の形状精度を出す。同社の小型機SGC-215は「超硬部品の平面加工に最適」、ハイレシプロ成形研削盤SHSD-80αは「超硬パンチ・ダイ製作」で形状精度±0.5μm以下と公開している。

3つに共通するのは、工作物の単価が機械の精度を正当化することである。汎用の平面研削盤が1台1,000万円前後で売れる市場で、超精密機が数千万円から億円で売れる理由はここにあり、経済産業省の生産指数 (2020年=100) では、工作物側の需要が航空と超硬に偏っている。航空機用発動機部品は2025年に173.2、2026年1〜3月期に192.4へ上がり、超硬工具は129.7から150.8へ、一方で金型は83.9 (2026年1〜3月期に98.6へ戻す) である。

「輸出管理級」の実際 — 省令の本文を読む

中国側の説明が「輸出管理級」と呼ぶ根拠を、日本側の法令に当ててみる(本稿の図3)。

輸出規制の実際 — 日本の法令と中国側の動き
輸出規制の実際 — 日本の法令と中国側の動き

図3 — 左は日本側の4つの層を省令本文で確認したもの。右は中国側の措置と、中国語報道が伝えた内容との食い違い

第1の層はリスト規制である。輸出貿易管理令 別表第1の2項(12)と、その仕様を定める貨物等省令 第1条第12号は、研削をすることができる工作機械のうち、いずれか1軸以上の直線軸の一方向位置決めの繰返し性が0.0011mm以下で輪郭制御できる軸数が3または4のもの、あるいは輪郭制御軸数が5以上で所定の繰返し性を満たすものを規制対象に置く。そして同じ条文は除外を3つ列挙する。外径または長さ150mm以内の円筒を研削する円筒研削盤、繰返し性0.0011mm未満のZ軸またはW軸を持たないジグ研削盤、そして「平面研削盤」である。e-Govの法令データベースで確認できるこの文言により、平面研削盤は最小設定単位が0.1μmでも、繰返し性がどれだけ高くても、2項(12)のリスト規制には該当しない。国際的な枠組みであるワッセナー・アレンジメントの工作機械の項が、もともと5軸加工や輪郭制御を持つ機械を対象とし、単純な平面研削を外していることの写しである。

第2の層は通常兵器向けのキャッチオール規制で、2025年10月9日に施行された。日本経済新聞によれば、経済産業省は工作機械、半導体、無人機など6分類を新たに対象に加え、輸出額にして年4.6兆円分、従来の約19倍の範囲で、中国や東南アジア向けの輸出者に需要者と用途の確認を義務づけた。工作機械はHSコード8456から8461が対象で、研削盤は8460に入る。平面研削盤がリスト規制の除外品目であっても、輸出者が「軍事転用の懸念」を知った場合や、需要者が第3の層である外国ユーザーリスト (同じ2025年10月9日に改正) に載っている場合は個別許可が要る。航空エンジンの端面歯車を削る用途は、需要者の確認でまさに止まりやすい用途にあたる。中古機についても、経済産業省の通達は製造後20年を超える工作機械でも製造者の実測値や申告値、カタログ値で該非判定を行うことを求めており、判定書が付かない個体は動かない。

第4の層が、2026年8月に中国語圏で「日本が8月16日から高級工作機械の対中輸出を管制し、審査が15日から45〜180日に延び、航空・軍事・半導体向けは却下率80%超、日本3社が中国の高性能5軸機市場の約70%を占める」と広く報じられた措置である。経済産業省の改正情報の頁で2026年8月16日施行の法令を確認すると、該当するのは6月16日公布の告示第71号のみで、その内容は「貿易関係貿易外取引等に関する省令」第10条第3項に基づく重要管理対象技術の事前報告に、フィルム型ソルダーレジスト、液状型ソルダーレジスト、窒化ガリウムの半導体基板、永久磁石、ペロブスカイト太陽電池セルとその製造用レーザー加工機、X線検出用シンチレータの各技術を追加するものである。対象は「技術の提供」であり、工作機械の貨物輸出ではない。工作機械の輸出許可制度に関する直近の変更は2025年10月9日のキャッチオール強化で、中国語報道が示した審査期間や却下率の数字には出典が示されていない。日本の平面研削盤が中国で「規制品」と呼ばれる根拠は、法令上はリスト規制ではなく、需要者と用途の確認が要るという実務にある。

