日本でUnitreeの機体を動かしているのは5つの当事者で、契約日・場所・作業はすべて公表されている。JALの羽田は2028年度まで3段階、筑波大附属病院は3日間・19時から21時・1階ロビーで5作業、価格は研究用298万円から。

宇樹科技 (Unitree Robotics) の科創板上場と米国防総省1260Hリストの効力は上場時の検算に整理した。本稿が扱うのはその先、日本企業が実際に何を買い、どこに置き、何をさせているかである。各社の公式発表に書かれた事実だけを台帳にし、推測で埋めない。その上で、金融庁EDINETの有価証券報告書で買う側・売る側・関節部品を納める側の体力を並べ、厚生労働省の求人統計で「なぜ今なのか」を数字にする。元の円換算は1ドル=159.21円 (2026年8月14日・米連邦準備制度) による。

取引台帳: 5つの当事者と、目論見書に社名なしで載る日本の顧客

日本でUnitreeの機体に関わる当事者は、代理店2社、実証の現場2か所、共同開発1社の5つに整理できる。GMO AI&ロボティクス商事 (GMO AIR) は2026年6月19日に国内正規代理店契約を結び、同日から人型のG1・H1と四足のGo2・B2の販売を始めた。販売だけでなく導入支援、ソフトウエア開発、保守運用、通信の安全性の担保までを一括で提供し、対象分野として物流、製造、施設管理、建設、空港、倉庫、防災、貨物、警備の9つを挙げる。本社は東京都渋谷区桜丘町で、同じ渋谷に「GMOヒューマノイド・ラボ」の展示室を置く。2024年6月18日設立、資本金1億円、親会社はGMOインターネットグループ (東証プライム 9449) である。

TechShareは2020年から正規代理店で、四足のGo1・Go2に続き2024年にG1の国内予約販売を始めた。顧客は大学、研究機関、企業の先行開発部門、官公庁で、SDKとROSを使った二次開発の技術支援が中心である。G1開発版の独占販売権を持つ。AVITAは石黒浩氏が代表を務める会社で、2026年3月にUnitreeと基本合意書 (MoU) を結び、AIとアバター制御の技術をUnitreeの機体に組み合わせる共同開発と海外展開を掲げた。実証の現場は日本航空の羽田空港と筑波大学附属病院で、次節以降に工程を分けて書く。

日本企業とUnitreeの取引台帳: 誰が、いつ、どこで、何に使っているか
日本企業とUnitreeの取引台帳: 誰が、いつ、どこで、何に使っているか

宇樹科技の目論見書には、2025年の上位顧客として日本登録の法人が載る。社名は伏せられているが、最終的な用途は「研究開発および知能サービス」で、国立総合大学、電機メーカー、上場自動車メーカー、ITソリューション企業が含まれると記されている。つまり上場前の時点で、日本は同社にとって研究用途の主要市場の1つだった。台帳から読めることは3つある。買われているのは作業の置き換えではなく作業の分析と検証であること、機体は中国製でも通信・保守・運用ソフトは日本側が持つこと、そして研究用は298万円から、実証用はリースと派遣で導入側に固定資産の負担がほぼ無いことである。

羽田空港: 手荷物の搭降載と牽引と機内清掃を、2026年5月から2028年度まで3段階で検証する

日本航空 (9201)、地上業務子会社のJALグランドサービス (JGS・1951年設立)、GMO AIRの3社は2026年4月27日、羽田空港で国内初となる人型ロボットの実証を5月から始めると発表した。対象の作業は手荷物と貨物コンテナの搭降載、航空機の牽引、機内清掃、地上支援機材 (GSE) の操作で、いずれも身体的な負荷が大きく、訪日客の増加と生産年齢人口の減少が同時に進む地上業務で人手不足が最も深刻な領域である。

工程は3段階に分かれる。第1段階は現場作業の可視化と分析で、ロボットが安全に働ける区域を特定する。第2段階は空港を模した環境での動作検証で、候補機を比較する。候補にはUnitree G1 (身長130cm・35kg・29関節・最高速度2m/s・稼働約2時間) のほか、UBTECHのWalker E (172cm・73kg・41関節・8時間稼働設計)、PM01 (138cm・40kg)、BOOSTER K1 (95cm・19.5kg) が並び、機体は1機種に固定されていない。第3段階は人の作業を補完する形での現場投入で、2028年度末までにコンテナの自動搬送の検証を終え、2029年以降の実用化を目指す。空港内でロボットを運用する指針作りも並行して進める。

羽田は3段階で2028年度まで、筑波は3日間で5つの作業: 実証の中身を工程で見る
羽田は3段階で2028年度まで、筑波は3日間で5つの作業: 実証の中身を工程で見る

この設計で見落とされがちなのは、羽田がUnitreeを「採用した」のではなく、G1を含む複数の機体で「作業の分析」から始めた点である。実証の場を管理する日本空港ビルデング (9706) は羽田のターミナルを運営し、空港での機器の持ち込みは同社の規程の下にある。日本航空の2026年3月期は売上2兆125億円・営業利益2,073億円・従業員3万9,076人で、地上業務の省人化は単年の投資判断ではなく、2029年以降の人員計画に直結する。

