電子機器に必ず入る部品の、いちばん奥にある白い粉を握っているのは日本の化学会社である。ただし決算を並べると、握っている側の利幅は買う側より薄かった。占有率の高さと、値段を決める力は別の話である。
スマートフォンには1台あたり1,000個前後、電気自動車には1万個を超える積層セラミックコンデンサが載る。この部品の中身は、誘電体と呼ばれるセラミックの薄い層と金属の電極を交互に何百層も重ねたものだ。そのセラミック層の主材料が高純度のチタン酸バリウムで、最先端の高付加価値品では日本の化学会社が世界市場の過半から7割前後を握るとされる。
供給者として名前が挙がる代表的な13社がある。日本が堺化学工業、富士チタン工業、戸田工業、日本化学工業、共立マテリアルの5社。海外が米ヴァイブランツ、米インフラマット、米アメリカン・エレメンツ、米ナイアコル、米マテリオン、仏バイコウスキー、独エイチ・シー・スターク、韓ロッテの8社である。
この13社の一覧を、決算書と資本の異動記録で1社ずつ確かめた。すると一覧そのものが古くなっていること、そして「日本が世界を握る」という説明が投資の話としては成り立ちにくいことの2点が出てきた。
「海外8社」のうち2社は、もう海外の独立企業ではない
一覧の顔ぶれを資本の現在地で並べ直すと、投資の対象として見た場合の姿がかなり変わる(本稿の図1)。
図1 — 日本5社と海外8社の顔ぶれ、そして合弁MFマテリアルの持ち分。海外勢のうち上場して買えるのはマテリオン1社にとどまる
米ヴァイブランツは、旧フェローの電子材料事業を統合した会社として紹介される。この記述自体は正しいが、続きがある。フェローは2022年4月21日、米投資会社アメリカン・セキュリティーズ傘下のプリンス・インターナショナルに1株22.00ドル、総額約21億ドルの現金で買収された。同時にクロマフロ・テクノロジーズと統合し、ヴァイブランツ・テクノロジーズへ改称している。本拠はテキサス州ヒューストン、売上高は約20億ドル、従業員約5,400人、生産拠点63か所。上場企業ではなくなっており、株式市場から買うことはできない。
独エイチ・シー・スタークの立ち位置はさらに動いている。同社の持ち株会社エイチ・シー・スターク・ホールディングは、2024年に三菱マテリアルが連結子会社としている。つまり「ドイツの専門メーカー」として海外勢に数えられている会社は、資本の上ではすでに日本企業の傘の下にある。同社は2026年7月31日、本拠地ゴスラーでタングステン再生の能力増強に約5,000万ユーロを投じると発表した。
海外8社のうち、株式市場で買える上場企業は米マテリオンの1社だけになる。同社が米証券取引委員会に提出した書類によれば、2025年12月期の売上高は17億8,655万ドル。残る米インフラマット、米アメリカン・エレメンツ、米ナイアコル、仏バイコウスキー、韓ロッテは、非上場か、材料事業が巨大企業の一部門に埋もれている。米アメリカン・エレメンツは高純度化合物を数万品目そろえる供給者で、最先端コンデンサ向けの量産材料を大量に納める立場とは事業の性格が異なる。米ナイアコルと米インフラマットも同様に小規模な専門企業である。
一覧に並ぶ13社は、市場調査資料に載る「主要な供給者」の集合であって、競争の実力を反映した序列ではない。桁の違う会社が同じ行に並んでいる点は、この種の一覧を読むときの基本的な注意になる。
なぜチタン酸バリウムでなければならないのか
材料の話に入る前に、この粉が何をしているのかを押さえておく必要がある。
コンデンサは電気を溜める部品で、溜められる量は誘電率と電極面積に比例し、層の厚みに反比例する。チタン酸バリウムが選ばれるのは、ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造を持ち、常温で誘電率が数千に達するためである。空気の誘電率を1とすると桁が3つ違う。同じ大きさで数千倍の電気を溜められるという意味になる。
