ロボットがロボットを組む生産ラインが中国で動き出した。だが会社自身の2つの発表を並べると、自由度も演算も電池も昨年より数字が下がっている。9億ドルという調達額の中身と、日本の部品会社が占める位置を提出書類から確かめた。

2026年9月8日、中国広州で1体の人型ロボットが組み立てを終え、自力で歩いて生産ラインから出てきた。作ったのはシャオペン。ニューヨークと香港に上場する中国の新興電気自動車メーカーで、自動運転も手がける。創業者で会長兼最高経営責任者のホー・シャオポン氏は交流サイトに、「先進的な汎用人型ロボットの自動化生産ラインを世界で初めて立ち上げた。ロボットを使ってロボットを自律的に量産する」と書いた。前例のない領域を一から解いたこと、立ち上げによって人型ロボットが規模を広げて現実の世界に踏み出す用意が整ったこと、1体目が組み上がって自ら歩き出す姿に心を動かされたこと、危険で反復的で敬遠される仕事を引き受けて生活を良くしてほしいこと、いつか伴侶や友人、家族の一員になるかもしれないこと、そして関わった全員への感謝と「IRON を歓迎する」という一文が続く。

本誌はホー・シャオポン氏が挙げた点を1つずつ、会社の公式発表、米証券取引委員会に提出された書類、金融庁のEDINET、経済産業省の統計、米連邦準備制度の統計と突き合わせて確かめた。一致する記述もあれば、条件が付くものも、報道と食い違うものもあった。

投稿の全項目と公式発表の対応
投稿の全項目と公式発表の対応

「世界初」に付いている2つの条件

公式発表の見出しは「先進的な汎用人型ロボットとして世界初」である。この「先進的な汎用」という条件が効いている。ロボットがロボットを組む工場という考え方そのものは、米フィギュアAIが2025年3月15日に BotQ の名前で公表しており、初期の生産能力は年1万2,000体、その後1日1体から1時間1体へ速度を24倍にしたと同社は説明している。人型ロボットが部材を運び、主要な部品を組み付ける工程も同社が先に示した。

新しいのは自動化した生産ラインという形と、自動車の品質管理をそのまま持ち込んだ点である。会社は中核工程の自動化率が8割を超えると述べた。ただし何を中核工程と呼ぶかの定義は示していない。全工数の8割なのか、指定した数十工程のうちの8割なのかで意味がまるで違う。

もう一つ、報道が付けた但し書きがある。生産ラインの立ち上げは量産に入ったことを意味しない、と現地の専門媒体は明記した。会社の発表でも量産開始は2026年末で、まず自社の店舗と事業所に置き、中国と海外での発売は2027年である。投稿の「規模を広げる用意が整った」という表現と、量産はまだ始まっていないという事実の間には、数か月の開きがある。

昨年11月に歩いた試作機と、いま流れている量産機は同じではない

確かめておきたいのは、ロボット本体の中身である。会社は2025年11月5日の技術発表会で次世代 IRON を公開した。あまりに滑らかに歩いたため、交流サイトでは中に人が入っているという疑いが広がり、ホー・シャオポン氏は舞台上で脚を切り開き、背中の覆いを開けて機械の構造を見せた。この試作機の公表仕様は、全身82の自由度、片手22の自由度、業界で初めて全固体電池を採用、チューリングAIチップ3個で実効演算性能3,000 TOPS だった。

昨年11月の試作機と量産版の仕様の差
昨年11月の試作機と量産版の仕様の差

9月8日の公式発表が並べた量産版の仕様は、全身76の自由度、片手21の自由度、チューリングAIチップ3個で最大2,250 TOPS である。自由度は全身で6つ、片手で1つ減った。チップの数は3個で変わらないのに、実効演算性能の表記だけが25.0%下がっている。会社は数字の定義も、変わった理由も説明していない。同じ2025年11月の発表資料の中では、チップ4個を積む自動運転タクシーにも3,000 TOPS という数字を当てており、この演算性能の表記が製品間で一貫した尺度になっていないことも見て取れる。

