日本が2025年に輸出した廃プラスチックのうち37.4%にあたる約20万トンは、財務省の統計ではマレーシア向けだった。同国の統計に計上された日本からの輸入は約2万7,000トンしかない。同国は同年7月に輸入の条件を厳しくした。
マレーシア投資貿易産業省は2024年に公表した製造業向けの循環経済政策の枠組みで、業界団体の白書を引き、国内の再生プラスチックの原料の半分超が輸入だと書いた。その輸入元の一つが日本である。日本の財務省の貿易統計では、マレーシアは2018年に日本の廃プラの最大の輸出先になり、2025年もベトナムを上回って首位だった。マレーシア政府は2025年7月1日、廃プラを輸入する業者に、輸出国で船積み前の検査を受けたうえで承認証明書を取ることを義務づけた。国連の貿易統計データベースに日本とマレーシアがそれぞれ報告した数字を突き合わせると、日本から送ったはずの廃プラの大半は、輸入側の統計に日本からの輸入として現れていない。
日本の廃プラ輸出は8年で6割減り、マレーシア向けの比率は5.3%から37.4%に上がった
ここでいう廃プラは、関税分類3915の「プラスチックのくず」である。日本の輸出は2017年に143万トンあったが、2025年は53万5,000トンで、62.6%減った。前年比でも21.7%の減少だった。減った理由は統計からは分からない。行き先は変わった。中国が2017年末から段階的に輸入を制限すると、輸出先は東南アジアと台湾に移った。日本貿易振興機構 (ジェトロ) は2020年の集計で、マレーシアが2018年から3年続けて最大の輸出先だったとしている。
マレーシア向けは2017年の7万5,000トンから2025年には20万トンになり、2.7倍に増えた。2025年は前年から12.7%減ったが、日本の輸出全体の減少率のほうが大きく、比率は37.4%まで上がった。マレーシア向けの輸出額は7,904万ドルで、1トンあたり約395ドルになる。2位のベトナム向けは約14万トンだった。
| 年 | 日本の輸出 (トン) | うちマレーシア向け (トン) | 比率 | マレーシアが計上した日本からの輸入 (トン) |
|---|---|---|---|---|
| 2017 | 1,431,448 | 75,435 | 5.3% | 62,729 |
| 2018 | 1,007,879 | 220,399 | 21.9% | 119,011 |
| 2023 | 606,374 | 189,451 | 31.2% | 25,362 |
| 2024 | 683,123 | 229,228 | 33.6% | 29,805 |
| 2025 | 535,185 | 200,102 | 37.4% | 27,276 |
出所は国連の貿易統計データベース (日本は財務省、マレーシアは同国統計局の報告値)。比率は編集部の計算。照合のために確かめた2020年の日本の値 (輸出82万742トン、マレーシア向け26万1,046トン) は、ジェトロの集計 (82万1,000トン、26万1,000トン、構成比31.8%) と千トン単位で一致した。
マレーシアの統計では日本からの輸入は約2万7,000トンで、日本の統計の7分の1にとどまる
輸入側の数字は、日本の統計とかけ離れている。2025年にマレーシアが計上した日本からの廃プラの輸入は約2万7,000トンと、日本が同国向けとして記録した量の約7分の1 (日本側が7.3倍) にとどまり、差は約17万3,000トンに上る。2017年はマレーシア側の数字が日本側の83%で、開きは小さかった。2018年には日本側の数字がマレーシア側の1.85倍となり、2023年以降は毎年7倍を超えている。
マレーシア全体の廃プラの輸入も減った。同国環境局は2019年11月の会合で、輸入量が2016年の約28万8,000トンから2018年に87万2,531トンへ膨らんだと報告している。この数字は、国連のデータベースにある同国の2018年の値 (87万2,526トン) とほぼ一致する。2025年は約45万8,000トン、約1億6,100万ドルで、2018年比で47.5%減った。平均単価は1トンあたり約352ドルである。相手国別では、首位はスロベニアで、米国、ドイツ、スペインが続き、日本は5位だった。
| 2025年のマレーシアの廃プラ輸入 (同国の計上) | トン |
|---|---|
| 全体 | 457,769 |
| スロベニア | 135,292 |
| 米国 | 76,386 |
| ドイツ | 40,579 |
| スペイン | 29,348 |
| 日本 | 27,276 |
