中国のネット通販で日本の化粧品会社が直面しているのは、販路の選択より値崩れである。資生堂のアネッサは中国・免税店向けの売上高が2026年1〜3月期に40%超減ったが、同社は短期の売上より価格秩序の回復を優先すると説明した。

中国のネット通販では、人気の配信者が商品を紹介して売るライブコマース (ライブ配信での販売) が広がった。値引きを前面に出す売り方はブランドの価値を損なうとして、ブランド各社は、利用者が検索して商品を選ぶ従来型の通販サイトである中国ネット通販大手の京東集団に戻りつつあるとの見方がある。中国政府の統計や京東集団、資生堂の開示資料で確かめると、ライブ配信の取引は増え続けている。以下、統計、京東集団、資生堂の順に見る。

中国のライブコマースの取引額は2025年も11.3%伸びた

中国商務省によると、2025年の中国のネット通販の売上高は15兆9,700億元で、前年比8.6%増えた。このうちサービスを除く物販は13兆900億元で5.2%増だった。ライブ配信による取引額は11.3%増えた。ライブ配信と物販は集計の範囲が違い、増加率を単純には比べられない。それでも、熱狂が冷めたという見方を裏付ける材料は政府の統計には見当たらない。

京東集団の増収は出店料と広告料が主で、家電の直販は2026年上期に減少

京東集団の2025年12月期の売上高は1兆3,091億元で、13.0%増えた。このうち京東健康などを含む小売事業は1兆1,264億元で10.9%増だった。同社が米証券取引委員会に提出した年次報告書 (20-F) の注記で内訳を見ると、出店者や取引先のブランドから受け取る手数料と広告などの売上高は1,071億元で18.9%増えた。2023年の847億元から2024年の901億元への増加率は6.4%にとどまっていたが、2025年に加速した。商品の直販では、日用品などが3,630億元から4,187億元へ15.3%増え、家電・電子機器は5,650億元から6,051億元へ7.1%増えた。

2026年に入ると流れが変わった。1〜6月期の売上高は6,621億元で0.7%増にとどまり、4〜6月期は3,464億元で2.9%減った。同社は前年同期の反動だと説明している。1〜6月期は家電・電子機器が10.3%減り、日用品などは10.1%増えた。手数料と広告などの売上高は574億元で12.9%増だった。小売事業だけの金額は開示されていないが、20-Fはこの売上高が主に小売事業から生じると説明している。

京東集団の売上高の区分2025年の増加率2026年1〜6月期の増加率
家電・電子機器+7.1%-10.3%
日用品など (一般商品)+15.3%+10.1%
手数料と広告など+18.9%+12.9%

2025年の増加率は20-Fの注記の金額から編集部が計算した。2026年1〜6月期は同社の決算発表の値である。

京東集団は自社サイトからライブ配信を締め出しているわけでもない。20-Fでは、出店者がライブ配信やショート動画で商品を売り込むのを自社サイトで支援していると説明している。同社の開示資料に、ブランドがライブ配信から京東集団に移ったことを示す数字はない。増えているのは、出店者や取引先が京東集団に払う手数料と広告費である。

京東健康の年間アクティブユーザーは2億超、広告などの売上高は商品販売を上回る伸び

京東集団の医薬品・健康食品の通販子会社で、香港に上場する京東健康は、過去12か月に1回以上購入したアカウント (年間アクティブユーザー) の数が2025年6月末時点で2億を超え、12月末時点では2億1,770万になったと開示した。2025年12月期の売上高は734億元で26.3%増えた。内訳は商品販売が609億元で24.8%増、出店料や広告などのサービス売上高が126億元で34.1%増だった。同社はサービス売上高の増加を、広告主が増えたためとしている。売上高に占めるサービス売上高の割合は、2024年の16.1% (582億元のうち94億元) から2025年は17.1%に上がった。

健康食品では、2025年に7,000超のブランドが同社のサイトで3年続けて売上を伸ばした。2026年の「618」商戦 (6月18日を中心とする販促) では、50超のブランドと共同開発した健康食品のうち、100品目以上で売上高がそれぞれ100万元を超えた。ただ、2026年1〜6月期の売上高は409億元で15.9%増と、2025年より増収率が鈍った。商品販売は15.6%増、サービス売上高は70億元で17.2%増だった。

資生堂は2025年に売上高の35%を占めた中国事業などで、過度な値引きに頼らない売り方を掲げた

資生堂の2025年12月期の連結売上高は9,700億円だった。中国本土と免税店などでの販売をまとめた中国・トラベルリテール事業は3,422億円で、全体の35.3%を占めた。同事業のコア営業利益 (本業のもうけを示す資生堂独自の利益) は645億円で、連結のコア営業利益445億円を上回った。各事業に配分しない本社部門の費用などが552億円あり、米州事業も116億円の赤字だったためだ。資生堂の業績の推移は銘柄ページにまとめている。