電池の変更はさらにはっきりしている。量産版は全固体ではなく、固体と液体を混ぜた半固体電池を積む。理由も開示されている。複数の電池メーカーから全固体電池を調達しようとしたが、搭載の要件を満たす製品を確保できなかった。全固体電池は依然として研究段階にあり、年末の量産に間に合わせるため商用化の確実性を優先した。主な調達先には中国の中堅電池メーカーを選び、他社の試作品の評価も続けている。

披露した試作機と売る量産機の差は、この産業では珍しくない。ただ、昨年の発表で「業界初の全固体電池」を掲げた会社が、10か月後に半固体で量産へ入るという事実は、人型ロボットの性能見通しを電池の進歩と結び付けて考えることの危うさを示している。

「9億ドル調達」のうち、外から入るのは6億ドル

資金の側も、公表された見出しと中身が違う。8月24日、シャオペンのロボット事業が9億ドル超を調達し、増資後の評価額は63億ドル超になったと発表された。中国のフィジカルAIの分野で1回の調達としては過去最大だと会社は説明する。この取引は香港の上場規則に沿った公告として整理され、そのまま米証券取引委員会に提出されている。書類には引受先ごとの株数と金額が書かれている。

9億ドルの引受先ごとの内訳
9億ドルの引受先ごとの内訳

内訳はこうなる。シャオペン側の子会社がA種優先株98,675,200株を2億ドル。IDGキャピタルが主導しガオロン・ベンチャーズが参加、テンセントアリババが戦略投資家として入る投資家4者が、A種優先株296,025,600株を6億ドル。経営陣2名が普通株49,337,600株を1億ドル。つまり外部から新しく入る資金は6億ドルで、残る3億ドルはシャオペン自身と経営陣が出したものである。シャオペンが出す2億ドルは、6月末の現金・短期投資・定期預金を合わせた404億8,000万元 (59億7,000万ドル) の3.4%にあたる。

さらに、4か月以内に追加の投資家がA種優先株7,400,640株を最大1,500万ドルで引き受ける余地が残されている。この1,500万ドルは9億ドルには含まれない。

経営陣が123.35ドルで取得した、5億ドル分の新株予約権

書類の中で最も目を引くのは、金額が3桁しかない一行である。経営陣2名は、普通株を最大246,688,000株引き受けられる新株予約権を、合計123.35ドルで取得した。この123.35ドルは対象となる株式の額面の合計にちょうど等しい。行使価格は合計5億ドルで、1株当たりに直すと投資家の払込単価と同じである。

経営陣が取得した新株予約権の条件
経営陣が取得した新株予約権の条件

一方はホー・シャオポン氏が全額出資する会社で、普通株39,470,080株を8,000万ドルで引き受け、98.68ドルで197,350,400株分の新株予約権を得た。行使価格は4億ドル。もう一方は名誉副会長で共同社長のブライアン・グー氏の会社で、普通株9,867,520株を2,000万ドル、24.67ドルで49,337,600株分の新株予約権を得た。行使価格は1億ドル。いずれも香港の上場規則にいう関連者取引にあたると書類は明記している。

権利を行使できるのは、発行日以後、この子会社が新規上場する日の前営業日までである。上場が視野に入ってから払い込めばよい設計になっている。書類はこの条件の妥当性についても説明している。経営陣は投資家と同じ50億ドルの増資前評価で払い込んでおり、その出資が外部資金を呼び込む要因になったと記す。行使価格を後払いにできる利点はあるが、投資家のA種優先株には償還請求権、残余財産の優先分配権、新株引受権、優先買取権、共同売却権、希薄化防止条項が付く一方、経営陣の普通株にはそれらが付かない。加えて2名はそれぞれ、この子会社に対する競業避止の約束を結んだ。

1株2.0269ドルという単価が、6つの枠すべてで共通している

払込額を株数で割ると、6つの枠すべてが同じ単価に揃う。投資家の6億ドルを296,025,600株で割ると1株2.026851ドル。シャオペンの2億ドルを98,675,200株で割っても、経営陣の1億ドルを49,337,600株で割っても、行使価格5億ドルを246,688,000株で割っても、追加投資家の1,500万ドルを7,400,640株で割っても、同じ数字が出る。

