米アマゾン・ドット・コムが株主への手紙で示した社内AIの効果は、40人で1年かかる作業を技術者6人が76日で終えた1件だった。トークンの数は顧客の利用の伸びを示す箇所にだけ出てくる。従業員は前年同期より3%多い。

英紙フィナンシャル・タイムズは2026年5月、アマゾンの社員がAIの利用量の順位表で上位に入ろうと、トークン (AIが文章を処理する単位) の消費量を水増ししていると報じた。同紙の5月下旬の続報によると、この順位表は社員の一部が作ったもので、アマゾンは公式の道具ではないと説明し、その後取りやめになった。アマゾンの上級副社長は社員に、水増しで費用がかさんだと説明したという。ただ、これらは報道と社員の証言によるもので、アマゾンの開示書類には社員ごとのトークン消費量も、何に使ったかも書かれていない。株主への手紙は、人員削減にも本社部門の人数にも触れていない。そこで本稿は、アマゾンが年次報告書・四半期報告書・決算発表・株主への手紙・公式ブログで社内AIの効果をどう示したかを読み、日本で同じ種類の数字を公表しているパナソニック コネクト、LINEヤフーの2社と比べた。

アマゾンが株主に示した社内AIの効果は、6人・76日で終えた開発の1件だけ

アンディ・ジャシーCEOが2026年4月9日に公表した株主への手紙は、AIへの巨額投資が過熱ではない理由を6つ挙げ、別の節で事業を刷新した例を紹介している。社内の開発がAIでどれだけ速くなったかを数字で示したのは、そのうち生成AIの基盤サービス「ベッドロック」の推論エンジンを刷新した1件だけだった。

手紙によると、ベッドロックは想定より速く利用が増え、設計を改めたエンジンが必要になった。同社は、このエンジンは通常なら40人で約1年かけて慎重に作るものだと見積もった。実際には技術者6人が、プログラム作成を手伝う同社のAIエージェント「キロ」を使い、新しいエンジン「マントル」を76日で仕上げた。

6人が76日働くと延べ456日分で、1人が1年 (365日) 働く量に直すと約1.25人分になる。40人で1年 (40人分) と比べると約32分の1である。ただし40人分は同社自身の見積もりで、同じ作業を両方のやり方で試した結果ではない。手紙は6人を優秀な技術者だと説明しており、人選の効果とAIの効果も分けていない。手紙は、社員がどれだけAIを使ったか、何トークンを消費したかには触れていない。

トークンの数は、ベッドロックの利用の伸びを示す指標として開示される

アマゾンの開示にトークンが出てくるのは、社内の利用量ではなく、顧客がAWS (アマゾン・ウェブ・サービス) で使った量を説明する箇所だ。株主への手紙は、マントルを土台にしたベッドロックの利用が2026年3月に前月のほぼ2倍に伸び、1〜3月期に処理したトークンがそれまでの全ての年の合計を上回ったと書いた。4月29日発表の1〜3月期決算も、ベッドロックで処理したトークンがそれまでの全ての年の合計を上回り、顧客の支出が前の四半期より170%増えたとした。

アマゾンにとって、トークンは売る商品の量を測る単位である。顧客がAIを使うほど処理するトークンが増え、AWSの売上が増える。社内の利用はその逆で、使うほど費用がかさむ。同じ単位が、外に売れば売上、社内で使えば費用になるが、開示に載っているのは売上にあたる数字だけだ。

キロについても、開示が示すのは顧客の数字である。1〜3月期の決算発表は、キロを使う開発者が前の四半期の2倍を超え、法人顧客の利用が約10倍になったとした。4〜6月期の発表は、利用が前の四半期の3倍になったとした。AWSのAI事業の年換算の売上高は、株主への手紙では150億ドル超、7月30日発表の4〜6月期決算では250億ドル超だった。

本社部門で約3万人の削減を発表した後も、従業員は前年同期より3%多い

人員について、アマゾンの説明は時期によって変わっている。ジャシー氏は2025年6月17日の社員向けの文書で、AIを全社で広く使って効率が上がれば、今後数年で本社部門の人員は減るとの見通しを示した。社内で開発中か開発を終えた生成AIのサービスやアプリは1000を超えるとも書いた。

