VELLINKは中国中車(CRRC、601766/1766.HK)傘下の中車長春軌道客車が開発した地下鉄車両だ。600超のセンサーを積み、AIが異常の検知や故障の予兆の把握を補助する。重さ約18%減と省エネ10%超は、炭素繊維の部品や炭化ケイ素の電力変換装置によるという。
ドイツのベルリンで2026年9月22日に開幕した国際鉄道技術見本市「イノトランス」で、中国中車は地下鉄車両「VELLINK」を公開した。中国メディアは「中国初の身体性AI搭載の地下鉄車両」と伝えた。従来の車両に比べ、重さを約18%、エネルギー消費を10%超、製造から廃棄までの二酸化炭素の排出量を約15%減らしたという。ただ、開発元の中車長春軌道客車 (長春軌道客車) が挙げた軽量化と省エネの手段に、AIは含まれていない。挙げたのは炭素繊維などの素材、台車とブレーキの構造、永久磁石を使うモーター、炭化ケイ素 (SiC) を使う電力変換装置だ。省エネ率の比較対象も「従来の車両」とされるだけで、どの車両かは示されていない。本誌は長春軌道客車と中国メディアの説明、中国中車が2021年に公表したSiCの試験結果、三菱電機と東芝の技術資料を突き合わせ、数字の中身を確かめた。
中国中車のVELLINK、身体性AIの実体は600超のセンサーと車載コンピューター
VELLINKは、長春軌道客車が中心となり、四川省成都市の地下鉄を運営する成都軌道交通集団などと共同で開発した。中国の地下鉄車両の標準仕様をもとに設計した。見本市は今回が15回目で、会期は25日までだ。中国新聞社によると、出展企業は3,100社を超え、中国からは中国中車、中国国家鉄路集団、華為技術 (ファーウェイ) を含む200社超が参加した。中国中車の会社情報は企業データベースの中国中車のページにまとめている。
身体性AI (エンボディドAI) は、カメラやセンサーで周囲の状況を認識し、ロボットなどの機械を動かして現実世界で作業するAIを指す。人型ロボットや自動運転車の分野で使われる言葉だ。長春軌道客車の設計責任者の尹航氏は科技日報に対し、VELLINKは身体性AIを搭載した世界初の車両だと述べた。車両の各所にセンサーを張り巡らせ、自社開発のAIと高速通信を使うことで、列車が周囲の状況をつかんで判断し、乗客や乗務員に情報を伝えられるという。指令を受けて動くだけでなく、列車自身が運行を最適化するようになるとも説明した。何をもって「初」とするかは、資料によって異なる。多くの中国メディアは「中国初」とし、中国新聞社は中国中車の説明として「地下鉄車両に身体性AIを使うのは世界初」と伝えた。中国中車の英文の発表は「都市交通で業界初」と書いた。
身体性AIの機能は3つに分かれる。1つ目は認識だ。中国中央テレビの報道によると、列車全体に600を超えるセンサーを配置し、カメラやレーダー、車載コンピューターと組み合わせて線路や車両の状態をリアルタイムで把握する。AIは異常の検知や故障の予兆の把握を「補助する」位置づけだ。科技日報によると、画像やレーダーなど複数の種類のデータを扱う大規模AIモデルで、線路周辺や運行の状況をいち早くつかむ。2つ目は判断だ。列車同士が直接通信する車車間通信と車載のエッジコンピューティング基盤、中国中車が2024年12月に発表した産業向けの大規模AIモデル「AIZOR」を使い、運転の方針を決める。3つ目は乗客や乗務員への情報提供だ。運転台に多機能のディスプレー、ホログラム表示、生体認証を備え、乗客には乗り換えや観光、飲食、娯楽の案内を出す。
判断に使う車車間通信は、中国ではすでに営業線で実用化されている。従来の無線式列車制御 (CBTC) では、地上の装置が各列車に進んでよい範囲を指示する。車車間通信の方式では、列車同士が位置を直接伝え合い、列車自身が前の列車との間隔を判断する。青島地下鉄6号線の第1期区間は、この方式 (列車自律運行システム、TACS) を中国で初めて採用し、2024年4月26日に開業した。列車自身が運行を最適化するというVELLINKの説明は、この流れに沿う。
