米運輸省がハンドルもペダルもない専用設計車に初の有償運行を認めた。一部解除された8基準の中身、ほとんど報じられていない台数の二重の蓋、車両の譲渡を全寿命で禁じた条件から、この事業の正体を判定する。

米国の道路を走る車には、運転者が居ることを前提に書かれた決まりが数多くある。窓の曇りを取る装置、窓を拭く装置、後ろを映す鏡、日除け。どれも人が前を向いて座り、自分の目で状況を判断するという想定の上に積み上げられてきた。運転席そのものを設計から消した車は、この想定に真正面からぶつかる。守るべき利益が消えているのに、条文だけが残るからだ。

2026年7月28日、米運輸省道路交通安全局はその衝突に初めて商業的な答えを出した。Zooxの専用設計車に対し、連邦自動車安全基準8項目の一部を2028年7月31日まで外す一時免除を認めた。免除番号2026-01、案件番号NHTSA-2025-0523。同種の免除が実証目的で出た例はあるが、乗客から運賃を取ってよいとしたのは初めてになる。報道は「ハンドルもペダルもない車が初めて商用承認された」という一行に要約したが、44ページの決定文には、その一行に収まらない条件が並んでいる。本稿は条文の側から順に読み、そこから技術と帳簿の中身へ降りていく。あわせて、この会社が人工知能の会社なのか電気自動車の会社なのかという問いに、条文が既に答えを出していることを示す。

免除されたのは8基準の「運転者を前提にした条項」だけ

対象になったのは第103号 (窓の曇り取り)、第104号 (窓拭きと洗浄)、第108号 (灯火と反射器)、第111号 (後方視界)、第135号 (制動装置)、第201号 (車内衝突時の乗員保護)、第205号 (窓材)、第208号 (乗員の衝突保護) の8つである。ここで正確に読むべきは、免除されたのが基準の全部ではなく、条文中の特定の要求に限られている点だ。決定文の表題からして「各種要求の一部からの一時免除」となっている。

外れたのは、人が運転席から前を見ることを前提にした要求である。方向指示器を手で戻す操作部、前照灯の切り替えを運転者の手足で操作できる位置に置く要求、駐車制動を手か足で操作する要求、日除け、後写鏡、後方映像の表示装置。いずれも人間の運転者を助けるための装備であり、その人間が居ない車では、規制が守ろうとした利益そのものが存在しない。当局はこの論理を認めた。

一方で、衝突安全そのものが緩められたわけではない。決定文は整備用の開口部に使う窓材について、通常区分の要求に加えて上位区分の試験3項目に合格することを条件として課している。乗員保護の条項も、運転者用の装備が無いことに起因する部分だけが対象で、乗る人を守る性能は同等以上であることが付与の前提になっている。免除の法的根拠は、実証や研究のための条項ではなく、「基準に適合しようとすると、適合車と同等以上の安全水準を持つ車を商業的に配備できなくなる」という条項である。つまり当局は、この車が既存の適合車と同等以上に安全だという判断を示したうえで免除を出している。

免除されたのは基準の全部ではなく、運転者を前提にした条項だけ
免除されたのは基準の全部ではなく、運転者を前提にした条項だけ

2,500台の上に、もう1枚の蓋がある

見出しになった数字は「12か月あたり2,500台」である。これは法律が定める上限そのもので、同等の安全水準を理由に出す免除では超えられない。有効期限は2年なので、累計の上限は5,000台になる。

ここに、日本語でも英語でもほとんど報じられていない条項がある。決定文は台数について、2,500台まで製造して市場に投入してよいと述べたうえで、「ただし同時に運行してよい車両の総数は、初回の運行許可で認められた最大台数に限られる」と続けている。運行許可は免除本体とは別に発行される文書で、当局が技術の成熟に応じて更新・拡大するとされる。運行区域や路線ごとに複数の許可が同時に存在しうるとも書かれている。