その後の2回の削減の発表は、仕事がAIに置き換わったことを理由に挙げていない。ベス・ガレッティ上級副社長は2025年10月28日、本社部門で約1万4000人分の職を減らすと発表し、官僚主義をなくし、組織の階層を減らして、優先する事業に経営資源を移すためと説明した。背景として、現在のAIはインターネット以来の大きな変革をもたらす技術で、企業が新しいことを生み出す速さを上げているとし、だからこそ階層の少ない身軽な組織が必要だと述べた。2026年1月28日に発表した約1万6000人分の削減では、AIに触れていない。同社は、数か月ごとに大きな削減を繰り返す計画はないとした。

2回を合わせると約3万人分で、2025年末の従業員157万6000人の約1.9%にあたる。決算発表に載る従業員数 (正社員とパートタイム。契約社員と臨時従業員は除く) は、2025年6月末の154万6000人から2026年6月末の159万5000人へ4万9000人、3.2%増えた。この数には物流拠点の従業員が含まれ、本社部門だけの人数は開示されていない。削減の分を物流など別の部門の採用が上回ったのか、本社部門の中でも採用が続いたのかは、開示からは分からない。

費用の面では、2025年12月期の年次報告書によると、計画した人員削減に伴う退職関連費用として通年で約27億ドルを見積もり、計上した。7〜9月期の四半期報告書は1〜9月期の計上を約20億ドル (うち7〜9月期が約18億ドル) とし、年次報告書は10〜12月期を7億3000万ドルとしている。主に技術・インフラ費、物流 (フルフィルメント) 費、販売・マーケティング費に計上された。2026年1〜3月期と4〜6月期の四半期報告書には、退職関連費用の記載がない。

技術・インフラ費は売上より速く伸びている

社内でAIを使う費用は、アマゾンの損益計算書では独立した費目になっていない。最も近いのは、サーバーなどの減価償却費と技術職の人件費を含む「技術・インフラ費」である。年次報告書によると、この費用は2024年の885億ドルから2025年に1085億ドルへ23%増え、売上高に占める割合は13.9%から15.1%に上がった。2026年1〜6月期は627億ドルで、前年同期より25%増えた。同社は増加の主因を、減価償却費を含むインフラへの支出と説明している。

設備投資も膨らんでいる。設備投資 (現金支出ベース) は2024年の777億ドルから2025年に1283億ドルへ増え、2026年1〜6月期は963億ドルと前年同期の556億ドルの約1.7倍だった。ジャシー氏は手紙で、2026年に投じる約2000億ドルは勘で決めたものではなく、AWSの設備投資の相当部分は既に顧客との契約で裏付けられていると書いた。これらはAWSの顧客向けの設備が中心で、社員がAIを使う費用がどれだけ含まれるかは示されていない。水増しでかさんだと報じられた費用の規模も、開示の数字からは測れない。

パナソニック コネクトは効果を削減時間で公表、利用回数と1回あたりの時間を掛けると合わない

日本では、社内AIの効果を数字で毎年公表している例として、パナソニック ホールディングス (銘柄ページ) の事業会社パナソニック コネクトがある。同社は2023年2月に社内用のAIアシスタントを使い始め、国内の全社員約1万1800人に使うよう促してきた。公表している指標はトークン消費量ではなく、AIで減った労働時間である。

2026年7月29日の同社の発表によると、2025年度の削減時間は78.8万時間で、年間の総労働時間の3.4%にあたる。2030年に総労働時間の10%をAIで減らす目標を掲げた。78.8万時間を3.4%で割ると総労働時間は約2318万時間で、国内の全社員1万1800人で割ると1人あたり約1,964時間になる。年間の労働時間として妥当な水準で、3.4%は国内の全社員の労働時間に対する割合とみられる。削減時間を同じ人数で割ると、1人あたり年間約67時間である。

ただ、同じ発表にあるほかの数字から計算すると、公表の削減時間と合わない。

指標2024年2025年度
公表の削減時間44.8万時間78.8万時間
利用回数240万回361万回
1回あたりの削減時間28分33分
利用回数×1回あたり112万時間約198.6万時間
計算と公表値の比2.50倍2.52倍
公表値÷利用回数11.2分約13.1分

※下の3行は本稿の計算。2024年は2025年7月7日、2025年度は2026年7月29日の同社の発表による。

利用回数に1回あたりの削減時間を掛けると、2年とも公表値の約2.5倍になる。比がほぼ同じなので計算の誤りとは考えにくく、1回あたりの時間を出した集計の範囲 (時間が減ったと答えた回答に限るなど) が、削減時間の集計と違うとみるのが自然だ。しかし発表は、削減時間を「生成AI活用データを分析した結果」と書くだけで、社員の自己申告か推計かを示していない。

