中国のAI半導体を作る能力は月18万枚へ伸びる。だがその数字は、実際に動く加速器が何個できるかを測っていない。世界の分母に置き直し、露光34回という代価と、広帯域メモリが決める年間の上限まで分解して検証する。
輸出管理は中国のAI開発を大きく遅らせる。長くそう見られてきた前提に、疑いを差し挟む数字が出回っている。先端の半導体を作る能力は2024年の月およそ1万枚から2028年には月18万枚へ、国産の比率は2021年の9パーセントから2030年に75パーセントへ。輸入への依存は9割から25パーセントまで落ちる。制約が革新を加速させたのだという読み方が、この数字には添えられている。
数字そのものは、出所の調査会社が示したとおりのものだ。だが、これらの指標は「作れるウェハーの枚数」と「国産が占める割合」を測っており、「実際に動く加速器が何個できるか」は測っていない。半導体の議論で最も誤解を生むのは、この二つを同じものとして扱うことである。
本稿は、これらの指標を一つずつ分解し、それぞれの数字が何を測り何を測っていないのかを確かめる。そのうえで、ウェハー1枚から取れる良品の数を変えている露光の回数、そして能力の曲線には現れない広帯域メモリという天井を検証する。最後に、輸出管理が需要をどこへ押し流したのかを、日本の産業の位置とともに示す。株価や時価の数字は扱わない。
能力の棒グラフを、世界の分母に置き直す
この見通しが最初に挙げるのは、中国の先端の論理半導体を作る能力である。2024年に月およそ1万枚、2025年に2万5,000枚、2026年に5万5,000枚、2027年に10万枚を超え、2028年に18万枚。4年で18倍という伸びになる。元の推計には、いずれも年初と年末の平均値であること、2024年と2025年は実績に基づく推計で2026年以降は予測であることが断り書きされている。
この曲線を評価するには、分母が要る。国際半導体製造装置材料協会の300ミリ工場見通しによれば、7ナノメートル以下の先端工程の世界全体の能力は、2024年の月85万枚から2028年に月140万枚へ、およそ69パーセント増える。2026年に初めて月100万枚を超え、116万枚に達する見込みである(国際半導体製造装置材料協会)。
並べると位置がはっきりする。2028年の月18万枚は、同じ年の世界の月140万枚に対して13パーセント前後にあたる。国内の需要を賄うという文脈では大きいが、世界の先端能力を握るという水準ではない。18倍という伸び率は、出発点が月1万枚と極端に小さいことの裏返しでもある。
伸び率と絶対量を分けて読むことは、この分野の投資判断で最初に要る作法である。伸び率だけを見れば脅威に見え、絶対量だけを見れば些少に見える。どちらも実像ではない。
国産比率の曲線は、置き換わった量ではなく置き換わった割合を測る
二つ目の指標は、中国国内で使われるAI半導体のうち国産が占める割合である。2021年に9パーセント、2022年に19パーセント、2023年に20パーセント、2024年に32パーセント、2025年に40パーセント、2026年に41パーセント。ここから予測に入り、2027年に51パーセント、2028年に61パーセント、2029年に70パーセント、2030年に75パーセントへ伸びる。あわせて示される「9割から25パーセントへ」は、この裏返しで、輸入が占める割合の低下を表す。
注意すべきは、これが比率であって量ではない点だ。分母である中国国内のAI半導体の総需要も同時に伸びている。国産の割合が上がっても、輸入の絶対量が減るとは限らない。逆に、輸入が規制で細れば、国内の需要が満たされないまま国産の比率だけが上がる場合もある。比率の上昇は、置き換えが進んだ証拠にも、選択肢が消えた結果にもなりうる。
もうひとつ、2025年の40パーセントから2026年の41パーセントへ、伸びがほぼ止まっている点は読み飛ばされやすい。この停滞の後に2027年から2030年へ急な上り坂が引かれている。予測の形として、直近の停滞を一時的なものと見なす前提が置かれている。その前提が何に依存しているのかを、次に見ていく。
ウェハーの枚数が同じでも、取れる良品の数が違う