1株当たり価格から復元した株式数と持ち分
1株当たり価格から復元した株式数と持ち分

単価が1つに定まると、開示されていない発行済株式数が逆算できる。増資前の評価額50億ドルをこの単価で割ると2,466,880,000株。増資後の評価額63億ドルを割ると3,108,268,800株で、ちょうど増資前の1.26倍になる。増える641,388,800株は増資前の株式数の26%にあたり、そのうち引き受けられるのが18% (4%+12%+2%)、残る8% にあたる197,350,400株が従業員向け報酬枠として使われる計算になる。書類が「報酬制度の枠を使い切った場合」と断っている前提と一致する。

各枠が区切りのよい比率に収まる点も確かめられる。シャオペンの引き受けは増資前の株式数の4%、投資家4者は12%、経営陣の普通株は2%、新株予約権は10%、追加投資家は0.3%、報酬枠は8%。増資直後の持ち分はシャオペンが82.54%、投資家4者が9.52%、経営陣2名が1.59%、報酬枠が6.35%になる。

新株予約権をすべて行使すると、シャオペンは76.47%へ下がり、経営陣2名は8.82%、投資家4者も8.82%となって並ぶ。経営陣は1億ドルと123.35ドルと行使価格5億ドルを合わせた約6億ドルで、増資前の株式数の12%を得る。投資家4者は6億ドルで同じ12%を得る。払う額も持ち分も一致するが、投資家の株には優先権が付き、経営陣の株には付かない。代わりに経営陣は、5億ドルを払う時期を上場直前まで自分で選べる。

9億1,500万元で買った会社が、2年10か月で63億ドルになった

この事業の出発点は、年次報告書の無形資産の注記に残っている。Dogotix は2021年から、人とやり取りする機能を持つロボットの研究開発を進めていた会社である。シャオペンは2023年9月29日に持分74.82%を現金9,896万ドル (約7億1,000万元) で取得する契約を結び、10月9日に完了して完全子会社にした。既に持っていた25.18%の公正価値2億500万元を加えると、取得対価は9億1,500万元になる。

取得対価・簿価・評価額
取得対価・簿価・評価額

会計上は事業の取得ではなく資産の取得として処理された。取得した資産の公正価値がほぼすべてロボット基盤技術に集中していたためで、この処理ではのれんが計上されない。計上されたロボット基盤技術は7億7,771万元、耐用年数は10年である。毎年7,777万元が無形資産の償却費として損益計算書に計上される。2025年12月末の償却累計は1億7,499万元で、簿価は6億273万元。2024年末と2025年末のいずれでも減損は認識していない。

第2四半期決算で会社が用いた1ドル=6.78元で取得対価を換算すると約1億3,500万ドル。増資前の評価額50億ドルはその37.1倍、増資後の評価額63億ドルは46.7倍になる。簿価6億273万元 (約8,900万ドル) と比べれば、増資後の評価額は70.9倍である。63億ドルという数字は決算書のどこにも現れない。現れているのは、毎年7,777万元ずつ減っていく簿価だけである。

63億ドルの事業は、変動持分事業体の枠組みの中にある

もう一つ、株主が確かめておくべき構造がある。年次報告書の子会社一覧によれば、Dogotix Inc. は英領バージン諸島に登記され、XPeng Dogotix Holdings Limited を通じて間接的に保有されている。そして中国国内でロボットの研究開発を担う子会社は、資本ではなく契約によって支配される変動持分事業体として整理されている。

ロボット事業の保有構造
ロボット事業の保有構造

中国には外資の参入を制限する分野があるため、ケイマン諸島の持株会社が中国国内の会社を契約で支配する形が長く使われてきた。年次報告書はこの子会社を枠組みの一つとして挙げ、事業内容を「人とやり取りする機能を持つロボットの研究開発」と記す。株式の裏付けではなく、契約が続くことが前提の構造である。

