MicrosoftがスリーマイルとMetaが6.6GWを買い、日本は650億ドルを米小型炉に振り向けた、AIの電力をウランから送電網まで5層で分解し、詰まるのは炉でなく燃料だと確かめる。
大手5社が原子力で契約した電力は既設と新設を合わせて約10GW、米国の原子力設備の1割に当たる。炉より先に詰まるのは燃料で、HALEUの商業供給者は米国で1社。日本は650億ドルを米小型炉に振り向け、電力5社の設備投資は年2兆4,000億円に達する。
AIが使うものを順に辿ると、新しいモデルは計算を、計算はデータセンターを、データセンターは電気を要求する。開発中の最大級のAI拠点は都市1つ分の電力を消費し、既存の送電網はそれを前提に作られていない。電力需要が緩やかに予測どおり伸びる世界のための設計だった送電網に、変圧器の納期2年超、送電線の新設10年という現実が重なる。希少になった資源には資本が集まる。AIの第1段階は計算を供給する会社に報い、次の段階は電気を供給する会社に報いる可能性がある。本稿はその「電気」を、ウラン、燃料加工、原子炉、電力会社、送電網の5層に分け、各層で誰が何を契約し、どこが詰まっているかを一次資料で確かめる。原子力関連11銘柄が一斉安になった日の検証は先行記事、発電所を建てずにAIの電気を作る送電網側の方法は別稿に委ねる。元の円換算は1ドル=159.21円 (2026年8月14日・米連邦準備制度) による。
AIの電力を作る5つの層、データセンターはその全てに乗る
原子力は1つの投資題材ではなく連鎖である。第1層のウランは鉱山会社が原料を掘る土台で、Cameco、NexGen、Uranium Energy、Energy Fuels、Denison、enCore、UR-Energyが並ぶ。第2層の燃料加工は濃縮でウランを炉に入れられる燃料に変える工程で、Centrus EnergyとASP Isotopesが担い、燃料設計のLightbridgeが隣にいる。第3層の原子炉はこれから建つ層で、NuScale、Oklo、NANO Nuclear、Rolls-Royceの小型炉と、BWX Technologies、Curtiss-Wright、Mirionの機器メーカーがいる。第4層の電力会社は今すでに大規模に発電し届けている現金を生む層で、Constellation、Vistra、Talen、PSEGに加えDominion、Duke、Exelon、NextEraが並ぶ。第5層の送電網は変圧器・開閉装置・建設で、Fluorのような建設会社と変圧器メーカーが「つるはしとシャベル」を売る。
原子力への反対論は数十年変わっていない。危険すぎる、高すぎる、衰退産業だという3つである。変わったのは電気の経済性の方で、大手クラウドは1kWh当たりの最安を求めていない。求めているのは常に使えることで、原子力は24時間の基底電力、1か所でGW級の密度、40年を超える運転寿命、直接排出ゼロを同時に満たす。だから大手は再生可能エネルギーが追いつくのを待つのをやめ、原子力を直接買い始めた。同じ5層を日本に当てると、ウランは国内鉱山がなく全量輸入、燃料加工は日本原燃と三菱原子燃料、原子炉は三菱重工と日立、IHIと日揮はNuScaleの株主、日本製鋼所は圧力容器、電力会社は関西・九州・東京・中部と電源開発、送電網は三菱電機と日立と東芝の変圧器に鹿島・大成の建設が付く。
大手5社の原子力契約を台帳にする: 835MW、1,920MW、500MW、6.6GW、1GW
これは予測ではなく、すでに起きている。Microsoftは2024年9月、Constellation Energyと20年の電力購入契約を結び、2019年に停止したスリーマイル島1号機 (835MW) を「クレーン・クリーンエナジーセンター」として2027年に再稼働させる。Constellationは米国の炭素を出さない電力の約10%を発電する最大の原子力事業者で、この契約は休止炉を買い手が再稼働させる価格を初めて市場に示し、既設の原子力資産の評価を変えた。Amazonは2024年3月にTalen Energyのサスケハナ原発に隣接するデータセンター用地を取得し、2025年6月11日の8-Kで送電網経由の電力購入契約に拡大した。全量で1,920MW、期間は2042年までで、同州内での小型炉新設も検討する。
