日清紡ホールディングスの精密機器事業は2025年12月期に売上高554億4,200万円、セグメント利益29億7,600万円で、利益は前年の1.8倍になった。稼ぎ頭は中国とインドの合弁で削るブレーキ制御用のアルミブロックである。

本稿の図1に描いた部品は、手のひらより少し大きいアルミニウム合金の直方体に、上面に2列の大きな穴、前面に小径の接続口が並び、角がすべて面取りされている。日清紡メカトロニクスが「EBS用バルブブロック」と呼ぶこの部品は、乗用車や二輪車のブレーキ制御装置の筐体で、内部で交差する穴がそのまま油路になる。同じ会社の成形品事業が作る「Ecoクロス」は、家庭用エアコンの室内機に入る樹脂製の横断流ファンで、羽根の厚みを従来の約半分にしたことで樹脂を約3割減らした。金属の削り出しと樹脂の射出成形という正反対の技術が、日清紡ホールディングスの7つの報告セグメントのうち「精密機器」の中に同居している。

本稿はこの2つの製品を、油圧ブレーキ制御の原理と加工工程から解き、次に日清紡ホールディングスが金融庁のEDINETと東京証券取引所に提出した決算資料、経済産業省の生産統計、米連邦準備銀行の物価指数、米証券取引委員会の財務データで、事業としての現在地を置く。

「EBS」という言葉が指す2つの別物

最初に整理しなければならないのは言葉である。日本で「EBS (電子制御ブレーキシステム)」と聞けば、自動車技術会が「自動車技術330選」に選んだ大型トラック・バスの空気圧ブレーキを思い浮かべる読者が多い。運転者のペダル操作を電気信号に変え、演算した減速度に合わせて各軸の空気圧バルブを電子制御する仕組みで、1997年に日産ディーゼル工業がWABCOと共同開発して国内で初めて採用し、翌1998年にトラクター型へ広げた。中核部品はアクスルモジュレーターや比例リレー弁で、供給者はクノールブレムゼとZF (2020年にWABCOを買収) の2社に集約されている。

日清紡メカトロニクスの製品はこれとは別の世界にある。同社の製品頁は、EBS用バルブブロックを「ブレーキをかけた際にスリップするロック現象を防止するABS、車の走行状態をセンサーで監視し安定した走行・停止を制御するESCの重要部品」と説明する。作動媒体はブレーキ液で、乗用車と二輪車が対象である。合弁相手のコンチネンタル (現AUMOVIO) は乗用車向けの油圧ブレーキ制御装置を「EBS」と総称しており、日清紡の製品名はその用語を引き継いだものにあたる。空気圧の大型車EBSと油圧の乗用車EBSは、規制も供給者も部品の形も違う。本稿が扱うのは後者で、以下では乗用車の油圧ユニット (HCU) の筐体として読む(本稿の図1)。

EBS用バルブブロック — 外形と加工工程
EBS用バルブブロック — 外形と加工工程

図1 — 左は製品の外形と穴の配置の模式図。右は日清紡メカトロニクスが公開する量産工程と、4拠点の保有設備

ブロックの中で何が起きているか — 電磁弁が毎秒何回も油圧を増やし、保ち、抜く

乗用車のABSとESCは、運転者がペダルを踏んで作った油圧を、電磁弁で車輪ごとに細かく調整する装置である。主シリンダーから各輪のホイールシリンダーへ向かう油路の途中に、常時開いている入口弁と常時閉じている出口弁が1輪あたり1本ずつ入る。ECUが車輪速センサーから車輪の減速度と滑り率を計算し、車輪がロックしそうだと判断すると、まず入口弁を閉じて圧を保ち、それでも滑りが増えれば出口弁を開いて圧を低圧アキュムレーターへ逃がし、車輪が再び回り始めたら出口弁を閉じて入口弁を開き、圧を戻す。逃がした液はモーター駆動のポンプで主シリンダー側へ戻す。この「増圧・保持・減圧」の1周期は数十ミリ秒で、運転者の足には脈動として伝わる(本稿の図2)。

