日立製作所(6501)の鉄道子会社、日立レールはオーストリア連邦鉄道(ÖBB)と、信号と分岐器を制御する連動装置のデジタル化で約13億ユーロの枠組み契約を結んだ。ÖBBは独シーメンスとも同じ額で契約した。
ÖBBは9月22日、ベルリンの国際鉄道見本市イノトランスで2社との枠組み契約(個々の発注の条件をあらかじめ決めておき、実際の発注はその都度行う契約)を発表した。1社あたりの額は約13億ユーロ(約2340億円)で、総額は約26億ユーロ(約4684億円)になる。枠組み契約の性質上、この額どおりの発注が確約されたわけではない。円換算は欧州中央銀行の9月22日の参照レート(1ユーロ=180.17円、1スイスフラン=約191.8円)から本誌が計算した。
日立とシーメンスが13億ユーロずつ受注、契約期間はÖBBが最低10年と保守25年、日立は30年
発注したのは、ÖBBグループで線路や設備を持つÖBBインフラだ。数年がかりの競争入札で、価格と技術・品質を合わせて評価する総合評価方式をとった。ÖBBは2社への発注の割り振り方を明らかにしていない。
契約期間の説明は資料によって異なる。ÖBBとシーメンスは、枠組み契約の期間を最低10年とし、各設備の耐用期間にあたる25年の保守契約を別に結ぶと説明した。一方、日立レールの発表は「30年の枠組み契約」としている。日本経済新聞なども「30年で2300億円」と伝えた。枠組みの期間の終わりに入れた設備にも25年の保守が付けば、全体の期間は30年を超えうる。日立は30年の内訳を示していない。
先行導入の第1弾は2030年10〜12月期に稼働する予定だ。その後も先行導入を重ね、結果を検証したうえで全国に広げる。シーメンスによると、同社は走行できる区間と上限速度を無線で運転台に送るETCS(欧州標準の列車制御システム)のレベル2を、2038年までにÖBBの全路線に整備する。ÖBBインフラのヨハン・プルイ取締役は「デジタル連動装置は将来の鉄道の中核となる技術だ」と述べた。オーストリア放送協会(ORF)によると、同氏はÖBB史上、信号分野で最大の事業と位置づけた。インフラ相のペーター・ハンケ氏は「ノウハウが国内に残ることが重要だ」と話し、サイバー対策と技術主権を重視する考えを示した。
連動装置は列車同士の衝突を防ぐ、全国約650か所をデータセンター3か所に集約
連動装置は、信号機と分岐器の状態を突き合わせ、列車の進路が重ならないときだけ進行信号を出す装置だ。今は駅や拠点ごとに置かれ、線路脇の信号機や分岐器とケーブルで結ばれている。ORFによると、ÖBBの連動装置は全国に約650か所ある。将来は全国3か所の大型データセンターに集約し、各センターを光ファイバーで結ぶ。
ÖBBの入札は、保安の判断を担う屋内の設備と、信号機や分岐器を動かす屋外の制御器の両方を対象とした。2社の契約はいずれもサイバー攻撃への対策を含む。日立レールは事業の規模を約300基のデジタル連動装置としている。今ある約650か所との関係は明らかにしていない。
シーメンスの方式では、連動の判断をデータセンターの汎用サーバーで行う。同社のソフトウェア基盤「シグナリングX」は、連動に加え、ETCS、故障診断、屋外の制御器の管理、サイバー対策の機能を1つのシステムにまとめる。同社は2020年、ウィーン近郊のアハウでデジタル連動装置の試験運用を始めた。
日立レールはウィーンで30年かけて保安システムの基盤を開発し、その基盤を使って連動装置やETCS、線路脇の機器を開発してきた。ÖBB向けにどの製品を使うかは発表に無い。
図1 — 連動装置のデジタル化の仕組み。駅ごとの装置を全国3か所のデータセンターに集約する(接続の方式は本誌の模式)
日立レールは開発から保守までをウィーンで担う、旧タレスの拠点で40人を増員
日立レールの担当は、保安用ソフトウェアの開発、全国への導入、設備を使い終えるまでの保守だ。仕事の多くは、ウィーンのハンデルスカイにある拠点で行う。同社はこの受注に合わせて40人を新たに雇う。ORFによると、ウィーンの拠点の従業員は約500人だ。シーメンスもオーストリアにデジタル技術の試験施設を2500万ユーロ(約45億円)で設ける。
ハンデルスカイの拠点は、仏タレスの地上交通システム事業(鉄道信号が中心)に属していた。日立は2024年5月31日、この事業を16億6000万ユーロで買収した。ÖBBの発表によると、日立レールは前身の会社を含めてオーストリアで60年以上事業を続けてきた。ÖBBの運行管理の中核を担うシステムも同社のものだという。
13億ユーロは日立の鉄道事業の年間受注高の約15%、設備の稼働は2030年以降
日立で鉄道事業を担うモビリティ部門の2026年3月期の売上収益は1兆3215億円で、前の期より13%増えた。為替の影響を除くと増収率は約6%だった。調整後EBITAは1081億円(利益率8.2%)で、統合費用などを除くと1216億円(同9.2%)だった。受注高は、前の期に車両の大口案件があった反動で5%減り、1兆5950億円だった。地域別では欧州の売上が8225億円で、部門全体の約62%を占める。日立は増収増益の理由に、高収益な鉄道信号・制御事業の好調、旧タレスの買収効果、為替の影響を挙げている。
旧タレスの事業は利益率を押し上げている。旧タレスの事業の2026年3月期の売上収益は3910億円、調整後EBITAは446億円だった。調整後EBITAは、売上収益から売上原価と販売管理費を引いた利益で、買収で生じた無形資産などの償却費は差し引かない日立独自の指標だ。統合費用などを除いて比べると、旧タレスの利益率は約11.4%で、それ以外の鉄道事業の約8.3%を上回る(本誌試算)。