本誌が2025年度の年次報告書を全文で数えたところ、「ヒューマノイド」という語は一度も出てこない。「IRON」も「チューリング」も単語としては現れない。「ロボット」は8回だけで、いずれも子会社一覧の脚注である。世界初の生産ラインを立ち上げたと発表した会社が、その5か月前に米国の証券当局へ出した年次報告書では、人型ロボットについてほとんど何も書いていない。書かれていたのは、ロボット基盤技術という無形資産の科目が会計方針の注記に8回登場することだけだった。

テスラは「100万体の引き渡し」を報酬の条件に書いた

対照的なのがテスラである。2025年度の年次報告書でオプティマスは7回、直近の四半期報告書でも3回登場し、「開発中の汎用・自律型の人型ロボット」と定義され、「商業的にまだ成立していない黎明期の産業」というリスクまで明記されている。

両社の提出書類における人型ロボットの扱い
両社の提出書類における人型ロボットの扱い

さらに踏み込んでいるのが経営者報酬である。株式が権利確定するための事業上の達成条件10段階のうち、1番目が車両2,000万台の引き渡し、2番目が完全自動運転の契約1,000万件、そして3番目が「ロボット100万体の引き渡し」である。4番目が自動運転タクシー100万台の商用運行で、調整後EBITDA500億ドルという財務目標は5番目に置かれている。台数が利益より前に来る設計になっている。

しかもテスラは、この開示のために XBRL の単位として botDelivered を定義した。財務報告を電子的に読み取る仕組みの中に、引き渡したロボットの体数を表す単位が用意されているという意味である。

一方で実績は伴っていない。イーロン・マスク氏は2026年におよそ1万体という見通しを語っていたが、2026年1月にはそのどれもがまだ有用な仕事をしていないと本人が認めた。フリーモントでの生産は始まったばかりで速度は遅く、第3世代の公開も先延ばしが続いている。専用の自動化ラインを立ち上げたシャオペンに対し、テスラは車両の生産ラインを転用している段階にある。開示に多く書く会社と、書かずに作る会社の立場が入れ替わっている。

有価証券報告書に「ヒューマノイド」と書いた日本の会社は4社だった

日本側はどうか。本誌は部品と装置の日本勢32社の最新の有価証券報告書をEDINETから取得し、全文で語を数えた。「ヒューマノイド」を書いていたのはミネベアミツミ7回、安川電機3回、日本精工2回、村田製作所2回の4社である。

有価証券報告書の語数
有価証券報告書の語数

安川電機の記述が最も具体的だった。進化型アクチュエーターをはじめとする基幹部品を通じて、ヒューマノイドロボットを含む多様なフィジカルAI市場の開拓に取り組むと明記している。同社の当期は売上高1,810億7,200万円、営業損失29億8,200万円で、ロボットの語が140回、フィジカルAIが14回出てくる。日本精工は補修品の供給にとどまらずヒューマノイドロボットなど新領域における市場開拓に取り組むとし、ロボットハンドの繊細な触覚伝達を可能にする軸受一体型の歯車を開発したと報告した。売上高3,920億5,400万円に対し営業損失31億3,200万円である。ミネベアミツミは、電動化・自動化・AI・超高速通信・センシングといった先端分野への注目が高まる中で、ヒューマノイドロボットや自動運転、ドローンなどの新たな市場の拡大が期待されると書いた。

「フィジカルAI」という語で数え直すと顔ぶれが変わる。最多は日立製作所の17回で、製造やインフラの現場で労働力不足への対応や安全性・生産性の向上が求められ、物理空間の現場業務を革新する領域に期待が集まると記す。次いで川崎重工業と安川電機が14回。川崎重工業は2026年3月にフランス・ストラスブールへ研究開発の新会社を設け、5月には米サンノゼにフィジカルAIの拠点を開いた。エヌビディア、アナログ・デバイセズ、マイクロソフト富士通との協業を挙げ、人の置き換えではなく人の判断と行動を支援する方向を掲げている。ファナックは5回で、ロボット分野での応用事例を公表し、工作機械分野でも検討を進めるとした。

