米陸軍が鹿屋航空基地に一時展開したミサイルシステム「タイフォン」の発射機は2基で、実射はしない。防衛省は2026年度予算で、三菱重工業が量産を受注してきた国産の長射程ミサイル4品目に2,674億円を計上した。

鹿児島県鹿屋市の海上自衛隊鹿屋航空基地に、米陸軍の中距離ミサイルシステム「タイフォン」が2026年6月から10月中旬までの予定で一時展開した。中国外務省は5月と9月の記者会見で反対を表明し、日本に外交ルートを通じて繰り返し抗議し、最近は口上書 (外交文書) でも立場を伝えたと明らかにした。防衛省と米議会調査局の資料によると、鹿屋に展開した発射機は米陸軍の計画上の1個中隊の半分にあたり、訓練の後は沖縄県の嘉手納飛行場で保管される予定だ。日本の防衛産業の受注に直結するのはこの展開ではなく、日本政府が予算を計上する長射程ミサイル (スタンド・オフ・ミサイル) の調達である。その予算の中身は、トマホークの取得費を一括で計上した2023年度から3年で大きく入れ替わった。

タイフォンは鹿屋に一時展開し、10月中旬をめどに撤収して嘉手納飛行場で保管する予定

防衛省が2026年5月に鹿児島県へ示した資料によると、タイフォンと高機動ロケット砲システム「ハイマース」は、米太平洋陸軍の第3マルチドメイン・タスクフォースの装備である。6〜9月に予定する複数の日米共同訓練に参加するため、鹿屋航空基地に一時展開するとした。防衛省は鹿屋を選んだ理由に、自衛隊の部隊運用と両立できること、航空輸送に必要な施設と設備があること、一時展開できる広さの土地があることを挙げた。

5月の資料は、参加する訓練として、6月22日から7月1日まで米軍が主催する「バリアント・シールド2026」と、9月の「オリエント・シールド26」などを予定に挙げていた。バリアント・シールドは2006年から隔年で行われ、自衛隊の参加は2024年に続き2回目である。オリエント・シールド26は陸上自衛隊・米陸軍・豪陸軍が9月8〜24日に実施する計画だった。8月の更新版の資料は、タイフォンとハイマースが鹿屋に一時展開していると記し、参加する訓練としてオリエント・シールド26を挙げた。9月17〜24日に鹿屋で共同対艦戦闘訓練を行い、9月18日に陸上自衛隊の部隊と専門家交流 (技術面の意見交換) をする予定とした。どちらの資料も、今回の一時展開では実射訓練をしないと明記している。

撤収後の行き先は、防衛省が9月に公表した。防衛省によると、タイフォンはオリエント・シールド26の終了後、10月中旬をめどに鹿屋から撤収し、嘉手納飛行場で保管される。運搬にはC17などの輸送機を使う予定で、嘉手納に運用部隊は置かず、米軍の要員が大きく増える見込みもない。米側は日本への恒久配備ではないと説明したと、防衛省は記している。鹿児島県の塩田康一知事は5月22日に九州防衛局から説明を受けた際、訓練期間の終了後に「速やかに撤収を行うこと」などを求めていた。

タイフォンの日本への展開は今回が初めてではない。防衛省は資料で、2025年度の米海兵隊などとの実動訓練「レゾリュート・ドラゴン」で米軍岩国基地に一時展開した実績を挙げた。

鹿屋に展開したタイフォンの発射機は2基で、米陸軍の計画上の1個中隊の半分にあたる

防衛省の5月と9月の資料によると、タイフォンは指揮統制システム1基、発射機2基と支援用の器材で構成し、いずれも車両型である。発射するのは米国製の巡航ミサイル「トマホーク」と、迎撃にも使うミサイル「SM6」で、公開情報では射程はトマホークが約1,600キロ、SM6が約370キロと推定される。

