銅精鉱の加工賃が史上初のゼロ、亜鉛も50年ぶりの低水準。業界最悪の年にDOWAの製錬部門は利益8倍を計上した。ヘッジ評価益の会計の往復と、鉱山権益・都市鉱山が効く仕組みを決算資料の原文から分解する。
銅精鉱の加工賃が史上初のゼロとなり、国内の製錬所が縮小や減産検討に沈む年に、DOWAの製錬部門は利益を約8倍にした。営業利益の中の43.5億円は翌四半期に巻き戻る時価の数字だが、剥がしても実力はおよそ3倍である。
非鉄金属大手のDOWAホールディングス(5714)が2026年8月7日に発表した2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)決算は、上期の営業利益予想を最初の3か月だけで超えるという異例の内容だった。ただしこの決算を正しく読むには、2つの分解が要る。1つは営業利益に写り込んだヘッジ評価益という会計の往復を剥がすこと。もう1つは、製錬業界全体が加工賃の崩壊に沈む中でなぜこの会社の製錬部門だけが桁違いに稼げたのか、その構造を見ることである。本稿は決算短信と補足資料の原文、鉱山の権益構造、そして業界の加工賃交渉の記録まで遡って、この2つを順に解く。株価には触れない。追うのは、会計の仕組みと事業の構造である。
3か月で半期分を稼いだ数字の全体像
まず実績を確定させる。売上高2,534億円(前年同期比58.2%増)、営業利益247.5億円(同281.0%増)、経常利益325.3億円(同277.5%増)、純利益234.5億円(同266.4%増)。1株利益は396.51円である。会社が5月に公表した上期の営業利益予想は237億円だから、進捗率は3か月で104.4%。経常利益で87.7%、純利益で88.2%に達した。
通期予想に対しても、営業利益530億円に対し46.7%、経常利益800億円に対し40.7%、純利益570億円に対し41.1%という進み方である。四半期を単純に等分すれば25%が巡航速度だから、いずれも大きく前倒しで走っている。それでも会社は通期予想と年間配当338円を据え置いた。この慎重さの理由は後段で述べるが、先に数字の中身を剥がしておく必要がある。
43.5億円は「時価の写真」である ― 四半期ごとに巻き戻る会計の往復
今回の営業利益には、製錬部門のヘッジ取引にかかる評価益43.5億円が含まれている。この数字の性質を理解することが、この決算を読む最初の関門になる。
製錬所は鉱石や再生原料を買い入れてから地金として売るまでの間、銀や銅の在庫を常に抱えている。価格が下がれば在庫は目減りするため、在庫とほぼ同じ量の先物を売っておく。価格が下がれば在庫の損を先物の益が埋め、上がれば先物の損を在庫の値上がりが埋める。ヘッジの目的は損益を固定することであり、どちらかで儲けることではない。ところが会計上、先物側は四半期末の時価で評価されるため、期末時点の「時価の写真」が損益計算書に写り込む。
今回の43.5億円の内訳は2つある。第1に、前期末(2026年3月末)に立っていた評価損17.5億円が期初に戻し入れられたことによる押し上げ。第2に、6月末の時価で新たに計上された評価益26.0億円である。背景には銀価格の異常な値動きがある。銀は2026年1月末に1オンス121ドル台の史上高値を付けた後に急落し、4〜6月期は下落過程にあった。同社の第1四半期の銀平均価格は73.4ドルで前年同期(33.6ドル)の2.2倍だが、四半期の中では下げ続けており、決算短信も「銀価格が当第1四半期末にかけて下落基調となった」と記す。在庫に対する売りヘッジは価格が下がると評価益になるから、この下落がそのまま26億円の評価益として写った。
ここで押さえるべきは、6月末に計上された26億円は第2四半期の期初に同額が戻し入れられて消えるという点である。9月末には9月末の時価で新しい写真が撮り直される。つまり評価益は毎四半期リセットされる往復運動であり、継続する利益ではない。営業利益247.5億円からヘッジ評価益43.5億円だけを除くと約204億円。低価法の戻りを含む在庫評価損益約57億円まで全部除くと約190億円が残る。前年同期の営業利益は約65億円だったから、一時的な追い風を全て消しても実力ベースでおよそ3倍である。数字が評価益で膨らんでいるだけの決算ではない。