同社は2026年2月の決算説明会で、中国の「独身の日」(11月11日のネット通販の商戦) について「依然としてディスカウントによる価格競争の厳しさは継続しました」と述べた。8月に公表した1〜6月期の決算説明資料では、中国・トラベルリテールの方針として「過度なディスカウントに頼らない売上構造への進化」を挙げ、「流通コントロール、価格戦略の高度化」も掲げた。

方針が最もはっきり表れたのが、日焼け止めのアネッサである。中国・トラベルリテール事業でのアネッサの売上高は、2026年1〜3月期に前年同期より40%超減り、1〜6月期でも20%台半ばの減少だった。同社は1〜3月期の減収について、販促時期のずれと在庫の調整が響いたと説明した。そのうえで、非正規の流通経路から商品が流れ込んで価格がゆがんだとし、「短期的な売上よりも価格秩序の回復、中長期的なブランド価値を優先する方針です」と述べた。8月の説明会では、アネッサの中国での売上の大半を1品目が占めること、代理店に頼る販売の仕組み、非正規の経路への横流しによる値崩れの3つを課題に挙げ、ビジネスモデルを見直すとした。

中国・トラベルリテール売上高 (億円)前年・前年同期 (億円)実質前年比コア営業利益 (億円)
2025年通年3,4223,578-3.5%645
2026年1〜3月期783750-1.4%157
2026年1〜6月期1,9141,739-0.1%476

実質前年比は為替の影響などを除いた資生堂の公表値。通年の行は前年の通期と比べた。2026年の2期とも円建ての売上高は前年同期を上回ったが、円安・人民元高の分などを除くと減収だった。

中国の消費者の購入額は1〜3月期に減り、4〜6月期に増加に転じた

資生堂は2026年2月の説明会で、日中関係の悪化の影響が2025年12月から出始めたと説明した。中国本土ではインフルエンサー (ネットで影響力を持つ発信者) を使った販促で「少しキャンセルが続いたり」、1月に予定していた新製品の販促も一部が延期されたりしたという。中国・トラベルリテール事業と日本での訪日客向け販売を合わせ、1〜3月期に売上高で約100億円、利益で約30億円の下押しを見込んだ。

1〜3月期の実績では、香港を含む中国の消費者の購入額 (資生堂の出荷ではなく、店頭と通販で消費者が買った額) は前年同期比で1桁台前半の減少だった。店頭は1桁台前半の増加、ネット通販は1桁台後半の減少である。同社は、香港が減った一方で中国本土は増えたと説明し、5月の説明会では日中関係の中国本土への影響は限定的だったと述べた。ネット通販の減少と販促の取りやめを結びつける数字は、同社の資料にはない。4〜6月期は購入額が1桁台前半の増加に転じ、ネット通販も1桁台前半、店頭は1桁台半ばの増加だった。「618」商戦では主力商品に絞った販促が効いたという。

1〜6月期の円建ての売上高は前年同期の1,739億円から10.0%増えたが、為替の影響を除くと0.1%減になる。同社が示した上期の実績レートは1元=20.5円から23.0円へと人民元が12.2%上がり、1ドルも148.5円から158.1円になっており、増収はほぼ為替による。コア営業利益は476億円で、セグメント間の売上を含む売上高に対する比率は24.6%だった。同事業が連結売上高4,990億円 (前年同期4,698億円) に占める割合は、前年同期の37.0%から38.4%に上がった。

日本の事業者から中国の消費者への越境電子商取引は2024年に2兆6,372億円

日本から中国への販売には、現地の店舗や通販のほかに、日本の事業者が国境を越えて直接売る越境電子商取引がある。経済産業省の推計では、2024年に中国の消費者がこの形で日本の事業者から買った額は2兆6,372億円で、前年より8.5%増えた。中国の消費者が日本と米国の事業者から買った合計5兆7,769億円の45.7%にあたる。資生堂の開示とは別の統計で、2025年の値は2026年10月13日時点で公表されていない。

資生堂が中国で減らしたのはアネッサの売上で、中国・トラベルリテール事業の円建ての売上高は増えている。京東集団の側でも、増えているのはライブ配信から移ってきた売上ではなく、出店者や取引先が払う手数料と広告費である。

※2026年10月13日、一次資料に基づき全面的に書き直しました。旧版の「ライブコマースの熱狂は沈静化した」は、中国商務省の統計 (2025年のライブ配信の取引額は11.3%増) と合わないため改めました。健康食品会社の担当者の談話に基づく数字 (ライブ配信への依存度など)、栄養補助食品の市場規模の予測、京東集団の有料会員が健康食品の売上の過半を占めるとの記述、京東集団のデータセンターの半導体と光配線についての記述は、一次資料で確認できなかったため削除しました。2024年12月に上場廃止となったファンケルを中国関連の銘柄として挙げた記述も削除しました。京東健康の年間アクティブユーザーは開示に基づき2億1,770万 (2025年12月末までの12か月、アカウント数) としました。

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