米議会調査局が2026年4月20日に更新した解説によると、タイフォンの米陸軍での正式名称は「中距離能力」で、米国製のSM6とトマホークを地上から発射できるようにした装備である。陸軍の計画では、1個中隊は発射機4基と中隊作戦センター1基で構成される。トレーラーに載せた発射機は、1基に4発分の発射筒を持つ。陸軍は最初の中隊を2022年12月に受け取り、世界5地域に置くマルチドメイン・タスクフォースに1個中隊ずつ配備する計画である。

この2つの資料を突き合わせると、鹿屋の発射機2基は計8発分で、計画上の1個中隊の16発分の半分にとどまる。米議会調査局が引いた報道によると、タイフォンは2024年4月にフィリピンへ初めて展開した。米太平洋陸軍によると、2025年7月15日にはオーストラリアの演習で第3マルチドメイン・タスクフォースがSM6を実射し、海上の標的を沈めた。米陸軍は2027会計年度の予算で、タイフォンの調達に裁量的経費3億7,000万ドルと義務的経費23億3,000万ドルの計約27億ドル、研究開発に約2億1,200万ドルを要求している。

中国外務省は5月と9月にタイフォンへの反対を表明し、日本に口上書を送った

中国外務省の郭嘉昆報道官は5月22日の定例記者会見で、中国紙・環球時報の記者から、米軍がタイフォンを6〜9月に鹿屋航空基地に配備し、演習後は在日米軍基地へ移すとの報道について問われた。郭氏は、米国によるアジア諸国への中距離ミサイルシステムの配備に断固反対すると述べた。郭氏はタイフォンを戦略攻撃兵器と呼び、他国の正当な安全保障上の利益を損ない、地域の戦略的安全を脅かし、軍事対立と軍拡競争のリスクを高め、地域の平和と安定に百害あって一利なしだと述べた。米国と日本に誤ったやり方を改めるよう求め、今回の配備は日本が「再軍事化」を加速させている表れだとも述べた。

9月21日の会見では、ロシア外務省の報道官が9月18日に、米国による九州へのタイフォン配備について日本に口上書を送ったと述べたことを踏まえた質問に、郭氏が答えた。郭氏は、日本によるタイフォンの導入を「再軍事化」を加速させている表れだとし、軍事対立と軍拡競争のリスクを高めると批判した。中国は外交ルートを通じて日本に繰り返し強く抗議し、最近も口上書で改めて立場を伝えたと述べ、日本に「再軍事化」のたくらみをやめるよう求めた。中国外務省のウェブサイトに掲載された5月22日から9月30日までの定例記者会見の記録82本と、夏の休会中に出た報道官の回答8本を確認したところ、タイフォンに触れたのはこの2回だった。

日本の長射程ミサイル予算は、トマホークの一括計上から三菱重工が量産する国産品へ移った

タイフォンが撃つトマホークは、日本も購入している。米国防安全保障協力局は2023年11月17日、日本へのトマホークの売却計画を米議会に通知した (米連邦官報への掲載は2024年11月21日)。ブロック4とブロック5を200発ずつ計400発と、戦術トマホーク武器管制システム14セットからなり、見積もり総額は23億5,000万ドルだった。防衛省は2023年10月に取得時期を1年前倒しすると公表し、2024年1月18日に米政府との引合受諾書に署名した。国産ミサイルを補うものとして、2025年度から2027年度に取得する予定である。2026年3月に納入が始まり、護衛艦「ちょうかい」が同月に発射能力を得て、7月に発射試験を実施した。

予算の上では、トマホークの費用は2023年度にほぼ計上を終えている。防衛省の予算の概要を年度ごとに見比べると、敵の対空ミサイルの射程の外から侵攻部隊を攻撃する「スタンド・オフ防衛能力」の予算 (契約ベース) は、2023年度の約1兆4,207億円から、2024年度約7,340億円、2025年度約9,390億円、2026年度約9,733億円と推移した。トマホーク関連は、2023年度にミサイルの取得に2,113億円、イージス艦に載せる器材などに1,104億円の計3,217億円を計上した。その後の概要に載るトマホーク関連は、艦艇に発射機能を付ける2024年度の2億円、2025年度の18億円、2026年度の12億円である。