この材料には温度によって結晶の形が変わる性質があり、その変わり目の付近で誘電率が跳ね上がる。設計側はこの性質を利用しつつ、実際の使用温度で特性が暴れないよう、添加物を微量ずつ加えて調整する。ジルコニウム、希土類、マグネシウム、マンガンといった元素を加える配合が各社の技術の中身にあたる。対象となる一覧に「各種添加微粒子材料」が併記されているのはこのためで、主材料の粉だけを納めれば済む商売ではない。
難所は粒の細かさにある。コンデンサの容量を増やすには誘電体の層を薄くして積層数を増やすしかないが、1層が薄くなるほど、その層に並ぶ粒も小さくなければならない。層の厚みが0.5マイクロメートルなら、粒の直径はその数分の1が要る。ところがチタン酸バリウムは粒を細かくするほど誘電率が下がるという性質を持つ。細かくしたい要求と、誘電率を保ちたい要求が正面から衝突する。
ここで製法の差が効いてくる。従来からある固相法は、原料を混ぜて高温で焼く方式で、粒は大きく形も不揃いになりやすい。これに対して水熱合成法は、高温高圧の水の中で結晶を育てる。粒が細かく、球に近く、結晶としての完成度が高い粉ができる。堺化学工業が最先端向けで強い位置にいるのは、この水熱合成法を軸にしているためで、同社はこの方式による微細で球状のペロブスカイト型化合物を電子材料の中核に据えている。戸田工業が湿式合成による微粒子を掲げているのも、同じ「細かさと誘電率の両立」という課題に別の経路で答えたものである。
粒の均一性は容量だけでなく信頼性にも直結する。層の中に大きな粒が1つ混じれば、そこが絶縁破壊の起点になる。数百層のうち1層が壊れれば部品全体が使えない。完成品側が材料の素性にこだわる理由はここにあり、コンデンサ本体の設計思想については村田製作所の小型化と信頼性を扱った記事で別途扱った。
買い手が上流に入った形 — 持ち分は20%にとどまる
供給の押さえ方として実例になるのが、2023年9月1日に設立された合弁のMFマテリアルである。
出資比率は富士チタン工業が70%、村田製作所が20%、石原産業が10%。資本金1億円、設立時の従業員230人で、事業はチタン酸バリウムの製造・販売と、それに付随する原料調達、品質保証、品質および生産性の改善である。生産能力を増やすため、宮崎県延岡市に2027年稼働予定の新工場を計画している。
注目すべきは村田製作所の持ち分が20%にとどまる点である。同社は完成品で世界最大手にあたり、資金力からすれば買収も内製も選べた。それでも20%を選んだのは、材料の技術と生産を自社に取り込むのではなく、供給の安定と情報の共有を確保する範囲で止めたということになる。材料の開発は化学会社の専門性に依存する部分が大きく、抱え込めば固定費を抱えることにもなる。この20%という数字は、垂直統合の限界がどこにあるかを示す実例として読める。
富士チタン工業が70%を持つ点も見落とせない。同社は石原産業の子会社で、単独では上場していない。石原産業が合弁に直接10%を出していることと合わせると、石原産業グループとしての実効的な関与は合計8割に達する。
決算を並べると、握っている側の利幅が薄い
ここからが本題になる。世界の7割を握るとされる材料側の企業が、実際にどれだけ稼いでいるのかを金融庁のEDINETに提出された有価証券報告書で確かめた(本稿の図2)。
図2 — 売上高・営業利益率・研究開発費の比率を並べた実測と、固定コンデンサおよび酸化チタンの国内生産指数の推移
いずれも2026年3月期の数値で、マテリオンのみ2025年12月期である。
買い手にあたる村田製作所は売上高1兆8,308億5,600万円、営業利益率15.39%、研究開発費の対売上高比率8.68%、従業員74,302人。これに対して材料側は、石原産業が売上高1,548億9,700万円で営業利益率12.32%、堺化学工業が814億4,700万円で7.92%、日本化学工業が401億8,200万円で6.01%、戸田工業が280億4,100万円で3.07%だった。
この4社の売上高を足しても3,045億6,700万円で、村田製作所1社の16.6%にしかならない。占有率が高いことと、交渉の力を持つことは別だという事実が、この比率に出ている。材料は完成品の原価に占める割合が限られるうえ、買い手は世界に数社しかいない。売り手が世界の7割を持っていても、買い手が数社に集中していれば、価格を決めるのは買い手の側になる。
