日銀が2%の「物価安定の目標」を掲げてからの164か月のうち、食料とエネルギーを除く消費者物価が2%以上だった月は27か月しかない。6回の利上げのうち、決めた時点の直近の物価が2%以上だったのは最初の1回だけである。
2026年9月18日の利上げを「2%目標の未達のまま引き締めを急ぐ誤り」と論じる声が広がった。根拠として挙がった数字は、過去26年で2%を超えたのは1回、2024年5月以降28か月連続で2%割れ、利上げは6回、というものである。本稿はこの3つを総務省と日銀の資料で1件ずつ確かめ、そのうえで同じ統計を月単位で数え直す。数値の取得日は2026年9月20日である。
批判の側が挙げた3つの数字は、総務省と日銀の資料に1件ずつ一致した
批判の側が判断の基準とすべきだとする指数は、総務省の消費者物価指数のうち「食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合」である。欧米の中央銀行が見る指数と作りが近いことから、日本では欧米型のコアコア指数とも呼ばれる。総務省の統計表から前年同月比を取り出した。
この指数が見ているのは家計の支出の一部である。総務省は総合のウエイトを10000、この指数のウエイトを6781としている。家計の支出の67.81%にあたり、残る32.19%を占める食料とエネルギーは物差しから外れている。円安や原油高が届きやすいのはむしろ外した側なので、どちらの指数を見るかで結論が変わりうる。
第1に、年平均の前年比が2.0%を超えた年は、2000年から2025年までの26年間で2023年の2.5%だけだった。2024年は1.9%、2025年は1.6%だった。「26年間で1回」という指摘と一致する。最も低かったのは2010年の−1.2%である。
第2に、月次では2024年4月が2.0%、5月が1.7%で、2.0%を下回った最初の月は2024年5月にあたる。そこから2026年8月まで28か月、1度も2.0%に届いていない。「28か月連続」という指摘と一致する。ピークは2023年12月の2.8%、足元の2026年8月は1.6%である。
第3に、日銀が金融市場調節方針を変えた会合は2024年以降で6回だった。公表文の題を見ると区別がつく。方針を変えた回は「金融市場調節方針の変更について」(2024年3月のみ「金融政策の枠組みの見直しについて」)、変えなかった回は「当面の金融政策運営について」になっている。この6回で政策金利はマイナス0.1%から1.25%へ動いた。
添付された2つの図の数値も、総務省の統計と照合した。月次の図の赤い線(コアコア)と破線(総合)は、2022年4月から2026年8月までの53か月がすべて公表値と一致している。年平均の図の米国側も、労働統計局の指数から計算した値と合う。図の注記にある「米国の2025年は10月分が未公表」も確認でき、実際に2025年10月の月次が系列から欠けている。
2%目標を掲げてからの164か月で、2%以上だったのは27か月だけだった
批判の側は年平均で「26年間に1回」と数えた。同じ統計を月単位で数え直すと、その指摘はより強く出る。
日銀が「物価安定の目標」として消費者物価の前年比2%を掲げたのは2013年1月である。そこから2026年8月までは164か月ある。このうちコアコアが2.0%以上だったのは27か月で、全体の16.5%だった。残りの137か月は2%に届いていない。
しかもその27か月は、ばらばらに散っているのではない。2つの塊にしかない。ひとつは2014年4月から2015年3月までの12か月、もうひとつは2023年2月から2024年4月までの15か月である。2013年以降で2.0%以上が続いた最長は、この15か月だ。
前の塊には注意が要る。2014年4月から2015年3月は、2014年4月の消費税率引上げの直後の1年にあたる。総務省の指数は税率引上げの影響を含んだままの数字である。税率引上げの影響を除いた指数を総務省は公式には出していないため、影響の大きさは本稿では未取得とする。確かなのは、27か月のうち12か月が増税直後の1年と重なるという事実である。
年平均で見ると2014年は1.8%で2%を下回る。月次では12か月連続で2.0%以上だった。逆に2023年は年平均2.5%の1回だが、月次では15か月続いた。年で数えるか月で数えるかで、同じ統計から違う印象が出る。どちらの数え方でも変わらないのは、164か月の8割超が2%未満だったという点である。
6回の利上げのうち、決めた時点の直近の物価が2%以上だったのは最初の1回だけだった
消費者物価は翌月の下旬に公表される。各決定の時点で日銀が見ることのできた最新の月を、統計の公表時期から割り出して並べた。
| 決定日 | 決めた水準 | 直近の公表分 | コアコア |
|---|---|---|---|
| 2024年3月19日 | マイナス金利を解除 | 2024年1月分 | 2.6% |
| 2024年7月31日 | 0.25%程度 | 2024年6月分 | 1.9% |
| 2025年1月24日 | 0.5%程度 | 2024年12月分 | 1.6% |