2026年度予算の事業金額9,733億円に占める割合
12式能力向上型 (地発)1,770億円18.2%
12式能力向上型 (艦発)357億円3.7%
高速滑空弾387億円4.0%
潜水艦発射型誘導弾160億円1.6%
極超音速誘導弾の製造態勢1,626億円16.7%
極超音速誘導弾の開発732億円7.5%
極超音速誘導弾の取得301億円3.1%
高速滑空弾 (能力向上型) 開発874億円9.0%
新地対艦誘導弾の開発413億円4.2%
空発型を積む戦闘機の改修97億円1.0%
JSM の取得36億円0.4%
JASSM の取得17億円0.2%
トマホーク発射機能の付加12億円0.1%
製造態勢の調査研究9億円0.1%
14事業の計6,791億円69.8%

金額は防衛省「令和8年度予算の概要」のスタンド・オフ防衛能力の節に載る14事業 (契約ベース) で、割合と計は編集部が算出した。1〜4行目は「12式地対艦誘導弾能力向上型 (地発型) 及び地上装置等の取得」「同 (艦発型) の取得」「島嶼防衛用高速滑空弾及び地上装置等の取得」「潜水艦発射型誘導弾の取得」、9行目は「新地対艦・地対地精密誘導弾の開発」、10行目は12式能力向上型 (空発型) を積むための戦闘機の能力向上改修 (9機) である。JSM と JASSM は戦闘機に積む外国製のミサイルである。残る約2,942億円は、資料に事業ごとの内訳が載っていない。

金額が示された事業で見ると、外国製の3事業は計65億円 (0.7%)、1〜4行目の国産4品目は計2,674億円 (27.5%) で、国産4品目は外国製の41倍になる。4品目の量産の契約先は、これまでいずれも三菱重工業である。防衛省は2023年4月11日、12式地対艦誘導弾能力向上型の地発型の量産、地発・艦発・空発型の開発、島嶼防衛用高速滑空弾の量産、潜水艦発射型誘導弾の開発について、同社と契約したと発表した。2025年10月7日には、潜水艦発射型誘導弾と艦発型の量産も同社と契約したと発表している。2026年度予算分の契約先はまだ発表されておらず、2,674億円には地上装置などの費用も含まれる。

開発を終えた2品目には、新しい名称が付いた。陸上自衛隊は2026年3月31日、12式地対艦誘導弾能力向上型 (地発型) を「25式地対艦誘導弾」、島嶼防衛用高速滑空弾を「25式高速滑空弾」と名付け、それぞれ熊本市の健軍駐屯地にある第5地対艦ミサイル連隊と、静岡県の富士駐屯地の特科教導隊に配備した。

品目2026年度予算2027年度要求
25式地対艦誘導弾1,770億円1,575億円
12式能力向上型 (艦発)357億円562億円
25式高速滑空弾387億円361億円
潜水艦発射型誘導弾160億円163億円
国産4品目の計2,674億円2,661億円
外国製3事業の計65億円244億円

2026年度は成立した予算、2027年度は防衛省が8月31日に公表した概算要求で、いずれも契約ベースの金額である。2027年度の要求では、25式の2品目とJASSM、トマホーク発射機能の付加に、金額を示さない「事項要求」が加わる。外国製の内訳はJSM 180億円、JASSM 53億円、トマホーク発射機能の付加11億円である。ほかに空発型の取得に345億円、極超音速誘導弾と地上装置等の取得に1,673億円を求めた。金額を示した分では、国産4品目は2026年度の予算とほぼ同じ額になる。防衛省は、政府が年内に改定する国家安全保障戦略など3文書の内容に左右される事業を、事項要求とした。防衛省はタイフォンでも撃てるSM6についても迎撃用として取得を求めたが、金額は示していない。トマホークの取得の経緯と艦艇の改修はトマホーク (日本向け) で詳しく扱っている。

