レンジエクステンダーEVの構成を色分けして描くと、機械の伝達は2か所にしか現れない。エンジンと発電機、モーターと車軸である。エンジンから車輪へ向かう経路はない。この1点が、強さと弱さの両方を決めている。
トヨタ自動車は、電気自動車に発電用のエンジンを積んだレンジエクステンダーEV(EREV)を2027年春に中国で生産する。バッテリー式EV、プラグインハイブリッド車、ハイブリッド車、燃料電池車に次ぐ「第5の電動車」ともいわれる方式で、トヨタにとっては初めての投入になる。通常の電気自動車より航続距離が長く、ハイブリッド車より静かだという説明がなされている。その2つの特徴も、弱点も、同じ構造から出てくる。
エンジンから車輪へ、機械の伝達は1本も引かれていない
この方式の構成は8つの箱で書ける。給油口、ガソリンタンク、エンジン、発電機、整流器、インバーター、バッテリー、モーターである。これらを、機械の伝達、電気、ガソリンの3種類の線で結ぶ。
ガソリンの線は2本で、給油口からガソリンタンクへ、ガソリンタンクからエンジンへ向かう。ここまでは普通の車と変わらない。
機械の伝達の線も2本しかない。1本はエンジンと発電機のあいだ、もう1本はモーターと車軸のあいだである。車体を真上から見ると、片側の車軸は前後の車輪をこの機械の線で結んでいるが、もう一方の車軸は黒い線で描かれ、動力の色が付いていない。つまりモーターが片側の車軸だけを回し、エンジンの回転は発電機を回すためだけに使われる。エンジンと車輪をつなぐ経路は、どこにも存在しない。
残りは電気の線である。発電機から整流器へ、整流器からインバーターとバッテリーへ、インバーターからモーターへ、そしてインバーターとバッテリーのあいだにも線が通う。車輪を回す力は、すべてこの電気の経路を通ってからモーターに届く。
整流器とインバーターが別の箱として描かれているのは、電気の向きが違うからである。発電機が作るのは交流で、バッテリーにためるには直流に直さなければならない。それが整流器の役目にあたる。逆にモーターを回すには直流を交流に戻す必要があり、それを担うのがインバーターである。同じ電気でも、向きの違う2つの変換が要る。
ガソリンが車輪に届くまでに、姿を5回変える
この構成をたどると、ガソリンの持つエネルギーが車輪の回転になるまでに5回の変換を通る。エンジンが化学エネルギーを回転に変え、発電機が回転を交流の電気に変え、整流器が交流を直流に変え、インバーターが直流を交流に戻し、モーターが交流を回転に変える。バッテリーを経由するなら、充電と放電の分がさらに加わる。
ハイブリッド車と比べると差がはっきりする。ハイブリッド車はエンジンの回転を歯車で車輪へ直接送る経路を持つため、その経路を使っているあいだの変換は1回で済む。レンジエクステンダーEVにはその近道がない。どんな速度でも、必ず5回を通る。
各段でどれだけ失われるかの実測値は公表されていないため、本稿では損失の大きさを数値で示さず、段数だけを数えている。ただし変換のたびに熱が出るという事実は変わらない。速度が上がるほど必要な出力は増え、増えた分だけ5段すべてに損失が乗る。本誌の見立てでは、この方式が最も不利になるのは高速道路を一定の速さで走り続ける場面である。
静かさも航続の長さも、同じ構造から出ている
弱点と同じ構造が、長所も作っている。
静かなのは、車輪を回すのがモーターだけだからである。ハイブリッド車では加速のたびにエンジンの回転が車輪の動きと結びついて上下し、音が速度と連動する。レンジエクステンダーEVのエンジンは発電機を回すだけなので、車の加速とは無関係に回り続けられる。運転している側から聞こえる音の変化は小さくなる。
航続距離が伸びるのも同じ理由による。エンジンが車輪から切り離されていれば、燃費が最も良くなる回転数に固定したまま発電に専念できる。電池が減ればガソリンを足せばよく、充電設備を探す必要がない。バッテリー式EVが抱える航続距離の不安は、この方式では起きない。
言い換えると、この方式が有利なのは、充電に時間がかかり、充電の費用も高く、充電できる場所が少ないあいだに限られる。3つの条件のどれかが崩れると、発電機とエンジンとガソリンタンクを積んでおく理由は薄くなる。
中国のレンジエクステンダーEVは、2025年下半期を山に減り始めている