これらの指標が触れていない最初の要素は、1枚のウェハーから何個の良品が取れるかである。ここで効いてくるのが、極端紫外線の露光機を使えないという条件だ。
同じ7ナノメートル級の回路を作る場合、極端紫外線を使えば露光の工程は9回で済む。これを深紫外線の装置で実現しようとすると、34回の露光が要る。細い線を一度に描けないため、複数回に分けて描き重ねる多重露光の手法を使うからだ。中国の受託生産大手が採ったのは、台湾勢が使う二重の重ね描きではなく、四重に重ねる自己整合の手法で、工程の複雑さと費用がさらに増す。
代価は数字で出ている。歩留まりは7ナノメートル級で20から40パーセント、5ナノメートル相当では20パーセント程度と報じられ、製造の費用は台湾勢の同等品に比べて40から50パーセント高い。露光の回数が3倍から4倍に増えることは、装置1台が単位時間に処理できる枚数を圧迫し、費用を2倍から3倍に押し上げる(米企業研究所)。
この差は、能力の棒グラフには現れない。月18万枚という数字は投入するウェハーの枚数であって、そこから何個の売れる半導体が出てくるかを示していない。歩留まりが3割なら、同じ枚数から取れる良品は7割の場合の半分以下になる。AI用の加速器は面積の大きな半導体で、面積が大きいほど1枚あたりの取り数は減り、欠陥に当たる確率は上がる。枚数と個数の間には、この二段の目減りが挟まっている。
上限を決めているのは論理の半導体ではなく、記憶のほうである
さらに深い制約が、これらの指標の外側にある。広帯域メモリだ。日本ではほとんど論じられないが、中国のAI半導体の生産量を実際に縛っているのは、演算を担う半導体ではなく、その周りに積む記憶のほうである。
AI用の加速器は、演算する半導体の脇に、記憶素子を何段も積み重ねた部品を並べて実装する。ファーウェイのアセンド910Cは、1個あたりこの積層の記憶を8段使う。つまり加速器を1個作るのに、8段分の供給が要る。
米国は2024年12月、この広帯域メモリと、その製造と実装に使う装置を輸出管理の対象に加えた。世界の主要な供給元3社はいずれも、一定水準以上の製品を中国へ販売できない。中国国内では長江系の記憶素子メーカーが開発を進めており、世界の先端から3年から4年の遅れとされる水準まで詰め、2026年に第3世代、2027年に第3世代の改良版の生産を目指している。ファーウェイへ第3世代の試料の出荷も済んだ。
そして、ここに具体的な数字がある。同社が翌年に作れる積層の記憶はおよそ200万段と見積もられ、歩留まりを7割とすれば、加速器に換算して25万個から30万個分にしかならない(セミアナリシス)。
この一点が、能力の曲線の意味を変える。論理半導体を作るウェハーの能力が月18万枚に達しても、記憶の供給が年間30万個分で止まるなら、加速器の生産量はそこで頭打ちになる。輸出管理が2024年12月に記憶の側へ拡張されたのは、この構造を突いたからだ。制約は露光機だけではない。むしろ、より短い期間で効く制約は記憶の側にある。
投資家と技術者が追うべき指標は、ウェハーの枚数ではなく、積層の記憶が年に何段供給されるかである。この数字を8で割れば、その年に作りうる加速器の上限が出る。ウェハーの能力を追うより、はるかに実務に近い指標になる。
系全体で殴るという設計と、そのために払う電力
輸出管理の下でどう戦うかは、3つの手立てに整理できる。先端の実装、半導体の積層、そして大規模な計算機の集まりである。単体で勝てないなら、系として並べて勝つという発想になる。この設計が実際にどう機能しているかは、公表された比較で確かめられる。
ファーウェイが構成した計算機の集まりは、アセンド910Cを384個並べる。対するエヌビディアの構成は、演算装置72個と汎用処理装置36個で1つの架を成す。系全体の演算性能では、384個を並べた側が、エヌビディアの架の180ペタフロップスに対して4割ほど高い数字を出す。
だが電力を並べると、設計思想の差が露わになる。エヌビディアの架が145キロワットであるのに対し、384個を並べた側はおよそ560キロワットを消費する。総量でおよそ4倍。演算1ペタフロップスあたりで見ると、中国側の消費は2.5倍で、エヌビディア側の効率が2.3倍高い。半導体1個の性能でも、エヌビディアの演算装置が2,500テラフロップスに対し、アセンド910Cはその3分の1以下にとどまる。同等の系を組むのに、5倍近い個数を並べている(Tom's Hardware)。
