パランティア・テクノロジーズの開示にFDEの語はなく、現場に送る技術者の費用は部門の費用に含まれるとみられる。SOMPOホールディングスと組む日本の合弁会社は2024年度、売上高を44.1%伸ばしたが修正利益は28.0%減った。

パランティア・テクノロジーズの2025年12月期の年次報告書(10-K)と2026年4〜6月期の四半期報告書(10-Q)には、FDE(フォワード・デプロイド・エンジニア)という言葉が一度も出てこない。記されているのは、「利用者のもとに入り込む」という方針、無償か低価格で行う試験導入、数日で実務の仕組みを動かす「ブートキャンプ」である。決算書では、顧客の現場に技術者を送る費用は別建てで示されていない。部門ごとの費用を売上高と並べると、パランティアの商業部門と、SOMPOホールディングスとの日本の合弁会社とで、違う姿が見えてくる。

パランティアのFDEは顧客の現場で働き、試験導入の費用は自社が負う

FDEの仕事の中身は、同社の求人に記されている。職名はFDSE(フォワード・デプロイド・ソフトウェア・エンジニア)である。2025年3月に掲載された、東京勤務で日本の政府機関を担当する技術者の募集によると、この職種は顧客の担当者と一緒に働き、顧客が抱える最も大きな問題を素早くつかんで、データを使った解決策を設計し、実装する。仕事は顧客の現場で進めることが多く、勤務時間の25〜75%を顧客先への出張に充てられることを応募の条件にしている。日本語と英語の両方ができることも求める。

パランティアは年次報告書の事業の説明でも、この働き方に触れている。顧客の複雑な課題を解くには現場の問題を身をもって知る必要があるとして利用者のもとに入り込み、さまざまな業種の現場で積んだ数万時間に及ぶ経験を製品の開発に生かすという。販売の手順もこれに沿う。見込み客には試験導入やブートキャンプを無償か低価格で提供し、その費用は多くの場合自社で負う。その後の契約につながる保証はない。商談から契約までの期間は6〜9か月が多く、1年以上かかる顧客もある。ブートキャンプについては、顧客の本物のデータで、実務に使える仕組みを数日で動かせると説明している。

同社の製品の中核にあるオントロジー(概念の体系)も、10-Kに定義がある。社内のデータと判断の基準、実行する処理を1つのモデルにまとめる仕組みで、利用者はそれを土台に部門をまたぐ業務の手順を組み立てる、としている。

商業部門の売上高は2年で2.07倍、費用は1.47倍にとどまった

パランティアは事業を政府部門と商業部門(民間企業向け)に分け、売上高から売上原価と販売費(株式報酬を除く)を引いた額を貢献利益として開示している。四半期報告書によると、既存の顧客を担当する技術者が導入と運用を担い、その人件費は顧客ごとにかけた人数と時間に応じて各部門に割り振られる。現場に送る技術者の人件費も、ここに含まれると読める。

商業部門の数字を並べると、費用は売上高ほどには増えていない。2023年から2025年にかけて、商業部門の売上高は10億280万ドルから20億7,316万ドルへ2.07倍になったが、部門に帰属する費用は4億8,221万ドルから7億653万ドルと1.47倍にとどまった。貢献利益率は52%から66%に上がった。2026年4〜6月期は差がさらに開いた。売上高は前年同期の4億5,071万ドルから110%増えて9億4,543万ドルになったのに対し、費用は1億6,314万ドルから29.0%増の2億1,049万ドルにとどまり、貢献利益率は78%になった。

商業部門売上高 (億ドル)費用 (億ドル)貢献利益率
2023年10.034.8252%
2025年20.737.0766%
2025年4〜6月期4.511.6364%
2026年4〜6月期9.452.1078%

会社全体の売上原価は、4〜6月期に前年同期より1億400万ドル(54%)増えた。最も大きいのは外部のクラウドの利用料の8,900万ドル増で、株式報酬は1,300万ドル増、外注費は1,300万ドル減だった。正社員は2025年6月末の4,164人から2026年6月末の4,401人へ5.7%増えたのに対し、同じ四半期の売上高は93%増えた。直近12か月に売上高を計上した顧客の数(政府機関を含む)は、2025年6月末の849から2026年6月末には1,049になった。技術者を顧客先に送る売り方は変えていないが、人員は売上高ほど増えていない。

伸びは米国に偏っている。米国の商業部門の売上高は7億6,400万ドルで、前年同期の3億600万ドルから149%増えた。商業部門全体から米国分を引くと、米国以外は約1億4,500万ドルから約1億8,100万ドルと、約25%増にとどまる(編集部の計算。米国分が百万ドル単位で丸めた値のため概数)。日本の顧客向けの売上高は、この米国以外の数字に含まれる。1人あたりの売上高を日本の情報サービス大手と比べた分析は、4〜6月期の決算書類を照合した記事で扱った。

SOMPOとの合弁会社は2024年度、売上高44.1%増で修正利益は28.0%減

日本でパランティアのソフトを売るのは、合弁会社のパランティア・テクノロジーズ・ジャパン(東京都渋谷区)である。パランティアが2019年11月にSOMPOホールディングスと共同で設立した。SOMPOの有価証券報告書によると、SOMPOは議決権の50.0%を持ち、この会社を持分法適用関連会社として扱っている。資本金は54億3,200万円、事業はソフトウェア販売である。議決権の半分をSOMPOが持っていても、パランティアは2022年11月に支配権を得たとして、この会社を連結している。パランティアは10-Kのリスク要因で、この合弁の取り決めにより、日本では単独での販売やサービスの提供が制限されると説明している。

