米国の電源構成は75年で入れ替わり、2025年は天然ガス40.4%・石炭16.5%。自給率15.3%の日本ではAI需要の増加が輸入代金に直結する。年22時間の譲歩で76GWを空ける発想と日本への当てはめを解く。
送電網は、1年8,760時間のうち数十時間しかない需要の山に合わせて造られている。その山だけ計算機の消費を落とす取り決めがあれば、発電所を1基も建てずに76ギガワットが入る。電力の制約は物理だけの問題ではない。
米エネルギー情報局の集計で、2025年の米国の発電量は4兆4,300億kWhと過去最高を更新し、前年比2.8%増えた。内訳は天然ガス40.4%、原子力17.5%、石炭16.5%。風力10.4%・太陽光8.7%・水力5.5%を合わせた再生可能エネルギーは24.6%に達する。1950年に46%を占めた石炭が、2016年に天然ガスへ、2022年には再生可能エネルギーへと相次いで抜かれ、いまや4番手に沈んだ。
この入れ替わりを75年の時間軸で眺めると、日本が置かれた条件との差が数字で見えてくる。
石炭が2度抜かれた75年と、需要が再び伸び始めた地点
1950年の米国の発電量は、石炭1,500億kWh、水力を中心とする再生可能エネルギー1,000億kWh、天然ガス450億kWhという構成だった。ここから四半世紀ごとに主役が入れ替わる。1957年に商業用原子力発電が始まり、1970年代の石油危機が省エネと燃料転換を促し、1978年の制度改正が電力会社以外の発電参入を認めた。
決定打は2005年から2015年にかけての頁岩ガス開発である。水平掘削と水圧破砕の組み合わせが国内のガス生産量を押し上げ、燃料価格が下がった結果、石炭火力は経済性で敗れた。2016年に天然ガスが石炭を追い抜いたのは規制ではなく価格による交代であり、だからこそ後戻りしなかった。
そして2022年以降、25年近く横ばいだった米国の電力需要が再び増加に転じる。要因は計算需要である。直近数年の天然ガス発電量が再び伸びているのは、この需要増にガス火力が応じている姿にほかならない。米国はこの局面で、燃料を国内から追加調達できる。2019年に純輸出国へ転じた同国にとって、需要増は国内の井戸への発注に置き換わる。
自給率15.3%が意味する、同じ需要増の別の顔
日本のエネルギー白書によれば、2023年度の一次エネルギー自給率は15.3%で主要7か国の最下位、化石燃料への依存度は80.7%である。燃料価格の高騰と円安が重なった2022年には、化石燃料の輸入額が2年間で22兆円以上増え、年間の貿易赤字は20兆円を超えて過去最大を記録した。
構造が違えば、同じ需要増が別の結果を生む。米国で計算需要が増えれば、支払いは国内の生産者へ渡り、雇用と税収に還る。日本で同じことが起きれば、追加の燃料代は国外へ出ていく。産業用の電気料金は日本が1kWhあたり約25円、米国が10〜15円という水準にあり、約2倍の開きがある。
この差を事業の言葉に直すと輪郭がはっきりする。100メガワットの計算拠点を年8,000時間動かすと消費は8億kWh。電力費だけで日本は年約200億円、米国は80億〜120億円で、差額の80億〜120億円が毎年積み上がる。半導体の性能競争で数%を削り合っている一方で、立地の選択が2倍の差を生んでいる。
日本国内の需要見通しも既に上振れている。資源エネルギー庁の資料では、2034年度の全国の需要電力量は8,524億kWhで2024年度比約6%増となり、計算拠点と半導体工場の新増設を見込む地域の拡大が押し上げ要因に挙げられた。国際エネルギー機関の試算では、世界の計算拠点の電力消費は2026年に2022年比2.2倍の1兆kWhに達し、日本の年間総消費に匹敵する規模になる。
需要の山は年に数十時間しかない
ここから先が、日本で最も報じられていない部分である。
米デューク大学の研究チームは、計算拠点が最大稼働時間のうち0.25%だけ消費を落とすことに同意すれば、既存の送電網のまま76ギガワットの新規需要を受け入れられると試算した。全米の合計最大需要の約1割にあたる。0.5%なら98ギガワット、1.0%なら126ギガワットまで増える。地域別では最大の電力市場PJMが0.5%の条件で18ギガワット、中西部の系統運用機関が15ギガワットの余力を持つ。