中国側にも動きがある。商務部は2026年2月と6月29日の2回、日本の企業・団体を輸出管理リストに各20、注視リストに各20、計40掲載し、中国産の両用品目の輸出を禁止または審査を厳格化した。海関総署は6月30日から、旋盤・フライス盤・研削盤など多軸同時制御の加工設備と無人機について、輸出申告に輸出管理該非の明記と10桁のHSコードを求めた。これは中国から外へ出す側の手続きで、日本製研削盤の輸入とは別だが、中国国内で「輸出管理」という言葉が機械の売買に付いて回る背景になっている。

現物が少ない理由を統計で確かめる

法令の層を確認した上で、モノの流れを財務省の貿易統計で見る(本稿の図4)。

研削盤の輸出先・生産指数・県別出荷
研削盤の輸出先・生産指数・県別出荷

図4 — 上は財務省貿易統計の研削盤輸出、中は経済産業省の生産指数、下は経済構造実態調査の県別出荷

日本から中国への研削盤の輸出は2024年に200億9,000万円、2025年に199億1,000万円で横ばいだった。2位の米国は77億5,000万円から89億円へ、インドは56億5,000万円から59億5,000万円へ、韓国は44億9,000万円から51億8,000万円へ増え、タイは46億7,000万円から24億3,000万円へ半減した。中国は研削盤輸出の40%を占める最大の相手先である。同じ統計で工作機械全体の対中輸出は2,053億円から2,462億円へ19.9%増えており、研削盤だけが伸びていない。2025年に対中輸出が止まったのではなく、研削盤の需要側である金型と超硬が弱かった年だった。

生産側では、経済産業省の鉱工業指数で研削盤の生産は2018年の151.1から2025年に85.9へ4割以上落ち、2026年1〜3月期に96.9へ戻した。研削砥石も129.8から88.6へ縮んでいる。工作物側の金型が83.9で、研削盤とほぼ同じ曲線を描く。ここに岐阜県の位置を重ねる。経済産業省の経済構造実態調査 (2022年) によれば、研削盤を出荷した事業所は全国で75、出荷は12,495台、1,426億7,200万円で、1台あたり1,142万円である。愛知県は7事業所で1,315台、260億7,000万円 (1台1,983万円)、岐阜県は5事業所で643台、158億1,900万円で、1台あたり2,460万円と全国平均の2.2倍になる。静岡県は5事業所で197台、70億8,800万円 (1台3,598万円)、群馬県 (岡本工作機械の安中工場がある) と神奈川県は秘匿で公表されていない。岐阜県は台数で全国の5%、金額で11%を占め、台数が少なく単価が高い、つまり超精密機の産地であることが統計に出ている。中国で「現物が少ない」のは、年間の輸出金額が研削盤全体で199億円、そのうち数千万円単位の超精密機は台数にして数百台にとどまるからで、規制で止まっているからではない。

作る側の決算 — 日工会・岡本・DMG森精機・ディスコ

日本工作機械工業会の2025年の受注総額は1兆6,043億円 (前年比8%増) で歴代4位、外需は1兆1,635億円で過去最高だった。中国は電気自動車と情報技術向けの投資で2年連続3,000億円を超え、インドも過去最高、北米は3,600億円で過去最高、欧州は2年連続2,000億円を下回った。2026年7月の受注は1,931億200万円で前年同月比50.4%増、13か月連続の増加で、外需は1,398億6,400万円 (50.5%増) と歴代3位の高水準にある。同会は2026年の受注を1兆7,000億円と見通す(本稿の図5)。

