中国中央テレビによると、中国海軍の遼寧を中心とする艦隊は40日余りにわたって訓練した。防衛省が公表した発着艦の回数は5月26〜28日の約170回にとどまり、5月30日から6月19日までの21日間は遼寧の位置も公表されなかった。
中国海軍は5月19日、空母「遼寧」を中心とする艦隊が西太平洋の海域へ向かい、訓練を行うと発表した。訓練の内容は遠洋での戦術飛行、実弾射撃、支援・援護、総合的な救援だという。年度計画に基づく定例の訓練で、国際法と国際慣例に合致しているとした。発表は台湾の頼清徳総統の就任 (2024年5月20日) から2年となる5月20日の前日だったが、発表文に台湾への言及はない。本稿は、防衛省統合幕僚監部が公表した航跡と発着艦の回数を中国国防省の説明と突き合わせ、日本側が遼寧の動きをどこまで公表したのかを確かめた。5月15日から6月24日までの統合幕僚監部の発表資料はすべて確かめた。
遼寧が南西諸島の間を通った記録はなく、位置はフィリピンの東と台湾の南東にとどまった
統合幕僚監部の発表に先に現れるのは随伴艦の動きである。5月18日午前11時ごろ、久米島の北西約520キロでジャンカイ3級フリゲート (艦番号545) とフユ級補給艦 (艦番号901、統合幕僚監部の呼称は高速戦闘支援艦) が南へ進み、19日に沖縄本島と宮古島の間を抜けて太平洋に出た。海上自衛隊がジャンカイ3級を確認したのは、これが初めてだった。この2隻の監視には、厚木基地 (神奈川県) の第4航空群のP-1哨戒機と、那覇基地の第5航空群のP-3C哨戒機が当たった。5月22日には、ユーシェン級強襲揚陸艦 (艦番号33) とジャンカイ2級フリゲート (艦番号599) も同じ海域を南東へ抜けて太平洋へ向かった。この2隻が遼寧の艦隊と行動を共にしたかどうかは、発表に書かれていない。
遼寧そのものが統合幕僚監部の発表に初めて出たのは5月25日正午ごろで、場所は沖ノ鳥島の南西約880キロだった。遼寧にレンハイ級ミサイル駆逐艦 (艦番号104) とルーヤン3級ミサイル駆逐艦 (艦番号124)、先に確認したフリゲートと補給艦を加えた計5隻の艦隊である。この期間の発表に、遼寧が南へ向かう途中で南西諸島の間を通った記録はない。中国中央テレビは訓練の海域に南シナ海を含めており、遼寧は南シナ海の側から太平洋へ入ったとみられる。
その後の位置は、26日が沖ノ鳥島の南西約1,090キロ、27日が宮古島の南約790キロ、28日が宮古島の南西約590キロだった。29日には遼寧と駆逐艦2隻がフィリピンの東の海域を南東へ進んだ。2025年の同じ時期の遼寧は、5月25日に東シナ海の久場島の北約200キロで発着艦を行い、27日に沖縄本島と宮古島の間を南東へ抜け、6月7日には日本最東端の南鳥島 (東京都小笠原村) の南西約300キロまで進んでいた。2026年の航跡は、日本列島の太平洋側を東へ進んだ2025年と違い、台湾の南東からフィリピンの東にかけての、より南寄りの海域にとどまった。
遼寧の発着艦は3日間で約170回、2025年は15日間で約700回だった
統合幕僚監部は遼寧の艦載戦闘機と艦載ヘリコプターの発着艦を、5月26日に約80回、27日に約50回、28日に約40回確認した。合計は約170回で、1日平均約57回になる (編集部の計算、以下同じ)。
2025年は発着艦を確認した日数が多い。統合幕僚監部の2025年6月20日の発表によると、遼寧の発着艦は5月25〜29日、6月8〜11日、6月14〜19日の計15日間で約700回だった。1日平均約47回になる。同じ時期には中国の2隻目の空母「山東」も太平洋で約350回の発着艦を行っていた。1日平均の回数は2026年のほうが多いが、統合幕僚監部が確認できた日数は5分の1にとどまる。訓練全体の規模を比べられる数字は、中国側からも日本側からも出ていない。
40日余りの訓練のうち、統合幕僚監部が位置を公表したのは6日間
