受電した交流を建物の側で800ボルトの直流に変え、ラックまで直流で送る。米エヌビディアが2027年に採るこの方式で、建物側の電源設備を担う協業先は2025年5月の3社から10月に9社へ増え、日立エナジーと三菱電機が加わった。
エヌビディアは2027年に、ラック1台で1メガワット (MW) 級の電力を使う次世代ラック「カイバー」を出し、800ボルトの直流で給電する方式 (直流800V給電) のデータセンターの本格的な展開をそれに合わせる計画だ。電圧を上げれば同じ電力でも電流が小さくなり、使う銅と発熱による損失を減らせる。日本企業の出番は、パワー半導体だけでなく受変電設備にも広がる。ただ、エヌビディアが2025年5月と10月の記事で示した効果の数字は前提も値も違い、日本企業も800ボルト向けの売上をまだ分けて開示していない。
54ボルトのままでは、1MWのラックに銅のバスバーが200キロ要る
エヌビディアが2025年5月20日に公開した開発者向けの技術記事によると、現行の「GB200 NVL72」「GB300 NVL72」は電源ユニットを収める棚 (電源シェルフ) をラック1台に最大8つ積み、ラックの中で交流を54ボルトの直流に変えている。同社は、この方式のまま1MWのラックに給電すると銅のバスバー (母線) が最大200キログラム要り、1ギガワット (GW) のデータセンターではラックのバスバーだけで最大200トンになると試算した。1GWは1MWのラック1,000台分にあたるので、200キログラムの1,000倍で計算が合う。カイバーで54ボルトのままにすると、電源シェルフだけでラックの高さの最大64U (1Uは約4.45センチ) を占め、GPUを載せる場所がなくなるという。
従来の給電では、数万ボルト (35キロボルトなど) の交流を415ボルトなどの低い電圧に下げ、交流の無停電電源装置 (UPS) を通してから、ラックの中の電源装置で54ボルトの直流にする。エヌビディアは同年10月13日の技術記事でこう説明している。同社は代わりに、1万3,800ボルト (13.8キロボルト) の交流をデータセンターの受電設備で産業用の整流器に通し、800ボルトの直流に直接変える方式を5月の記事で示した。ラックに届いた800ボルトの直流は、GPUのすぐ脇に置く変換器で電圧を64分の1にし、12ボルトまで一度に下げる。何段にも分けて変換する従来の方式に比べ、変換に要る面積は26%小さいという。
ラックの消費電力は、最大の約30%で待機する状態から100%まで、1000分の1秒単位で振れる。エヌビディアはこの急な変動に2段で備える。1000分の1秒から数秒の変動はラックの近くに置くコンデンサーと大容量のコンデンサー (スーパーキャパシター) で、数秒から数分の変動は受電点に置く蓄電池で吸収する。
1MWを54ボルトで送ると電流は約1万8,500アンペア、800ボルトなら1,250アンペアで、約15分の1になる。同じ太さの導体なら、抵抗による損失は電流の2乗に比例するので約220分の1に減る。カイバーには、2027年までにGPU「ルービン・ウルトラ (Rubin Ultra)」を576個載せる。
効果の数字は5月の記事が85%、10月の記事が157%で、前提が違う
同社は2025年の5月と10月の記事で、直流800V給電の効果を次のように説明した。
| 公表 (2025年) | エヌビディアの説明 | 同じ電力に要る銅 (本稿の計算) |
|---|---|---|
| 5月20日 技術記事 | 415ボルト交流から800ボルト直流に替えると、同じ太さの導体で85%多く送れる。銅は45%減る | 46%減 |
| 10月13日 技術記事 | 同じ太さの電線で、415ボルト交流より157%多く送れる | 61%減 |
| 10月13日 ブログ | 同じ銅で150%超多く送れる | 60%超の減少 |
5月の記事の2つの数字はつじつまが合う。85%多く送れるなら、同じ電力に要る銅は1÷1.85で約54%、つまり46%減となり、同社が示した45%とほぼ同じだ。同社は10月の記事で、同じ415ボルトの交流と比べて157%多く送れるとした。銅に直せば1÷2.57で約39%、61%減になる。同じ記事は、交流は電線が4本要るのに対し、直流はプラス・帰線・保護用の接地線の3本で済むと説明した。電圧の比 (800÷415) に電線の本数の比 (4÷3) を掛けると2.57になり、157%と一致する。電線の本数の差も計算に含めたとみられる。5月の記事は2026年1月の更新後も85%と45%のままで、数字を改めたわけではない。同じ方式の利点でも、何を同じにして比べるかで85%と157%と2倍近く違う。