油圧EBS (ABS/ESC) の動作原理
油圧EBS (ABS/ESC) の動作原理

図2 — 左は油圧ユニットの1系統の回路。右はABS作動中の車輪速度とブレーキ圧の時間変化の模式。下は乗用車の油圧EBSと大型車の空気圧EBSの違い

ESC (横滑り防止装置) は、これに「運転者が踏んでいなくても装置が自ら油圧を作り、1輪だけを止める」機能を足す。カーブで車体が外へ膨らみそうなときに内側の後輪だけを制動して回頭を助け、内側へ巻き込みそうなときは外側の前輪を制動する。そのために主シリンダーと切り離す遮断弁と、ポンプの吸い込み側を切り替える切替弁が系統ごとに1本ずつ加わり、ABS単体で8本だった電磁弁はESCで12本になる。電磁弁は1本ずつブロックの穴に圧入され、弁の座面はブロック側の穴の内面がそのまま受ける。穴の径、真円度、面粗さが弁の密封と応答を決めるため、ブロックの加工精度がそのまま装置の品質になる。米国のABS油圧ユニットに関する特許 (US5439279) は、ユニットを「アルミニウムのブロックにABS機能に必要なすべての構成部品を組み込んだもの」と定義し、ボッシュの加工方法の特許 (US10625722) はブロックを「アルミニウムまたはアルミニウム合金の押出材を切断して作る」と記す。この部品が押出材から切り出した直方体で、上面と前面と側面のそれぞれに穴が開いているのは、この構造そのものである。

加工の実際 — 交差する穴を削り、500気圧の水でバリを落とし、全数をカメラで見る

日清紡メカトロニクスは材料をA6061と明記している。A6061はマグネシウムとケイ素を主な添加元素とするアルミニウム合金で、熱処理で強度を上げられ、耐食性と切削性の釣り合いがよい。押出材を使うのは、鋳物と違って内部に巣 (空洞) がなく、油圧をかけたときの漏れの原因になりにくいからである。ブロックには電磁弁用の段付き穴、配管接続口のねじ穴、ポンプ室の横穴、圧力センサーの穴が互いに交差して開く。工具大手の技術資料によれば、この種の油圧制御ブロックでは弁の穴の径公差が±0.008mm、位置公差が±0.015mm、円筒度が0.005mm以下、面粗さがRa0.4〜0.8μmという水準が求められ、1個のブロックに200を超える穴あけ・ねじ立て・中ぐりの加工が入る。

問題は加工そのものより、その後にある。穴が交差する部分にはバリが残り、剥がれて油路に入れば弁の密封を壊す。同社は500barの高圧洗浄機でバリを除去し、バリの大きさを規格で保証する。500barは約500気圧で、家庭用の高圧洗浄機の数倍にあたる水圧である。洗浄後は自社開発の画像検査装置で穴径と外観を全数検査し、DMC刻印 (打刻またはレーザー) で1個ごとの追跡番号を付け、清浄度を規格で保証して出荷する。清浄度は自動車業界のISO 16232やVDA 19で定められた残留異物の測定法で管理され、ABSユニットは燃料噴射装置と並んで最も厳しい部類に入る。同社の工程頁は、EBS用バルブブロックの生産ラインについて「マシニングセンター、高圧洗浄機等の設備を自動搬送機 (ローダー) で繋ぎ」、投入から排出まで無人化したと記す。弁やポンプ、ECUの組み付けはブロックを受け取った顧客の側で行うため、日清紡が売っているのは「穴の開いたアルミの塊」であり、その価値は穴の精度と清潔さにある。

保有設備の公開情報が事業の重心を示す。中国・揚州の日清紡科恒精密機械にはマシニングセンターが381台、インド・グルグラムの拠点に56台あるのに対し、国内の美合工機事業所 (愛知県岡崎市) は10台とNC旋盤22台、日清紡精機広島は7台である。三次元測定機も揚州8台、グルグラム4台、国内は各2台にとどまる。バルブブロックの量産は国内ではなく、中国とインドで行われている。

誰に納めているか — コンチネンタルとの26年、そして相手方がAUMOVIOに変わった

日清紡とコンチネンタルの関係は2000年に始まる。両社はこの年、ABS製造の合弁 (Continental Automotive Corporation) を日本に設立した。2013年11月6日、日清紡ホールディングスは江蘇省揚州市にバルブブロックの合弁「日清紡大陸精密機械 (揚州)」を設立すると発表した。資本金は2億元 (当時の為替で約32億円)、出資比率は日清紡70%、コンチネンタルの中国法人30%で、2015年1月の稼働、2020年に売上40億〜50億円を目標に置いた。発表資料は、2012年に中国で生産された乗用車約1,500万台のうちEBS (ABS/ESC) 搭載率が75%で、2020年には生産が8割増え搭載率が80%を超えるという見通しを根拠に挙げている。10年後の2023年6月2日、インド北部ハリヤナ州マネサールで第2の合弁工場が開所した。ジェトロによれば出資は日清紡60%、コンチネンタルのオランダ法人40%で、四輪と二輪向けのEBS用バルブブロックを生産し、同年10月に本格稼働した。インドは2019年4月から125cc超の二輪車にABSを義務づけ、商用車にもABSを義務づけており、日清紡の首脳は開所式で「市場の成長に伴いEBSの需要拡大が見込まれる」と述べた。

