日銀は2026年9月18日、政策金利を1.25%へ引き上げた。約31年ぶりの高水準だが、円はその日のうちに2.20円下げた。利上げの負担は政府だけでなく日銀自身にも及んでおり、利上げを急ぐ余地は数字の上で小さい。

「なぜ日本は、円が戻るまで利上げを続けないのか」。決定の直後、この問いを掲げた投稿が広く読まれた。投稿の答えは、日本の金融の仕組みが長年の低金利を前提に組まれており、急な利上げは政府の借り入れ、企業、住宅ローン、債券価格、景気に同時に響くというものだ。本稿はこの答えを、日銀と財務省の資料で1つずつ確かめる。数値の取得日は2026年9月20日である。

日銀の利上げは約31年ぶりの高水準で、決定の日に円は2.20円下げた

日銀は9月18日の金融政策決定会合で、無担保コール翌日物の金利を1.25%程度で推移するよう促すと決めた。賛成7、反対2。浅田委員は消費者物価(除く生鮮食品)の上昇率が2%を下回ることなどから据え置きを主張し、佐藤委員はこの時期の利上げは適切でないとした。会合は17日14時から15時59分と18日9時から11時47分で、公表は18日11時54分。新しい方針の適用は翌営業日の9月24日からになる。英フィナンシャル・タイムズは公表の直後に、0.25ポイントの引き上げで1995年以来の高水準だと速報した。

「1995年以来」は統計で確かめられる。コール金利の月平均は1995年3月の2.18892%から、公定歩合が1.75%から1.0%へ下がった4月に1.525%、5月に1.31325%、6月に1.27909%と下がり、7月に0.94667%、9月には0.5735%になった。月平均が1.25%を上回った最後は1995年6月である。リーマン危機の前のピークも2008年6月の0.509%にとどまる。2026年は5月の0.727%から、6月の利上げで0.841%、7月0.978%、8月0.977%と上がってきた。

円は逆に動いた。欧州中央銀行の参照相場では、1ドルは9月16日の155.05円、17日の155.69円から、決定当日の18日に157.89円になった。前日比で2.20円、率にして1.41%の円安である。9月9日の153.27円から数えると4.62円下げている。

米国の誘導目標は下限3.75%、上限4.00%で、日本の1.25%との差はなお大きい。金利差と円相場が過去3年どう動いたか、政府の為替介入がどこまで円を支えたかは、本誌の日米金利差と円相場の検証で扱った。本稿が追うのは、日本の側からその差を縮めにくい事情のほうである。

日銀自身が「緩和的な環境は維持される」と書き、1.25%はまだ低い

投稿は、市場が見抜いていたのは「1.25%でも金利はまだ低い」という点だと書く。これは日銀の公表文と一致する。公表文は、実質金利が短中期ゾーンを中心になお低い水準にあり、政策金利の変更後も緩和的な金融環境は維持されると明記している。

物価と比べるとわかりやすい。公表文の別紙によれば、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、政府のエネルギー負担緩和策の効果もあって足元で1%台後半である。1.25%の政策金利から1%台後半の物価上昇率を引くと、実質金利はマイナスになる。日銀はさらに、2026年度後半以降は2%をはっきりと上回る水準まで伸び率が高まると予想している。名目の金利を据え置けば、実質の金利はこの先むしろ下がる。

一方で、投稿の「日銀は金利差を積極的に縮める姿勢を示さなかった」という読みは、公表文とは少し違う。公表文は「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」と、利上げの継続を明記している。書かれていないのはペースである。時期やペースは、中東情勢、AI関連需要、為替相場の変動の影響を点検しながら検討するとしており、市場が受け取ったのは「続けるが急がない」という姿勢だった。主な意見は10月1日、議事要旨は11月5日に公表される。

利払い費は当初予算で8.5兆円から13.0兆円へ増え、財務省は3年後に21.6兆円と試算する

政府の利払い費 — 当初予算の推移と、財務省による3年先までの試算
政府の利払い費 — 当初予算の推移と、財務省による3年先までの試算

投稿が挙げた「2023年の約8.5兆円から2026年の約13兆円へ」は、財務省の資料にそのまま載っている。利払い費の当初予算は令和5年度8.5兆円、6年度9.7兆円、7年度10.5兆円、8年度13.0兆円。令和8年度の国債費は31兆2,758億円で前年度から3兆579億円増え、うち利払い費などは13兆371億円、増加は2兆5,142億円である。