運転台が残っている点にも注意が要る。英鉄道専門誌のレールウェイ・ニュースはVELLINKを無人運転の車両として紹介した。だが長春軌道客車の説明には運転台の装備が含まれ、自動運転レベル (GoA) を示す公表資料は見当たらない。独テュフ・ラインランドの鉄道部門の幹部は中国新聞社の取材に、AIが車両の認識や判断に深く関わるほど、安全性の評価が重要になると述べた。中国中車の技術者の梁士国氏は新華社に対し、車両が自ら判断して走り、運行の調整まで担うようになると語った。梁氏は目指す方向を示しただけで、AIが運転そのものをどこまで担うかは明らかにしなかった。18%や10%という数字の説明にも、AIは一度も登場しない。
18%軽量化は炭素繊維と台車・ブレーキの見直しで、乗客を含めると11〜12%減の試算
長春軌道客車の説明によると、軽量化の手段は素材と構造の2つだ。素材では炭素繊維、マグネシウムとアルミの合金、ポリカーボネートを多用した。構造面では、車軸を支える軸箱を車輪の内側に置いた台車、空気圧の代わりにモーターで作動させる電気機械式ブレーキ、一体型の屋根を取り入れた。屋根には空調ダクトや遮音材、断熱材を組み込み、1つの部材で車体を支えながら、送風や遮音、断熱の役目も果たすようにした。レールウェイ・ニュースによると、車体はアルミ製で、先頭部の外板と骨組みに炭素繊維を使った。1両の車体の長さは24.4メートル、軸重は15トン、最高運転速度は時速120キロ、試験での最高速度は時速132キロだ。
電気系統の配線も減らした。機能ごとに制御をまとめる「ドメイン型」の構成を初めて取り入れ、運行、旅客サービス、状態監視の3系統を統合した。これにより制御装置の数は半分に、配線は3割減ったという。長春軌道客車は、空調と補助電源で電圧を変換する回路の構成も見直し、電源効率が約9%上がったとしている。本稿の3Dモデルで、軽量化、省エネ、周囲の認識のそれぞれに関わる部品の位置を示す。
18%減が空車時と乗車時のどちらの重さの削減率かは示されておらず、比較対象の車両も公表されていない。本誌は空車重量の削減率とみて試算した。電車が加速し、走行抵抗に逆らって走るために使う電力は、おおむね乗客を含めた列車全体の重さに比例する。そこで空車重量の18%減を、中国の地下鉄で大型車両の規格にあたるA型車両の公表値に当てはめた。中国の都市鉄道の業界サイトによると、南京地下鉄1号線を走るA型車両 (6両編成) の重さは、空車時で225トン (1両34.9〜38.8トン) だ。1平方メートルに6人が乗る定員乗車時は336.6トン、9人が乗る超満員時は372.6トンになる。乗客の重さは変えずに空車重量だけを18%減らすと184.5トンになり、定員乗車時は296.1トンで12.0%減、超満員時は332.1トンで10.9%減にとどまる。つまり空車重量の18%減は、乗客を乗せた状態では11〜12%程度の軽量化にあたる。
軸重からも重さの水準を確かめた。軸重15トンで車軸が4本なら、1両の重さの上限は60トンになる。南京のA型の電動車は、超満員時に63.7トン (軸重15.9トン) だった。VELLINKの軸重が超満員時の値だとすれば、南京の電動車より3.7トン軽い。ただしVELLINKの軸重がどの乗車率での値かは公表されておらず、車体の長さや定員も同じとは限らないため、この比較は目安にとどまる。
省エネ10%超は比較対象が不明、中国中車は5年前にSiCだけで駆動系の電力を10%超削減
省エネの手段として長春軌道客車が挙げたのは、永久磁石同期モーターとSiCを使う電力変換装置 (インバーター) だ。永久磁石同期モーターは、回転子に永久磁石を使い、従来の誘導モーターより発熱による損失を小さくしたモーターを指す。SiCは炭素とケイ素の化合物で、電力変換用の半導体に使うと、従来のシリコンに比べてスイッチング時の電力損失を小さくできる。長春軌道客車によると、これらにより車両全体の省エネ率は10%を超え、製造から廃棄までの二酸化炭素の排出量は約15%減る。中国中車の英文の発表は、比較対象を「従来の車両」と書くだけだ。
