集めるために買う人が7割を超える。中身が分からない箱で売るカードは中古市場まで動かし、工場は印刷から梱包までを自動化して、偽造を防ぐICチップまで埋め込む。市場は3年で2倍を超える。
中国でトレーディングカードゲーム (TCG) の市場が急速に広がり、2025年には100億元 (約2,100億円) の規模に達する見通しだ。伸びを支えるのは、知的財産の巧みな活用と、製造工程のデジタル化である。単なる遊びの流行にとどまらず、中国政府が進める文化産業の育成と、国内消費を柱に据える経済政策が重なる現象として見ておく必要がある。
カードゲーム市場の規模は2022年の47億9,000万元から2025年に102億1,000万元へ
調査会社のアイリサーチによると、中国のTCG市場の規模は2022年に47億9,000万元 (約1,000億円) に達し、2025年には102億1,000万元 (約2,140億円) に拡大すると見込まれる。市場を引っ張るのは、浙江省に本拠を置くカーヨウ (Kayou) などの新興企業だ。
これらの企業は、日本の「ウルトラマン」や「ワンピース」、米国のマーベル作品といった海外の有力な作品の使用許諾を得て、品質の高いカードを大量に生産する。同時に、「原神」のような中国国内の人気ゲームの作品も使い始めた。製品は国内だけでなく東南アジアや欧米にも輸出され、世界での存在感を高めている。
工場の自動化と偽造防止のICチップで、短い納期と低い費用を両立させた
市場が広がった直接の理由は、知的財産の活用と製造技術の高度化の組み合わせにある。カーヨウなどのメーカーは自動化した工場を導入し、印刷から裁断、梱包までを一貫して手がける体制を築いた。これにより、品質の高い製品を短い納期と低い費用で供給できるようになった。偽造を防ぐため、カードに近距離無線通信 (NFC) のICチップを埋め込むなど、技術面の付加価値も追っている。
売り方では、中身が分からないまま買う「ブラインドボックス」の形式を採り、集めたいという気持ちを刺激する。希少なカードがあることが中古市場を活気づけ、値上がりを見込んだ需要も生んでいる。アイリサーチの2023年の調査では、購入者の7割以上が収集を目的にしていると分析されており、遊びと資産の両面が市場を支える構造になっている。
1995〜2009年生まれの世代が、作品への愛着と友人との交流のために買う
この流行の背景には、中国のZ世代 (1995〜2009年生まれ) の買い方の変化がある。物が豊かな時代に育った世代は、心の満足や自分らしさの表現を重んじる傾向が強い。カードは、好きな作品への愛着を満たし、友人との会話の材料や交流サイトでの自己表現の手段としても働く。
経済の構造から見ると、不動産市場の不振や情報技術産業への規制の強化を受け、新しい成長分野を探す国内の資金が文化や娯楽の産業に流れ込んでいる面もある。新型コロナウイルスの流行下で3年続いた家に籠もる需要が、オンラインゲームの市場を飽和させた。その反動として、実際に手に取る体験や集める価値を伴う娯楽に関心が戻っていることも、市場の追い風になっている。
国内消費を柱に据える政策と、知的財産の保護強化が重なる
TCG市場の盛り上がりは、中国政府が進める国家戦略と深く結びついている。習近平指導部が掲げる「文化強国」の方針は、国内の文化産業を育てて国際的な影響力を高めることを目指す。カードは、若い世代に向けた文化の発信の手段としても位置づけられている (記者の見立て)。
この動きは、米中対立を背景とする「双循環」の方針 (国内の経済の循環を主体とし、国内と国際の二つの循環が互いを促す発展の形) とも合う。強い国内消費の市場を育てるうえで、娯楽の作品は重要な役割を担う。政府が近年、知的財産権の保護を強めているのも、模造品が多い国という立場から抜け出し、自国の作品の産業を保護・育成して経済成長の柱にしようという意図の表れと読める。
日本のカードゲーム会社には競合、出版社には使用料収入、印刷会社には受注の機会
中国のTCG市場の拡大は、日本の関連産業に大きな機会と脅威をもたらす。
- 使用料収入の拡大: バンダイナムコ (「ワンピース」「ドラゴンボール」)、集英社、小学館など版権を持つ企業にとって、中国は大きな使用料の収入源になりうる。現地メーカーとの提携による市場の開拓は有力な成長策だ。
- 世界市場での競争の激化: コナミデジタルエンタテインメント (「遊戯王OCG」)、ブシロード (「カードファイト!! ヴァンガード」)、タカラトミー (「デュエル・マスターズ」) といった日本のカードゲーム会社は、新たな競合に直面する。製造費用と開発の速さで優位に立つ中国企業が、日本や欧米の市場で占有率を奪う危険が現実になりつつある。
- 調達網への影響: 品質の高い印刷と加工の技術を持つ大日本印刷やTOPPANホールディングス (旧凸版印刷) には、中国メーカーからの受注の機会が生まれうる。一方で、中国国内で調達が完結する動きが進めば、日本の素材や装置のメーカーの商機は限られる。
日本企業は、自社の作品の価値を捉え直し、デジタルゲームとの連動や世界規模の催しの展開など、物を売るだけにとどまらない付加価値で違いを出す必要がある。中国市場の法規制や消費者の好みの変化を正確につかみ、素早く対応できる体制を築くことが欠かせない。
非上場企業が多く、市場規模の数字は調査会社の推計にとどまる
本稿の分析は、主に中国の調査会社アイリサーチと中国国内の報道に基づく。これらのデータは市場の規模や流れをつかむうえで有用だが、特に将来の予測については、業界の成長を後押しする意図から高めの数字が示される場合がある点に注意が要る。カーヨウをはじめ非上場の企業が多いため、詳しい財務や生産の規模に関する公式の情報は限られ、実態を完全に把握することはできない。
中国のカードゲーム市場の急成長は、遊びの流行という一面だけでは説明がつかない。政府主導の文化産業の育成と、製造業の高度化が交差する場所で起きている。
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