5月の記事は効率についても、54ボルトの構成に比べて端から端までの効率が最大5%改善するとしている。
協業先は5月の14社から10月に29社、電源システムの9社に三菱電機と日立エナジー
インターネット・アーカイブに残る2025年5月29日時点の5月の記事では、協業先は3つの区分に分かれ、半導体が6社、電源部品が5社、データセンター電源システムが3社の計14社だった。日本企業は半導体の区分に入ったロームの1社だけだった。エヌビディアは7月31日、この記事に半導体の協業先を4社書き足した。ルネサスエレクトロニクスと中国のイノサイエンスはこのとき加わり、日本企業は2社になった。
2025年10月13日の公式ブログでは、半導体が14社、電源部品が7社、データセンター電源システムが9社になった。米GEベルノバが2つの区分に入るため、重複を除くと29社だ。増えたのは主に電源システムの区分だ。この区分には三菱電機と、日立製作所の子会社でスイスに本社を置く日立エナジーが加わり、日本勢は4社になった。電源システムの区分には、ほかに米イートン、仏シュナイダーエレクトリック、独シーメンス、米バーティブなどが並ぶ。国内の受変電設備で大手の富士電機は、この一覧に入っていない。
中国企業も入っている。窒化ガリウム (GaN) の半導体を手がけるイノサイエンス (半導体の区分) は7月の追加から、電源装置のメグミート (電源部品の区分) は5月の時点から名を連ねている。
導入の動きも出ている。エヌビディアの同じ10月のブログによると、鴻海精密工業 (フォックスコン) は台湾・高雄に800ボルトの直流で動く40MWのデータセンターを建てる。エヌビディアは2026年8月11日の公式ブログで、直流800V給電の仕様に沿って製品を作る機器メーカーとインフラ企業が80社を超えたとしている。
三菱電機は電源システムを2030年度に1,800億円以上に、変圧器を使う方式を主軸に
三菱電機は2026年5月29日の投資家向け説明会 (IR Day 2026) で、データセンター関連事業の売上高を2025年度の1,763億円から2030年度に4,000億円へ伸ばす目標を示した。合計はグループ内の取引を差し引いた額で、電源システムにはUPSや周辺盤、蓄電池を含む。内訳は次のとおりだ。
| 事業 | 2025年度 | 2030年度の目標 |
|---|---|---|
| 事業の合計 | 1,763億円 | 4,000億円 |
| 電源システム | 865億円 | 1,800億円以上 |
| IT機器の冷却 | 320億円 | 1,000億円以上 |
| 光デバイス | 400億円 | 800億円 |
| 監視・制御と工場自動化 | 200億円 | 400億円 |
4事業の2030年度の目標を足すと4,000億円で、事業全体の目標と同じ額になる。2025年度の4事業の合計は1,785億円で、合計の1,763億円を22億円上回る。
800ボルトの直流に直接かかわるのは電源システムで、同社は2035年度に2,700億円以上の目標も掲げている。資料の注記によると、電源システムの売上高にはデータセンター向け以外の売上と、直流800V給電の売上の両方が含まれる。2025年度から2030年度は2.08倍 (年率15.8%増)、2030年度から2035年度は1.5倍 (年率8.4%増) になる。同じ資料は2026年度の見通しを1,000億円としており、2025年度から15.6%増える。2030年度に向けた年率とほぼ同じ伸びで初年度を見込んでいる。データセンター関連事業に占める電源システムの割合は、2025年度の49.1%から2030年度には45%に下がる計算だ。伸び率で電源システムを上回るのは、3.1倍を見込むIT機器の冷却システムである。
同社が資料で示した2027年以降の構成例では、3万4,500ボルト (34.5キロボルト) の交流を受け、パルス幅変調 (PWM) 方式のコンバーターと整流器で±400ボルトまたは800ボルトの直流に変え、DC-DCコンバーターとスーパーキャパシターを経てサーバーへ送る。受電電圧は、エヌビディアが5月の記事で例に挙げた13.8キロボルトより、10月の記事の35キロボルトに近い。同社は鴻海、エヌビディアと共同で次世代の電源システムの早期実現を目指し、自社製のSiC (炭化ケイ素) パワー半導体を使うとしている。鴻海とは、施設全体の消費電力をIT機器の消費電力で割った電力使用効率 (PUE) を1.1にすることを目指すという。