ただしこれは当初予算どうしの比較である。利払い費の決算は当初を下回る年が続いており、令和7年度は当初10.5兆円に対して補正後は9.4兆円だった。予算は金利を高めに想定して組むためである。令和8年度の想定金利は3.0%で、前年度の2.0%から引き上げられた。財務省はこの3.0%を、直近1か月の長期金利の平均1.9%を参考に、過去の金利急上昇の事例を勘案して決めたと説明している。増加2.5兆円の内訳は、想定金利の引き上げによる発行予定分の増が1.0兆円、金利の高い国債へ置き換わったことによる発行済み分の増が1.5兆円だった。

13.0兆円は過去最高である。これまでの最高は平成2年度(1990年度)の10.8兆円で、当時の金利は6.1%、普通国債の残高は166兆円だった。令和8年度の残高の見込みは1,145兆円。金利は当時の6分の1でも、残高が約6.9倍になったので利払い費は当時を超える。

その先の姿も、財務省自身が試算している。2026年2月の後年度影響試算は、次のとおりである。

年度令和7令和8令和9令和10令和11
利払い費(3.0%成長)10.513.015.518.521.6
利払い費(1.5%成長)10.513.015.418.120.7
国債費(3.0%成長)28.231.334.738.041.3
金利が1%高い場合の国債費の増+0.8+2.1+3.8
金利が2%高い場合の国債費の増+1.6+4.2+7.6

単位は兆円。利払い費は3年後の令和11年度に21.6兆円になる。投稿の13兆円は通過点にすぎない。さらに金利が前提より1%高ければ、国債費は令和9年度に0.8兆円、10年度に2.1兆円、11年度に3.8兆円増える。試算は機械的なもので将来の予算編成を拘束しないと明記されているが、金利への感応度を政府自身がどう見ているかはここに出ている。

普通国債1,104兆円のうち147.7兆円が1年以内に借り換えを迎え、10年金利は想定の3.0%に達した

普通国債の中身 — 残存期間と利率、そして10年金利と想定金利
普通国債の中身 — 残存期間と利率、そして10年金利と想定金利

投稿は「低い金利で出した古い国債が、いずれ高い金利で借り換えられる」と書く。その「いずれ」がどれほど近いかは、財務省の残高の資料でわかる。令和8年3月末の普通国債残高は1,104兆2,984億円、平均残存期間は9年5か月である。

残存期間残高割合
1年以下147兆7,348億円13.4%
1年超2年以下107兆9,136億円9.8%
2年超3年以下78兆8,835億円7.1%
3年以下の合計334兆5,319億円30.3%

残高の3割が3年以内に満期を迎える。利率別に見ると、利率0.10%の国債が185兆9,879億円で残高の16.84%を占めて最も多い。利率0.005%の国債も35兆3,174億円ある。マイナス金利の時期に発行された国債である。残高で加重平均した国債の平均利率は令和4年度末の0.76%を底に、5年度末0.77%、6年度末0.83%、7年度末0.98%と上がり始めた。平成2年度末は6.10%だった。

ここで2つの検算ができる。第1に、残高1,104.3兆円に平均利率0.98%を掛けると10.8兆円になる。令和8年度予算の13.0兆円との差2.2兆円は、想定金利3.0%で見込んだ年度内の発行分にあたる。第2に、3年以内に満期を迎える334.5兆円が1%高い金利で借り換わると、利払いは年3.3兆円増える。財務省の試算の「1%高いと3年目に3.8兆円増」と規模がほぼ一致する。別々の資料が同じ構造を示している。

そして予算の余裕はすでに乏しい。想定金利3.0%を決めたとき、長期金利の平均は1.9%だった。10年国債の利回りはその後、8月31日の2.943%から9月2日に3.006%、9月15日に3.028%と、想定の3.0%を2度上回った。会合初日の9月17日は2.993%で、同じ日の2年は1.868%、5年は2.322%、20年は3.824%、30年は4.047%である。18日分は取得時点で財務省が未掲載のため未取得とする。想定に1.1ポイントあった余裕は、9か月でほぼ消えた。長期金利3%が企業の借り入れに何をもたらすかは、本誌の長期金利3%と企業の借金で確かめた。

