バンコクの国際会議でエクソンモービルが示した2050年の需要は10億トン、シェルが6月末に公表した同じ年の見通しは7億トンだった。差は3億トン、2025年に世界で動いた量の68.7%にあたる。2社は同じ市場の同じ年を見ている。

成長が続くかどうかを決めるのは、需要が伸びるかどうかではない。液化と受入の設備はすでに買われる量を大きく上回っており、伸びを左右するのは、買い手がその値段を払い続けられるかどうかである。この記事は、その場で語られた数字を国際ガス連盟とシェルと国際エネルギー機関の公表値に突き合わせ、どこが合い、どこが合わないかを1つずつ確かめる。

FLNGとLNGは違う製品ではなく、液化の場所が違う

はじめに用語を整理する。LNGは天然ガスをおよそ摂氏マイナス162度まで冷やした液体で、原料のガスの産地は陸上でも洋上でもよい。FLNGは、その冷却を洋上で行う浮体式の設備である。2つは別の製品ではなく、同じガスを同じ温度の液体にしたものを指す。

従来型では、ガス田から陸上のLNG基地までパイプラインで運び、そこで液化して運搬船に積む。FLNGは洋上のガス田の真上で処理・液化・貯蔵・積み出しまでを行うため、陸までの長い輸出パイプラインを省ける。これにより、これまで手つかずだったガス田も開発できるようになった。

FLNGと従来型LNGの工程の違い
FLNGと従来型LNGの工程の違い

この違いは用語の問題にとどまらない。LNGは液体の製品で、FLNGはそれを洋上で作る設備である。以下で扱う数量はすべて製品としてのLNGであり、設備の種類とは関係しない。

4,000万トンから5,000万トンへの上積み、出資分の液化で説明できるのは540万トン

エクソンモービルでLNG事業を率いるピーター・クラーク氏は、2026年9月13日にバンコクで開かれた国際ガス会議ガステックで、同社が2030年に年5,000万トンを売ると述べた。従来の年4,000万トンから引き上げた数字である。市場そのものは現在の4億トン強から2030年に約5億トンへ伸び、2050年の需要の70%はアジアが占めるとした。

ここで区別が必要になる。5,000万トンは販売の目標であって、自社が液化する量ではない。第三者から買った船を転売しても、他社からシェアを奪っても達成できるため、新たに認可される液化能力1,000万トンを意味するわけではない。

上積み1,000万トンの中身を、出資している設備から数え直す。ゴールデンパスはカタールエナジーが70%、エクソンが30%を持ち、年約1,800万トンの規模で、2026年3月に生産を始め、4月22日に最初の船を出した。フル稼働は2027年末を見込む。生産量の70%はカタールエナジーの取引子会社が引き取るため、エクソンの取り分は30%の540万トンにとどまる。1,000万トンの上積みのうち、この1件で説明できるのは54%である。

クラーク氏はほかにモザンビークの第1期1,800万トンとパプアニューギニアの拡張600万トンを挙げた。いずれもまだ動いていない計画で、出資比率は示されていない。5,000万トンは2030年の市場5億トンの10%にあたり、そこへ届く道筋の半分近くは、自社の設備ではなく、他社から買う船と市場でのシェアに頼ることになる。

同じ2050年で3億トン、同じ2025年で1,498万トン食い違う

シェルはLNG取引の最大手で、6月30日に公表した見通しで2050年の需要を7億トン近く、2025年から約65%増と見た。建設中の計画に加えて年約2億トンの追加供給が必要になるとも記している。ガステックの現場報告は、この2社を「一方は2050年を語り、もう一方はこの冬を語っている」と整理した。

その整理は成り立たない。シェルの7億トンも2050年の数字だからである。エクソンの10億トンとの差は3億トンあり、2025年に世界で動いた量の68.7%、同じ年の米国の輸出1億1,070万トンの2.71倍にあたる。2社が食い違っているのは時間軸ではなく、同じ年の水準である。

ずれは足元にもある。国際ガス連盟の世界LNG報告2026年版は2025年の取引を4億3,698万トン・6.3%増としたが、シェルが7億トンの起点とした2025年は4億2,200万トンだった。差は1,498万トン、3.4%になる。シェルの「約65%増」は自社の4億2,200万トンを基準にすれば1.659倍で成り立つが、国際ガス連盟の実績を基準にすると1.602倍、60.2%増にしかならない。実績は丸めれば4億3,700万トンだが、エクソンが言う「4億トン強」はそれより3,700万トンほど低い。起点の取り方だけで、市場の大きさの印象は1割近く動く。