米マテリオンの数字も並べておくと、売上高17億8,655万ドルは1ドル158.91円(米セントルイス連邦準備銀行の統計、2026年8月21日)で約2,839億円、営業利益率6.15%、研究開発費の比率1.45%である。堺化学工業の研究開発費比率3.49%はこの2.4倍にあたる。研究への資金の割き方という一点では、日本勢の集中度が際立つ。
三菱マテリアルは売上高1兆8,440億5,300万円と村田製作所に並ぶ規模だが、営業利益率3.28%、研究開発費比率0.46%と性格がまったく違う。資源と金属の会社が独の材料会社を傘下に収めた形で、材料そのものの高付加価値化を主戦場にしているわけではない。
増産へ動いている会社と、動いていない会社
同じ材料分野でも、資金の使い方は割れている。ここを見ると各社の判断が読める。
堺化学工業は2026年3月期に設備投資57億3,100万円、研究開発費28億4,400万円。設備が研究の2.0倍で、作る量を増やす局面にあることを示している。同社は中期の計画でチタン酸バリウムや高純度炭酸バリウムへの投資を掲げてきた。
対照的なのが戸田工業で、設備投資9億2,900万円に対して研究開発費13億8,400万円。研究が設備の1.5倍になっている。営業利益率3.07%という水準と合わせると、増産に踏み出す前の段階にとどまっていると読める。「高付加価値電子素材を展開」という説明と、資金の実際の向きには距離がある。
石原産業は設備投資116億2,100万円、研究開発費112億4,500万円と、いずれも材料勢では突出している。ただし同社の主力は酸化チタン顔料であり、この投資の全額がコンデンサ材料に向かうわけではない。合弁への10%出資と子会社の70%出資という形で関与しているという読み方が正確になる。
国内の生産量そのものは、8年前を下回っている
最後に、占有率とは別の物差しを置く。経済産業省の鉱工業指数をe-Statで引き、日本国内の生産量がどう動いてきたかを確かめた。
固定コンデンサの生産指数(2020年を100とする)は、2018年96.5、2019年84.5、2020年100、2021年113.4、2022年90.7、2023年80.6、2024年86.5、2025年87.4と推移している。2021年の113.4を頂点に、2025年は87.4まで下がった。落ち込みは22.9%で、2018年と比べても9.4%低い。
原料側の酸化チタンも同じ向きにある。2018年の119.8から2025年の92.5へ、22.8%減った。四半期でみると2026年第1四半期は固定コンデンサが92.0、酸化チタンが99.1と持ち直しの兆しはあるが、まだ2018年の水準には戻っていない。
世界での占有率が高いとされる分野で、国内の生産量が8年前を下回るという事実は、生産の拠点が海外へ移っていることを映している。日本企業が世界の7割を握るという表現は、企業の国籍で数えたときに成り立つ話であって、日本国内で作られている量を示すものではない。投資の判断としては、この2つを分けて見る必要がある。
追うべき数字はどこにあるか
材料側の企業を見るとき、株式市場で確かめられる指標は3つに絞られる。
第1に、堺化学工業の設備投資が2027年3月期以降も研究開発費を上回り続けるかどうか。増産の意思はこの比率にいちばん早く出る。第2に、MFマテリアルの延岡新工場が2027年に予定どおり動き出すかどうか。動けば富士チタン工業を通じて石原産業の連結に効いてくる。第3に、鉱工業指数の固定コンデンサが2018年の96.5を超えるかどうか。国内の生産量が戻るのか、海外への移転が続くのかは、この1本の数字に表れる。
粉を握っている側が、その粉で稼げているとは限らない。この分野で日本企業が持っているのは、代わりの利かない技術と、代わりの利く立場という2つが同居した位置である。
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