日本語の報道でほとんど扱われていないのは、この合弁の相手方が2025年に変わったことである。コンチネンタルは車載事業を分離し、2025年9月18日にAUMOVIO SEとしてフランクフルト証券取引所に上場させた。売上約185億ユーロ、従業員約8万2,000人の会社で、ブレーキ事業はここに移った。Bloombergの企業情報によれば、揚州の合弁は社名を「Nisshinbo-Comprehensive Precision Machining (Yangzhou)」に改め、30%の株主は「Aumovio Investment (China)」になっている。日清紡メカトロニクスの製品頁が揚州拠点を「日清紡科恒精密機械」と表記しているのはこの改名の反映である。AUMOVIOは上場後にベルギーのブレーキ工場をDumareyグループへ売却するなど事業の組み替えを進めており、合弁の相手方がどの工場でどの世代の油圧ユニットを組むかは、日清紡の受注に直結する。

決算短信の記述は、その受注の中身が変わりつつあることを示す。2025年12月期の精密機器事業は「自動車用EBS部品が中国拠点で受注減となったものの、インド拠点の出荷増等により増収・増益」だった。2026年12月期第1四半期には「中国自動車市場のEV普及に伴う次世代向け製品の受注増」、第2四半期には「中国拠点の次世代用バルブブロックの受注が増加し、インド拠点も四輪向けバルブブロックの受注が増加」と続く。EV向けの「次世代用バルブブロック」が何を指すかは開示されていない。ただしAUMOVIO (旧コンチネンタル) は、倍力装置と主シリンダーとABS/ESCの油圧ユニットを1つの筐体にまとめた統合型ブレーキ (MK C1、MK C2) をEV向けに展開しており、この方式ではブロックがより大きく、穴の数も従来のABS/ESC単体より増える。ブロック1個あたりの加工工数と単価が上がる方向で、受注が「台数」ではなく「1台あたりの金額」で伸びる構図にあたる。

数字で見る精密機器事業 — 利益率は3.0%から5.4%へ、2026年上期は7.1%

日清紡ホールディングスが2026年2月10日に公表した2025年12月期の決算短信によれば、精密機器セグメントの外部売上高は554億4,200万円 (前期比2.4%増)、セグメント利益は29億7,600万円 (同81.3%増) で、利益率は前期の3.0%から5.4%へ上がった。減価償却費は47億6,100万円、有形・無形固定資産の増加額は31億9,700万円で、償却が投資を16億円上回る。セグメント資産は865億3,000万円から803億9,600万円へ61億円減った。投資を絞り、資産を圧縮しながら利益率を上げた1年である(本稿の図3)。

精密機器事業の数字と合弁の系譜
精密機器事業の数字と合弁の系譜

図3 — 上は精密機器セグメントの売上・利益・利益率の推移。中はバルブブロック事業の系譜。下は2025年12月期の他セグメントとの比較

2026年に入って利益率はさらに上がった。第1四半期は売上135億9,800万円 (前年同期比3.1%減) でセグメント利益9億2,200万円 (同43.5%増)、上期累計では売上274億8,400万円 (同1.3%増) で利益19億5,000万円 (同56.0%増)、利益率7.1%である。同社が期初に置いた2026年12月期の精密機器の計画は売上515億円、営業利益17億円で、上期の実績19億5,000万円はすでに通期計画を超えている。会社は8月6日の中間決算でも通期予想を据え置いたため、計画どおりなら下期は営業赤字になる計算で、そうでなければ第3四半期に上方修正が要る。日清紡ホールディングス全体の2026年12月期予想は売上5,110億円、営業利益210億円 (前期比20.5%減) で、減益の理由は不動産の分譲縮小とマイクロデバイスの構造改革費用である。精密機器はこの会社の売上の11%、報告セグメント利益の9.5%を占めるにすぎず、業績予想の中で最も保守的に置かれた部分にあたる。