工作機械の景気と研削盤メーカーの決算
工作機械の景気と研削盤メーカーの決算

図5 — 上は日本工作機械工業会の受注、中は研削盤・砥粒加工機メーカーの直近決算、下は米国の航空・工具・工作機械

平面研削盤の国内最大手である岡本工作機械製作所 (証券コード6125、群馬県安中市) の2026年3月期は、売上高425億1,300万円 (前期比2.8%減)、営業利益15億1,800万円 (49.6%減) だった。工作機械セグメントは売上289億4,600万円、セグメント利益1億300万円で前期の13億8,000万円から92.5%減り、半導体関連装置セグメント (売上135億6,700万円、利益27億4,400万円) が会社の利益をほぼすべて稼いだ。同社は決算短信で、中国では「産業機械、金型、半導体装置向けを中心に大型平面研削盤の受注が好調に推移し、受注・売上ともに前年同期を上回った」と記し、工作機械の受注高は305億4,700万円 (15.4%増)、受注残は112億3,900万円 (16.6%増) である。米国でも航空宇宙向けの設備投資で受注・売上が増えた。2027年3月期は売上500億円、営業利益30億円 (97.6%増) を計画する。金融庁EDINETには第127期の有価証券報告書が2026年6月25日に提出されている (書類番号S100YKCW)。中国向けの大型平面研削盤が「受注好調」と書かれた決算と、貿易統計で対中研削盤輸出が横ばいという事実は矛盾しない。岡本が伸ばしたのは大型汎用機で、金額の大きい超精密機の市場は別に動いている。

規制の当事者になる5軸機の主力メーカーでは、DMG森精機の2025年12月期が売上高5,149億7,600万円、営業利益189億7,400万円 (利益率3.7%)、従業員14,026人、研究開発費317億1,500万円である (有価証券報告書 S100XUMY)。研削で最も高い利益率を出しているのは工作機械メーカーではなく、半導体ウエハーの研削・切断装置のディスコで、2026年3月期は売上高4,368億8,900万円、営業利益1,849億8,900万円 (利益率42.3%)、従業員5,547人、平均年間給与1,879万5,641円である (S100YC6I)。研削盤を旧豊田工機から引き継ぐジェイテクトは売上高1兆9,249億5,000万円に対し営業利益248億4,700万円 (1.3%) で、前期の384億5,200万円から減った (S100YEL3)。同じ「研削」でも、超硬金型と航空部品を削る機械を作る会社、ウエハーを削る装置を作る会社、自動車部品の中で研削盤を持つ会社では、利益率が1%台から42%まで開いている。

買う側の景気 — 米国の航空と工具、そして為替

中国側が挙げた3つの工作物のうち、航空エンジンの需要は米国の上場企業の決算に最も明確に出る。米証券取引委員会のXBRLデータで、エンジンのディスクやブレードを作るHowmet Aerospaceの2026年上期売上は48億6,000万ドルで前年同期の40億ドルから21.7%増、営業利益は14億6,400万ドルである。GE Aerospaceの2026年上期売上は257億4,100万ドルで22.8%増、純利益は42億7,300万ドルだった。超硬工具のKennametalは2026年6月期の売上23億5,700万ドルで、四半期ごとに4億9,000万〜5億9,000万ドルの横ばいが続く。米労働省の生産者物価指数のうち工作機械製造 (FREDの系列PCU333517333517) は2019年1月の112.8から2026年7月に142.6へ26.4%上がった。為替は2026年8月28日時点で1ドル159.97円、1ドル6.726元で、3,000万円の研削盤は18万7,500ドル、126万元にあたる。円安は日本製工作機械の海外価格を押し下げており、対中輸出が2025年に19.9%増えた背景の一部でもある。

投資家が見る数字

ここまでの数字から、読者が自分で追える点は3つある。第1に、財務省の貿易統計で研削盤 (概況品70107012) の対中輸出が2026年にどう動くかである。2025年の199億円が規制で減るのか、金型と超硬の需要回復で増えるのかで、「輸出管理級」という説明の当否が数字で決まる。第2に、経済産業省の改正情報の頁で、工作機械の貨物輸出に関する新たな改正が公布されるかどうかである。本稿の時点で2026年に公布された工作機械関連の改正はなく、8月16日施行分は技術の事前報告に限られる。第3に、岡本工作機械の2027年3月期第2四半期 (計画は売上220億円、営業利益6億円で32.2%減) で、工作機械セグメントの利益が1億円から戻るかどうかである。

岐阜県関市の138人の会社が作る機械は、砥石の周速と温度の管理で0.1μmの刻みを工作物に写す。それを「規制品」にしているのは日本の省令ではなく、航空エンジンという用途と、その用途を確認できる相手にしか売らないという輸出者側の実務である。中国国内の現物が少ないのは、この機械が年に数百台しか作られず、その多くが用途を確認できる工場へ行くからにある。