米巨大テックの社債は、起債の規模が膨らむほど投資家から高い上乗せ金利を求められるという見方が広がっている。4社が米当局に提出した目論見書で発行した日の利回りを比べると、3社中2社は逆の結果だった。
米JPモルガンはメタのAIエージェント「Muse」について、「チャットGPT」以来最も利用されるAIアプリになる可能性があると評価した。この評価を起点に、X (旧ツイッター) 上で一連の投稿が出ている。投稿はAIの利用料金の低下、企業のAI支出、ソフトウエア企業の利益率に触れたうえで、2つの主張で締めくくる。債券市場は発行額の大きい巨大テックの社債に、より高い上乗せ金利を求め始めた。一方でクラウド事業の営業利益は伸びており、設備投資は利益に見合っている。本稿は、この2つの主張を各社が米証券取引委員会 (SEC) に提出した目論見書と決算発表で検証する。
投稿はAI料金の下落から社債、クラウドの収益までを一連の流れで論じた
投稿の前半は、民間の調査会社1社のデータに基づく。AIが処理する文字の単位であるトークン100万個あたりの平均単価は、オープンAI、アンソロピック、市場全体のいずれも2026年3月初めに1.40ドルを超え、9月には0.50〜0.80ドルに下落した。従業員1人あたりの月間のAI支出は中央値が15ドルに近づき、上位10%の企業は690ドルに急増した。一方、上位1%の企業はピークの約8,100ドルから8月にかけて10%減った。有料のAIを導入した米国企業の割合は5割を超えたところで伸びが鈍化し、アンソロピックの導入率は44%近くとなってオープンAIを上回った。主なソフトウエア企業の粗利益率は2023年末から低下が続き、下位4分の1の企業は2026年1〜3月期までに2.5%近く下がった。
AIエージェントの比較サイト「アシスタント・ベンチマーク」では、評価中の21件のうち、Museが応答速度7秒、総合9.3点で首位に立つ。いずれも一次資料では確認できなかった。投稿者は、単価の下落は利益率の悪化ではなく需要の拡大につながると主張し、ソフトウエア企業の利益率の低下は大手クラウド企業に支払うAI費用の増加が原因だとみる。投稿の結論にあたる社債とクラウドの収益は、各社の開示資料で検証できる。
発行時の上乗せ金利は、発行額の大きい社債のほうが小さい例が多い
投稿はブルームバーグのデータとして、8銘柄の社債を挙げる。アルファベットは発行額が12.5億ドルから35億ドルに増えると、上乗せ金利 (米国債との利回り差) が0.56%から0.71%へ0.15ポイント拡大した。メタとエヌビディアも、発行額40億ドルの社債で上乗せ金利が0.15〜0.19ポイント拡大した。投稿者は、投資家が巨大テックの社債をもはや安全資産とみなしておらず、発行額に応じて追加の利回りを求めていると分析する。投稿が示す足元の市場の数値は次の通り。利回りは最低利回り、上乗せ金利は期限前償還の条件を調整した後の米国債との利回り差 (オプション調整後スプレッド) である。
| 投稿が示す社債 | 利率 | 発行額 | 利回り | 上乗せ金利 |
|---|---|---|---|---|
| アルファベット 2035年5月 | 4.50% | 12.5億ドル | 5.25% | 0.56% |
| アルファベット 2035年10月 | 4.70% | 35億ドル | 5.42% | 0.71% |
| メタ 2030年5月 | 4.80% | 10億ドル | 4.81% | 0.43% |
| メタ 2030年11月 | 4.20% | 40億ドル | 4.98% | 0.58% |
| エヌビディア 2031年6月 | 2.00% | 12.5億ドル | 4.84% | 0.41% |
| エヌビディア 2031年6月 | 4.50% | 40億ドル | 5.03% | 0.60% |
| オラクル 2055年5月 | 4.38% | 10億ドル | 7.67% | 2.44% |
| オラクル 2055年9月 | 5.95% | 35億ドル | 7.86% | 2.66% |
図1 — 同じ会社・同じ年限の社債2銘柄の発行時の上乗せ金利
投稿の数値は足元の市場での利回り差で、本稿では確認できなかった。一方、発行時の利回り差は目論見書の発行条件書に記載がある。
| 社債 (発行額) | 発行日 | 発行時の上乗せ金利 |
|---|---|---|
| アルファベット 2035年債 (12.5億ドル) | 2025年4月28日 | 0.47% |
| アルファベット 2035年債 (35億ドル) | 2025年11月3日 | 0.62% |
| メタ 2030年債 (10億ドル) | 2023年5月1日 | 1.20% |
| メタ 2030年債 (40億ドル) | 2025年10月30日 | 0.50% |
| エヌビディア 2031年債 (12.5億ドル) | 2021年6月14日 | 0.55% |
| エヌビディア 2031年債 (40億ドル) | 2026年6月15日 | 0.35% |
発行額の大きい新しい社債と小さい古い社債を比べると、上乗せ金利はアルファベットが0.15ポイント拡大した一方、メタは0.70ポイント、エヌビディアは0.20ポイント縮小した。3社中2社では、発行額の大きい社債のほうが低い上乗せ金利で発行できたことになる。投資家が発行額の大きさ自体を嫌っているのであれば、発行時点でも上乗せ金利は拡大するはずだ。
