中国の白酒 (蒸留酒) 大手、五糧液は2026年4月30日、2025年1〜9月期の売上高609億元のうち303億元を取り消す決算訂正を公表した。年末の負債には関連する科目が263億元あり、同社は中身を説明していない。
五糧液は四川省宜賓市に本社を置き、深セン証券取引所に上場する。2025年通期の売上高は405億元で、前年比54.6%減った。この大きな減少は、需要の落ち込みに加え、同社が公表済みの四半期決算を自ら訂正したことによる。同社の内部統制の評価基準では、公表済みの財務諸表の訂正は最も重い区分の不備に当たる状況の1つに挙がっている。それでも取締役会と監査人はともに、内部統制は有効と判断した。
五糧液の決算訂正で、1〜9月期の売上高は609億元から306億元に減った
同社は4月28日の取締役会で訂正を決め (監査委員会も同日に承認)、2日後の4月30日に公表した。理由の説明は1文だけだ。2025年の取引の形態を点検し、保守的な会計処理の考え方に基づいて、一部の取引の売上計上を見直したという。対象は2025年1〜3月期、1〜6月期、1〜9月期の連結財務諸表で、キャッシュフロー計算書には影響しないという。2024年以前の決算は訂正していない。
| 期間 (2025年) | 訂正前の売上高 | 訂正後の売上高 | 取り消した額 | 取り消した割合 |
|---|---|---|---|---|
| 1〜3月期 | 369億元 | 171億元 | 199億元 | 53.7% |
| 1〜6月期 | 528億元 | 235億元 | 293億元 | 55.4% |
| 1〜9月期 | 609億元 | 306億元 | 303億元 | 49.7% |
取り消した額と割合は、訂正の公告の元単位の数字から編集部が算出した。億元未満を四捨五入しているため、表の数字の差し引きが合わない場合がある。1〜9月期の純利益 (親会社株主に帰属する分) は215億元から65億元へ150億元減り、7割減った。1〜9月期に取り消した303億元のうち199億元、約3分の2は1〜3月期の分で、1〜6月期までの分が9カ月分の97%を占める。訂正は年の前半に集中している。
訂正で増えた負債の科目に、年末時点で263億元が残る
訂正で動いた勘定科目を並べると、売上高から外した分の行き先がおおよそ分かる。9月末の貸借対照表では「その他の流動負債」が274億元増え、「その他の流動資産」が84億元増えた。損益計算書の販売費は19億元減り、同じ額だけ未払金も減った。売上原価は78億元減り、繰延税金資産は17億元増えた。受け取った代金は返さずに負債に、商品は資産に移し、売上高と利益だけを外した形とみられる。
年次報告書の注記には、新たに設けた科目が2つある。1つは「その他の流動資産」に含まれる、管理の対象とされた商品で、2025年末の残高は49億元だった。使用が制限された資産に分類されている。もう1つは「その他の流動負債」に含まれる、その商品に関する代金で、残高は263億元だった。注記は金額と分類しか示しておらず、商品と代金の額が5倍以上離れている理由も書いていない。263億元は2025年の売上高405億元の65%に当たる。2026年6月末には、それぞれ45億元と240億元に減った。
同社は販売代理店 (経銷商) に対し、代金を先に受け取ってから商品を渡す方式で売っている。売上高に計上するのは、指定の場所へ商品を届け、相手が受け取った時点だ。訂正後の勘定科目の構成からは、代金を受け取りながら、商品を同社の管理下に置いたままで、売上高に計上できないと同社が判断した取引があったとみられる。ただし、どの製品をどの販売代理店に出荷した取引なのかは、訂正の公告にも年次報告書にも、4月30日の決算説明会の記録にも書かれていない。
訂正は同社の基準で最も重い区分の例、それでも内部統制は「有効」
