日本の中東石油依存度は77パーセント、ドイツは6パーセントと大きく異なる。この10倍以上の差は、取引アルゴリズムの定数として価格モデルに埋め込まれる。本稿は、その定数がどのように市場へ影響するかを明らかにする。
石油の中東依存度を43か国で並べると、日本は77パーセント、ドイツは6パーセントである。この10倍を超える開きを作っているのは、国の豊かさでも産油地域からの距離でもない。ただし日本の依存度には、もう一つ95.9パーセントという公表値がある。国際エネルギー機関の資料では77パーセント、資源エネルギー庁の統計では95.9パーセントとなる。
どちらかが古いわけでも、間違っているわけでもない。両方とも2024年の値で、両方とも公表されている。違うのは割り算の分母だけである。
この差は言葉遊びではない。取引アルゴリズムがどちらの数字を定数として抱えるかで、供給途絶が起きたときの発注の重み付けが変わる。そして個人がニュースを読むとき、どちらを念頭に置くかで「日本は代替が利くのか」という判断そのものが変わる。
本稿は、まず二つの分母の違いを確定させる。そのうえで43か国の序列を国際機関の定義で統一して並べ、その数値が価格予測モデルの内部でどう扱われ、報道テキストがどのように数値へ変換され、最終的にどんな注文として市場へ送り出されるのかを順にたどる。
同じ国の依存度が、77パーセントにも95.9パーセントにもなる
国際エネルギー機関の定義は明快である。依存度とは、中東からの輸入を「国内需要と輸出の合計」で割った値を指す。ここでいう石油には、原油だけでなく天然ガス液と精製済みの石油製品が含まれる。この物差しで日本は77パーセントになる。
資源エネルギー庁の統計は別の物差しを使う。輸入した原油の総量のうち、中東産が占める割合である。2024年の値は95.9パーセントで、1960年以降の統計で最も高い。供給元はアラブ首長国連邦とサウジアラビアがそれぞれ約4割を占める。
約19ポイントの差が生まれる理由は二つある。一つは分母に輸出が入ること。日本は石油製品を輸出しているため、分母が膨らんで比率が下がる。もう一つは、中東以外から入る石油製品や天然ガス液が分母に算入されること。国内統計は原油だけを見るため、中東の占める割合がそのまま高く出る。
使い分けの基準もはっきりしている。国際比較には77パーセント側を使う。各国が同じ定義で並ぶため、序列の比較に耐える。取引アルゴリズムが参照するのもこちらである。一方、供給途絶の影響を論じるなら95.9パーセント側が実態に近い。製油所に入る原油が止まる場面では、原油だけを分母に置いたほうが痛みの大きさを正しく映す。
同じ国について複数の数字が流通しているとき、一方が誤りだとは限らない。何を分母に置いたか、そして「石油」に何を含めたかを確かめる。この確認を省くと、77と95.9のどちらかを間違いとして捨ててしまうことになる。
順位表に入る前に、あと三つ押さえておく必要がある。
一つ目は、この一覧が網羅ではなく抜粋だということ。中東から最も多く輸入している国か、依存度が最も高い国を選んで載せている。表にない国の依存度がゼロだという意味ではない。世界全体の順位として引用すると誤りになる。
二つ目は、中東の範囲も定義で決まっていること。バーレーン、イラン、イラク、ヨルダン、クウェート、レバノン、オマーン、カタール、サウジアラビア、シリア、アラブ首長国連邦、イエメンの12か国を指す。北アフリカや中央アジアは含まれない。
三つ目は、出典が単一ではないこと。国際エネルギー機関の統計に、船舶の動きを追う商用データを組み合わせた2024年の値である。
43か国の序列を、同じ物差しで並べる
以下の表はすべて国際機関の定義、つまり77パーセント側の物差しで統一している。
依存度50パーセント以上 ― 代替調達の手段を持たない12か国
| 順位 | 国・地域 | 依存度 | 地域 |
|---|---|---|---|
