アマゾン・ドット・コムが、米xAIのAIエージェント「Grok Bot」による注文を、利用規約に違反するとして遮断していることが10月に分かった。AIによる買い物代行が広がれば、年686億ドルを稼ぐ広告事業が揺らぎかねない。

イーロン・マスク氏は日本時間10月15日午後9時52分、X に英語で「アマゾンに対抗する事業を始めるべきか」という趣旨の投稿をした (以下、X の投稿の時刻は日本時間)。

AIが人の代わりに検索し、価格を比べ、支払いまで済ませるようになれば、通販の稼ぎ方はどう変わるのか。今回の対立から、その答えの一端が見えてくる。アマゾンは外部のAIを締め出し、自社のAIに広告を載せる道を選んだ。日本ではLINEヤフーが対話型AIの ChatGPT と連携し、AI経由の取引から手数料を取る方針を示した。楽天グループは自社のAIで顧客を囲い込むが、外部のAIにどう対応するかは明らかにしていない。本稿は、アマゾンの年次報告書と決算発表、日本の2社の決算資料、各社サイトの robots.txt を当サイトが確認した結果に基づく。

アマゾンがGrok Botの注文を止め、マスク氏は「アマゾン対抗」に言及

Grok Bot は、xAI が8月11日に発表したAIエージェントだ。AIエージェントとは、利用者の指示を受けてソフトやサイトを人と同じように操作し、作業を代わりにこなすAIを指す。xAI の発表によると、Grok Bot はクラウド上の専用コンピューターでアプリやサイトを操作する。有料プラン「SuperGrok」の契約者が試験版を使える。xAI は、買い物や決済の機能、小売店との提携には触れていなかった。

買い物での使い方を広めたのはマスク氏本人だ。10月11日に「クレジットカードを撮影してチャットに送れば、Grok Bot がネット上で一番安い店を探して買う」と投稿した。これに対し、ある利用者が「アマゾンはボットを遮断している」と返信した。マスク氏は数分後、「Grok は別の方法で買う。レゴを注文したら、Grok はレゴのサイトで買った」と応じた。

10月15日には別の利用者がアマゾンの警告画面を投稿した。警告には「無許可のAIエージェントによるアクセスを続けると、利用者が同意したアマゾンの利用規約に違反する」とあった。マスク氏は同日、「Grok Bot にほかの店で買うよう頼めば、もっとお得に買える。通販サイトはアマゾンのほかにもたくさんある」と投稿した。続けて、Grok Bot が誤って注文したりカード情報が漏れたりした場合は「スペースXが補償する。これまで一度も起きていないが」とも書いた。xAI はスペースXの傘下にある。ただ、米テスラ関連の情報サイト「テスララティ」によると、Grok の利用規約では責任を負うのは利用者で、賠償額の上限は支払額と100ドルのうち多い方だという。

マスク氏の「アマゾン対抗」の投稿は、ある利用者への返信だった。その利用者は「アマゾンが Grok Bot の注文を遮断している。使っているボットの1つには、アマゾンでの返品だけを任せている」と書いていた。そのうえで、X の通販サイト「X Shop」をつくってはどうかと提案した。Grok の公式アカウントは翌16日午前0時52分、「本格的な対抗サービスについて、具体的な計画はなく、時期も未定だ」と投稿した。このアカウントでは、利用者が呼びかけるとAIの Grok が自動で答える。xAI とスペースXは10月16日時点で、新しい事業を発表していない。

アマゾンは、Grok Bot の遮断について公表していない (当サイトが10月16日に確認)。遮断がいつ始まったのか、すべての注文を止めているのかは、利用者が投稿した画面のほかに手がかりがなく、当サイトでは確かめられなかった。

アマゾンが外部のAIを締め出すのは、今回が初めてではない。米国時間9月20日には、米メタのAIエージェント「ミューズ」を同じように遮断した。米ブルームバーグ通信によると、アマゾンは、利用者に代わって買い物をする外部のアプリは「透明性を確保して運営し、参加するかどうかはサービス事業者の判断を尊重すべきだ」と説明した。ミューズの仕組みはメタのAIエージェント「ミューズ」の記事で取り上げている。

Grok Bot の件が表面化する前の10月8日には、米スタートアップ支援のYコンビネーターを創業したポール・グレアム氏が X に投稿した。アマゾンがAIエージェントを締め出したことで、スタートアップがアマゾンに対抗する事業を起こす好機が、アマゾンの創業以来初めて訪れたと指摘した。マスク氏はグレアム氏の投稿を引用し、「その通りだ」と応じた。