増分239億円の分解と、銀とインジウムが作った決算の性格
増益の中身は、補足資料にある経常利益の要因別分析が最も正確に示している。前年同期の経常利益は約86億円。そこから、製錬部門の金属価格差で78億円、同じく為替差で20億円、それ以外の部門の金属価格差・為替差で27億円、鉱山関連で61億円、在庫評価損益で57億円(内訳は低価法12億円とヘッジ取引45億円)、販売増などの施策効果で40億円が積み上がる。一方で原料代が10億円、製造原価・販管費・開発研究費が35億円の逆風となり、差し引き239億円の増分で325.3億円に到達した。
広く流通した「増益の4要因」はこの分析の抜粋である。ただし2つの点で解像度を上げておきたい。第1に、これは営業利益ではなく経常利益の分解であり、鉱山関連の61億円は営業外損益に入る。第2に、会社の表には販売増という実力の項目と、コスト増という逆風が同じ列に並んでいる。追い風だけを4つ数えるより、この表を丸ごと見るほうが決算の輪郭は立体的になる。
金属価格の中身を見ると、この決算の性格が分かる。会社開示の四半期平均価格は、銅が1トン9,519ドルから13,324ドルへ40%上昇、亜鉛が2,641ドルから3,463ドルへ31%上昇、金が1オンス3,280ドルから4,516ドルへ38%上昇。そして突出しているのが銀の2.2倍と、インジウムの1キロ376ドルから698ドルへの86%上昇である。銀は貴金属であると同時に太陽光パネルの電極や電子部品に使われる工業金属であり、インジウムは液晶の透明電極や光通信用の化合物半導体の原料になる。つまりこの2つの急騰は、後述する電子材料事業の追い風と地政学の話に直結している。金の高騰が各国の中央銀行の動きとどう絡むかは金価格の構造分析で扱った文脈と地続きである。
為替は、会社の期初前提1ドル155円に対し実績平均159.5円だった。同社の感応度は1円の円安で年間営業利益が約6.3億円増える構造で、この4.5円の差が約20億円の押し上げになった。ヘッジについて誤解されやすいのは「ヘッジしているなら金属価格も為替も関係ない」という読みである。同社がヘッジで固定しているのは主に在庫を保有している期間の価格変動と、確定した取引に紐づく為替であり、鉱山からの持分利益、製錬の副産物収入、リサイクル原料に含まれる有価金属の価値までは固定していない。だから金属高は全体としてプラスに効き、逆回転すれば同じ経路でマイナスに効く。
業界の加工賃が崩壊した年に、なぜ製錬部門が稼げたのか
ここからが、この決算の最も報じられていない側面である。
製錬会社の本来の稼ぎは加工賃と呼ばれる手数料にある。鉱山会社から精鉱を買い、地金に仕上げて返す対価としてTC(処理費)とRC(精製費)を受け取る。この加工賃の国際指標が、いま歴史的な崩壊の途中にある。銅精鉱のベンチマークは2024年の1トン80ドルから2025年に21.25ドルへ73%下落し、2026年分は史上初のゼロで妥結したとロイターが報じた。市中の随時契約ではマイナス、つまり製錬所が金を払って原料を引き取る逆転現象まで起きている。亜鉛精鉱も2025年に80ドルと少なくとも50年で最低の水準に沈み、2026年は85ドルとほぼ横ばいにとどまる。原因は中国で製錬能力が急増し、精鉱の供給を上回ったことにある。
この環境は日本の製錬各社を直撃した。三菱マテリアルは小名浜製錬所の銅精鉱処理の縮小を決めて減損損失を計上し、JX金属は減産措置の検討を開示した。住友金属鉱山も決算短信で買鉱条件の悪化を明記している。加工賃だけで食べる純粋な買鉱製錬は、構造的に絞め上げられている。
その年に、DOWAの製錬部門は売上1,257億円(69.4%増)、営業利益156.3億円(約8倍)、経常利益228.4億円(約6.3倍)を計上した。矛盾のように見えるこの結果は、同社の製錬が3層構造になっていることで説明できる。