関節の本家が計上した3億9,443万円の減損

落差が最も大きいのはここである。回転する関節に使われる波動歯車装置の原理を生み、産業用ロボットの関節で長く標準の座にあったハーモニック・ドライブ・システムズは、有価証券報告書で「ヒューマノイド」の語を一度も使っていない。代わりに書かれていたのは減損である。

減速機各社の当期
減速機各社の当期

連結子会社のハーモニック・エィディが保有する精密遊星減速機事業の固定資産に対し、3億9,443万7,000円の減損損失を特別損失に計上した。監査上の主要な検討事項として監査報告書にも記載されている。理由として挙がったのは、中国および米国における製造業の設備投資の鈍化、最先端半導体分野の新規設備投資の停滞、グループ製品全般に係る在庫調整、そして顧客の将来需要に対する慎重な姿勢である。ヒューマノイドは減損の理由にも、それに対する反論としても登場しない。同社の当期は売上高595億5,787万円、営業利益25億6,764万円で営業利益率4.3%、従業員1,419人。本文には減速機が67回、ロボットが36回、中国が56回出てくる。

同じ減速機でも局面は分かれる。ナブテスコのコンポーネントソリューション事業は、受注高が前期比16.2%増の824億2,800万円、売上高が17.3%増の793億2,500万円、営業利益が103.2%増の54億2,000万円。長期化していた産業用ロボットの在庫が適正水準に戻ったためと説明している。波動歯車と偏心揺動型では、需要が動く時期がずれる。

中国側の事情も無関係ではない。波動歯車装置では中国のリーダードライブが国内首位に立ち、投資銀行の推計では中国市場の3割から4割を占める。人型ロボットの数が中国で伸びるほど、その関節が日本製に置き換わるとは限らない。

日本の産業用ロボット生産は2024年に台数で2割減った

話題の量と生産の量も一致していない。経済産業省の生産動態統計を品目ごとに年計すると、2024年の産業用ロボット生産は3品目合計で155,307台、2023年の193,979台から19.9%減った。最も普及した教示再生型が155,301台から115,364台へ25.7%減った影響が大きい。数値制御型は35,172台で1.4%増、シーケンス・知能型は4,771台で19.2%増だった。

日本の産業用ロボット生産
日本の産業用ロボット生産

金額では3品目合計5,030億円で、2023年の5,859億円から13.6%減。部品・付帯装置の371億円を足した総額は5,402億円になる。台数が2割減って金額が1割強しか減っていないため、1台当たりの生産金額は322万円から348万円へ8.0%上がった。安い機種の生産が抜けた形である。

規模の感覚も押さえておきたい。調査会社トレンドフォースは2026年の人型ロボットの世界出荷を5万台超、前年比700%超と見込む。伸び率は大きいが、5万台は日本1国の産業用ロボット生産155,307台の3分の1にすぎない。シャオペンが掲げる月1,000体超は年1万2,000体で、その5万台の4分の1に相当する。人型ロボットが部品会社の売上高を動かす規模になるには、まだ何段かの開きがある。

1体に30個の駆動装置と、金額の半分以上を占める関節

それでも部品会社が人型ロボットに注目するのは、1体に載る駆動装置の数と、その単価の高さによる。フィギュアAIは供給網について「4年で10万体、駆動装置300万個まで拡張できる」と述べた。この2つの数字を割ると、1体当たり30個という数が出る。同社は1体に使う部材が36種類を超えるとし、駆動装置・ハンド・電池・最終組立を内製し、モーターの巻線や有機ELの曲面表示、光学設計といった専用工程を外注すると説明している。加工方法も切削から射出成形・ダイカスト・金属粉末射出成形・プレスへ移し、1週間かかっていた部品を20秒未満で作れるようにしたと説明している。