Googleは2024年10月、Kairos Powerに500MWの小型炉群の開発・建設・運転を委ね、初号機は2030年、全体は2035年までとした。複数の小型炉を1社が一括で契約する米国初の例で、TVAが送電網への接続で協力する。Metaは2026年1月9日、Vistra、Oklo、TerraPowerとの契約で最大6.6GWを確保した。Vistraのビーバーバレー (ペンシルベニア)、ペリー、デービスベッセ (オハイオ) の3原発から20年で2.1GW超を買い、TerraPowerの345MWナトリウム冷却炉2基に資金を出し、Okloの新型炉を加える。既設と新設を組み合わせた最大規模である。Oracleは2024年9月、1GW級のデータセンターを3基の小型炉で賄う設計を明らかにし、建設許可を取得済みと説明した。5社の既設分 (835MW、1,920MW、2.1GW超) は約4.9GW、新設分を含めると約10GWで、米国の原子力設備約97GWの1割に相当する。試験的な取り組みではなく、20年契約と数十億ドルの出資を伴う。AIの競争は電力の競争になり、原子力はその中心にいる。
詰まるのは炉ではなく燃料: ロシア産濃縮ウランの禁輸、HALEUの単独供給者、開示に増える燃料の語
投資家の多くは誰が発電するかを見るが、より大きな機会は発電を可能にする側にある。その最初の層が燃料で、ここに3つの事実が重なる。第1に、米国は2024年5月成立の法律でロシア産の濃縮ウランの輸入を2040年まで禁じた。ロシアは西側の濃縮供給の主要源で、例外許可は2027年末までしか出ない。西側は突然、自前の燃料供給網を必要とし、Centrusはすでにそこにいた。第2に、HALEU (濃縮度5〜20%の高濃縮度低濃縮ウラン) の商業供給者は米国でCentrus Energy 1社で、オハイオ州パイクトンでNRC認可の施設を運転する。Oklo、X-energy、Kairos、TerraPowerの新型炉の多くはこの燃料を前提にする。炉の設計がどれであっても燃料は同じ1社を通るため、これは「どの炉が勝つか」ではなく「全ての炉が必要とする燃料」への賭けになる。第3に、開示文書の中で燃料の語が増えている。SECの10-K・10-Q・8-Kで「HALEU」に触れる文書は2023年の51件から2025年の95件へ、「data center」と「nuclear」を同時に含む文書は191件から399件、2026年は8月までで491件に達した。
原子炉の層では、NuScaleが米国で唯一NRCの設計承認を持つ上場小型炉企業である。承認には年単位の時間と数億ドルがかかり、競合がまだ承認を求めている間にNuScaleは建設へ進む。ルーマニアのドイチェシュティは欧州初の商業小型炉になる見込みで、2026年6月には日本が米国主導の小型炉に最大250億ドルを振り向けた。それでも株式市場は商業契約の積み上がりと実行の証拠を待っており、技術より建設の免許が価値を持つという論は、その契約が出るまで検証されない。米国の家庭用電力価格はFREDの指数で2023年の16.8セント/kWhから2026年7月の19.7セントへ3年で17%上がり、制約のある市場で電力価格が上がるという第4層の論点も数字で追える。
日本の650億ドルはGE日立に最大400億、NuScaleに250億、当事者は日立・IHI・日揮・日本製鋼所
日本の対米投資5,500億ドルのうち650億ドル超が小型炉に向かうと、2026年6月12日から20日にかけて報じられた。内訳はGE Vernovaと日立が共同開発するBWRX-300に最大400億ドル、NuScaleに250億ドルで、関税交渉で合意した投資枠の第2・第3弾から拠出し、初号機はテネシー州が候補である。米商務長官は「米国内に小型炉の供給網を築き、世界へ輸出する」と位置づけた。日本側の当事者を有価証券報告書で置くと、日立製作所 (6501) は2026年3月期の研究開発費2,903億円・設備投資4,739億円、三菱重工業 (7011) は研究開発費2,891億円で独自の小型炉を開発中、IHI (7013) と日揮ホールディングス (1963) はNuScaleの株主で、IHIは売上1兆6,434億円・営業利益率10.1%、日揮は売上7,453億円・営業利益率4.7%である。日本製鋼所 (5631) は圧力容器の大型鍛鋼で世界シェア上位、売上2,749億円・営業利益率9.2%で、炉が増えれば最初に受注が現れる位置にいる。