2050年の見通しの差と、2025年の実績をめぐる3つの数字
2050年の見通しの差と、2025年の実績をめぐる3つの数字

2030年までの伸び率も確かめておく。4億トンから5億トンへ5年で伸びるなら年4.6%、国際ガス連盟の2025年実績を起点に置くと年2.7%である。2025年の実績の伸びは6.3%だったから、エクソンの2030年の数字はむしろ減速を織り込んでいる。米国の比重も、2025年の1億1,070万トンは取引の25.3%で、2030年に30%へ上げるには1億5,000万トンと36%増が要る。どの年を起点に選ぶかで、同じ計画が加速にも減速にも見える。

結ばれた契約は年50万トン、しかも仕向け地は買い手が決められる

ガステックの初日に結ばれた契約は小さい。ベンチャー・グローバル (ニューヨーク証券取引所 VG) と中国燃気控股 (香港 0384.HK) が2026年9月14日に発表した、年50万トンを2030年から20年買う売買契約である。これで両社の長期の引き取りは年250万トンになるが、新しいのは50万トンだけで、20年を通しても合計1,000万トンにとどまる。年250万トンは、生産・建設・開発中を合わせて年1億トンを超えるベンチャー・グローバルの能力の2.5%でしかない。年50万トンは2025年の世界の取引の0.11%である。

ガステックの現場報告は、中国の買い手が契約することとその船が中国に着くことは同じではないと書き、仕向け地と転売の条件は確認できていないとした。その点は契約の形から読み取れる。報道によれば、この契約は子会社の中国燃気宏達能源貿易を通じて結ばれ、価格は米国のヘンリーハブに連動して液化の固定料金が上乗せされ、受け渡しは本船渡しである。本船渡しでは船積みの時点で所有権が買い手に移るため、どこへ運ぶかは買い手が決められる。中国燃気が国際的なエネルギー取引の基盤を作ると表明していることと合わせると、この年50万トンが中国で消費されるとは限らない。既存分は2023年2月に結んだ20年契約2本の合計年200万トンである。

供給元の顔ぶれも押さえておく。ベンチャー・グローバルは2022年に最初の設備で生産を始め、いまは米国最大級の輸出企業の1社で、LNG生産・天然ガス輸送・海運・再ガス化まで垂直統合している。最初の3事業であるカルカシュー・パス、プラークミンズLNG、CP2 LNGはいずれもルイジアナ州にあり、各設備で二酸化炭素の回収・貯留設備の開発を進めている。最高経営責任者のマイク・セイベル氏はルイジアナの各事業から低コストの米国産LNGを供給すると述べ、中国燃気の会長兼社長の劉明輝氏は国際的な取引の基盤づくりに触れた。買い手の中国燃気は、中国最大級の都市ガス事業者の1社である。都市部と町村のガス配管、ガス基地、貯蔵・輸送設備、物流網の投資・建設・運営を手がけ、家庭用・工業用・商業用に天然ガスと液化石油ガスを供給する。圧縮天然ガスとLNGの充填所も運営する。20年を超える事業で、配管ガスを軸に液化石油ガス、LNG、エネルギー関連サービス、ガス機器、厨房機器、店舗での小売まで広げた。

2.05〜2.46倍を払って、手に入った供給は平常の87.4%だった

強気の見通しが実際に通用するかを示したのがバングラデシュである。8月24日、政府調達を審議する閣僚委員会が、スポット取引での2隻の購入を承認した。ポスコから100万BTUあたり24.625ドルで9月13〜14日受け渡し、トタルエナジーズから24.25ドルで9月23〜24日受け渡しである。その1週間前にはBPから21.88ドルと21.78ドルの2隻を承認していた。4隻の平均は23.134ドルになる。ウクライナ侵攻前の水準は10〜12ドルだったから、24.625ドルは2.05〜2.46倍にあたる。

払った額に対して、手に入った量は増えていない。同国の供給は日量23億1,500万立方フィートで、平常の26億5,000万立方フィートに対して3億3,500万立方フィート、12.6%足りない。工場と発電所は配分を絞られる一方、国庫は確保できた船に過去最高の価格を払っている。1隻の積み荷を100万BTU換算で340万とすると、24.625ドルでは1隻8,370万ドル、侵攻前の11ドルなら3,740万ドルで、差は1隻あたり4,630万ドルになる。

必要な隻数も確かめておく。ガステックの現場報告は輸入ガスをまかなうのに月およそ10隻が要るとするが、同国の2026年の調達計画は長期56隻・新規契約30隻・スポット17隻の合計103隻で、月に直すと8.6隻である。供給が日量26億600万立方フィートまで戻った日の内訳は、国産が16億1,500万、LNGが9億9,100万で、LNGは供給の38.0%を占めた。輸入が細れば供給の4割近くが直撃を受ける。

危機のときに買い手が何を払うかは、これでわかる。払い続けられるかどうかはわからない。当サイトの見立てでは、この2つを混ぜることが長期の需要見通しを甘くする最大の原因である。