| 1 | エリトリア | 91% | 東アフリカ |
| 2 | マダガスカル | 89% | 東アフリカ |
| 3 | パキスタン | 78% | 南アジア |
| 4 | 日本 | 77% | 東アジア |
| 5 | ケニア | 77% | 東アフリカ |
| 6 | 台湾 | 63% | 東アジア |
| 7 | 韓国 | 57% | 東アジア |
| 8 | 南アフリカ | 54% | 南部アフリカ |
| 9 | タンザニア | 53% | 東アフリカ |
| 10 | ナミビア | 50% | 南部アフリカ |
| 11 | スリランカ | 50% | 南アジア |
| 12 | タイ | 50% | 東南アジア |
依存度20〜49パーセント ― 調達先を分けつつ中東も外せない15か国
| 順位 | 国・地域 | 依存度 | 地域 |
|---|---|---|---|
| 13 | インド | 45% | 南アジア |
| 14 | リトアニア | 40% | 北欧・バルト |
| 15 | 中国 | 38% | 東アジア |
| 16 | ベトナム | 36% | 東南アジア |
| 17 | アイスランド | 34% | 北欧 |
| 18 | フィリピン | 34% | 東南アジア |
| 19 | ポーランド | 34% | 中欧 |
| 20 | ギリシャ | 33% | 南欧 |
| 21 | スーダン | 31% | 北東アフリカ |
| 22 | エジプト | 30% | 北アフリカ |
| 23 | シンガポール | 28% | 東南アジア |
| 24 | セルビア | 25% | 南東欧 |
| 25 | マレーシア | 22% | 東南アジア |
| 26 | バングラデシュ | 20% | 南アジア |
| 27 | モザンビーク | 20% | 南部アフリカ |
依存度19パーセント以下 ― 自国生産か近隣調達を持つ16か国
| 順位 | 国・地域 | 依存度 | 地域 |
|---|---|---|---|
| 28 | ブルネイ | 19% | 東南アジア |
| 29 | フランス | 18% | 西欧 |
| 30 | イタリア | 16% | 南欧 |
| 31 | スロベニア | 12% | 中欧 |
| 32 | トルコ | 11% | 西アジア |
| 33 | インドネシア | 10% | 東南アジア |
| 34 | オランダ | 10% | 西欧 |
| 35 | オーストリア | 9% | 中欧 |
| 36 | スペイン | 9% | 南欧 |
| 37 | ベルギー | 8% | 西欧 |
| 38 | 英国 | 8% | 西欧 |
| 39 | ドイツ | 6% | 中欧 |
| 40 | ブラジル | 3% | 南米 |
| 41 | 米国 | 3% | 北米 |
| 42 | ナイジェリア | 2% | 西アフリカ |
| 43 | カナダ | 1% | 北米 |
分かれ目は所得水準でも地理的な距離でもない。日本の77パーセントとドイツの6パーセントを分けているのは、産油地域とつながる陸上の管路を持つか、自国に油田を持つかである。ドイツは北海やロシア方面からの管路網に接続でき、米国とカナダは自国生産で賄える。海上輸送しか手段のない国だけが、途絶時に価格を選べない側へ回る。
低位に見える国のうち、シンガポールの28パーセントとオランダの10パーセントには注意が要る。両国とも精製と中継の拠点であり、輸出量が分母に入るため比率が押し下げられている。依存が薄いのではなく、分母が大きい。
中国の38パーセントも同様に読み解く必要がある。原油とコンデンセートの輸入だけを見れば中東の比率は5割を超えるが、ロシアと中央アジアからの陸上輸送が分母全体を押し上げるため、この定義では38パーセントに収まる。管路を持つことが数値に直接効いている。