条件は実際に崩れつつある。中国乗用車市場情報連合会 (乗連会) の集計で、中国のレンジエクステンダーEVの卸売は2020年の約3万台から2025年の123万5,000台まで増えた。ところが2026年1〜6月は50万4,000台で、前年同期比13.1%減。6月だけを見ると9万4,000台で、前年同月比25.2%減である。新エネルギー車に占める割合も6.4%まで下がった。
公表されている数字から、山がどこにあったかを割り戻せる。2026年1〜6月の50万4,000台が前年同期比13.1%減なら、2025年1〜6月は58万台だったことになる。通年の123万5,000台からこれを引くと、2025年7〜12月は65万5,000台。この65万5,000台と2026年1〜6月の50万4,000台を比べると23.1%減で、半期ベースの山はすでに越えている。
2025年の市場の姿も数字で確かめられる。同会の小売の集計で、2025年の新エネルギー乗用車は1,245万台。内訳はバッテリー式EVが788万台、プラグインハイブリッド車が340万台、レンジエクステンダーEVが117万台で、3つを足すと公表の合計と一致する。117万台を1,245万台で割ると9.4%になり、この方式が新エネルギー車の1割を占めるという説明と合う。その1割が、翌年には6.4%へ落ちた。
減速の理由として挙がるのは、充電設備の整備が進んだこと、800ボルトの高電圧と超急速充電が広がったこと、電池の性能が上がって航続距離が伸びたこと、バッテリー式EVが値下がりしたこと、そして燃料価格が上がったことである。先に挙げた3つの条件が、そろって崩れる方向に動いている。
集計の物差しには注意が要る。2025年の117万台は小売、2026年1〜6月の50万4,000台は卸売で、基準が違う。水準をそのまま並べることはできない。ただし13.1%減も25.2%減も同じ卸売どうしの比較であり、向きについては曖昧さがない。
トヨタが入るのは、山を越えた後の市場である
トヨタの投入時期は2027年春で、いま見えている減少の先にある。
具体的な車種は動き始めている。広汽トヨタは2025年6月、次期シエナに発電用エンジンを積むこの方式を設定すると公表した。次期ハイランダーと次期シエナはいずれも現行より大きくなり、開発は中国側の主査が率いる体制で進む。トヨタは上海に電気自動車と車載電池の開発と生産を手がける新会社も設け、レクサスの新規車種を2027年以降に年およそ10万台の規模で作る計画である。報じられた見出しには中国で40万台という数字が置かれているが、それが生産能力か販売目標か市場規模のどれを指すかは本文が会員限定のため確かめられていない。
日産自動車も同じ方向に動く。東風日産の新型SUV「NX8」はバッテリー式EVとこの方式の両方を用意し、2026年4月に正式発売する。日産の新しい車台はホイールベース2,700〜3,150ミリメートルで、バッテリー式EV、プラグインハイブリッド車、レンジエクステンダーEVのいずれにも対応する。2027年夏までに中国で新エネルギー車を9車種投入する計画で、新型EVセダン「N7」は発売から1か月で1万7,000台を超える受注を集めた。両社とも、先に市場を作った理想汽車のような中国勢を追う位置にいる。
日本の部品会社にとっては、5段の変換のうち2段が仕事になる。発電機とモーター、そして整流器とインバーターである。デンソーはエンジン部品の工場を転換してインバーターの生産を増やし、福島で国内3か所目の拠点を立ち上げた。この方式が増えても減っても、電気に変える部品と電気を回す部品は要る。各社の位置づけはEV・自動運転の企業データベースにまとめている。本誌の見立てでは、方式の盛衰に左右されにくいのは完成車よりこちらの側である。
複数の方式に対応できる車台を先に作った日産と、車種ごとに方式を選ぶトヨタでは、市場が縮んだときの身のこなしが変わる。エンジンから車輪へ線を引かないという設計は、充電が遅く高かった時代の答えである。その前提が崩れる速さと、2027年春という投入時期の関係が、この方式の勝ち負けを決める。
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