第1層が鉱山権益である。同社はメキシコのティサパ鉱山に39%、ロス・ガトス鉱山に30%の持分を持つ。補足資料はこの鉱山関連を「持分法投資損益・ロイヤリティなど」と括っており、中心となる勘定は経常利益に入る持分法投資利益で、前期通期は152.9億円に達した。今回の四半期もティサパ鉱山の生産回復と金属高で持分利益が増えたと会社は説明する。権益に紐づく精鉱の引き取りが秋田製錬の原料確保を兼ねる点まで含めて、鉱山の果実を複数の経路で取り込む構造である。製錬部門の営業利益156億円と経常利益228億円の差、約72億円がこの上流の取り分を映している。加工賃が崩れる局面とは、裏返せば鉱山側の取り分が増える局面であり、権益を持つ製錬会社は自分の左手が失った分を右手で拾える。
第2層が都市鉱山である。小坂製錬は複雑鉱を処理してきた100年の技術を再生原料に転じ、使用済み基板などから金・銀・銅・すず・アンチモンなど多数の元素を回収する。リサイクル原料の処理は鉱山会社との加工賃交渉に縛られない別の値決めで動くため、TC崩壊の直撃を受けない。廃電池や廃基板から金属を取り出す競争が世界で激しくなっている文脈は中国の電池リサイクル19万社の乱立で扱ったが、日本側で同じ土俵の中心にいるのがこの会社である。
第3層が副産物のレアメタルである。秋田製錬は電気亜鉛で国内生産の約3割を担う国内最大の亜鉛製錬所であり、世界で唯一のヘマタイト法という製錬方式を使う。この方式は鉱石中のインジウムなどの有価金属の回収率が高い。2025年4月にはインジウム・ゲルマニウム・ガリウムを製造する子会社の秋田レアメタルを吸収合併し、亜鉛からレアメタルまでの一貫操業に改めた。インジウム価格が86%上昇した四半期に、この統合が効く位置にある。
共同事業の相手が変わった ― 銀最大手による買収の余波
鉱山権益には、2025年に起きた企業買収の論点が乗っている。ロス・ガトス鉱山はDOWAが30%、残り70%を米上場のGatos Silverが持つ共同事業だったが、銀鉱山大手のFirst Majestic SilverがGatos Silverを株式交換で買収し、2025年1月16日に完了した。DOWAの持分30%は変わらないが、共同事業の相手は一夜で銀に特化した大手へ変わり、買収に先立って共同事業契約が修正され、経営権限は先方に寄った。
これは日本企業の海外権益に共通する構造的な論点である。持分は守られても、操業方針・増産投資・販売戦略の主導権は過半を握る側にある。銀が史上高値圏にある間、First Majesticには増産の動機が働くから短期的には持分利益の追い風だが、権益の将来価値は自社で決められない変数を1つ増やした。ティサパ鉱山も操業はメキシコのPeñolesが51%で握っており、DOWAの39%は同じ性質を持つ。鉱山持分というモデルの強さと引き換えの構造である。
電子材料の黒字転換 ― 会社が「AIデータセンタ向け」と明記した粉
製錬に増益が集中する構造はリスクでもある。営業利益の増加約182億円のうち約136億円、経常利益の増加約239億円のうち約192億円が製錬部門で、利益増加の75〜80%がこの1部門に集中する。金属価格と円安が逆回転すれば同じ集中が逆向きに効く。だからこそ、金属価格に依存しない利益の芽として電子材料部門の黒字転換が重要になる。
電子材料部門は前年同期の営業損失9.7億円から営業利益15.4億円へ、25億円強の改善を遂げた。補足資料はこの改善を、販売増などの実力で17億円、価格と為替で3億円、低価法の在庫評価で5億円と分解している。つまり黒字転換の3分の2は数量の回復である。
中身を製品で見ると、この部門がどこへ向かっているかが分かる。第1に太陽光パネルの電極に使う銀粉で、同社が「太陽電池の表面電極向け市場で世界1位」と自認する主力製品の販売量は、前年度第1四半期を100とする指数で一時60まで沈み、今回127へ回復した。前期はこの銀粉が競争激化と銀価格高騰による原料調達費の増加で赤字の主因になっていた製品である。太陽光発電の設備需要が世界で伸び続けている文脈は砂漠の太陽光建設ロボットの経済性で扱った土俵と重なる。