日銀は付利の支払いが国債利息を上回っており、0.25ポイントごとに年約1.0兆円かかる

日銀の収支 — 受け取る国債利息と、当座預金へ支払う利息
日銀の収支 — 受け取る国債利息と、当座預金へ支払う利息

投稿は低金利の代償として、銀行の利ざやの圧迫と、日銀の大量の国債買い入れによる市場のゆがみを挙げた。買い入れの結果は日銀の貸借対照表に残っている。2026年9月10日時点で、日銀が持つ国債は519.6兆円、金融機関が日銀に預ける当座預金は412.7兆円、発行銀行券は114.5兆円、資産の合計は644.3兆円である。

利上げとは、この当座預金に付ける金利を上げることでもある。今回の決定で、当座預金への付利、つまり預金に付ける利息の利率は1.25%になった。一方、日銀が持つ国債は低金利の時期に買ったもので、運用利回りは令和5年度0.289%、6年度0.352%、7年度0.448%にとどまる。

令和7年度決算金額
受け取った国債利息2兆5,182億円
当座預金への支払利息2兆7,104億円
差し引き1,922億円の支払い超過
経常利益2兆3,421億円(前年度比4,501億円減)
国庫納付金1兆8,300億円

政策金利が0.5%から0.75%だった令和7年度の時点で、付利の支払いは前年度から1兆4,587億円増え、国債利息を1,922億円上回った。逆ざやである。それでも経常利益が2兆3,421億円あったのは、保有する上場投資信託の分配金などが支えたためで、自己資本比率は12.45%ある。

1.25%ではどうなるか。当座預金412.7兆円に1.25%を掛けると年5.2兆円になる。所要準備にあたる部分には付利しないので、これは上限の目安である。国債519.6兆円に運用利回り0.448%を掛けた受け取りは年2.3兆円。付利を0.25ポイント上げるごとに、支払いは年約1.0兆円増える計算になる。ここは記者の計算であり、日銀の公表値ではない。

この支払いは金融機関の受け取りでもある。マイナス金利で利ざやを削られた銀行にとって、付利は収益の回復になる。負担するのは日銀と、その先の政府である。日銀の利益は国庫納付金として国の歳入に入るので、逆ざやが広がれば納付金は減る。利上げの影響は、利払い費の増加と納付金の減少の両面から政府に及ぶ。

住宅ローンの75.0%は変動型で、市場は日本が「ゆっくり上げて円安を受け入れる」と読んでいる

投稿は急な利上げの影響が及ぶ先を5つ挙げた。このうち家計に最も直接響くのは住宅ローンである。住宅金融支援機構の2026年1月の調査では、2025年4月から9月に住宅ローンを利用した人のうち変動型が75.0%で最多だった。前回の2025年4月調査から4.0ポイント減ったが、なお4分の3を占める。調査は2026年1月7日から20日、回答は1,237件である。変動型は短期の金利に連動するので、政策金利の引き上げは時間差を置いて返済額に反映される。

投稿は日本の選択肢を2つに整理した。速く上げて低金利を前提にした仕組みに大きな負荷をかけるか、ゆっくり正常化して円安を長く受け入れるか。そして市場は2つ目を織り込んでいると書く。ここまでの数字はこの読みを支える。利払い費は何もしなくても3年後に21.6兆円へ増え、10年金利は予算の想定に達し、日銀はすでに逆ざやにあり、家計の住宅ローンは4分の3が変動型である。利上げを急ぐほど、この4つの負担が同時に増す。

円安にも代償はある。投稿が書くとおり、日本はエネルギーと原材料を大量に輸入しており、通貨安は輸入物価を通じて物価を押し上げる。日銀の公表文も、原油高と円安が企業物価を押し上げていると認めている。輸入物価の上昇のうち円安がどれだけを占めるかは、本誌の原油と金利の検証で、円ベースと契約通貨ベースの差から測った。一方で円安は輸出企業を助け、海外で稼いだ利益の円換算額を増やす。投稿の筆者は15年以上市場で取引してきたと述べ、中央銀行が苦しい二者択一を迫られる局面にこそ機会があると書くが、本稿は相場の先行きには立ち入らない。

確かめられたのは次のことである。1.25%は約31年ぶりの高水準だが、日銀自身が認めるとおり実質ではなお低い。それでも急げないのは、利上げの負担が政府の利払い費と日銀の逆ざやの両方に、しかも借り換えが進むにつれて年々大きく表れるからである。円安は放置されているのではなく、より重い負担を避けるために受け入れられている。

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