つまり台数の蓋は二重になっている。上の蓋は法律が決めた2,500台で動かない。下の蓋は当局が随時書き換える運行許可で、こちらが実際に走る台数を決める。免除が出た時点で何台が認められたのかは決定文に書かれておらず、運行許可は案件番号NHTSA-2025-0523の一件書類として公開される。展開の速度を追う投資家にとって、監視すべき文書は免除ではなく、この許可の更新履歴のほうになる。

規制側は同時に別の手も打っている。2026年6月26日、当局は第135号の制動基準そのものを自動運転専用車に合わせて改正する規則案を公示した。手動の制動操作装置を求める要求を外し、停止距離や表示灯の定義を書き換える内容で、意見公募は7月27日に締め切られた。これが成立すれば、制動基準について免除を取る必要が消え、免除に付随する台数上限も同時に消える。免除は目的地ではなく、規則改正が間に合うまでの仮設の橋という位置づけになる。

売ってはならない、という一文が決めた事業の形

条件の中で、事業の構造を最も強く縛っているのは台数ではない。決定文の全文の付与条件の項に、次の一文がある。Zooxは免除下の全車両について、車両の全寿命にわたり運行の支配権を保持しなければならない。売却も、占有の移転も、権原の移転も、使用許諾もしてはならず、当局が認めた条件以外での公道運行もしてはならない。

この一文により、免除下の車両は商品として市場に出ることが法的に不可能になる。所有権を移さない以上、販売収入は永久に立たない。リースも貸与も禁じられているので、車両を資産として第三者に持たせて資本効率を上げる手も使えない。残る収入は、車両を保有したまま提供する役務、すなわち運賃だけである。

条件はさらに、要員の置き場所にも及ぶ。遠隔支援に関わる要員は、通信の遅延やゆらぎが安全な制御を妨げない場所に置かねばならず、その配置は自社の安全審査の手順で検証する義務を負う。加えて、物理的な管轄がどこであれ責任の連鎖が途切れないこと、すべての遠隔要員が米国の法執行機関と規制当局に対して到達可能かつ法的に責任を負える状態にあることを、Zoox自身が確認しなければならない。遠隔運用の海外移管を、安全条件と法的責任の両面から実質的に封じた条項である。

運行区域については、市・郡・州ごとの地図を自社サイトで公開し、実質的な変更から14日以内に更新する義務が課された。車台番号ごとの稼働状況と、遠隔支援拠点の所在地は年次で当局へ報告する。免除を受ける代わりに、通常の自動車メーカーが負わない透明性の義務を継続的に負う設計になっている。

人工知能の会社か、電気自動車の会社か

この問いは、三つの物差しのどれで測るかによって答えが変わる。

法の上の身分で測ると、Zooxは自動車の製造事業者である。当局は車両を乗用車に分類し、決定文の中では一貫して「Zoox社のセダン」と呼んでいる。総重量定格3,000キログラム、最高時速75マイル、乗車定員4人という諸元が明記され、連邦自動車安全基準への適合義務を負い、不具合が見つかれば車台番号単位で回収を行う。2026年7月の是正措置も、自動車の回収制度の枠組みで処理された。

代金の出所で測ると、旅客運送事業である。車両の販売収入はゼロであり、しかもそれは経営判断ではなく免除の条件によって固定されている。2025年9月10日にラスベガスで一般公開してから2026年7月まで、運賃を課す許可が無かったため乗車は無料だった。10か月にわたり、売上の欄に何も書けない状態で走り続けていたことになる。免除が変えたのは、この欄に初めて数字が入りうるという一点である。

価値の源泉で測ると、人工知能の企業になる。電池も駆動系も車体も、判断を運ぶための土台として設計されており、走行性能や航続距離で競う商品ではない。判断が止まれば商品そのものが消える。