第2に、補足資料が「AIデータセンタ(燃料電池)向け複合酸化物粉の販売が増加」と明記した固体酸化物形燃料電池(SOFC)用の材料である。データセンターの電力を系統だけに頼らず敷地内の燃料電池で賄う動きが米国で広がっており、その電極や電解質に使う酸化物の粉をこの会社が作っている。需要先を「AIデータセンタ」と結びつけたのは推測ではなく同社自身の開示であり、AIデータセンターの電源構造の変化が、秋田の粉体メーカーの損益計算書に現れ始めたことを意味する。第3がデータ保存用テープ向けの磁性粉で、同社はこの分野で世界シェア90%以上と自認する。生成AIが生む大量の低頻度データを磁気テープに退避する需要は市場側の文脈だが、テープ材料の実質的な独占供給者がこの部門の中にいる。第4がウェアラブル機器向けの近赤外LEDと受光素子で、前期に量産が始まった新製品が伸びた。
見落とせないのは、電子材料部門の通期営業利益予想がわずか6億円のままである点だ。第1四半期だけで15.4億円を稼いでおり、5部門の中で会社予想との乖離が最も大きい。据え置かれた通期計画の歪みは、実はこの部門に最も強く出ている。
ガリウムとインジウム ― 亜鉛製錬の副産物が地政学の駒になる
電子材料と製錬をつなぐ場所に、もう1つ報じられにくい論点がある。同社は高純度ガリウムで「世界トップシェア」を自認しており、その原料は秋田の亜鉛製錬工程の副産物とスクラップのリサイクルである。中国は2023年8月にガリウム関連品目の輸出を許可制にし、2025年2月にはインジウムを含む5鉱種へ輸出管理を広げた。ガリウムは窒化ガリウム半導体の、インジウムは光通信用レーザーの基盤材料であり、中国の対日輸出規制リストや米国のレアアース供給網再編と同じ盤面の駒になっている。
ここで効くのが、亜鉛製錬とリサイクルという2つの国内供給源を持つ構造である。中国が蛇口を絞るほど、国内の副産物回収の戦略価値は上がる。インジウム価格の86%上昇は、その市場の側の反応でもある。亜鉛の加工賃交渉でも2026年から銀の支払い条件の見直しに加えてゲルマニウムに新たな支払い条件が付いたとファストマーケッツが報じており、精鉱に含まれる微量金属の値段が交渉の主戦場に移りつつある。加工賃がゼロに向かう世界とは、製錬の稼ぎが「処理の手数料」から「中身の金属を漏らさず拾う技術」へ移る世界であり、ヘマタイト法や18元素回収はまさにその技術の名前である。
据え置かれた通期予想と、11月の分かれ目の算術
これだけの進捗でも会社が通期予想を据え置いた理由は、補足資料の言葉では3つある。金・銀・プラチナなど貴金属の価格が下落基調にあること、自動車関連需要の減退、資材単価の上昇の継続である。これに、理由の列挙には入っていないが確定している算術が重なる。第2四半期の利益は期初に26億円の戻し入れというマイナスを背負って始まり、1Qの実績には製錬原料の購入条件悪化というコスト逆風もすでに写っている。なお通期の純利益570億円だけが前期比8.7%の減益予想になっているのは、前期に投資有価証券売却益249.6億円を含む特別利益295.1億円を計上した反動であり(前期決算短信の損益計算書による)、事業の悪化を織り込んだものではない。
だからこそ、次の中間決算で見るべき数字は明確になる。第2四半期の基礎的な営業利益、すなわち戻し入れ後にいくら残るかである。仮に基礎で100億円なら戻し後は約74億円で上期累計は約322億円、150億円なら約372億円、200億円なら約422億円。最も保守的な100億円の場合でも上期予想237億円を大きく上回る計算になる。株主還元の方針は「配当性向35%または1株当たり150円のいずれか高いほう」であり、現在の1株利益予想963.68円に35%を掛けるとほぼ338円の予想配当と一致する。この方針が維持される限り、通期の利益予想が動けば配当は機械的に連動する。仮に1株利益が1,200円なら約420円、1,400円なら約490円という計算になる(いずれも方針からの機械計算であり、会社の予想ではない)。
言い換えると、この銘柄の当面の焦点は「稼げるか」ではなく「据え置きがいつ現実に追いつくか」に移っている。分かれ目は中間決算である。そのとき評価益の往復と実力を切り分ける物差しは、本稿で分解した通りすでに読者の手元にある。金属価格と為替が逆回転すれば製錬集中の構造が逆向きに効くことも、同じ物差しの裏面として覚えておく必要がある。日本関連銘柄の記事横断の言及状況は銘柄レーダーで追える。
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