同社の基準は、財務報告の内部統制の不備を重い順に「重大」「重要」「一般」の3段階に分ける。同社が内部統制の評価報告書に定めた基準は、最も重い「重大な不備」に当たる状況の1番目に、公表済みの財務諸表の訂正を挙げている。それでも取締役会は、2025年12月31日時点で上の2段階に当たる不備はないと判断した。報告書は結論の部分で2025年の売上計上の見直しに触れたうえで、有効との判断を示している。見つかったのは、車両修理の精算書や棚卸し記録の記載方法といった最も軽い区分の不備だけだった。監査を担当する中国の会計事務所、天職国際も4月28日付の内部統制監査報告書で、すべての重要な点において有効との意見を表明した。
決算の公表は1日遅れた。同社は4月29日、同日に予定していた年次報告書と1〜3月期報告書の公表を翌30日の取引終了後に延ばすと発表し、投資家に謝罪した。経営体制も変わった。2月28日には、董事長 (会長) の曽従欽氏が宜賓市の規律検査委員会・監察委員会から調査開始の、監察委員会から留置 (身柄の拘束) の通知を受けたと開示した。6月26日の株主総会で曽氏は取締役を解任され、同日、五糧液集団董事長の鄧敏氏が董事長に就いた。五糧液集団は五糧液株の20.65%を持つ株主で、筆頭株主の宜賓発展控股集団 (持ち株比率34.43%) の全額出資子会社だ。留置と決算訂正の関係について、同社は開示資料で何も説明していない。
5月18日の臨時株主総会は、80億〜100億元の自社株買いと消却、役員報酬の規定、取締役の選任、2025年度の配当を可決した。決議の開示資料と当日の投資家との質疑応答の記録に、経営陣の謝罪はない。
訂正後の2025年は売上高が半減、2026年1〜6月期は訂正前の前年同期を46%下回る
訂正後の2025年通期は、売上高が405億元で前年比54.6%減、純利益が89億5000万元で71.9%減だった。2024年は売上高891億8000万元、純利益318億5000万元だった。四半期別の売上高は1〜3月期が171億元、4〜6月期が64億元、7〜9月期が71億元、10〜12月期が99億元だった。決算説明会で同社は、減収の要因に需要の減少と競争の激化を挙げたうえで、売上計上の見直しが売上高を押し下げたと述べた。
主力の五糧液ブランドの製品は、2025年の販売量が1万9455トンで53.0%減った。生産量は3万8400トンで、期末在庫は2万5118トンと前年の約4.1倍に膨らんだ。期末在庫は年間販売量の1.3倍に当たる。同社は年次報告書で、白酒業界が本格的な調整局面に入り、宴席など飲酒の機会が減って限られた需要を奪い合う競争が激しくなったと説明した。同じ報告書が引用する国家統計局の数字では、2025年の全国の白酒の生産量は354万9000キロリットルで12.1%減、売上高は5724億元で7.5%減、利益は1884億元で13.3%減だった。酒類の売上高371億元を販売経路別にみると、販売代理店経由が226億元で53.7%減、直販が145億元で57.8%減と、どちらも半分以下になった。
2026年の業績は、訂正前と訂正後のどちらと比べるかで評価が変わる。1〜3月期の売上高は228億元で、訂正後の前年同期と比べると33.7%増えた。訂正前の369億元と比べると38.2%減だ。1〜6月期は284億元で、訂正後の前年同期比20.9%増、純利益は87億5000万元で89.3%増だった。訂正前の528億元と比べると46.2%少ない。五糧液ブランドの販売量は1〜6月期に1万6292トンと88.3%増え、6月末の在庫は2万6607トンだった。
同社は株主還元を、利益の減少ほどには縮めていない。2025年度の配当は中間配当100億元と期末配当100億元の計200億元で、2024年度の223億元から1割減にとどめた。純利益の2.2倍に当たる (配当性向223.5%)。2024〜2026年度は配当性向70%以上かつ年200億元以上を配当する計画を公表しており、2025年度は下限の200億元とした。中間配当を決めたのは2025年10月31日で、基にした9月末の未処分利益 (配当の原資となる利益剰余金) は969億元だった。訂正後の9月末の未処分利益は818億元だ。2025年末の現預金は1270億元あった。五糧液集団も5月7日から6カ月で30億〜50億元の株式の買い増しを進めている。