三つのうち二つは免除の条文が確定させたもので、経営判断では動かせない。車両を売る事業へ転じるには、免除ではなく基準そのものの改正を待つ必要がある。「電気自動車の会社か」という問いへの答えは、当面のあいだ規制によって否定側に固定されている。人工知能を外販していない以上、一般に言う人工知能企業の定義にも収まらない。実態に最も近い記述は、自ら設計した車体に自ら開発した判断を載せ、移動という役務だけを切り売りする垂直統合の運送事業者、というものになる。

同じ会社が、物差しを変えると別の業種になる
同じ会社が、物差しを変えると別の業種になる

前後対称の車体が、計画から消した動作

車両の外形は全長約3.63メートル、全高約1.94メートル。前後が同一形状で、四輪操舵と双方向走行を備える。この設計が効くのは見た目ではなく、経路計画の計算量である。

一般の車は前進を基本とし、方向を変えるには切り返しという別種の動作を挟む。切り返しは、周囲の動きを予測しながら後退と前進を組み合わせる工程で、狭い市街地では失敗の原因になりやすい。前後どちらへも同じ性能で走れる車体では、この動作そのものを計画の候補から外せる。行き止まりで向きを変える必要がなく、路肩から車列へ戻る動きも単純になる。物理的な設計変更で、探索すべき状態空間を最初から削っている。

センサーを車体の四隅に置く配置も、この対称性から来ている。前方が入れ替わる車体では、前向きに集中した配置が成立しない。四隅に置けば、どちらを前と呼んでも同じ視野が確保できる。搭載されるのは測距装置、電波探知機、可視光カメラ、長波赤外線カメラ、集音器で、重なり合う360度の視野が100メートル超まで届く。電波は茂みのような物体を透過するため、光学系が見失った自転車を捉え直せる。感覚器の種類を増やす理由は冗長性の確保だけではなく、それぞれが別の物理法則で世界を測っている点にある。

消せなかった物理もある。電池は66.5キロワット時の組電池を座席列の下に2つ、計133キロワット時を積む。連続稼働は最大16時間とされるが、これは走り続ける時間ではなく、充電の待ち時間が稼働率に直結することを意味する。運賃が距離で入る事業では、充電に費やす時間はそのまま売上の空白になる。

運転席の代わりに置かれた三段の計算

自動運転の中身を、学術的な区分で見ておく。Zooxの系は知覚、予測、計画という3つの処理を順に並べた構成をとる。近年は入力画像から操作量までを1つの学習器で結ぶ端から端までの方式も現れているが、Zooxは段を分ける方式を維持している。段を分ける利点は、どの段で誤ったかを特定でき、段ごとに検証と是正ができる点にある。回収の制度に組み込まれた事業では、この追跡可能性が要件になる。

知覚は感覚器の生の出力から、交通参加者の種別、位置、速度、向きを取り出す。ここまでは他社と大きく変わらない。

予測の設計に、この会社の特徴が出る。場面はそのまま画像として扱われるのではなく、自車を中心に据えた俯瞰の格子に描き直される。この格子は色の3層ではなく、約60の層を持つ。層には幾何情報だけでなく意味情報が入る。歩行者が携帯端末を持っているかどうかを1と0で区別する層がある、と開発者は説明している。携帯端末を見ている歩行者は、そうでない歩行者と別の確率で車道へ踏み出す。この差を模型に教えるために、入力の段階で層を1枚足しているわけだ。

多層の格子は畳み込みニューラルネットワークが読む。これに加えてグラフニューラルネットワークが、交通参加者と静止物を節点として結び、互いに影響を及ぼし合う関係を明示的に符号化する。前を走る車が減速すれば後続も減速する、という相互作用は、格子を独立に読むだけでは表せない。節点間で情報を伝える構造にすることで、関係そのものが学習の対象になる。

出力は単一の軌跡ではなく、確率分布である。範囲は最大8秒先まで、0.1秒ごとに再計算される。8秒という長さは、交差点の通過や車線変更の判断に必要な時間の目安として選ばれている。