金融庁のEDINETに2026年3月26日に提出された第183期の有価証券報告書 (書類番号S100XT05) は、会社全体の縮小を数字で示す。連結従業員は2023年末の19,416人から2024年末18,630人、2025年末17,811人へ2年で1,605人減り、連結の設備投資は2023年の312億6,600万円から2024年278億800万円、2025年199億2,500万円へ落ちた。TMDフリクションの売却で2023年12月期の純損益は200億4,500万円の赤字になり、2024年は102億7,700万円、2025年は139億2,000万円の黒字へ戻った。提出会社 (持株会社) の従業員の平均年間給与は2023年の643万3,200円から2025年に758万7,846円へ上がり、平均年齢43.2歳、平均勤続17.7年である。8月7日提出の半期報告書 (S100YU8H) は、2026年上期の連結営業利益302億7,400万円、中間純利益215億9,000万円を記す。精密機器の利益率上昇は、この縮小と選別の中で起きている。

同じ「マテリアル」の括りにあるブレーキ事業は、摩擦材が主力で、売上577億9,500万円、利益33億8,500万円 (前期比45.1%増) だった。この事業は2023年11月に欧州子会社のTMDフリクショングループ (2022年売上751百万ユーロ、営業赤字42百万ユーロ) をドイツのファンドAEQUITAへ売却し、約380億円の特別損失を計上して、生産拠点を日本・中国とアジア・米国に絞った経緯がある。日清紡ホールディングスは決算短信の「今後の見通し」で、無線・通信事業を2030年に売上3,000億円、営業利益300億円へ育てエレクトロニクスを売上の8割以上にする方針を掲げ、繊維・化学・摩擦材などの「マテリアル事業への対処」として電子向けの機能性素材へ軸足を移すと明記した。精密機器はこの文書で成長投資の対象として名指しされていない。投資が償却を下回る数字は、その位置づけと符合する。

Ecoクロス — 羽根を半分に薄くして、なぜ壊れないのか

成形品事業の主力は家庭用エアコンの室内機に入る横断流 (クロスフロー) ファンである。円筒の外周に湾曲した羽根を30枚前後並べた構造で、空気は円筒を横切って羽根を2度通り、回転軸方向に長いため風を幅広く均一に送れる。日清紡メカトロニクスは標準外径φ60、φ90、φ98.5、φ107.5、φ110の5種類を持ち、φ30からφ130、長さ1,000mm超まで対応すると公開している。用途は室内機のほか、事務機器の冷却、加湿器、自動車の空調である(本稿の図4)。

Ecoクロスの物理と国内エアコン生産
Ecoクロスの物理と国内エアコン生産

図4 — 左は横断流ファンの断面と気流。右は同社が公開する効果とその物理。下は経済産業省の鉱工業指数によるセパレート形エアコンの生産

Ecoクロスは、この羽根の厚みを従来品の約半分にした製品である。同社の製品頁は、羽根を極限まで薄くすると成形が非常に難しくなると認めた上で、開発段階から量産までの知見の蓄積で安定成形を実現したと記す。効果は3つ公開されている。樹脂原料の使用量は従来比で約30%減、消費電力は5%減、クリープ変化量は30%減である。消費電力の減少は物理的に説明できる。ファンを回すモーターの軸トルクは、慣性モーメントに角加速度を掛けた項と空気抵抗の項の和で決まり、羽根が軽くなれば慣性モーメントが下がって起動と回転変動のトルクが減る。クリープは、時間の経過とともに樹脂が徐々に変形する現象で、横断流ファンでは変形が回転の不釣り合い (アンバランス) として現れ、振動と騒音になる。薄くすればクリープに弱くなるはずだが、同社は射出成形の際に樹脂中のガラス繊維の配向を整えて弾性率を上げ、変形量を3割減らした。射出成形では溶けた樹脂が金型の中を流れる向きにガラス繊維が並ぶため、ゲートの位置と流路の設計で繊維の向きを制御できる。薄い羽根は流路も薄く、樹脂が固まる前に金型の隅まで届かせる必要があり、ここが「成形が非常に難しい」と同社が言う理由にあたる。