受注残高は2023年3月末の4.2兆円から4.8兆円、6.2兆円、7.1兆円と増え、3年で約1.7倍になった。旧タレス買収の分を含む。2026年4〜6月期は、鉄道信号・制御の大口案件で受注高が5690億円と25%増え、6月末の受注残高は7.4兆円になった。同期の売上収益は21%増の3444億円だったが、増収分590億円のうち521億円は為替や事業再編などの特殊要因によるもので、これを除くと2%増にとどまる。日立は2027年3月期のモビリティ部門の見通しを、従来の売上収益1兆3500億円、調整後EBITA 1270億円から、それぞれ1兆4500億円、1360億円に引き上げた。ÖBBとの契約は9月の発表で、6月末の受注残高や引き上げた見通しには入っていないとみられる。
ÖBBとの枠組み契約の約2340億円は、2026年3月期の受注高の約15%、6月末の受注残高の約3.2%に相当する。日立は、この額をいつ受注高に計上するかを明らかにしていない。開発の売上は、工事の進み具合に応じて2030年より前から計上される可能性がある。仮に30年で均すと年約78億円で、2026年3月期のモビリティ部門の売上収益の約0.6%にあたる。実際の売上は開発と設置の時期に多く、保守の期間は少なくなるとみられる(本誌試算)。
| 項目 | 日立 モビリティ部門 | シーメンス・モビリティ |
|---|---|---|
| 売上(2026年4〜6月期) | 3444億円 | 32億4400万ユーロ(約5845億円) |
| 受注高(同) | 5690億円(25%増) | 76億3400万ユーロ(約1兆3754億円、4%減) |
| 利益率(同) | 8.8%(調整後EBITA 304億円) | 8.6%(部門利益2億8000万ユーロ) |
| 受注残高(6月末) | 7.4兆円 | 580億ユーロ(約10.4兆円) |
| うち保守などのサービス | 40%超(3月末) | 190億ユーロ(約33%) |
表の数字は、日立が2026年7月の決算資料と6月の投資家向け説明会の資料、シーメンスが8月の決算発表と決算説明資料による。日立の利益率は統合費用などを含み、シーメンスの部門利益は人員削減の費用を含む。サービスの範囲も2社で異なり、単純には比べられない。
日立の受注残高は、2026年3月末で40%超を保守などのサービスが占める。受注残高の粗利益率は2023年3月末の18.7%、2024年3月末の18.9%から上がり、2年続けて20.3%だった。2027年3月末に21.4%、2028年3月末に22%超を見込む。日立は2028年3月期に、統合費用などを含む調整後EBITAの利益率を約11%に上げる目標を掲げる。同期の売上は信号が52%、車両が37%、デジタルが11%を占め、保守などのストック型収入とソフトウェア関連の売上が76%になる見通しだ。この比率は前年の説明会より2ポイント高い。2027年3月期の売上の90%超は、既存の受注残高から計上する計画だ。ÖBBとの契約も、開発と設置のあとに各設備25年の保守が続く。
図2 — ÖBBとの連動装置契約の日程。先行導入の第1弾は2030年に稼働し、保守は2050年代以降も続く(本誌試算)
図3 — 日立のモビリティ部門とシーメンス・モビリティの2026年6月末の受注残高と、ÖBBとの契約(日立分)の規模
ドイツとスイスでも日立は枠組み契約、シーメンスは伊メルメックの事業を買収へ
ÖBB、スイス連邦鉄道、ドイツ鉄道は、いずれも連動装置などのデジタル化で複数の会社と枠組み契約を結んだ。日立は2024年12月31日にドイツ鉄道のインフラ子会社(DBインフラGO)と契約を結び、2025年2月に発表した。契約の総額は63億ユーロ(約1兆1350億円)で、連動装置のほかETCSや土木工事も含み、複数の会社が参加する。日立の取り分は公表されていない。
スイス連邦鉄道は2025年10月7日、日立、シーメンス、スイスのシュタドラー・レールの3社と枠組み契約を結んだと発表した。費用は各社の提案で変わるが、3社分の合計で約14億スイスフラン(約2685億円)を見込む。期間は10年で、5年ずつ最大3回延長できる。各設備の保守は25年にわたる。連動装置一式は日立とシーメンスが担い、屋外の制御器にはシュタドラーも加わる。個々の発注では、各社がそれぞれ見積もりを出す。スイス連邦鉄道の連動装置は500か所弱あり、今後20年で80%を置き換える。最初の稼働は2029年の見込みだ。
ÖBBとスイス連邦鉄道はともに、10年以上の枠組み契約と各設備25年の保守を組み合わせ、2〜3社に発注を分けた。発注する側は特定の会社への依存を避けられる。ÖBBの割り振り方は開示されていない。
日立の競争相手のシーメンスも、信号事業を買収で広げている。同社は2026年5月、伊メルメックから複数の事業を買い取る契約を結び、信号事業とイタリアでの販路を強化するとした。メルメックは、日立がタレスの事業を買収する際、欧州委員会の承認を得る条件として売却した信号事業の買い手だ。
日立にとってÖBBとの契約は、すぐに業績を押し上げる受注ではない。開発と設置が2030年代に進み、その後に各設備25年の保守が続く、長い期間をかけて収入になる案件だ。日立の企業情報は日立の企業ページに、決算の推移は日立製作所の決算ページにまとめている。
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