この段の学習には、人手による注釈が要らない。走行記録の中で交通参加者が実際にどう動いたかが、そのまま正解になるからだ。画像に枠を描いて名前を付ける作業を必要とする知覚の学習と、この点で原価構造が異なる。学習データは、トヨタのハイランダーを改造し同一の感覚器構成を載せた車両が、サンフランシスコ、シアトル、ラスベガスで集めた実走行記録である。専用車が量産に入る前から、感覚器の構成だけを揃えた別の車体でデータを積む設計になっていた。

計画は、重み付きの予測を受け取って経路と速度を決める。開発側が次の課題として挙げるのは、計画から予測への逆向きの働きかけである。自車がどう動くかによって相手の反応が変わる以上、両者を独立に解くのは近似でしかない。相互作用を含めて解く方向が、この分野の共通の宿題になっている。

運転席の代わりに置かれている三段の計算
運転席の代わりに置かれている三段の計算

自分の位置をセンチメートルで知り、地図が古びたことを知る

三段の計算は、自車の位置が正確に分かっていることを前提にしている。この前提を支える仕組みが、校正と自己位置推定と地図作成を同時に回す系である。

校正は感覚器どうしの位置関係を合わせる作業で、通常は専用の標的を置いた施設で行う。Zooxはこれを外部の標的なしで行う方式をとった。建物の縁や木の幹といった自然物の輪郭を色カメラの画像から勾配として自動検出し、測距装置が返す奥行きの縁と重ね合わせる。振動や熱で感覚器の取り付け位置は少しずつずれるため、継続的に合わせ直さなければ像がぼやける。運行を止めずに校正を続けられることが、稼働率の条件になる。

自己位置推定は、衛星測位、加速度計、車輪速、角速度計を統合し、地図との照合を加えて解く。到達しているのはセンチメートル級の位置精度と1度未満の方位精度で、毎秒数百回更新される。都市部では衛星の電波が建物に遮られるため、地図との照合が主役になる。

地図の側には二層ある。3次元の点群地図と、その上に載る意味地図である。点群地図を作る際は、まず機械学習で人や車といった一時的な物体を取り除いてから、重なり合う点群を統合する。意味地図には制限速度、信号機の位置、一方通行、停止禁止区画といった、見ただけでは分からない規則が入る。

運用上で最も効いているのは、地図の正しさを疑う仕組みのほうだ。監視部が、実際の道路環境と意味地図の食い違いを検出する。車線が引き直された場合に古い地図を信じ続ければ、対向車線へ進入する事故になりうる。差分が検出されると、その区間は新たな計測の対象として記録され、地図が更新される。地図に依存する方式の弱点は地図の陳腐化にあり、その弱点を専用の監視で塞ぐ設計になっている。

遠隔支援を「運転」と呼ばないために引かれた線

無人運行の実態を評価するとき、遠隔の人間がどこまで関与しているかは決定的な論点になる。人型ロボットの分野でも、宣伝映像の複雑な動作が遠隔操作だったと後から判明する事例が続いており、この論点は別稿で扱った遠隔操作と自律の境界と同じ構造を持つ。

決定文は、Zoox側の説明として2種類の人間の関与を記録している。1つはZooxの支援班による手持ち操作器での操作で、直接かつ常時の目視の範囲内、低速に限られる。もう1つは遠隔の助言役で、車両の周囲状況を3次元で把握しながら助言を与える。ここで条文が引いた線は明快で、助言役は車両の運動を直接制御しないと明記されている。いつ、どのように助言を実行するかを決めるのは車両側の自動運転システムである。

この線引きは技術的な体裁ではなく、責任の所在を決める。もし遠隔の人間が運動を直接制御しているなら、それは遠隔運転であって自動運転ではなく、免除の前提そのものが崩れる。逆に助言に留まる限り、車両が最終判断者であり続ける。当局が要員の所在地と法的到達可能性を条件に書き込んだのは、この線が実務上守られていることを事後に検証する必要があるからだ。