需要側は静かである。経済産業省の鉱工業指数 (2020年を100とする) で、セパレート形エアコンの生産は2018年の103.6から2025年に105.3と、7年でほぼ横ばいである。四半期で見ると2025年4〜6月期が130.0、10〜12月期が78.1と振れ幅が大きく、ファンの受注は年間の平均ではなく夏前の山で決まる。日清紡ホールディングスの2026年上期の決算短信は、空調関連製品について「日本やタイ、中国市場での市況低迷等の影響により減収・減益」と記した。同じ期に自動車用EBS部品が増収・増益だったため、精密機器セグメント全体では増益になったが、その中身は「金属が伸び、樹脂が縮んだ」である。

需要の外側 — 国内の生産指数、米国の物価、米国上場企業の決算

ブロックとファンの需要がどこで決まるかを、公開の統計で置く(本稿の図5)。

需要側の一次データ
需要側の一次データ

図5 — 上は経済産業省の生産指数、中は米連邦準備銀行の物価と販売、下は米証券取引委員会に提出された関連企業の決算

国内の生産指数 (2020年=100) は、2025年暦年で普通トラックが122.2、小型トラックが88.9、軽トラックが94.8、駆動伝導・操縦装置部品が99.9、アルミニウム押出製品が96.7である。ブレーキを含む部品群は横ばいで、ブロックの素材側であるアルミ押出は2018年の118.7から2割落ちた。日清紡のバルブブロックが国内ではなく中国とインドで作られている以上、国内統計は素材と競合の温度を示すにとどまる。米国側では、米労働省の生産者物価指数のうち自動車ブレーキ装置製造 (FREDの系列PCU336340336340) が2019年1月の111.1から2026年7月に146.1へ31.5%上がり、空調・冷凍・温風暖房機器製造 (PCU333415333415) は同じ期間に200.5から324.9へ62.0%上がった。大型トラックの小売販売 (HTRUCKSSAAR、年率換算) は53.4万台から43.7万台へ18.2%減っている。米証券取引委員会のXBRLデータでは、大型トラックのPACCARが2026年上期に売上143億2,300万ドル (前年同期比4.2%減)、トラック用動力のCumminsが178億5,500万ドル (同6.2%増)、空調のCarrier Globalが2026年1〜3月期に53億4,100万ドル (同2.4%増) である。空気圧EBSの祖であるWABCOは2019年12月期の売上34億2,100万ドルを最後に、ZFの一部として非開示になった。

規制が需要の底を作る。日本では乗用車のESCが2012年10月の新型車から義務で、大型車の衝突被害軽減ブレーキ (AEBS) は国連規則UNR131の改正を受けて2025年9月の新型車、2028年9月の継続生産車に強化された要件が適用される。インドは2019年4月から125cc超の二輪車にABSを義務づけ、125cc以下への拡大は2026年1月の予定が延期の見込みと現地で報じられている。中国は合弁発表時の2012年時点で乗用車1,500万台にEBS搭載率75%で、2026年上期の決算短信が示すように、需要はEV化に伴う次世代ブロックへ移っている。ブロックの需要は自動車の台数ではなく、1台に何本の弁を積むかと、どの規制がいつ効くかで決まる。

投資家が見るべき数字

日清紡ホールディングスの株価を動かすのは無線・通信事業 (2025年12月期 売上2,518億3,700万円、利益176億6,800万円) であり、精密機器は売上の11%にすぎない。それでも本稿の数字から追える点は3つある。第1に、精密機器の通期計画17億円に対して上期実績が19億5,000万円で、第3四半期 (11月上旬公表) の修正の有無が最初の確認点になる。第2に、合弁の相手方AUMOVIOのブレーキ事業の再編で、統合型ブレーキのどの世代がどの工場で組まれるかが、揚州とマネサールの受注を決める。第3に、空調関連の減収が続く中で、Ecoクロスのような単価の高い製品が市況の底で採用を広げられるかである。需要側の日本企業では、空調のダイキン工業 (2026年3月期 売上3兆1,091億円、営業利益4,016億円、研究開発費1,507億円) と商用車のいすゞ自動車 (売上3兆4,046億円、営業利益2,294億円) がEDINETの有価証券報告書で追え、両社の設備投資 (ダイキン3,000億円、いすゞ1,512億円) が室内機と大型車の生産台数を通じてファンとブレーキ部品の需要を決める。

図1の部品に戻る。日清紡が売っているのは、弁もポンプもECUも付いていない、穴の開いたアルミの塊である。その穴の径が0.01mm狂えば弁は漏れ、穴の中に0.1mmのバリが残れば油路は詰まる。売上554億円の事業の利益率が3%から7%へ動いた理由は、この穴を中国とインドでどれだけ速く、清潔に、無人で開けられるかにある。