遼寧は6月20日午前0時ごろ、宮古島の東約130キロを北西に進んでいるのが確認され、沖縄本島と宮古島の間を抜けて東シナ海へ向かった。随伴のフリゲートと補給艦は前日の19日正午ごろ、宮古島の南東約140キロで確認され、同じ海域を北西に抜けた。中国中央テレビによると、艦隊は6月22日に青島の母港へ戻り、訓練は40日余りに及んだ。西太平洋では強襲揚陸艦を中心とする別の艦隊と合同訓練を行ったという。統合幕僚監部の発表からは、5月22日に太平洋へ出たユーシェン級がこの艦隊に加わっていたかどうかは分からない。
統合幕僚監部が遼寧の位置を公表したのは、5月25〜29日の5日間と6月20日の計6日間である。5月25〜29日は護衛艦「あさひ」が監視に当たったと発表に書かれた期間で、6月20日は遼寧が南西諸島の間を通った日にあたる。5月30日から6月19日までの21日間は、位置の公表がない。この間の動きを知る手がかりは、主に中国側の発表である。
遼寧の監視に当たったのは佐世保を母港とする第5水上戦隊の護衛艦「あさひ」で、6月20日に遼寧が北上した際には第5航空群のP-3Cも加わった。中国国防省の張暁剛報道官は6月9日、日本の防衛省が艦艇の数や海域、発着艦の回数を相次いで公表していることについての記者の質問に答える形で、艦隊は計画どおり訓練中で、特定の国や目標を対象としたものではないとした。そのうえで、日本側が繰り返し追跡・監視し、中国の艦艇は法律と規則に基づいて対応したと述べた。日本側については、中国の正当な行動を大げさに宣伝して緊張をあおろうとしていると非難した。
中国中央テレビは帰港を伝える報道で、日本の艦艇と航空機が近距離で何度も追跡したと非難し、その映像には「あさひ」の姿もあった。内倉統合幕僚長は6月26日の定例会見で、中国国営メディアが自衛隊による妨害や挑発があったかのように報じたことについて「こうした主張は事実ではありません」と述べ、自衛隊は国際法をはじめとする関係法規に基づいて適切に対応していると説明した。
遼寧の艦載機への緊急発進、2026年は発表に記述がない
遼寧に関する2026年の3本の発表 (5月26日・6月1日・6月22日) には、航空自衛隊の戦闘機を緊急発進 (スクランブル) させたとの記述がない。2025年5月25日と6月20日、12月6日と7日の発表には、艦載戦闘機の発着艦に対し、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進したと書かれていた。統合幕僚監部は、発表した主な飛行を四半期ごとに一覧にまとめており、この一覧にも違いが出ている。2025年度の一覧には、空母から発艦したJ-15戦闘機の飛行が7件 (2025年5〜6月に3件、12月に4件) 載っていた。7月24日に公表された2026年4〜6月の一覧は6件で、ロシアの情報収集機が3件、中国の情報収集機が2件、中国とロシアの爆撃機の共同飛行が1件と、J-15は1件もない。2026年の発表と一覧に遼寧の艦載機への対応が出てこない理由を、統合幕僚監部は説明していない。
2025年度の緊急発進は595回で、このうち中国機に対するものが366回と全体の約6割を占めた。方面隊別では、沖縄を受け持つ南西航空方面隊が348回で最も多かった。2025年12月には、遼寧が沖縄本島と宮古島の間を南東へ抜け、6日と7日にそれぞれ約50回の発着艦を行った。統合幕僚監部によると、中国空母が沖縄本島の東から奄美大島の東にかけての太平洋で活動したのは初めてだった。その際、空母から発艦したJ-15戦闘機が、対処に当たっていた航空自衛隊のF-15戦闘機に断続的にレーダーを照射した。
2026年5月の緊急発進は59回で、このうち中国機に対するものが49回だった。前年同月は43回で、中国機に対するものは42回だった (いずれも月ごとの速報値)。中国機への発進は7回 (約17%) 増えたことになる。ただ、方面隊別 (国の別を問わない回数) にみると、南西航空方面隊は41回から40回に減り、九州などを受け持つ西部航空方面隊は1回から10回に増えた。5月28日には中国の情報収集機が東シナ海の長崎県男女群島の南と沖縄本島沖の間を往復し、西部航空方面隊などの戦闘機が緊急発進した。