| 2025年12月19日 | 0.75%程度 | 2025年11月分 | 1.6% |
| 2026年6月16日 | 1.0%程度 | 2026年4月分 | 1.2% |
| 2026年9月18日 | 1.25%程度 | 2026年7月分 | 1.4% |
2.0%以上だったのは最初の1回だけである。2回目以降の5回は、1.9%、1.6%、1.6%、1.2%、1.4%と、いずれも2%を下回る数字を見ながら決められていた。最も低かったのは2026年6月の1.2%で、このとき日銀は0.75%から1.0%へ上げている。
賛成と反対の内訳も動いている。2025年12月の0.75%は全員一致、2026年6月の1.0%は賛成7・反対1、今回の1.25%は賛成7・反対2だった。9月の反対理由は公表文に記されている。浅田委員は、足元の消費者物価(除く生鮮食品)の上昇率が2%を下回るなかで経済の状況も必ずしも強いとはいえないとして据え置きを主張し、佐藤委員はこの時期の利上げは適切でないとした。利上げを急ぎすぎだという論点は、政策委員会の中にもある。
利上げの費用がどこに出るか、円相場がどう動いたかは、本誌の日銀1.25%への利上げでも円安で扱った。本稿が追うのは、その決定を支えるはずの物価の数字のほうである。
日米の差は物価の水準ではなく、2%を下回った回数に出る
米国は2%を下限として扱い、日本はかつて0%を上限のように扱ったという見方がある。2つの系列を並べると、差は水準よりも回数に出る。
米国の同じ指数(食料とエネルギーを除く総合)の年平均前年比を、労働統計局の指数から計算した。2000年から2025年の26年間で2.0%を下回ったのは10回である。2003年、2004年、2009年から2011年、2013年から2015年、2017年、2020年で、最も低い2010年でも1.0%だった。0%を割った年はない。
日本は同じ26年間で2.0%を下回ったのが25回、つまり2023年を除く全年である。0%を割った年は16回あり、2010年の−1.2%が最も低い。米国が下限の近くで動いた26年間に、日本はその下限のはるか下で動いていた。
その米国が引き締めに転じたのは、2021年の3.6%を経て2022年に6.2%へ達してからである。2023年4.8%、2024年3.4%、2025年2.8%と下がってきたが、なお2%を上回ったままだ。直近の前年同月比も2026年6月2.59%、7月2.48%、8月2.45%と、2%の上にある。米国の2%を上回ったままの引き締めと、日本の2%を下回ったままの利上げが、同じ時期に並んでいる。
なお日本の総合指数も、2026年に入って2%を割った。1月1.5%、2月1.3%、3月1.5%、4月1.4%、5月1.5%、6月1.6%、7月1.9%、8月1.9%と、8か月続けて2.0%に届いていない。2025年1月には4.0%だった指数である。2026年8月は総合1.9%、コアコア1.6%で、2つの指数がそろって2%を下回っている。物価の物差しを総合に替えても、いまの結論は変わらない。米国の物価との関係は本誌の米消費者物価の寄与度でも扱った。
日銀は「2026年度後半に2%を上回る」と見たうえで利上げしている
ここまでの数字は、利上げを急ぎすぎだという見方を支える。ただし「日銀は2%以上にさせない」という読みは、9月18日の公表文とは合わない。
公表文は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比が2026年度後半以降、2%をはっきりと上回る水準まで伸び率を高めると予想している。理由として挙げているのは、賃金上昇の販売価格への転嫁、これまでの原油価格上昇、AI関連需要の増加に伴う半導体価格などの上昇、そして最近の円安である。日銀は2%を抑え込もうとしているのではなく、先行き2%を超えると見たうえで、いま動いている。
「物価上昇の主因は輸入コストの上昇であり、原油価格や為替相場は日本の金利操作で制御できない」という批判は、日銀の説明と重なる部分がある。公表文自身が、原油高や円安に加えAI関連需要の影響で企業物価の伸びが続いていること、輸入物価上昇の影響が現れていることを認めている。両者が分かれるのは、その輸入由来の上昇を利上げの根拠にしてよいかという一点である。
日銀の側の根拠は公表文の別の行にある。労働需給が引き締まった状態にあること、実質金利が短中期ゾーンを中心になお低い水準にあること、そして政策金利を変えた後も緩和的な金融環境は維持されることだ。原油と円安が輸入物価を通じて物価をどう押し上げてきたかは、本誌の原油と金利の検証で円ベースと契約通貨ベースの差から測った。
数字が示すのは、賛否ではなく判断の構造である。日銀は2%に届いた事実ではなく、これから届くという見通しを根拠に利上げしてきた。2013年1月からの164か月で2%以上が27か月、6回の利上げのうち直近の物価が2%以上だったのは1回。この2つの数字は、見通しが外れたときに何が起きるかを考えるための出発点になる。
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