依存度は「動かない定数」として価格モデルに埋め込まれる
金融機関の取引システムは、この一覧を静的なパラメータとして内部に保持している。価格予測に入る入力は三種類あり、更新の速さがそれぞれ違う。
一つ目は過去の値動きで、直近の一定期間を多次元のベクトルとして扱う。更新はミリ秒単位で、長短期記憶を持つ時系列モデルや注意機構を組み込んだモデルが処理する。二つ目が43か国の依存度を並べた定数行列である。更新は年に一度で、学習で動かすのではなく設定値として与える。三つ目が報道テキストから算出される地政学リスク指数で、0.0から1.0の連続値を取り、報道が出るたびに作り直される。
次の時刻の価格は、この三つを入力とする関数の出力に誤差項を加えた形で表される。関数はニューラルネットワークの各層の重みにあたり、誤差項は説明しきれない残差を吸収する。
見落とされやすいのは、実は定数のほうが効きが大きいという点である。依存度は、その国が代替調達へ切り替えられない量を示している。供給が細ったとき、依存度の高い国の買い手は高値でも現物を確保しに行く。この行動は価格に対して直線的ではなく、ある水準を超えると急に跳ねる。モデルはこの跳ね方を学習しているため、リスク指数のわずかな上昇でも価格急騰の確率を高く出力する。
速さの違う二つの時計を同じ式に入れているとも言い換えられる。値動きとリスク指数は速い時計で、競争が起きるのはこちらの速度である。依存度は遅い時計で、製油所や管路の建設に数年かかるため1年では動かない。だから定数として扱える。
この設計には前提が組み込まれている。依存度が1年動かないという前提は平時には成り立つが、制裁の発動や航路の恒久的な変更が起きた年には崩れる。定数を更新しないまま運用すれば、構造が変わった後も古い重み付けで注文を出し続けることになる。
報道の文章を、0.0から1.0の数値に変える
言葉のままでは式に入らない。報道の速報と船舶の位置情報を入力として、地政学リスク指数を更新する工程が組まれている。
処理は四段に分かれる。まず文章から地名、対象、事象を切り出す。次に、金融と安全保障の文書で調整した言語モデルが文脈を判定する。そのうえで共起の確率から緊急度に段階を割り当て、最後に0.0から1.0の値として出力する。この一連の処理は報道が配信されてからミリ秒の単位で完了し、人が見出しを読み終える前に数値が更新されている。
判別の核心は言葉の強さではなく、物理的な影響の有無にある。政治的な非難や警告の表明、演習の予告、過去に何度も繰り返された類型の発言は低く採点される。一方、船舶への攻撃や拿捕、海峡の物理的な封鎖、保険料率の引き上げや航路変更を伴う事案は高く採点される。同じ「攻撃」という語でも、積荷が実際に運べなくなるかどうかで扱いが分かれる。
文章より確かな入力として、船の位置情報が併用される。タンカーが発信する位置の記録は報道より早く異常を示すことがある。航路の変更、速度の低下、通航の停滞は、誰かが記事にする前に数値として観測できる。文章の解析と組み合わせることで、誤報による誤作動を抑える設計になっている。
この工程には弱点もある。採点は過去の事例で学習されているため、前例のない形の途絶が起きたとき、言語モデルはそれを低く採点しうる。速さを競う設計は、未知の事象に対しては速く間違えるという性質も同時に持っている。
収益の源泉は的中率ではなく、人との時間差にある
事象の発生から注文までの経路を時間軸に置くと、収益がどこから来るのかが見える。
事象が起きてから数分で船舶の位置情報に異常が現れる。報道の配信はそこから数分から数十分後になる。自動発注はその報道を検知したミリ秒後に執行される。人が状況を把握して手動で発注するのは、さらに数分後である。この幅が利益になる。競っている相手は市場そのものではなく、同じ情報にたどり着くのが遅い参加者である。
一つの事象から、性質の違う三つの注文が同時に出る。