部材の構成と1体当たりの駆動装置
部材の構成と1体当たりの駆動装置

金額の内訳は投資銀行が実機を分解して出した試算として公表されている。回転する関節では波動歯車装置が36.0%、トルクセンサーが30.0%、フレームレスモーターが13.5%で、上位3点だけで79.5%を占める。直線に動く関節では遊星ローラーねじが64.2%、力センサーが16.1%、フレームレスモーターが7.2%で、上位3点で87.5%。部材全体に占める駆動装置の比率はおよそ56%で、遊星ローラーねじは1本1,350ドルから2,700ドル、全身で十数本使う。

この内訳を日本の会社名に置き換えると、位置がはっきりする。波動歯車装置はハーモニック・ドライブ・システムズ、偏心揺動型はナブテスコ。遊星ローラーねじと精密ボールねじはTHK日本精工、日本トムソン。トルクセンサーと力センサーはミネベアミツミが有価証券報告書で触れる領域にある。フレームレスモーターはニデック系やオリエンタルモーターが並ぶ。1体の金額の半分以上を占める関節の内側に、日本の部品会社が複数の層で入っている。人型ロボットの話が日本の投資家にとって遠くない理由はここにある。

言語を挟まない経路と、関節1つの中身

技術の側も見ておきたい。シャオペンが2025年11月に公表した基盤モデル VLA 2.0 は、視覚から言語へ置き換える段階を挟まず、内部表現の記号を経て動作へつなぐ。言葉に置き換える過程で失われる情報を避ける設計である。車載側は10億単位、クラウド側は720億という超大規模のパラメーターを持ち、学習には約1億本の映像を使う。人の運転に換算して6万5,000年分にあたる量で、ラベル付けを必要とせず実走行の映像をそのまま使う。全体の更新は5日で一巡し、3万枚規模の演算基盤を90%超の稼働率で回す。IRON には視覚・言語・動作、視覚・言語・記号、視覚・言語の3系統のモデルが載る。会社は「大規模モデルはフィジカルAIの世界の基本ソフトになる」とし、VLA 2.0 を取引先へ公開すると表明した。

基盤モデルの作りと関節の2つの型
基盤モデルの作りと関節の2つの型

一方で身体の側は、まったく違う難しさを持つ。回転する関節に使う波動歯車装置は、薄い金属のカップを楕円形の部品で押し広げ、外側の固い歯車と歯を1枚ずらして噛ませる仕組みである。1回転で歯数の差だけ進むため、部品3点で減速比が100前後まで取れ、歯車の遊びがほとんど生じない。腕や首のように精度が必要な関節に向く一方、噛み合う部分の摩耗と発熱が寿命を決めるため、締め代を数マイクロメートルで管理する必要がある。直線に動く関節には遊星ローラーねじを使う。ねじ軸のまわりに複数のローラーを並べて面で荷重を受けるため、ボールねじより大きな力に耐え、脚のような部位に向く。力を測るセンサーとフレームレスモーターを組み合わせて、ようやく1つの駆動装置になる。

中核工程の自動化率が8割を超えるという説明が難しいのは、この身体側の事情による。締め代の管理は組み付けの自動化が最も進みにくい部位とされ、片手21の自由度を手のひらの大きさに収めるために指の関節へ業界最小級の波動歯車を入れれば、配線とセンサーの引き回しが密集して人手が残る。力とトルクを測るセンサーは組み付けたあとに1台ずつ校正しなければならない。歩いて生産ラインから出てくる工程は、見せ場であると同時に、この校正を兼ねた最終検査でもある。

評価の根拠に書かれた「労働力の不足」を数字で確かめる

50億ドルという増資前の評価額の理由として、書類は3つを挙げた。1つ目が世界の人型ロボット産業の見通しで、フィジカルAIの技術的な進展と労働力の不足が押し上げるとする。2つ目がシャオペングループの研究開発の進み具合。3つ目が経営陣による独自の調査と、米国と香港に上場する同業他社との比較である。