中国中車は、SiCだけでも10%を超える省エネを5年前に示していた。中国中車の2021年6月7日の発表によると、傘下の株洲電力機車研究所は深セン地下鉄と共同で、耐圧3,300ボルト級のSiC半導体を使うフルSiCインバーターを開発した。深セン地下鉄1号線の第75編成の3両目に載せて試験した。営業運転で5か月以上、6万5,000キロ超を故障なく走り、駆動系の消費電力は従来のシリコン製IGBT (絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ) を使う駆動系より10%超少なかった。低・中速域のモーターの騒音は5デシベル超下がった。株洲電力機車研究所は、SiC半導体を製造する中車時代電気の親会社にあたる。
日本の電機大手も同種の部品で削減効果を公表してきた。三菱電機技報 (2017年、第91巻第7号) によると、耐圧3,300ボルトのSiCを使う三菱電機のフルSiCインバーターは、従来製品に比べて電力消費量を40%減らした。インバーターの損失は従来のシリコン製品より55%、体積と重さは65%小さい。同社は、営業運転でも40%近い省エネを実証したとしている。東芝は、永久磁石同期モーターで消費電力を39%減らした。比較対象は誘導モーターを使う1992年製の車両で、測定は2012年に JIS E6102 に基づいて行った。東芝の永久磁石同期モーターは、東京メトロの02系や1000系などに採用されている。なお、SiC の仕組みは用語集で解説している。
| 装置 (公表・測定の年) | 削減率 | 比較対象 |
|---|---|---|
| VELLINK の車両全体 (2026年) | 10%超 | 従来の車両 (車種・路線・乗車率は未公表) |
| 中国中車のフルSiCインバーター (2021年) | 10%超 | シリコンIGBTの駆動系 |
| 東芝の永久磁石同期モーター (2012年測定) | 39% | 誘導モーターの1992年製車両 |
| 三菱電機のフルSiCインバーター (2017年) | 40% | 同社の従来製品 |
並べてみると、VELLINKの数字の意味合いが変わる。本誌の試算では重さだけで駆動用の電力が11〜12%程度減り、SiCだけでも中国中車自身の試験で10%超減っている。これに永久磁石同期モーターを加えた車両全体の値が「10%超」にとどまるなら、比較対象の車両がすでにSiCや永久磁石同期モーターを使う新型である可能性や、空調や照明など重さに比例しない電力まで含めた値である可能性がある。日本の2社の約4割という数字も、東芝は1992年製の車両、三菱電機は自社の従来製品と比べたものだ。比較対象、測定範囲、乗車率の3つをそろえずに削減率を並べると、性能差を見誤る。
製造から廃棄までの二酸化炭素の約15%減についても、基準や計算方法は示されていない。長春軌道客車は軽量化と省エネ以外の環境対策として、生分解性の床材、無塗装の壁パネル、水性塗料、オイルフリーの空気圧縮機、空気浄化装置、振動と騒音を抑える弾性車輪を挙げた。このうち床材、壁パネル、塗料は、製造時や廃棄時の環境負荷を減らす狙いとみられる。
公表された範囲では、VELLINKが売りにする身体性AIの役割は認識と判断の補助が中心で、運転そのものをどこまで担うかは示されていない。長春軌道客車の説明では、重さ18%減と省エネ10%超という数字をもたらしたのは、炭素繊維の車体部品、台車とブレーキの構造、永久磁石同期モーター、SiCを使う電力変換装置だ。個々の部品では、三菱電機や東芝も比較対象を明示して削減率を公表している。中国中車の新しい車両の実力は、「AI搭載」という看板ではなく、比較対象をそろえた部品ごとの数字で測ることになる。
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