アマゾンと外部のAIエージェント、この1年の動き
アマゾンと外部のAIエージェント、この1年の動き

日本のアマゾンも同じ99のボットを拒否、楽天市場とYahoo!ショッピングは名指しなし

ウェブサイトは、誰でも見られる robots.txt というファイルで、情報を自動で集めるプログラム (ボット) による収集を拒否できる。当サイトが10月16日に米国の amazon.com と日本の amazon.co.jp の robots.txt を調べたところ、両サイトとも同じ99のボットを名指しし、サイト全体で収集を拒否していた。AI関連のボットが中心だ。Grok 関連の GrokBot・Grok-DeepSearch・xAI-Grok の3つのほか、米オープンAIの ChatGPT-User と GPTBot、米アンソロピックの Claude-User、米パープレキシティの Perplexity-User が並ぶ。米グーグルの買い物エージェント GoogleAgent-Shopping と米メタの meta-externalagent も含まれる。ソフトバンク傘下で日本語のAIを開発するSBインテュイションズのボットも拒否の対象だ。

米非営利団体インターネット・アーカイブが運営し、過去のウェブページを閲覧できる「ウェイバックマシン」で、当サイトは amazon.com の robots.txt の過去の記録をさかのぼって調べた。アマゾンは2026年5月15日に約50のボットをまとめて書き加えており、Grok 関連の3つもこのとき加わった。日本の amazon.co.jp では、4月28日時点の記録には Grok 関連のボットがなく、9月10日時点の記録には載っていた。アマゾンは、今回の遮断が表面化するおよそ5か月前から、Grok 関連のボットによるデータ収集を拒否していたことになる。ただ、robots.txt に記された「GrokBot」と、利用者の代わりにサイトを操作するAIエージェントの Grok Bot が同じ仕組みで動いているかどうかは確認できていない。

アマゾンは年次報告書で、米国・ドイツ・英国・日本の売上高を個別に開示している。2025年の日本での売上高は306億8,800万ドルで、ドル建てで前年から12.0%増えた (AWSの一部を含む)。国内の通販大手では、楽天市場 (www.rakuten.co.jp) と Yahoo!ショッピングの robots.txt に、AI関連のボットを名指しで拒否する記載はなかった。

robots.txt は従うかどうかを読み取る側に任せる、いわば紳士協定で、法的な拘束力はない。Grok Bot など、人と同じようにサイトを操作するAIエージェントの締め出しは、robots.txt だけでは難しい。アマゾンはこうしたAIエージェントに対し、利用規約に違反するとの警告画面を出して対応している。

AIの買い物代行が広がれば、年686億ドルの広告事業が揺らぐ

アマゾンが外部のAIによる注文を遮断する背景には、広告事業がある。AIが消費者の代わりに商品を買うようになれば、アマゾンのサイトを訪れる人が減り、検索連動型広告などが表示される機会も少なくなる。アマゾンが広告収入にどれだけ依存しているかは、開示資料から分かる。

アマゾンの年次報告書 (10-K) によると、2025年の広告売上高は前年比22.1%増の686億3,500万ドルだった。2022年の377億ドルから3年で1.8倍になり、売上高全体 (7,169億ドル) の9.6%にあたる。当サイトは、直営ネット通販事業の売上高 (2,692億ドル) と、外部の出品者から得る手数料収入など (1,721億ドル) を合わせた額に対する広告売上高の比率を計算した。この比率は2022年の11.2%から2025年の15.6%まで毎年上がった。広告売上高には動画配信サービスの広告や、外部のサイトに配信した広告も含まれる。このため、比率は通販サイト内の広告だけを示すものではない。それでも、広告が通販事業より速く伸びていることははっきりしている。2026年4〜6月期の広告売上高は前年同期比26%増の198億ドルだった。

アマゾンの広告売上高、3年で1.8倍
アマゾンの広告売上高、3年で1.8倍

アマゾンは、AIによる買い物そのものを拒んでいるわけではない。自社の対話型AI「ルーファス」の利用者は2025年に3億人を超えた。同社は決算発表で、ルーファスによる増収効果が年換算で120億ドル近くに達したと説明している。2026年4月29日の決算発表では、ルーファスとの対話中に広告を表示し始めたことも明らかにした。5月には、ルーファスと音声AI「アレクサプラス」を統合した「Alexa for Shopping」の提供を米国で始めた。Alexa for Shopping を使う人の1回当たりの購入額は、使わない人より平均で40%超多いという。自社のAIなら、利用者との対話そのものが広告を出す場になる。