濃い煙の中で止まれなかった105台

免除の3週間前、Zooxは稼働中の105台全数を対象に無線経由の是正措置を実施した。2026年6月20日、ラスベガスで無人の車両が、消防が対応中の現場に進入した事象が発端である。現場は円錐標識や物理的な仕切りで囲われておらず、濃い煙が視界を覆っていた。車両は現場に入ってから強く制動し、向きを変えようとして停止した。

失敗の性質を正確に押さえておく。物体を見誤ったのではない。煙という、光学系にとって不透明でありながら物理的には通過可能な媒質を、進入してはならない状況の指標として解釈できなかった。人間の運転者であれば、煙そのものを見て緊急対応を推測し、標識が無くても速度を落とす。地図にも意味地図にも書かれていない、その場限りの状況を読む能力が問われた場面だった。

是正は無線経由の更新で行われ、緊急現場の認識と低視界での挙動が改められた。2025年3月にも、予期しない制動が原因で258台を対象とする是正が行われている。回収の制度が自動運転の是正にそのまま使われ、更新が無線で完結する点は、従来の自動車の回収と決定的に異なる。部品を交換するために工場へ運ぶ必要がなく、是正の速度は上がる。同時に、1回の更新が全車両の挙動を一斉に変えるという性質も持つ。免除の条件が、安全に関わる不具合を当局が満足に是正できないと判断した場合を免除取り消しの根拠として明記しているのは、この一斉性を意識したものだ。

1台あたりの帳簿と、黒字までの距離

事業として見るときに、追うべき数字は3つに絞られる。売上の立つ1マイルあたりの原価、車両1台に必要な遠隔要員の数、そして1台が1日に運ぶ有償乗車の回数である。

原価の内訳は、成熟した運用を想定した業界推計で1マイルあたり0.30ドルから0.50ドルとされる。車両の減価償却が0.08から0.12ドル、電力が0.03から0.05ドル、整備が0.03から0.05ドル、保険が0.05から0.08ドル、遠隔監視と運行要員が0.05から0.10ドル、ソフトウェアが0.03から0.05ドル。この中で台数に比例して増えるのは遠隔要員の欄だけで、他は台数が増えるほど1台あたりが下がる。1人の要員が何台を見られるかという比率が、規模の経済が働くか否かを決める。

売上の側は、先行する改造勢の実測が参照点になる。約3,000台が週50万回超の有償乗車を運び、週あたりの無人走行距離は約400万マイル。1台に割り戻すと1日約190マイル、乗車は1日約24回になる。年換算売上は約3.5億ドル。1回あたりの平均単価はおよそ13ドル台に収まる計算だ。1マイルあたりの運賃は1.36ドルから1.43ドルの水準にある。

この数字と原価推計を並べると、1マイルあたりの粗利は理屈の上では1ドル近く残る。ただし推計は成熟時の値であり、遠隔要員の比率も保険料率も、実績が積まれるまでは仮定でしかない。

専用設計側の帳簿は、まだ最初の行が始まったところにある。2020年に約12億ドルで買収されて以降、車両の販売収入はゼロで、運賃も2026年7月まで無料だった。稼働は105台規模で、量産はヘイワードの2万平方メートルの工場でこれから立ち上がる。計画では週100台まで引き上げ、設計上の能力は年1万台とされる。ただし免除の台数上限が12か月2,500台である以上、工場の能力が先に上限へ当たる構造になっている。

1台の無人車が1日に稼ぐ額と、そこから引かれる額
1台の無人車が1日に稼ぐ額と、そこから引かれる額

改造で始めた側との差は、どこで開き、どこで縮んだか

既存車を改造する道と、運転席を消して設計する道は、規制と原価で正反対の性質を持つ。

改造の道では、ハンドルもペダルも残るので基準にそのまま適合する。免除の申請が要らず、台数の上限も付かない。代わりに、誰も使わない運転席と鏡と窓拭きを積み続け、座席の向きも人が運転する前提のまま残る。車両の原価は量産車の上に機材を積む形になり、1台1,000万円から1,500万円級になりやすい。