欧州は供給を確保したが、2022年には需要が550億立方メートル減った

欧州は最初の問題を解き、2つ目を解いていない。ロシアのパイプラインがおおむね消え、ノルウェー産と域内生産が横ばいか減るなかで、足りない分は船で届くようになった。そこから先は世界の船の奪い合いになり、欧州はアジアと競り合いながら、供給の多くを1つの輸出国の設備に頼る。米国には民間の売り手が十数社あり、国営のガスプロムとは違う。ただし共通するのは同じ原料ガス価格・同じ湾岸の設備・同じ暴風雨・同じ航路・同じ政策である。相手が友好国でも、一極集中の危うさは変わらない。

パイプライン供給の減少が価格の負担に変わり、2通りで決着する流れ
パイプライン供給の減少が価格の負担に変わり、2通りで決着する流れ

その負担は2通りで決着する。誰かが費用を負担するか、消費を調整するかである。価格が上がれば操業が止まるわけではなく、2つは同時に起きる。

2022年の欧州では、その両方が実際に起きた。国際エネルギー機関の集計では、EUのガス需要は550億立方メートル・13%減り、記録上最大の下げ幅になった。550億が13%にあたることから、2021年の需要は4,230億立方メートルと逆算できる。内訳は、産業が250億立方メートル・約4分の1の減少。そのうち約130億立方メートルは生産そのものが止まった分で、肥料がその半分近くの約65億立方メートルを占めた。暖冬が建物の暖房を180億立方メートル、新設の再生可能エネルギーが発電用を約110億立方メートル減らし、産業用の約70億立方メートルが石油に切り替わった。産業・天候・再エネの3つを足すと540億立方メートルで、公表の550億との差10億は他の部門にあたる。域内生産とパイプライン供給がより速く減るため、欧州はガス消費全体を減らしながらLNG輸入を増やすことができる。実際、2025年に輸入が最も伸びたのは欧州で2,610万トンの増加だった。

いまの価格も確かめておく。9月16日のTTFは1メガワット時あたり80.97ユーロ近辺だった。1メガワット時は100万BTUの3.412倍にあたるから100万BTUあたり23.73ユーロ、同日のユーロ・ドル相場1.1537を掛けると27.38ドルになる。ガステックの現場報告は今月28ドルを超えたとするが、28ドルに届くにはTTFが82.81ユーロ必要で、その日と為替の取り方によって28ドルの前後になる。アジアのスポット価格も危機の間に20ドルを超えた。ドイツとポーランドは石炭を燃やせるため、切り替えの余地は残る。欧州が船で確保した供給の代金は、産業の競争力という形で払われている。この2つ目の請求書は、最初の請求書より遅れて届く。

設備は余っている。液化能力と取引量の差は8,752万トン

最後に、供給側の制約がどこにないかを数字で押さえる。国際ガス連盟によれば、2025年末の液化能力は年5億2,450万トン、再ガス化能力は年11億1,350万トンで、受入能力は輸出能力の2.123倍、同年の取引量に対しては2.548倍ある。液化能力と取引量の差だけで8,752万トンある。2025年には年6,840万トンの液化計画が最終投資判断に至り、年間ベースで史上2番目の規模になった。輸入国・地域は50に広がり、カナダとモーリタニア・セネガルが新たに輸出国に加わった。

受入能力・液化能力と実際の取引量
受入能力・液化能力と実際の取引量

ただしこれは名目の能力である。取引量を能力で割った83.3%を稼働率と読んではいけない。余った受入能力は買う義務ではなく、船をどこへ向けるかの選択肢の広さを意味する。6.3%増から逆算すると2024年の取引は4億1,108万トンだった。

2026年の取引量そのものは伸びない可能性がある。ホルムズ海峡の混乱で、中東での衝突が始まって以降、世界の月間供給のおおむね5分の1が止まっている。シェルのガス事業を率いるセドリック・クレマーズ氏はこれを「経済のあらゆる分野に混乱が連鎖する、システム全体への衝撃」と呼んだ。海運が再開すれば2026年は2025年並みにとどまり、アジア各国の輸入の鈍化が供給の減少を吸収した面もある。シェルは2050年に南アジアと東南アジアが輸入の約40%を占めると見ている。原油と航路の側から見た同じ構造はサウジの輸出3経路が止まったときの日本の調達原油安と金利の関係で扱った。電力側の受け皿については蓄電事業 体系解説にまとめてある。

船が手に入ることと、顧客がその費用を負担し続けられることは別の問題である。前者は再ガス化能力11億1,350万トンが示すとおり、すでに答えが出ている。後者は、バングラデシュが2.05〜2.46倍を払って平常の87.4%しか流せなかったことと、欧州が2022年に550億立方メートルの需要を失ったことが示すとおり、まだ答えが出ていない。2028年に誰が設備を動かしているかを決めるのは、液化計画の本数ではなく、買い手が払える価格のほうである。

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