アンディ・ジャシー最高経営責任者 (CEO) は2025年10月30日の決算説明会で、外部のAIエージェントとも将来的に連携するとの見通しを示した。一方で、今のAIエージェントは利用者の購買履歴を把握しておらず、好みの商品を提案できないうえ、価格や配送日を誤ることも多いと指摘した。サイトへのアクセスのうち検索エンジン経由はもともとごく一部で、外部のAIエージェント経由はさらにその一部にとどまるとも説明した。

アマゾンは2025年度の年次報告書で、競争環境の説明を改めた。「インターネットは新規参入や商品の比較を容易にする」としていた記述を、「インターネットやAIなどの技術は新規参入や商品の比較を容易にする」に書き換えた。競合として挙げる事業者の説明にも「AIを使うものを含む」との文言を加えた。

米連邦控訴裁はAIを利用者の道具と判断、AIにカード番号を渡さない決済の仕組みづくりも進む

アマゾンは訴訟でも外部のAIを締め出そうとしてきた。2025年11月4日には米パープレキシティを米カリフォルニア州北部地区連邦地裁に提訴した。パープレキシティのブラウザー「コメット」に組み込まれたAIエージェントが、AIの操作であることを隠してアマゾンで買い物をしたのは、不正アクセスを禁じる米国の法律 (CFAA) などに違反すると訴えた。地裁は2026年3月9日、パープレキシティの行為を一時的に差し止める命令を出した。しかし、上級審の第9巡回連邦控訴裁は8月4日にこの命令を取り消し、地裁に審理を差し戻した。

控訴裁は、コメットのAIエージェントが利用者の端末上で動くことから、サイトにアクセスしているのは利用者本人であり、エージェントは利用者の道具だと判断した。ただ、AIエージェント全般に通じる判断を示したわけではないとも述べた。クラウド上で動く Grok Bot にも同じ判断が当てはまるかは分からない。判決を解説した米法律事務所パール・コーエンは、今後は利用規約が争点になるとみている。

アマゾンが外部のアプリに求めた透明性は、決済業界が整えつつある仕組みとも重なる。ビザは2025年4月、AIに渡すカード番号を別の番号に置き換え、限度額も設定できるサービスを発表した。マスターカードも同じ時期に同様のサービスを打ち出した。米オープンAIと米決済ストライプは同年9月、ChatGPT上で商品を購入できる機能を発表した。カード番号は ChatGPT 側に渡らないという。ビザは同年10月、米クラウドフレアと組み、信頼できるAIエージェントかどうかを通販サイトが見分けられる技術も発表した。ただ、オープンAIは2026年3月に ChatGPT 内で決済を済ませる方式を縮小し、利用者が各店のサイトに移って決済する方式に軸足を移した。Grok Bot は利用者がカードを撮影した画像を受け取り、人と同じように画面を操作して買い物をするため、こうした決済の仕組みをいずれも使っていない。

LINEヤフーはChatGPTと連携し、AI経由の取引から手数料を取る方針

日本の通販大手には、アマゾンとは逆に外部のAIと連携する会社もある。LINEヤフーは2026年5月21日、Yahoo!ショッピングをオープンAIの「Apps in ChatGPT」に対応させた。ChatGPT と対話しながら商品を探し、選ぶのを手助けする機能で、総合型の電子商取引 (EC) モールとしての対応は初めてという。日本経済新聞によると、購入する際は Yahoo!ショッピングのサイトに移る。2月には「Yahoo!ショッピング AIエージェント」の提供を始めた。オープンAIのAIモデルを、システム同士でデータをやり取りする API という仕組みを通じて使う。5月20日の発表では、自社のAIエージェントを経由した取扱高が全体の15%以上に達したとしている。ただ、同社はどの時点の比率か、どう算出したかを明らかにしていない。日本経済新聞によると、同社は8月18日、利用者の約2割がAI機能を経由して商品を購入していると発表した。

稼ぎ方も変える。同社は5月8日の決算説明会資料で、9月から Yahoo!ショッピングの出店者から月額1万円のシステム利用料と、販売額の2.5%のロイヤルティーを徴収する計画を明らかにした。収益の柱を「広告モデルから売上ロイヤリティモデルへ転換」するとも記した。「AI経由手数料」と新しい広告も導入する予定だとしたが、時期や手数料率は示していない。8月3日の決算説明会の質疑応答では、カカクコムへの買収提案の狙いを問われた。同社は、AI時代には予約や購入が成立した時点で料金を受け取る成果報酬型が主流になるとの見方を示した。