財務省の貿易統計は、日本の燃料側の動きをすでに映している。「放射性元素」の輸入額は米国からが2024年の34億円から2025年に199億円、カナダからが24億円から146億円へと、いずれも前年の6倍に増えた。2026年1〜6月は米国から95億円で、再稼働が燃料の輸入を動かし始めている。一方で同じ期の鉱物性燃料 (LNG・原油・石炭) の米国からの輸入は1兆6,025億円で、燃料費の大半は今も化石燃料にある。
電力5社の設備投資2兆4,000億円と「ワット・ビット連携」、国策AIデータセンターが落ちる場所
日本でAIデータセンターの電力を担うのは、原子炉を再稼働させる電力会社である。金融庁EDINETの2026年3月期で、東京電力ホールディングス (9501) は売上6兆3,286億円・営業利益率5.3%・設備投資9,048億円で、柏崎刈羽の再稼働と首都圏のデータセンター向け送電を抱える。関西電力 (9503) は売上4兆566億円・営業利益率10.8%・設備投資5,807億円で国内最多の稼働炉を持ち、美浜で新設の調査を進める。九州電力 (9508) は設備投資3,815億円で川内・玄海の4基を運転し、熊本の半導体工場群に電気を送る。中部電力 (9502) は3,280億円、電源開発 (9513) は1,886億円で、5社の合計は2兆3,836億円に達する。
国策としてのAIデータセンターは、経済産業省と総務省が2025年に置いた電力と通信の官民懇談会、いわゆる「ワット・ビット連携」で、送電網と光回線とデータセンターの立地を一体で決める方針に結びついている。米国で大手が原子炉を直接買う構図は、日本では「再稼働する電力会社の隣にデータセンターを置く」形で現れる。機器の側では木村化工機 (6378) が熱交換器と再処理機器で営業利益率10.8%、岡野バルブ製造 (6492) が原子力向けの弁で12.3%と、規模は小さいが再稼働の数に利益が比例する。データセンター向け電源機器の上位25社に日本勢が2社しかいない事実は別稿で扱った。
原子力の5層に立つ関連銘柄、燃料と圧力容器と再稼働を受ける側
本稿の文脈では希土類でなく、燃料・圧力容器・再稼働の3つの層で日本企業が立つ銘柄が該当する。数字は2026年3月期の有価証券報告書によるもので、売買の推奨や評価は示さない。
- 日本製鋼所(5631): 圧力容器の大型鍛鋼。営業利益率9.2%・外国人持株比率40%
- IHI(7013): NuScaleの株主、炉内構造物。営業利益率10.1%・研究開発費396億円
- 日揮ホールディングス(1963): NuScaleの株主、建設・設計。売上7,453億円
- 関西電力(9503): 国内最多の稼働炉。営業利益率10.8%・設備投資5,807億円
- 東京電力ホールディングス(9501): 柏崎刈羽の再稼働。設備投資9,048億円
- 木村化工機(6378): 原子力向け熱交換器。営業利益率10.8%
確かめられる点
検証は公表の日付で追える。第1に、クレーン・クリーンエナジーセンターが2027年に送電を再開するか。第2に、NuScaleが日本の250億ドルを商業契約に変える最初の案件がどこで、いつ公表されるか。第3に、Centrusのパイクトンの濃縮能力の拡張と、エネルギー省のHALEU契約の追加。第4に、ロシア産濃縮ウランの例外許可が2027年末で実際に切れるか。第5に、日本側では放射性元素の輸入が2026年通年で2025年の345億円を超えるか、東京電力の柏崎刈羽の再稼働が次の有価証券報告書の設備投資の内訳に現れるか。
原子力は未来の題材ではなく、すでに契約の台帳にある。問いは原子力が重要かどうかから、誰が容量を握るかへ移った。燃料を掘り、炉を建て、機器を納める会社の多くは、発電会社ほど市場に追われていない。大手の需要は加速し、供給は制約されたままで、日本は650億ドルと年2兆4,000億円の設備投資でその供給の側に立っている。
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