製造業の求人・就業者・賃金
製造業の求人・就業者・賃金

このうち労働力の不足は、公的統計で確かめられる。米国の製造業の求人数は2015年1月の32.1万人から2026年7月の58.0万人へ80.7%増えた。同じ期間に就業者数は1,226.5万人から1,263.8万人へ3.0%しか増えていない。求人数を就業者数で割ると2.6%から4.6%へ2.0ポイント広がった。生産労働者の時間当たり賃金は19.63ドルから30.37ドルへ54.7%上がり、週当たり労働時間は40.9時間から40.5時間へ0.4時間短くなった。人手を集めて時間を延ばす形にはなっておらず、賃金だけが上がって人が集まらない状態が続いている。投稿にあった「危険で反復的で敬遠される仕事」という表現は、感情の話ではなく、この統計に対応している。

最初の客は自分、収益はどこから立つか

事業として見ると、収益が立つ順序ははっきりしている。2026年末に量産を始め、まず自社の店舗と事業所に配置する。この段階では外部への売上高は立たない。2027年に中国と海外で発売し、小売とサービス業を狙う。ここで初めて外部からの売上高が生まれる。

収益の立ち上がりと会社全体の数字
収益の立ち上がりと会社全体の数字

目標は月1,000体超、年に直すと1万2,000体で、2030年には年100万体を掲げる。年100万体は月8万3,000体で、当面の目標の83倍にあたる。調達した9億ドルを2030年の年100万体で割ると1体当たり900ドルにしかならない。当面の年1万2,000体で割れば1体7万5,000ドルになる。価格は公表されていない。会社が自社利用を先に置き、外販を1年後ろへずらしたのは、価格と原価が噛み合う水準へ持っていく時間を確保するためと読める。資金の使い道として書類が挙げたのは、ソフトウエアとハードウエアの研究開発、モデルの学習と良、質の高いデータの生成、量産設備の整備、海外展開の5つである。

本体の稼ぎ方が変わりつつある点も押さえておきたい。第2四半期の引き渡しは10万3,295台で前年同期比0.1%増と横ばいだったのに、売上高は8.0%増の197億4,000万元、前四半期比では51.5%増えた。車両の利益率は前年同期の14.3%から12.1%へ下がったのに、全体の粗利益率は17.3%から20.7%へ上がっている。車両以外の収益が全体の利益率を押し上げている構図で、ロボットはその延長線上に置かれている。純損失は13億4,000万元、現金・短期投資・定期預金を合わせた資金は404億8,000万元 (59億7,000万ドル)、店舗は740店・257都市、自社の充電拠点は3,780か所である。

なお、この規模の資本がAI関連へ集まり続ける構図そのものは、通貨の側からも論じられている。ドイツ銀行の報告「Capitalism and the dollar」は、AIをめぐる競争が米国への資本流入とドル需要を左右すると整理する。フィジカルAIへ中国国内で過去最大の資金が入り、その払い込みの期限が営業日単位で書き分けられている今回の書類は、その資本の流れが実際の生産設備へ向かった一例と見ることもできる。

投資家が次に見る数字

  • 2026年末に量産が実際に始まるかどうか。生産ラインの立ち上げは量産開始ではないと現地媒体が明記しており、月1,000体という速度に到達した時点で初めて部品の発注量が動く。
  • 新株予約権が行使されるかどうかと、その時期。行使できるのは子会社が新規上場する前営業日までで、5億ドルの払い込みが起きれば経営陣2名の持ち分は外部投資家4者と並ぶ。上場の準備が進んでいる合図としても読める。
  • 日本の部品会社の受注の中身。ヒューマノイドの語を書いた4社と書かなかった会社の差が、次の期の受注高と減損の有無にどう現れるか。波動歯車と偏心揺動型で局面がずれている点も、同じ「減速機」でまとめずに見る必要がある。

生産ラインから1体が歩いて出てきた場面の印象は強い。ただ、その量産機は昨年舞台で歩いた試作機より自由度が6つ少なく、演算性能の表記は25%低く、電池は全固体ではない。9億ドルのうち外から入るのは6億ドルで、経営陣は123.35ドルで5億ドル分の新株予約権を手にした。9億1,500万元で買った会社は帳簿の上では6億273万元のままである。これらはすべて、会社自身が公表した資料と、当局へ提出した書類に書かれている。