日本の輸出申告で輸出先をマレーシアとした貨物が、なぜ輸入側で日本からの輸入として数えられていないのかは、公表された統計からは分からない。マレーシアが相手国をどの基準で割り当てているのかも、統計だけでは確かめられない。分かるのは、どちらの国の数字を使うかで、日本の廃プラの行き先についての結論が変わることである。日本の数字ではマレーシアは日本の輸出の4割近くを受け入れているが、マレーシアの数字では日本は同国の輸入の6%にすぎない。
マレーシアは2025年7月、廃プラの輸入業者に船積み前検査を経た承認証明書の取得を義務づけた
マレーシアは以前から廃プラの輸入を許可制にしていた。環境局によると、2017年の関税 (輸入禁止) 令により、関税分類3915の廃プラを輸入するには、船積みごとに国家固形廃棄物管理局の輸入許可が必要だった。中国が廃プラの輸入を制限した後に輸入が急増すると、無許可の輸入が相次いだ。環境局は、2019年8月22日までに輸入業者14社と12か国が関わる違法な輸入79件 (コンテナ198本) に対処したとしている。
この仕組みが2025年に変わった。同年4月30日に公布された関税 (輸入禁止) 改正令により、7月1日からは投資貿易産業省が輸入管理を所管し、マレーシア標準工業研究所が承認証明書を発行する。9月30日までは移行期間とした。輸入できるのは、投資貿易産業省の製造業許可などを持つ製造業者に限られ、量は同研究所の検査をもとに決まる上限と、国全体の年間の割当の範囲内に収める。承認証明書を申請するには、輸入スクラップ・廃棄物の管理の許可を取り、銀行保証を差し入れ、船積み前検査の報告書を添えなければならない。検査を行うのは、同研究所と、同研究所が認めた外国の検査機関、認定を受けた資源回収施設のいずれかだ。日本から送る廃プラも、出荷前に検査を受け、報告書を添えることが必要になった。
投資貿易産業省は2024年の循環経済政策の枠組みで、廃棄物の輸入には処分費用と環境負荷が伴うとして厳しく臨むと明記し、輸入に頼らず国内で回収する原料を増やすべきだとした。2030年までに、製造業で使う資源に占める循環資源の比率を2019年の0.3%から1.2%へ4倍に高める目標を掲げた。包装と電機・電子の分野では、拡大生産者責任 (使用済み製品の回収を製造者に課す制度) を3〜5年かけて任意から義務に切り替える方針だ。この枠組みは、国の産業政策「新産業マスタープラン2030」で脱炭素 (ネットゼロ) を掲げた柱の行動計画の一つである。
国内でケミカルリサイクル (化学的な再生) の工場を建てる計画もある。国営石油会社ペトロナスの化学子会社ペトロナス・ケミカルズは2023年10月9日、ジョホール州ペンゲランに、使用済みのプラスチックを熱分解して油に戻す年3万3,000トンの工場を建てると発表した。技術は英プラスチック・エナジーから導入する計画で、2026年1〜6月期の稼働を予定していた。稼働したかどうかは今回確かめられなかった。原料を国内で集めるか輸入するかは、発表に書かれていない。規模の目安として比べると、この処理能力は2025年の同国の廃プラ輸入量の7.2%にあたる。
樹脂の輸入不安のなか、副財務相は再生プラスチック産業を広げる好機になりうるとブログでつづった
2026年に入ると、樹脂の調達への不安が加わった。リュー・チントン副財務相は4月12日のブログで、輸入樹脂が不足するおそれはあるが、再生プラスチック産業を広げる最良の時期になりうるとつづった。国外からの調達が難しくなる品目は、国内や東南アジア域内で代替品を生産する商機になるとも述べた。政府は燃料でも動いた。ベルナマ通信は5月31日、政府が6月1日から、マレー半島部で軽油に混ぜるパーム油由来のバイオディーゼルの比率を10%から15%へ段階的に引き上げると伝えた。輸入軽油への依存を減らす狙いだという。
ただ、汎用樹脂の貿易でみると、マレーシアは輸入より輸出のほうが多い。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、塩化ビニル樹脂と、ポリカーボネートやポリエステルなどの原料樹脂 (ペレットなど、関税分類3901〜3904と3907) について同国が報告した2025年の数字を合わせると、輸入40億8,000万ドルに対し輸出は50億3,000万ドルで、約9億5,000万ドルの出超だった。
業界の売上も落ちている。アクマル・ナスルラ経済相は7月13日、マレーシア・プラスチック製造業者協会から受け取った提案を検討すると述べた。国営ベルナマ通信によると、プラスチック産業の2025年の売上高は約627億リンギで、2024年の約648億リンギから3.2%減った。用途別では包装が45%、電機・電子が29%を占める。経済相は、拡大生産者責任をまず任意で導入することも検討するとした。
日本企業がマレーシアで手がけるのは樹脂の生産と産業廃棄物処理会社への出資で、廃プラを集めて再生する計画は開示に無い
この記事の旧版は、マレーシアの政策が三菱ケミカルグループ、東レ、JFEホールディングスの3社に商機をもたらすと書いた。各社の開示を確かめると、同国との実際の関わりは旧版の見立てとは異なっていた。