筑波大学附属病院: 3月23〜25日の19時から21時、1階ロビーで自律歩行から異常検知まで5つの作業

筑波大学附属病院 (茨城県つくば市) では、ZEALSと筑波大学発ベンチャーのQuickが2026年3月23日から25日の3日間、外来の終わった19時から21時に1階ロビーで実証を行った。機体はUnitree G1で、ZEALSの運用ソフト「Omakase OS」を載せ、自律歩行、障害物の回避、来院者の道案内、物品の運搬、異常の検知を検証した。異常の検知は夜間の巡視を想定したもので、病院の間接業務のうち人手に頼っていた部分を対象にしている。Quickは院内の動線設計と現場の調整を担った。

病院側は、1〜2年以内の正式導入を前向きに検討すると表明した。実証の条件は「外来時間外」「患者と接しない」「1階ロビーに限る」で、羽田の第1段階と同じく、人と接しない時間と区域から始めて運用ルールを先に決める手順になっている。機体の性能より、この手順が通るかどうかが導入の可否を決める。

販売経路は2本、価格は298万円から: 研究向けのTechShareと現場向けのGMO AIR

日本での価格は公表されている。TechShareのG1は基本版が298万円、研究開発版の標準構成が598万円 (いずれも早期予約価格・税込) で、上位のEDU版は個別見積となり、業界紙では650万〜1,100万円の幅が報じられている。Unitreeが米国で示す基本版の価格は1万6,000ドル (約255万円) で、国内の中古市場では180万円からの掲示がある。法人向けのリースと派遣はGMO AIRと複数のリース業者が扱い、月額・日額は個別見積である。

販売経路は2本、価格は298万円から: 研究向けのTechShareと、現場向けのGMO AIR
販売経路は2本、価格は298万円から: 研究向けのTechShareと、現場向けのGMO AIR

298万円は産業用ロボット1台分に近く、研究室の年度予算で買える水準にある。欧米製の人型は1桁上の価格で、大学が標準機としてUnitreeを選ぶ理由は価格と開発環境の両方にある。一方で実証の現場はリースと派遣で固定資産を持たず、1〜2年で撤退できる形を取る。米国の規制が強まった場合でも導入側の損失は限定され、リスクは代理店の在庫に集まる構造である。2社は競合ではなく、研究 (TechShare) と現場 (GMO AIR) で顧客層が分かれている。

有価証券報告書で見る買う側・売る側・関節部品を納める側、GMOの研究開発費は4.3億円

金融庁EDINETの有価証券報告書で当事者を並べる。買う側・売る側では、GMOインターネットグループ (2025年12月期) が売上2,853億円・営業利益率20.7%・従業員6,484人で、研究開発費は4.3億円にすぎない。人型を自社開発するのではなく、通信とクラウドと金融の基盤を持つ商社として参入している。日本航空は前述のとおりで、日本空港ビルデングは売上2,898億円・営業利益率15.5%である。

買う側・売る側・部品を納める側: 有価証券報告書で見るUnitreeの日本側の当事者
買う側・売る側・部品を納める側: 有価証券報告書で見るUnitreeの日本側の当事者

部品を納める側は、人型の関節に使う減速機、直動案内、サーボの3つである。ハーモニック・ドライブ・システムズ (6324) は波動歯車減速機の本家で、2026年3月期は売上596億円・営業利益率4.3%、ナブテスコ (6268) は精密減速機で売上3,079億円・営業利益率6.7%、THK (6481) は直動案内で売上2,404億円・営業利益率6.0%、安川電機 (6506) はサーボで売上5,421億円・営業利益率8.7%である。4社の利益率は4〜9%で、人型の価格競争がそのまま部品価格に跳ね返る位置にいる。Unitreeは関節のモーターと減速機を自社設計する方針を取っており、日本の減速機メーカーにとって同社は顧客であると同時に、低価格化の圧力の源でもある。国産の人型では川崎重工業 (7012) が「Kaleido」を開発中で、研究開発費568億円の一部を充てるが、販売段階にはない。

需要側の背景を統計で置く。厚生労働省の一般職業紹介状況によれば、有効求人倍率は2026年4月1.18倍、5月1.17倍、6月1.18倍で推移し、空港の地上業務や病院の間接業務はこの平均より人手が逼迫した職種にあたる。米国では開示文書で「humanoid robot」に触れる10-K・10-Q・8-Kが2023年の1件から2026年は112件へ増え、人型は投資家向けの説明に常駐する語になった。日本の当事者が今のところ「買う」のではなく「試す」のは、この需要の強さと、機体の性能と規制の不確かさとの釣り合いを、1〜2年の実証で測っているからである。

人型ロボットの関節と運用に立つ関連銘柄、機体は買い部品と運用は持つ側

本稿の文脈では希土類でなく、人型の関節部品と、機体を動かす運用・通信の銘柄が該当する。数字は各社の有価証券報告書によるもので、売買の推奨や評価は示さない。

確かめられる点

検証は公表の日付で追える。第1に、羽田の第1段階の結果として、ロボットが働ける区域と作業の一覧が公表されるか。第2に、JALが第2段階で候補4機種のどれを選ぶか、あるいはUnitreeを外すか。第3に、筑波大学附属病院の正式導入が1〜2年以内に決まるか、その際の台数と契約形態。第4に、GMO AIRの販売台数とリース稼働率が親会社の開示に現れるか。第5に、TechShareの価格が上場後の量産で下がるか。第6に、減速機3社の次の有価証券報告書で、人型向けの受注がセグメントの数字に現れるか。

日本企業がUnitreeの機体に払っているのは、機体代というより「自分たちの現場で人型が何をできるかを測る費用」である。羽田の3段階も病院の3日間も、その費用を小さく区切った設計になっており、答えが出るのは2027年から2028年度にかけてである。