この設計が成り立つ条件は、電力が安いことである。中国の電気料金は米国の最大4分の1とされ、電力を多く使う構成でも運用が成立する。逆に言えば、電力が高い地域へこの設計をそのまま持ち込むことはできない。系で殴る戦い方は、電力という別の資源を前借りして性能を買う取引になっている。
そして、この構成には記憶の制約が二重に効く。加速器を5倍並べるということは、積層の記憶も5倍要るということだ。年に30万個分の記憶しか手当てできないなら、この構成は年に800台弱しか組めない計算になる。系で殴る設計は、記憶の天井をより早く叩く。
露光機を止めた結果、需要は日本の得意な工程へ流れた
3つの手立てのうち筆頭に挙がるのが、先端の実装である。ここに、日本の読者にとって見落とせない事情がある。
複数の半導体を高い密度で束ねる先端の実装は、AI用半導体の性能を左右する主戦場になった。演算する半導体と記憶を近くに並べ、配線を短くすることで、帯域と消費電力を稼ぐ。前工程で最先端の線幅に届かなくても、この工程で性能を取り戻せる余地がある。中国が実装へ投資を集中させているのは、そこに活路があるからだ。
そして、この工程で使う装置は、日本の企業が圧倒的な位置にいる。半導体を薄く削る装置と切り分ける装置で、ディスコが世界のおよそ7割から8割を握る。切断、研削、研磨の各装置では8割を超え、AI関連の後工程の装置に限れば9割超という水準にある(日本経済新聞)。
構図として見ると、皮肉が浮かぶ。露光の装置を止めたことで、中国は前工程で線幅を詰める道を閉ざされ、後工程で性能を稼ぐ道へ流れた。その後工程は、日本の装置産業が最も強い領域である。輸出管理は、需要を日本の得意分野へ押し流す効果を持った。
日本の事業者にとっての実務的な含みは二つある。ひとつは、需要の伸びる場所が前工程の露光から後工程の実装へ移りつつあり、そこでの技術的な優位が短期では揺らぎにくいこと。もうひとつは、その優位が輸出管理の対象になれば、同じ論理で自らが規制の側に立たされうることだ。強い位置にいることと、規制の変更に晒されることは、同じ事実の裏表になる。
数字を追う側が、指標を組み替える
ここまでの検証を、判断に使える形に置き直す。
能力を語るとき、ウェハーの枚数は入口の指標にすぎない。歩留まりを掛け、面積あたりの取り数を掛けて初めて、良品の個数になる。露光の回数が9回から34回へ増える工程では、この目減りが通常より大きく効く。同じ月18万枚でも、極端紫外線を使える工場と使えない工場では、出てくる個数が桁で違いうる。
生産の上限を推し量るときは、論理の半導体ではなく記憶の供給を見る。加速器1個に8段という比率は公表されており、年に供給できる段数を8で割れば上限が出る。この計算は、能力の予測よりはるかに堅い。
系の性能を比べるときは、演算性能の絶対値ではなく、消費電力あたりの演算性能で並べる。同じ性能を4倍の電力で出す構成は、電力が安い場所でのみ成立する。この条件が変われば、比較の結論も変わる。
「制約が革新を加速させた」という筋書きは、事実の一部を捉えている。実装と積層と系の設計で、単体の劣位を埋める工夫は現実に進んだ。同時に、その工夫は電力と歩留まりと記憶という別の資源を消費している。輸出管理が効いているかどうかを問うより、どの資源が最初に尽きるかを問うほうが、この分野では答えに近い。
本記事は、広く引用されている調査会社の推計を出発点に、世界の先端工程の能力見通し(国際半導体製造装置材料協会)、深紫外線による多重露光の工程数と歩留まりと費用(米企業研究所)、広帯域メモリの供給制約と加速器1個あたりの使用段数(セミアナリシス)、系全体の性能と消費電力の比較(Tom's Hardware)、後工程の装置におけるシェア(日本経済新聞)を独自に検証・構成した。能力と国産比率の数値は、それぞれの調査会社による推計および予測である。株価や時価など市場の数字は本稿の対象外とした。
💬 この記事へのコメント 0
まだコメントはありません
最初のコメントを投稿してみましょう!⚠️ エラーが発生しました