東レは、ペナン州の子会社トーレ・プラスチックス・マレーシアでABS樹脂「トヨラック」を生産している。統合報告書2019では、年7万5,000トンの設備を増設して2020年11月の稼働を目指す計画を示していた。2023年6月の事業説明会の資料では、ペナンの生産能力は年42万5,000トン、千葉工場は7万2,000トンで、資料が示す2拠点の合計の85.5%がマレーシアにある。東レは同じ資料で、ペナンと千葉を一体で運営するABS樹脂の戦略に、使用済み品や工程の端材を原料に使う再生グレードの拡大を挙げ、エアコン部品を原料にしたABS樹脂や、水のボトルとコンパクトディスクから再生したポリカーボネートを混ぜたABS樹脂などの再生品を発売済みとした。どちらの拠点で作るかは示していない。樹脂事業の環境対策としては、エアバッグの端材の再生と、高温高圧の水で樹脂を分解する技術の開発も挙げた。マレーシアに輸入される廃プラを集めて再生する事業には触れていない。
JFEホールディングスのグループは、マレーシアの産業廃棄物処理会社に出資している。子会社JFEエンジニアリングの傘下にあるJ&T環境とJFEエンジニアリング・マレーシアは、セランゴール州で指定廃棄物 (有害な産業廃棄物) の処理施設を運営する会社に、それぞれ25%、5%を出資している。残る70%は地元のベルジャヤ・エンバイロが持つ。J&T環境によると、出資は2021年。焼却炉はJFEエンジニアリング・マレーシアと月島エンジニアリング・マレーシアが建設し、運営会社は2024年3月13日に焼却設備の完成に伴う開所式を開いた。処理するのは廃液や廃油、医療廃棄物などで、廃プラの再生は手がけていない。旧版が見込んだガス化溶融炉の受注を示す開示も見当たらない。
三菱ケミカルグループは、アクリル樹脂を熱分解して原料に戻すケミカルリサイクルの技術を持つ。同社は2021年5月24日、大阪にあるマイクロ波化学の事業所に実証設備を建設し、欧州と日本で2024年の稼働を視野に再生工場の検討を本格化すると発表した。2025年9月には、ホンダと共同開発した再生材が、ホンダが同月発売した軽EVのドアバイザーに採用されたと公表した。いずれの発表にも、マレーシアや東南アジアでの計画は出てこない。旧版が想定した現地の石油化学企業との合弁を裏付ける開示も見当たらない。
日本からマレーシアへの投資そのものは増えている。マレーシア投資開発庁によると、2026年1〜6月に承認した日本からの投資は約223億リンギ (95件) で、前年同期 (約27億リンギ) の8.3倍となり、2025年通年の約82億リンギも上回った。このうち215億リンギは1〜3月期の承認で、同庁は1〜3月期の日本からの投資の93.6%がデジタル分野だったと説明している。金額にすると約201億リンギで、日本からの投資の急増の大半はデジタル分野が占め、化学や再生の分野ではなかった。同庁は、承認額は許認可を得た計画の金額で、統計局が国際収支で集計する外国直接投資とは異なるとしている。同庁によると、承認から実施までは通常18〜24か月かかる。国内外を合わせた2026年1〜6月の製造業全体の承認額513億リンギのうち、化学・化学製品は55億リンギだった。
マレーシアの循環経済政策は、日本から見ればまず、日本の廃プラの最大の輸出先が輸入の条件を厳しくする動きである。日本の統計で年20万トンを送っている相手国の数字が約2万7,000トンにとどまる理由は、公表資料からは分からない。次に確かめられるのは、移行期間を終えた承認証明書の運用のもとで、2026年の両国の統計がどう動くかと、ペトロナス・ケミカルズの工場の稼働の発表である。
※2026年10月14日、一次資料に基づき全面的に書き直しました。旧版が題で「10兆円」、本文で2023年の外国直接投資の承認額とした「3295億リンギット」は、国内投資を含む投資承認額の総額でした (うち外国投資は1,884億リンギ)。旧版はリュー・チントン氏を「投資・貿易・工業省」の副大臣とし、2026年5月20日に新措置の策定を明言したと書きましたが、同氏の肩書は副財務相で、5月20日の発言は確かめられませんでした。同氏の発信で確かめられたのは4月12日のブログです。政府が食品・エネルギー・医薬品の供給の安定を表明したとの記述、持続可能な航空燃料の開発方針、三菱ケミカルグループの「国内外の実証プラント」と合弁の想定、東レの逆浸透膜と再生繊維の事業機会、JFEグループのガス化溶融炉の受注の見込みは、根拠を確かめられなかったため削除しました。3社の目標株価は編集方針に合わないため削除しました。中国の廃プラの輸入規制は「2018年に突如」ではなく、2017年末から段階的に始まりました。
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