専用設計の道では、運転者を前提にした条項に適合できないため、免除か基準改正を通さないと有償運行ができない。免除を選べば台数の上限が付く。代わりに、要らない部材と工程を最初から積まず、車体そのものを商品設計に組み込める。対面着座により同じ全長で4人を無理なく収め、四輪操舵で切り返しを消せるのは、この道でしか得られない。

2026年7月に反転したのは、「有償にできない」という一点である。この不利が消えるまで、専用設計側は10か月にわたり無料で乗せ続けるほかなかった。反転していないのは台数の上限で、改造の道は上限を持たない。同じ規模へ届くには、運行許可の更新を積み重ねるか、制動基準の改正が成立するのを待つ必要が残る。

配車の入口では、両者の差が縮む動きも出ている。2026年3月11日に発表された複数年の提携により、Zooxの車両はUberのアプリからも配車される。ラスベガスで2026年夏、ロサンゼルスで2027年半ばの計画で、自社アプリと並行して運用される。専用設計の車両にとって初めての外部基盤との接続であり、需要の獲得を自社アプリの普及速度から切り離す手になる。

改造で始めるか、運転席を消して始めるか
改造で始めるか、運転席を消して始めるか

30都市とゼロ、そして小糸が凍結した先に残したもの

世界では30都市で商用のロボタクシーが走っている。日本はゼロである。この差の内訳を、技術の遅れだけで説明すると誤る。

制度の側は、部分的には整っている。2023年4月施行の改正道路交通法で「特定自動運行」の許可制度が成立し、運転者のいない運行は制度上可能になった。2026年5月時点で全国8か所が定常運行または継続実証の段階にある。東京都内では7区で走行データの収集が続き、日産自動車英国の自動運転企業との協業で2026年後半に都内での試験運行を計画する。

欠けているのは、ハンドルを持たない専用設計車を有償の旅客運送に使うための通路である。米国では、基準の一部を期限付きで外す枠組みが1966年の法律に元から備わっていた。今回はその枠組みが、実証ではなく商用の目的で初めて使われた事例になる。日本の保安基準には、これに相当する商用の期限付き免除を運用した実績がない。技術の議論の前に、制度の器を用意する段階に留まっている。

日本勢が動かした駒は、この構図を裏側から照らす。小糸製作所 (7276) は2026年5月18日、乗用車向け測距装置の開発を凍結した。乗用車の自動運転市場の立ち上がりが想定より遅いと判断し、ロボタクシーやバスといったインフラ向けへ資源を寄せる方針である。同社は測距装置の新興企業を2025年1月に子会社化し、2030年度に同分野で500億円の売上を掲げていた。その計画を、需要が来る場所の想定ごと組み替えたことになる。

判断の2か月後に、米国で有償運行の扉が開いた。日本国内では立ち上がらないという前提で組んだ賭けが、当面は当たった形になる。もっとも、需要が国外にあるということは、供給側の日本企業にとって顧客が国外にしか居ないということでもある。部品と設備の供給網を握っていても、完成した役務の側に日本の事業者が居なければ、運賃という最も伸びる収入の欄には手が届かない。

自動運転の開発基盤を掲げるティアフォー (593A) は2026年7月22日に東証グロースへ上場した。初値は公開価格を7%下回り、直近の最終赤字は48億円。上場によって開発資金を市場から調達する道は開いたが、有償運行の実績を積む場所が国内に乏しいという条件は変わっていない。米国で免除が出た9日前の出来事である。

世界30都市が有償運行、日本はゼロ
世界30都市が有償運行、日本はゼロ

免除の有効期限は2028年7月31日で、それまでにZooxは基準改正が自社の車を適合させることを期待している、と申請書に書いている。期限までに改正が間に合わなければ、免除の更新を申請するか、運行を止めるかのどちらかになる。運行許可の更新履歴と、制動基準の改正の進み方。この2つの文書が、ハンドルのない車が何台まで増えるかを実際に決めていく。