原油先物の買いは価格上昇そのものを取りに行くもので、最も分かりやすく、最も混み合う。出遅れれば利ざやは消える。高依存国の通貨の売りは、依存度の高い国ほど輸入額が膨らみ貿易収支が悪化するという読みに基づく。依存度の定数が最も直接に効くのがここである。海運株の買いは、迂回で航海日数が伸びれば同じ船腹量でも運賃が上がるという構造を取りに行く。遅延そのものが収益源になる。
実際の判定の流れを、紅海で船舶への攻撃が確認された場合で追ってみる。文章の解析が事象を検知すると、日本の依存度77パーセントが定数行列から参照される。喜望峰を回る迂回路を取った場合の航海日数の増分を試算し、国内の備蓄水準に届くかを判定する。遅延が閾値を超えると予測されれば、中東産と米国産の価格差の拡大を見込んだ注文が取引所へ直接送信される。
個人がこの構図から取れる示唆は限られるが、明確ではある。ミリ秒の競争に参加する余地はない。使えるのは、依存度という定数が動いたときだけである。制裁の発動、航路の恒久的な変更、長期契約の切り替えは年単位で効き、速さではなく方向を当てる勝負になる。日本の輸入構造そのものが動く局面は、米国制裁対象企業データベースや対中規制レンズで追える規制の動きと重なることが多い。
過去に当てはめすぎたモデルは、前例のない日に壊れる
自律的に資金を動かす仕組みでは、誤判定による損失を防ぐ制御が最優先の課題になる。
過学習は、過去の値動きに合わせ込むほど検証用の数字が良くなるという形で現れる。ところが合わせ込んだのは法則ではなく、その期間に固有の雑音である。未知の型の事象に遭遇したとき、モデルは自信を持って間違える。
この分野で特に危ないのは、標本が極端に少ないことによる。海峡の封鎖や大規模な攻撃は数十年に数回しか起きない。株価の日次データとは母数の桁が違う。
現場では三つの抑制策が標準的に採られている。最も効くのが複数モデルの併用で、性質の違う予測器を並べて結果を加重平均する。一つが特定の型に引きずられても、他が引き戻す。次に学習時の間引きで、一定割合の結合を無効にして特定の経路だけに依存した判断が育たないようにする。重みが極端に大きくなることを罰する項も併せて置く。
三つ目が発注側の上限である。1回あたりの建玉と1日あたりの損失に上限を置き、流動性が細った局面では自動で縮小する。予測の正しさに依存しない防御であり、三つの中でこれだけがモデルの外側で効く。
設計の要点は、速さの違う二つの情報をどう混ぜるかにある。年単位でしか動かない輸入構造が影響の大きさを決め、秒単位で流れる報道がきっかけの有無を決める。片方だけでは、規模も時点も定まらない。
それでも限界は残る。抑制策はいずれも、過去に似た事象があったことを前提にしている。構造そのものが変わる事態に対しては、モデルの外で人が判断するほかない。同じ構造は通貨や資源の他の分野でも繰り返されており、日本の経済規模がどこで測られ方によって変わるかを扱った通貨換算の分析や、供給網の許認可が工程を止める仕組みを扱った航空機の事例と、読み解きの型は共通している。個別銘柄の水準を確認する場合は銘柄データベースに整理してある。
本記事は、依存度の定義と対象国の選定方法、および43か国の数値を国際エネルギー機関のデータツールとその可視化資料から取得し、日本の原油輸入に占める中東の構成比を資源エネルギー庁および内閣府の公表資料と突き合わせて検証した。77パーセントと95.9パーセントが分母の違いによって生じるという整理、輸出を含む分母が精製・中継拠点の数値を押し下げるという指摘、および依存度が定数として価格モデルに組み込まれる構造の説明は、公表された定義と数値から本稿が導いたものである。取引システムの内部構造に関する記述は公開されている一般的な設計を整理したものであり、特定の運用機関の実装を示すものではない。本稿は特定の銘柄や商品の売買を推奨するものではない。
💬 この記事へのコメント 0
まだコメントはありません
最初のコメントを投稿してみましょう!⚠️ エラーが発生しました