SpaceXとNVIDIAが軌道上AIデータセンターを公表した。地上のラック1台を上げる設計だが、公表された放熱板110平方メートルで100キロワット級の熱を捨てられるかを検算すると、成立条件は1つに絞られる。

SpaceXとNVIDIAが、AI計算を担う衛星「Starmind AI1」を共同で設計すると公表した。地上のAI計算ラック1台分を、そのまま軌道へ上げるという設計である。積むのはRubin世代のGPU72基とVera CPU36基、GPU側の記憶容量20.7テラバイト、NVFP4での推論性能3,600ペタフロップス。展開したときの翼幅は70メートル、高さは20メートルになる。演算した結果は衛星間の光通信で中継し、地上へ降ろす。

地上のデータセンターが電力でも用地でも冷却水でも詰まり始めたことが、この計画の出発点にある。ただし公表された数字を並べ直すと、軌道で最初に詰まる場所は電力でも用地でもなく、熱を捨てる面積になる。

Starmind AI1 の公表諸元
Starmind AI1 の公表諸元

地上で190キロワット要る構成に、軌道では150キロワットしか渡していない

搭載される構成は、NVIDIAが地上向けに用意するVera Rubin NVL144と一致する。GPUダイ144個を72パッケージに載せ、Vera CPUを36個組み合わせる。NVFP4での推論3.6エクサフロップス、HBM4は1パッケージあたり288ギガバイトで、72を掛けると20.7テラバイトになる。対象記事が挙げた数字は、いずれもこの構成の公称値と一致する。

問題は電力の枠である。同じ構成のラックは、地上では1台あたり190キロワットを要するとされる。軌道側に割り当てられているのは最大150キロワット、連続では120キロワットである。

電力の割り当てと、地上のラックとの差
電力の割り当てと、地上のラックとの差

同じ半導体で電力あたりの演算量が1.6倍に上がる物理的な理由は無い。この差を埋める方法は3つしかない。動作周波数を落とす、常時は一部だけを動かす、短時間だけ全力で回して冷ます。どれを採るにせよ、3,600ペタフロップスは仕様上の最大であって、24時間出し続ける値ではない。地上のラックが190キロワットで回している性能を、120キロワットの枠で連続して出せるという記述は、公表資料のどこにも無い。

太陽電池は210キロワットを発電し、発電密度は1平方メートルあたり250ワットとされる。割り戻すと受光面積は840平方メートルになる。翼幅70メートルという寸法は、この面積を確保するために決まっている。

集める面積が840平方メートル、捨てる面積が110平方メートル

ここから先が、この計画で最も検証されていない部分になる。

集めた電力はほぼ全量が熱に変わる。計算機は電気を仕事に変換しているように見えて、実際にはほとんどすべてを熱として吐き出す。840平方メートルで集めた電力に対し、捨てる側の面積は110平方メートルしか公表されていない。面積比で7.6対1である。

地上ではこの比率を意識しなくて済む。空気と水が熱を持ち去るからである。真空ではそれができない。

真空で使える熱の運び方
真空で使える熱の運び方

熱を運ぶ経路は3つある。対流、伝導、放射。対流は空気や水を動かして運ぶ方式で、地上の空調と冷却塔はこれで働く。単位面積あたりで最も多く運べるが、運ぶ相手の物質が無い真空では成立しない。伝導は接している物体へ伝える方式で、半導体から冷却板までの区間はこれで運ぶが、機体の外へは出せない。残るのは放射だけである。

放射で捨てられる熱は、放熱板の温度の4乗に比例する。この4乗という関係が効く。摂氏50度の板が捨てる量を1とすると、摂氏20度では0.68、摂氏0度では0.51にまで落ちる。板を冷たく保とうとするほど、捨てられる量は急激に減る。周囲が絶対零度に近いことは効かない。効くのは放熱板自身の温度と面積だけである。「宇宙は温度が低いから冷やしやすい」という説明は、この点で成り立たない。

そこで、公表された110平方メートルで何度まで下がるかを計算する。ステファン・ボルツマンの法則に、宇宙用の放熱コーティングで一般的な放射率0.85を置いて逆算した。

放熱板の面積から必要な表面温度を逆算する
放熱板の面積から必要な表面温度を逆算する

結果は前提の置き方で大きく振れる。板が片面からしか放射しない場合、平均120キロワットでも表面は摂氏115度になる。演算装置を冷やすには、冷却液がこれより高温でなければ熱が流れない。物理的に成立しない。両面から放射し、かつ地球や太陽を視野に入れず深宇宙だけを向いている場合に限り、摂氏53度に収まる。後続の報道が伝える平均160キロワットまで上げると摂氏77度になり、余裕はほぼ残らない。