護衛艦と哨戒機を造る三菱重工と川崎重工、防衛省向けの売上高が増えた
遼寧を監視した護衛艦と哨戒機は、それぞれ国内の2社が造った。護衛艦「あさひ」は2018年3月7日に三菱重工業の長崎造船所で海上自衛隊に引き渡された。P-3C哨戒機は、川崎重工業が米ロッキード・マーチンからライセンスを受けて国内で生産した。同社の有価証券報告書によると、その契約は1978年6月から2028年8月までとなっている。後継のP-1哨戒機も川崎重工が造っており、同社は2025年度に5機を納入した。
両社とも有価証券報告書で、売上収益 (売上高) の1割以上を占める主な取引先として防衛省を挙げている。
| 防衛省向け売上収益 | 2024年度 | 2025年度 |
|---|---|---|
| 三菱重工 | 7,042億円 (16.1%) | 1兆60億円 (20.2%) |
| 川崎重工 | 4,009億円 (18.8%) | 4,298億円 (18.6%) |
| 2社の合計 | 1兆1,051億円 | 1兆4,358億円 (+29.9%) |
括弧内は各社の売上収益に占める割合で、有価証券報告書の値。合計と伸び率は編集部の計算。
三菱重工の防衛省向け売上収益は42.9%増え、売上収益全体の5分の1を占めるまでになった。同社の防衛・宇宙部門の売上収益は1兆1,445億円で、前年度の8,276億円から38%増えた。同社はこの増収を、2023年度からの旺盛な受注を背景にしたものと説明している。オーストラリア向けのフリゲートなど大型の案件があったものの、同部門の受注高は1兆6,826億円と前年度の1兆8,768億円を下回った。受注残は4兆円を超え、同社は2026年度の受注高を1兆4,000億円と見込む。川崎重工は防衛省向けの伸びが7%台にとどまった。同社の航空宇宙システム部門の受注高は8,109億円で、防衛省の大型案件があった前年度より719億円少なかった。同部門の売上収益は防衛省向けなどで458億円増え、6,136億円となった。
政府の予算にも、同じ種類の装備の取得が盛り込まれている。財務省によると、2026年度の防衛関係予算は9兆353億円で、前年度より3.8%多い。このうち、能力向上型のP-1 1機に460億円、哨戒ヘリコプター3機に計430億円、新型護衛艦1隻の建造に1,043億円を計上した。
中国の軍事費は日本の約5.4倍、遼寧は10月に再び西太平洋へ
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所によると、中国の2025年の軍事費は推定3,360億ドルで、物価の変動を除いた実質で7.4%増えた。31年連続の増加となる。日本は622億ドルで9.7%増だった。中国の軍事費は日本の約5.4倍にあたるが、伸び率は日本が中国を上回った。
中国海軍は10月14日、遼寧を中心とする艦隊を再び西太平洋へ派遣すると発表した。5月の海軍の発表文にはなく、6月9日の国防省の答えで使われた、特定の国や目標を対象としたものではないとの一文が、10月の発表文には入った。空母の一覧は日本・米国・中国の空母のページにまとめている。
※2026年10月24日、一次資料に基づき全面的に書き直しました。旧版は今回の派遣を、台湾の頼清徳氏の総統就任を控えた時期の行動とし、題では「台湾新総統就任を牽制」としていました。しかし頼氏の就任は2024年5月20日で、2026年5月は就任2年にあたります。中国海軍と中国国防省の発表に台湾への言及はないため、この記述を削除しました。中国の軍事費を2023年の推定2,960億ドルとした記述は、2025年の推定3,360億ドルに改めました。また、出所を示していなかった2023年の空母「山東」の訓練の記述、根拠の数字がなかった中国艦艇の太平洋進出が「この10年で急増」したとの記述、日本企業への影響として社名を並べた部分を削除し、統合幕僚監部の発表と各社の有価証券報告書の数字で書き直しました。
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