合弁会社の業績は、パランティアの決算には単独では出てこない。数字が載るのはSOMPOの有価証券報告書の役員報酬の欄である。SOMPOはデジタル分野を担う役員の業績連動報酬の指標に、合弁会社単体の売上高と修正利益を使い、年度ごとの目標と実績を開示している。SOMPOは、これらの目標と実績が、公表している重要業績指標や財務諸表の数値から一部修正した値だと注記している。

合弁会社単体売上高の目標売上高の実績修正利益の目標修正利益の実績
2023年度1,953万ドル3,367万ドル475万ドル1,138万ドル
2024年度5,174万ドル4,854万ドル1,067万ドル819万ドル

2024年度の売上高は4,854万ドルで前年度より44.1%増えたが、修正利益は819万ドルと28.0%減った。修正利益を売上高で割った比率は33.8%から16.9%に下がった。目標に対する達成率は売上高が93.8%、修正利益が76.8%で、どちらも目標に届いていない(いずれも編集部の計算)。2023年度は両方とも目標を大きく上回っており、目標を引き上げた2024年度に利益が減った。費用の内訳は開示されておらず、利益が減った理由を現場の技術者の人件費に結びつける材料はない。

合弁会社の2024年度の売上高は、パランティアの2024年の売上高28億6,551万ドルの1.7%、米国と英国を除く地域の売上高6億6,069万ドルの7.3%にあたる。SOMPOの年度とパランティアの暦年とで期間の区切りが一致しない可能性があり、比率は目安である。

SOMPOは損保と介護で使う一方、パランティア株の保有を2年で4分の1強に減らした

SOMPOは合弁会社の出資者であると同時に、大口の利用者でもある。パランティアが2025年8月12日に出した発表によると、SOMPOでは日本で8,000人超がパランティアのソフトを使っている。2020年から介護施設で同社のデータ統合ソフトを使い、高齢者の介護の支援や行政への報告、急いで対応が必要な入居者の把握に役立てている。損害保険ジャパンは保険金の支払い手続きを全面的に作り直すのに使い、不正の検知や事案の振り分けから、その後の監視までの各段階に組み込んだ。保険の引き受けではAIエージェントがリスクを評価し、判断の材料を示す。SOMPOはこれで年1,000万ドルの収支改善を見込むが、実績は開示されていない。契約の拡大は、5,000万ドルの拡大契約を結んだ2023年に続き2回目である。

SOMPOはその一方で、パランティア株を売っている。有価証券報告書の特定投資株式の欄によると、保有株数は2024年3月末の約4,083万株から、2025年3月末に約2,083万株、2026年3月末に約1,083万株へ減った。2年で当初の26.5%になった(編集部の計算)。保有の目的は「グループ重要戦略(デジタル領域)の実現に向けた資本業務提携」と記載されている。2026年3月末でも、パランティア株はSOMPOの政策保有株の中で貸借対照表の計上額が最も大きい。

富士通は2020年から合弁会社の技術パートナーで、2023年に提携を海外へ広げた

日本でのもう1つの販路が富士通である。富士通が2023年12月8日に出した発表によると、両社は2020年6月に日本市場での提携を結び、富士通は合弁会社の独占的な主要技術パートナーになった。同じ発表で提携を海外へ広げ、パランティアのデータ統合ソフトと生成AIの基盤ソフトを、富士通の事業群「ユーバンス」のデータ基盤に組み込むとした。最初に扱うのは、環境・社会・企業統治を重視する経営とサプライチェーン管理の分野で、日本で2023年度、北米・欧州・アジア太平洋で2024年度にサービスを始めるとしていた。パランティアの10-Kも、合弁会社を通じたこの提携を新しい協業の例に挙げている。

日本はパランティアにとって、設備の面でも米国に次ぐ拠点である。10-Kによると、2025年末の有形固定資産のうち日本にある分は706万ドルで全体の14%を占め、英国の10%を上回る。ただ、2024年末の918万ドル(23%)からは減った。

パランティアの商業部門では、2年間の費用の伸びが売上高の伸びの半分に満たなかった。日本では、SOMPOとの合弁会社が売上高を4割余り伸ばしながら利益目標に届かず、SOMPOはパランティア株の保有を2年で4分の1強に減らしている。合弁会社の2025年度の売上高と修正利益は、SOMPOが2027年6月に提出する有価証券報告書の役員報酬の欄に載る見通しだ。パランティアの7〜9月期の四半期報告書は例年11月上旬に提出され、米国以外の商業部門の伸びはそこで確かめられる。

※2026年10月4日、一次資料に基づき全面的に書き直しました。旧版の「パランティアのAI基盤ソフトを使う企業の顧客が前年同期比53%増の421社」は開示書類で確認できず、開示されている顧客の数は政府機関を含む全体で1,007(2026年3月末)でした。調査会社の調査とされた数字(本番運用に移れた企業の割合、企業向けAIソフトへの投資額、ナレッジグラフを使う検索の精度)、経済産業省の調査とされた数字、パランティアの技術白書・統合報告書とされた数字(試作品の完成まで14日、経営判断にかかる時間の短縮など)は、いずれも出所の文書を確認できなかったため削除しました。説明文にあった他社の記者による執筆という記載も誤りのため削除しました。日本企業の部分は、SOMPOホールディングスの有価証券報告書の開示に基づく内容に改めました。

投資家向けの個別銘柄レポートと技術デューデリジェンスのご相談は、編集部のお問い合わせ窓口までお寄せください。