日本産酒類の中国向け輸出は2025年に19.4%増え、宝ホールディングスの中国子会社は横ばい
中国の高級酒の不振は、日本から中国への酒類輸出の統計には表れていない。国税庁が財務省の貿易統計を基にまとめた資料によると、2025年の日本産酒類の輸出額は1495億円で、前年比11.8%増と過去最高だった。中国向けは292億円で19.4%増え、輸出先別で最も多く、全体の19.6%を占めた。中国向けの内訳は、日本酒 (清酒) が133億円で14.0%増、ウイスキーが71億7000万円で8.2%増、ビールが57億9000万円で53.4%増だった。2026年も1〜7月の中国向けは211億円と前年同期比で28.6%増えた。
ただし、2025年の伸びは前年の落ち込みの反動を含む。2024年の中国向けは245億円で23.9%減っていた。2024年の金額と減少率から逆算すると2023年は約322億円で、2025年の292億円はその水準を約9%下回る。金額は円建てのため、人民元と円の為替変動の影響も含む。
日本の上場企業で、中国で酒類を手がける子会社の業績を開示している企業に宝ホールディングスがある。同社は1995年に北京で合弁会社の北京寛宝食品を設立し、のちに出資比率を引き上げて子会社にした。現在の社名は宝酒造食品だ。決算短信の参考資料によると、宝酒造食品の2026年3月期の売上高は4167万元で、前の期の4124万元から1.0%増にとどまった。営業損益は343万元の赤字から285万元の赤字に縮んだ。円に換算した売上高は両期とも8億6700万円だった。宝ホールディングスの海外酒類事業全体の売上高は285億円で21.1%増えたが、同社が増収の要因に挙げたのはバーボン「ブラントン」と、日本酒や焼酎など同社が「和酒」と呼ぶ分野で、中国には触れていない。同社の開示は当サイトの銘柄ページにまとめた。
五糧液の2025年の売上高の半減は、需要の落ち込みに、受け取った代金を売上高に計上しない訂正が重なった結果だ。年末の貸借対照表で負債の科目に残る263億元を、同社がいつ売上高に計上するのか、それとも販売代理店に返金するのかは、まだ示されていない。この残高は2026年6月末までに23億元減り、240億元になった。
※2026年10月13日、一次資料に基づき全面的に書き直しました。旧版は訂正の対象を「2023年度」、公表を「2024年4月末」としていましたが、対象は2025年の1〜3月期、1〜6月期、1〜9月期の決算で、公表は2026年4月30日です。旧版は54.6%・71.9%を訂正の幅としていましたが、これは2025年通期の前年比の減少率であるため、記述を改めました。「5月18日の臨時株主総会で経営陣が謝罪」は決議の開示資料と質疑応答の記録になく、謝罪があったのは4月29日の開示延期の公告でした。管理の対象とされた商品とその代金を「代理店の在庫と前受金」とした説明は同社の開示にないため改めました。中国の経済誌、財新の報道の引用、卸値800元割れ、株価の下落、中国証券監督管理委員会 (証監会) の方針との関係、IT投資の比率、宜賓市の財政に占める割合、環境・社会・企業統治の評価の引き下げは、一次資料で確かめられないため削除しました。社名の表記を中国の簡体字から日本の字体の「五糧液」に改めました。
投資家向けの個別銘柄レポートと技術デューデリジェンスのご相談は、編集部のお問い合わせ窓口までお寄せください。
💬 この記事へのコメント 0
まだコメントはありません
最初のコメントを投稿してみましょう!⚠️ エラーが発生しました