三菱重工の防衛・宇宙の売上収益は3年で2.4倍の1兆1,445億円になった

三菱重工は2023年の防衛事業説明会で、1988年に制式化した88式地対艦誘導弾から30年余り、地対艦誘導弾に取り組んできたと説明した。12式地対艦誘導弾の技術を核に、能力向上型の地発・艦発・空発型、潜水艦発射型誘導弾、島嶼防衛用高速滑空弾、極超音速誘導弾を自社の「スタンドオフ防衛事業」に挙げた。防衛・宇宙の事業規模は長く5,000億円弱で推移してきた。同社は、防衛力整備計画で防衛費が増えるのを受けて2024〜2026年度に年1兆円規模を見込み、ミサイルの製造設備を増強するとした。

年度防衛・宇宙の売上収益防衛・宇宙の受注高
2022年度4,749億円5,571億円
2023年度6,064億円1兆8,781億円
2024年度8,276億円1兆8,768億円
2025年度1兆1,445億円1兆6,826億円
2026年度 (見通し)1兆2,500億円1兆5,000億円

三菱重工の決算説明資料による。2026年度の受注高の見通しは8月に1兆4,000億円から引き上げた値である。2025年度の売上収益は前年度比38%増で、2022年度の2.41倍になり、説明会で掲げた年1兆円規模に2025年度に達した。受注高は2023年度に急増し、その後も1兆6,000億円を超える水準が続いた。受注残は4兆円を超えた。ただし同社は、ミサイル単独の売上収益や受注高を開示していない。防衛省の予算は契約ベースで、納入して売上に計上するまでに数年かかる。このため予算額と同社の売上収益をそのまま比べることはできない。

足元の受注には波がある。2026年度第1四半期 (4〜6月) の防衛・宇宙の受注高は516億円で、前年同期の2,918億円から82%減った。前年同期に大型案件を受注した反動である。売上収益は2,163億円と前年同期の2,021億円を上回った。同社は、豪州向けのフリゲートを除けば2026年度の受注は前年度より増えるとしている。防衛事業全体の受注と次の防衛力整備計画との関係は防衛費の4分野と三菱重工を扱った記事で、同社の決算は三菱重工の銘柄ページで詳しく扱っている。

鹿屋に一時展開したタイフォンは、米陸軍が訓練のために持ち込んだ装備で、実射はせず、10月中旬をめどに撤収して嘉手納飛行場で保管する予定である。中国が繰り返し反対したのは、米国の中距離ミサイルを日本に持ち込むことだった。日本の長射程ミサイルの予算の多くは、三菱重工が量産を担ってきた国産品に向かっている。

※2026年10月13日、一次資料に基づき全面的に書き直しました。旧版の題の「鹿児島配備」は、防衛省の資料に沿って訓練のための一時展開と、その後に予定する嘉手納飛行場での保管に改めました。タイフォンの管制装置がAI向けの先端半導体を積み高い演算性能を持つ、ミサイルがレーザーで目標の形を測って識別する、光半導体を使う通信を2028年頃に実用化する、米国防総省の全領域の指揮統制構想の前方拠点である、といった記述は、防衛省・米議会調査局の資料に根拠が無いため削除しました。東京エレクトロン、レーザーテック、NECの製品や技術がタイフォンに使われるとした記述と、三菱重工がSM6のライセンス生産に関わる可能性が高いとした記述も、根拠を確認できず削除しました。中国外務省の報道官の発言は、会見記録の原文に合わせて改めました。射程が北京や上海に届くことを反発の理由とした記述は、記録に無いため削除しました。目標株価の記述は削除しました。

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