同社の広告事業には、すでにAIの影響が出ている。検索広告の売上高は2025年度に1,790億円で、前年度から10.4%減った。2026年4〜6月期も前年同期比6.8%減の430億円だった。同社は8月3日の質疑で、検索数については厳しい状況が続くと説明した。AIが1回の質問で答えを示すようになって検索が増えにくいうえ、自社でもAIによる回答を増やすためだという。一方で、自社が持つデータを生かしてクリック1回当たりの広告単価を引き上げ、検索数の伸び悩みを補うとした。検索広告の売上高のマイナス幅は縮小しているとも述べた。対話アプリ「LINE」の法人アカウントを使う広告の売上高は2025年度に15.3%増えた。メディア事業の広告売上高は全体で5,789億円と、ほぼ横ばいだった。検索広告が縮小するなか、同社はAI経由の取引で稼ぐ方針を掲げる。ただ、AIエージェント経由の収益化については、8月3日の質疑で「まだ検証中」と述べるにとどめた。

楽天グループは外部のAIへの対応示さず、国内広告売上高は2,391億円

楽天グループは、自社のAIで顧客を囲い込む点でアマゾンに近い。1月5日には楽天市場のアプリに「Rakuten AI」を搭載し、利用者と対話しながら約5億点の商品から候補を探して提案する機能の提供を始めた。発表には、AIが決済まで済ませるという記載はない。楽天トラベルのAIエージェントも予約の手前までを支援するが、確定のボタンは利用者自身が押す。

楽天グループの国内の広告売上高 (各事業の合計) は2025年度に2,391億円で、前年度から8.3%増えた。2026年4〜6月期は655億円で、前年同期比15.6%増と伸び率が拡大した。国内のEC流通総額は2025年度に6兆2,052億円だった (2026年に変更した定義で過去分を計算し直した値)。同社は、外部のAIエージェント経由の購入を受け入れるかどうかの方針を発表していない。2026年に出した資料にも、オープンAIやグーグルの対話型AIから楽天市場の商品を買えるようにするとの記述は見当たらない。

会社外部のAIへの対応自社のAI広告・手数料
アマゾンGrok Bot とミューズを遮断、robots.txt で99のボットを拒否ルーファス (5月に Alexa for Shopping へ統合) との対話の中に広告広告売上高686億ドル (2025年)
LINEヤフーChatGPT と連携Yahoo!ショッピング AIエージェント「AI経由手数料」を導入予定 (時期と手数料率は未公表)、検索広告売上高1,790億円 (2025年度、10.4%減)
楽天グループ方針は未公表Rakuten AI (楽天市場アプリ)国内広告売上高2,391億円 (2025年度、8.3%増)

出所: アマゾンの年次報告書と決算発表、LINEヤフーと楽天グループの決算資料と発表資料、各社の robots.txt (当サイトが2026年10月16日に取得)。決算期は各社で異なる。

当サイトが確認した範囲では、日本の規制当局は通販サイトと外部のAIを巡る対立をまだ問題視していない。公正取引委員会が4月に公表した生成AIの実態調査報告書は、AIエージェントによる買い物が広がるとの意見を紹介した。ただ、外部のAIを締め出す行為を独占禁止法上の問題としては取り上げていない。

経済産業省によると、2024年の消費者向け電子商取引の市場規模のうち物販は15兆2,194億円で、EC化率は9.78%だった。外部のAIを経由する取引が物販の市場でどこまで広がるかによって、通販各社の広告収入の見通しは変わる。

マスク氏は今のところ X に「アマゾン対抗」を投稿しただけで、事業の計画は示していない。AIが消費者に代わって買い物をする取引で、どの企業が収益を得るのか。アマゾンの遮断で、その主導権争いが表面化した。アマゾンは外部のAIを締め出して広告収入を守る道を選び、LINEヤフーは外部のAIに門戸を開いて手数料収入を得る方針を示した。楽天グループは直近の4〜6月期に国内広告売上高が前年同期比15%を超えて伸びたが、どちらの道を選ぶかはまだ明らかにしていない。日本の通販株では、各社の対応の違いが広告や手数料の収入をどう左右するかが焦点になる。各社の詳細は楽天グループの銘柄ページとLINEヤフーの銘柄ページに、AIエージェントの仕組みはAIエージェントの9層の解説にまとめている。

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