エヌビディアの2銘柄は、満期がいずれも2031年6月15日である。違いは発行額 (12.5億ドルと40億ドル)、利率 (2.000%と4.500%)、発行年の3点で、投稿が指摘する足元の0.19ポイントの差を発行額だけで説明することはできない。利率の低い古い社債は額面を大きく下回る価格で取引されており、満期が同じでも利回り差の意味合いが異なる (記者の見立て)。オラクルは2015年発行の2055年債 (利率4.375%、目論見書上の発行額は12.5億ドル) の発行時の上乗せ金利が目論見書に記載されておらず、比較できない。2025年9月24日に発行した2055年債は発行額35億ドル、利率5.950%で、発行時の上乗せ金利は1.25%だった。
大きく変わったのは1回あたりの調達額、アルファベットは株式などで496億ドルを調達
上乗せ金利より大きく変わったのは調達額である。1回あたりの起債額は、アルファベットが2025年4月の50億ドルから11月の175億ドルへ3.5倍、メタが2023年の85億ドルから2025年10月の300億ドルへ3.5倍、エヌビディアが2021年の50億ドルから2026年6月の250億ドルへ5倍に膨らんだ。オラクルは2015年の100億ドルから2025年9月の180億ドルへ1.8倍になった。エヌビディアは2026年の目論見書で、資金使途に既存社債の償還と借り換えを挙げている。
アルファベットは社債以外の資金調達にも踏み切った。2026年7月22日の決算発表によると、同社は4〜6月期に社債の発行で手取り203億ドルを調達したうえ、6月には普通株と強制転換条項付き優先株 (一定の期日に普通株に転換される優先株) の発行で手取り496億ドルを調達した。資金使途には、AIの基盤と計算能力を拡充するための設備投資を挙げる。4〜6月期の外部資金調達699億ドルのうち、株式などによる調達が71.0%を占める。さらに最大400億ドルの株式を市場で随時売り出す枠を設けたが、6月末時点では売り出していない。
投稿は債券市場が発行規模に応じて上乗せ金利を求めていると分析するが、目論見書と決算発表から読み取れるのは、上乗せ金利がまだ大きく変わらないうちに、資金需要が社債だけでは賄えない規模に達したことである。株式による調達は既存株主の持ち分を希薄化させるため、投資家にとっての負担は社債の利払いではなく、1株あたりの価値の目減りとして表れる (記者の見立て)。
クラウド3社の部門利益は前年同期の1.64倍、利益率は36〜41%でそろった
投稿後半の主張は、各社の決算発表でおおむね裏付けられる。投稿は、グーグルクラウドとAWSが過去12か月で営業利益率を大きく改善させ、2026年4〜6月期にマイクロソフトのインテリジェントクラウドと並んで36〜41%に収まったとする。クラウド部門の営業利益を詳しく開示している大手クラウド企業は、この3社に限られる。
図2 — 2026年4〜6月期と前年同期のクラウド部門の営業利益と利益率
AWSの4〜6月期の売上高は422億ドル (37%増)、営業利益は166億ドル (前年同期は102億ドル) で、アマゾンが開示する営業利益率は39.4% (1〜3月期は37.7%、前年同期は32.9%) だった。グーグルクラウドは売上高が247億6,800万ドル (82%増)、営業利益が88億1,400万ドル (前年同期は28億2,600万ドル) で、営業利益率は35.6% (前年同期は20.7%) となる。マイクロソフトのインテリジェントクラウドは売上高が393億600万ドル (32%増)、営業利益が159億5,500万ドル (前年同期は121億4,000万ドル) で、営業利益率は40.6%だった。3社の営業利益率は35.6〜40.6%で、投稿の36〜41%と一致する。グーグルクラウドの営業利益率は1年で14.9ポイント上昇した。
3社のクラウド部門の営業利益を合計すると、4〜6月期は413億6,900万ドル、前年同期は251億6,600万ドルで、64.4%増えた。投稿が示す65%とほぼ一致する。ただし投稿者が示す2027年までの見通し (7〜9月期は62%、2027年は30%台後半) は予測であり、検証できない。
ただ、3社の営業利益率がそろって改善したわけではない。インテリジェントクラウドの営業利益率は、2024年7〜9月期の43.6% (105億300万ドル÷240億9,200万ドル) から低下した。マイクロソフトは2027年6月期から事業部門を2つに再編するため、現在の部門で比較できるのは今期が最後となる。アマゾンの直近12か月のフリーキャッシュフローは76億ドルの赤字で、前年同期の182億ドルの黒字から赤字に転じた。営業キャッシュフローは1,614億ドルに増えたが、AI関連の投資がこれを上回った。同社の4〜6月期の純利益626億ドルには、主にアンソロピックへの出資に伴う534億ドルの営業外利益が含まれる。
投資家が注視すべきは上乗せ金利より調達額と部門利益の伸び
発行額が大きいほど上乗せ金利が拡大するという投稿の見方は、目論見書に記載された発行時の条件では3社中2社で逆になる。大きく変化しているのは上乗せ金利より調達額で、1回あたりの起債額は3.5〜5倍に膨らみ、アルファベットは6月に株式などで496億ドルを調達した。クラウド3社の部門利益は前年同期の1.64倍に増えたが、アマゾンのフリーキャッシュフローは赤字に転じている。投資家が注視すべきなのは社債の上乗せ金利のわずかな変化ではなく、調達額の規模と株式の希薄化、そして借入金を返済する原資となるクラウド部門の利益の伸びである。
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