0.25%を時間に直すと年間21.9時間、1日あたりに均せば3.6分にすぎない。送電網の設備が年に数十時間の需要の山に合わせて造られているため、その山だけを外せば残り8,700時間分の余力がそのまま使えるという算術である。新しい発電所も送電線も要らず、必要なのは「落とせる」という契約と、それを実行する制御の仕組みだけになる。
AIの仕事の性質が、この譲歩を現実的にしている。モデルの学習は数週間かけて回す計算で、途中経過を保存して再開する仕組みが元々組み込まれているため、数時間の中断が成果を損なわない。加えて場所をずらす方法もある。電気を長距離送るには送電線が要るが、計算の依頼は通信網で送れる。光ファイバーが電線の代役を務め、需要地から余力のある地域へ仕事そのものを移せる。
止めやすさは用途で決まる。利用者の入力に応答する推論は待たせられないが、学習は待てる。この非対称が、電力系統から見た計算需要の性質を二分する。
計算以外の電力を削るという最短経路
発電を増やす話の陰で、消費側の改善余地が見落とされている。
計算拠点の電力効率はPUEという指標で測る。施設全体の消費電力を、計算機そのものの消費電力で割った値で、1.0に近いほど無駄がない。従来の空冷方式では1.4から1.6程度、つまり計算1に対して冷却などに0.4から0.6を追加で使っていた。液体で直接冷やす方式に替えると1.1前後まで下がる。同じ計算量に対する総消費が2割以上減る計算であり、これは発電所を建てるより速く、確実に効く。
日本は2026年4月から制度の側も動いた。省エネルギー法に基づく報告項目に計算拠点向けの区分が加わり、電気使用量、PUE、エネルギー消費原単位の実績と目標の提出が求められるようになった。効率が測られ、公表され、比較される状態を作ることが最初の一歩になる。測定なしに改善の優先順位は決まらない。
高性能な計算機ほど発熱が集中するため、液体冷却は選択肢ではなく前提になりつつある。1ラックあたりの消費電力が100キロワットを超える構成では、空気では熱を運びきれない。ここに日本の機器産業が接続する。
電力インフラの受注残として現れる日本株の実需
計算需要の話は、東京市場では発電機器と冷却設備の受注残として観測できる。
ガスタービンで世界大手の三菱重工業(7011)は、計算拠点向けを含む発電設備の引き合いが積み上がる局面にあり、納期の長期化がそのまま価格決定力に転じている。日立製作所(6501)は送配電機器事業で変圧器の世界的な供給不足の恩恵を受ける立場にある。冷却では、空調大手のダイキン工業(6367)に加え、精密空調と液体冷却を手がける高砂熱学工業(1969)や新晃工業(6458)が計算拠点の設備工事に関わる。データセンター内部の配線では光ファイバー部材のフジクラ(5803)が需要を取り込み、発電設備そのものでは非常用から常用へ用途が広がるヤンマーや原動機各社の動きが続く。
需給調整の仕組みを商いにする側も日本に存在する。電力の需要を束ねて系統の求めに応じて増減させる事業は既に制度化されており、エナリス(6079)などが手がけてきた。計算拠点が「落とせる需要」として参加すれば、この市場の規模と単価は変わる。
読み違えを避けるために、前提も明記しておく。デューク大学の試算は米国の系統構造に基づくもので、地域間の送電容量が限られる日本にそのまま当てはまるわけではない。日本の系統は東西で周波数が異なり、変換設備の容量が制約になる。それでも「年に数十時間の山だけを避ける」という発想そのものは系統の形に依存しない。発電所の新設には環境影響評価と建設で10年を要するが、落とせる契約の設計は制度の問題であり、年単位で動かせる。
安価な電力を確保するという課題は、発電所を建てる競争としてだけ語られてきた。米国が75年かけて手に入れたのは、燃料を自前で足せる体質と、価格で電源が入れ替わる市場だった。日本がその体質を今から作るのは難しい。だが計算機をいつ動かすか、どこで動かすか、熱をどう捨てるかは、輸入に依存しない領域にある。年に22時間という数字が示しているのは、電力の制約が物理ではなく取り決めの側にも大きく存在するという事実だ。
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