前年比の数字にも食い違いがある。2025年7月の発表は「2024年」の数字で、年度とは書いていない。2026年7月の発表は「2025年度」の数字で、利用回数については「2024年度より1.6倍に増加」と明記している。同じ一覧に並ぶほかの3つの指標の「昨年比」も2024年度 (2024年4月〜2025年3月) が基準とみられ、その年度の削減時間と利用回数そのものは公表されていない。2年分の公表値から計算すると、削減時間は1.76倍、利用回数は1.50倍で、発表が示した2倍、1.6倍に戻らない。1回あたりの時間 (1.18倍) と月間ユニークユーザー率 (49.1%から61%へ11.9ポイント増。発表に定義はない) は、発表が示した1.2倍、12ポイント増と合う。2025年7月の発表の「2024年」は暦年とみられる。本稿が計算した1.76倍と1.50倍は、暦年と年度という期間のずれた数字どうしの比で、同社の前年比 (2025年度と2024年度の比較) とは基準が違う。

LINEヤフーは効果を利用率と削減見込みの工数で示すが、決算資料に生産性の数字はない

LINEヤフーは2025年7月14日、全従業員約1万1000人を対象に、業務で生成AIを使うことを前提にした働き方を始めると発表した。全従業員が生成AIを100%活用し、3年間で業務生産性を2倍にすることを目指す。同年6月から全従業員に米オープンAIの対話型AI「チャットGPT」の企業向け版のアカウントを配り、業務の3割を占める調査・検索、資料作成、会議から手を付けた。

その後の発表で示された数字は2つある。2026年2月10日の発表は、業務の性質上AIを使いにくい社員を除き、ほぼ100%の社員が生成AIを業務で使っていると書いた。同じ発表で、人事総務の部門が2026年春までにAIツール10件を導入し、部門全体で「月間約1,600時間以上」の工数を減らす見込みだとした。年に直すと約1万9200時間になる。これは見込みで、実績ではない。部門の人数や総労働時間は示されておらず、この見込みが部門の労働時間のどれだけにあたるかは計算できない。

一方、2025年7〜9月期から2026年4〜6月期までの4四半期の決算説明会資料には、社内の生産性や削減時間の数字は載っていない (本稿が資料の文字を検索した結果)。決算資料で生成AIが出てくるのは、自社サービスのAI化の進み具合や、メディア事業の費用が増えた理由としての「生成AI関連費用」などで、社内の生産性の数字としては出てこない。3年で2倍にするとした業務生産性を何で測るのかも、まだ示されていない。

社内AIの効果は、時間・人員・費用の数え方が示されて初めて比べられる

アマゾン、パナソニック コネクト、LINEヤフーの3社とも、社員のトークン消費量を効果の指標として公表していない。アマゾンが株主に示したのは開発期間を縮めた1件で、人員削減は仕事がAIに置き換わった結果としては説明していない。開示の中でトークンの数が出てくるのは、顧客の利用の伸びを示す箇所である。パナソニック コネクトは削減時間を毎年公表するものの、利用回数と1回あたりの時間を掛けた値が公表値の2.5倍になり、数え方が分からない。LINEヤフーは利用率と削減見込みの工数まで示したが、3年で業務生産性を2倍にするという目標を何で測るかは開示していない。

利用量は増やせば費用がかさみ、報道が伝えたように水増しもできる。投資家が社内AIの効果を読むときに手がかりになるのは、時間、人員、費用といった会社の損益とつながる数字だ。その数え方が示されているかどうかが、会社どうしを比べる前提になる。アマゾンの人員削減の発表と従業員数の推移は、経営トップ15人のAIと雇用に関する発言を並べた記事でも扱っている。

※2026年10月20日、一次資料に基づき全面的に書き直しました。旧版は英紙の報道をもとに、アマゾンが社員のトークン消費量を事実上の評価基準にし、開発者の8割以上に週ごとの利用目標を課したと書きました。しかし、アマゾンの開示書類・決算発表・公式ブログでは確かめられないため、報道があったことだけを残しました。旧版はGPT-4oのAPI価格を100万トークンあたり入力5ドル・出力15ドルとしましたが、これは発売時 (2024年5月) の価格で、現在は入力2.5ドル・出力10ドルです。無駄な支出が年に数百万〜数千万ドルになるとした試算は、前提に根拠がないため削除しました。日本への影響として国内企業の名を挙げた段落は、社内AIの効果を数字で公表している2社の開示に置き換えました。

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