逆に、放熱板を摂氏50度に保つのに要る面積を求めると、平均120キロワットで228平方メートル、最大250キロワットなら476平方メートルになる。公表値の2.1倍から4.3倍である。両面放射であれば板の面積は半分で足りるため、110平方メートルという公表値は辻褄が合う。ただしSpaceXは、この面積が片面か両面かを明らかにしていない。この一語が書かれていないために、外部からは成否を判定できない。

翼幅70メートルの構造物を保ったまま、太陽電池は常に太陽を向け、放熱板は太陽と地球の両方を視野から外し続ける。姿勢制御としてはかなり厳しい条件になる。

日照が途切れないという前提にも条件が付く。地球の影に入らずに回り続けるには、明暗の境界に沿った特定の軌道面を選ぶ必要がある。この面では太陽が常に横から当たる代わりに、地球も常に同じ側にある。太陽電池を太陽へ向け、放熱板を太陽からも地球からも外すという2つの条件を同時に満たす姿勢は、この配置ではかなり狭い範囲に限られる。しかも軌道面が1つに絞られるということは、そこへ置ける機数にも上限が生まれる。100万基という数字と、日照が途切れないという条件は、同時には成立しにくい。

高度の選び方にも折り合いがある。公表されている500キロメートルから2,000キロメートルという幅のうち、低い側では空気抵抗が効く。真空とはいえ完全な無ではなく、高度500キロメートルには希薄な大気が残る。受光面積840平方メートルという広い面を持つ機体は、抵抗を受ける面積も広い。軌道を保つには推進剤を消費し続けることになり、その量が寿命を決める。一方、高い側の2,000キロメートルは内側の放射線帯にかかり始める。放射線の量が増える分だけ、半導体の寿命と誤り率の条件が厳しくなる。低いほど推進剤を食い、高いほど放射線を浴びる。この2つに挟まれた帯が、実際に選べる範囲になる。

100万基は、100万倍の計算機を意味しない

もう一つ、規模の議論で落ちている点がある。衛星と衛星をつなぐ線の太さである。

衛星の内側と外側で、帯域を比べる
衛星の内側と外側で、帯域を比べる

衛星1基の内側では、記憶装置が毎秒13テラバイトで動く。一方、衛星間の光通信は既存の衛星群で使われている水準を置くと毎秒200ギガビット級、バイトに直せば毎秒0.025テラバイトになる。開きはおよそ520倍ある。

この差が、軌道上でできる仕事の種類を決めてしまう。推論は1基の中で完結し、外へ出すのは結果だけで済む。地上を撮った画像をその場で判定し、判定結果だけを降ろす用途であれば、細い線でも足りる。一方、大規模な学習は複数の計算機で重みを分担し、各段で結果を突き合わせる。地上のデータセンターはこれを毎秒テラバイト級の配線で成立させている。520分の1の線では、束ねるほど待ち時間が支配する。

つまり衛星1基がそのまま計算の単位になる。100万基という申請上の数字は、100万倍の計算機ではなく、100万個の独立した島を指す。数を増やして能力が上がるのは、仕事が分割できる種類のときに限られる。軌道上の計算が推論に寄る理由は、需要ではなく配線の太さの側にある。以前に扱った軌道上データセンターをめぐる競争は構想の並びを追ったものだが、公表された諸元が揃った今回は、その構想が何をできて何をできないかまで絞り込める。

放射線はもう壁ではない。壁は保守と混雑へ移った

この分野で長く語られてきた懸念は、放射線による誤動作だった。その前提は、この2年で更新されている。

実証済みの範囲と、まだ主張にとどまる範囲
実証済みの範囲と、まだ主張にとどまる範囲

新興企業が軌道上でH100を動かし、言語モデルの推論を実行した。真空、放射線、繰り返す温度変化を経ても動いている。グーグルは自社製の演算装置に軌道上5年分に相当する放射線を地上で当て、想定線量の20倍でも恒久的な故障が生じないことを確かめた。記憶の誤りは誤り訂正符号と、途中経過を保存して再開する仕組みで扱える範囲にある。

残っているのは別の問題である。100キロワット級の熱を100平方メートル規模の板で連続して捨てた実績は、軌道上には無い。故障した演算装置を交換できない条件で何年運用できるかも分かっていない。地上のデータセンターは、壊れた計算機を抜いて差し替えることで稼働率を保っている。1基に72基のGPUを積み、そのうち数基が死んだとき、残りをどう使うのか。数千基以上を同じ高度帯に置いたときの衝突の管理も、まだ解かれていない。

難所は放射線から、熱と保守と軌道の混雑へ移った。

「宇宙向けに認定されたモジュール」という表現にも、中身を確かめる余地が残る。宇宙用の電子部品には、線量に耐える設計と、誤動作しても復帰できる仕組みの2種類の作り込みがある。前者は工程から作り替えるため単価と世代が地上品と大きく離れ、最新世代の演算装置には現実的でない。後者は市販品を使いながら誤りを検出して直す方式で、地上で試験を積んだうえで運用する。今回のように最新世代の演算装置を積む以上、採られているのは後者に近い。H100と比べて最大25倍という性能の表現も、地上向けの同世代品との比較ではなく、1世代前の製品との比較である点は読み分けが要る。

現場の判断に落とすと、この計画が誰にとって意味を持つかは絞られる。地上との往復が少なく、生成した情報量が入力より小さい仕事、つまり撮った画像を判定して結果だけ降ろすような用途である。逆に、地上に置いたデータを繰り返し読み書きする仕事は、細い線を何度も往復することになり成立しない。既存の地上設備を置き換えるのではなく、地上へ降ろす前の一次処理を軌道側へ移す構図に近い。

費用の重心は打ち上げではなく、積む半導体の側にある

計画の採算を考えるとき、打ち上げ費用が下がれば成立するという筋書きが繰り返し語られる。数字を置くと重心が違って見える。

費用の内訳と、受注が増える層
費用の内訳と、受注が増える層

大型機1回で30基から50基を運ぶ。輸送費を仮に1回1億ドルと置いても、1基あたりは200万ドルから330万ドルに収まる。一方、GPU72基とCPU36基を積んだ計算ラックは地上でも1台で数百万ドル規模になり、これに機体、太陽電池、放熱板、姿勢制御が乗る。回数を重ねるほど輸送費の欄は薄くなり、半導体の欄は薄くならない。

この構図は、今回の発表で最も速く動いた数字にも表れている。SpaceXは軌道上の計算機に使う半導体をNVIDIAに絞ると表明し、理由として挙げたのは「最も優れているから」の一言だった。同じ週に過去最高の決算を出したAMDの株価は9パーセント下げている。決算が悪かったのではなく、将来の採用枠が1つ閉じたためである。試作機すら軌道に無い計画が、上場企業の評価をすでに動かしている。

記憶装置の帯域が先に詰まる構図は軌道上でも変わらず、マイクロンなどが供給するHBMは1基あたりの搭載量が大きい。しかも交換ができないため、地上より高い信頼性か、多めの予備が要る。

日本の接点は、熱を運ぶ部品と光の部品にある

この計画が進んだ場合に新しく立つ需要は、地上のデータセンターには存在しない種類のものになる。熱を運ぶヒートパイプ、循環ポンプ、放熱板の面材。70メートルの翼を畳んで上げ、軌道で広げる機構。そして衛星間をつなぐレーザーと精密な指向機構である。

古河電気工業(5801)は、およそ50年にわたり蓄積してきた放熱部品の技術を宇宙分野へ転用すると表明し、氷点下でも動作する宇宙用ヒートパイプを開発している。年間100億円規模の売上を目標に置く。人工衛星の熱制御では作動液にアンモニアを用いるのが標準で、地上の電子機器向けとは設計が変わる。同社は光の部品でも波長可変光源の世界首位にあり、熱と光の両方で接点を持つ数少ない企業になる。

ここで注意が要るのは、軌道上の計算が地上の需要を置き換えるかどうかという点である。仮にStarmindが計画通り進んでも、扱えるのは1基で完結する推論に偏る。学習の需要は地上に残り、送電網につながるまでの待ち時間という制約も消えない。1ペタフロップスあたりの電力が下がり続けても総量が増え続ける構図を踏まえれば、軌道は逃げ場ではなく、需要の一部を切り出す先になる。

イーロン・マスク氏の会社群では、以前にAI部門の中核が抜ける事態も起きている。その経緯を踏まえると、2027年前半の試作という日程は、技術の難所よりも人と資金の配分に左右される可能性が高い。放熱板の面積が片面か両面かという一語が公表される時点が、この計画の本気度を測る最初の目盛りになる。