同社が6月8日に公表した質疑応答の要旨によると、同社はエヌビディアと最適な回路方式の検討とリファレンスデザイン (参照設計) の策定を進めている。候補は「PWMコンバーター+変圧器方式」と、半導体素子で電圧を変える「SST方式」(SSTは半導体変圧器) の2つで、現時点では前者を主軸に置く。パワー半導体の耐圧が上がればSST方式にも利点が生まれる可能性があり、電圧を1,500ボルトに上げる動きも見据えて方式を決めるという。エヌビディアも5月の記事で、従来の変圧器を使う方式とSST方式の両方について、設備費・運用費・安全性を検討しているとした。
同社は質疑応答で、蓄電池とインバーターを組み合わせた蓄電システムが全体の電源の保証を担い、スーパーキャパシターはサーバー側で起きる急な電圧の変動を吸収すると説明した。PWMコンバーター、整流器、DC-DCコンバーター、スーパーキャパシターは既存の技術で十分に対応できるという。既存のUPSでは、北米の1,500キロボルトアンペア (kVA) 以上の大容量の製品でシェア首位だとしている。800ボルトの直流への移行の時期はGPUなどの開発状況やエヌビディアの仕様に左右され、当面は交流と直流の併用が続くとみている。
三菱電機は2026年9月24日、米子会社の三菱電機パワープロダクツが、米国の次世代AIデータセンター向けに、エヌビディアの次世代ラック「ベラ・ルービン (Vera Rubin) NVL72」と次世代のGPUに対応した参照設計を公開したと発表した。送電網への接続からチップへの給電、施設全体の冷却までを含む設計で、敷地内に発電設備と蓄電システムを置き、送電網の事故の際はマイクログリッド (地域内で自立する電力網) として自立運転に切り替える。建屋内の配電は415ボルトと480ボルトの交流に加え、800ボルトの直流にも対応する。この発表でも、同社は売上や受注の金額を明らかにしていない。
日立のエナジー部門の受注は87%増、要因は送電機器と欧州の直流送電
日立製作所と日立エナジーは2025年10月13日、エヌビディアの直流800V給電に対応すると発表した。日立エナジーが手がける送電網からラックまでの設備が800ボルト直流のラックの設計に対応するとし、2025年から2030年に世界で最大125GW分のAIデータセンターが新設されうるとの予測 (出所は米マッキンゼー) を引用した。日立エナジーは製造や研究開発などに世界で90億ドルを投じる計画で、うち10億ドルを米国に充てる。日立エナジーは同じ発表で、自社を変圧器や高電圧技術の世界市場の首位と説明している。
日立エナジーは同月30日の投資家向け説明会で、データセンター市場が2024年から2030年に3倍になるとみて、AI向けのデータセンターで電力需要が125GW増え、大型変圧器が750台以上必要になるとの見立てを示した。資料はこの125GWの根拠に国際エネルギー機関 (IEA) を挙げ、同機関の算定では約95GW、マッキンゼーなどの調査では150GW超とする予測もあると注記している。750台を125GWで割ると、1GWあたり6台になる。
日立は2026年3月17日、直流800V給電の電力供給と制御の仕組みを、エヌビディアの「ベラ・ルービンDSX」の参照設計に組み込んだと発表した。送電網からラックまでの電力の流れを3次元モデルで再現する。800ボルト直流は従来の方式の15倍の電力を扱えるとしたが、何と比べたかは示していない。この倍率は800ボルトを54ボルトで割った14.8に近く、ラックの中の54ボルトと比べて同じ電流で送れる電力の比と読める。変換の効率が15倍になるという意味ではない。
業績の数字には、800ボルト直流の寄与はまだ表れていない。日立の2026年度第1四半期 (4〜6月) のエナジー部門の受注は1兆9,063億円と前年同期比87%増え、うち送配電事業 (パワーグリッド) は1兆8,716億円と94%増えた。パワーグリッドが部門の受注の98.2%を占める。日立エナジーの受注残高は10.3兆円で、2025年度末から12%積み上がった。日立は決算の説明資料で、受注の主な増加要因に、送電機器の堅調な需要と、欧州の複数の大型の高圧直流送電 (HVDC) 案件を挙げた。HVDCは発電所と消費地や、国と国の間を結ぶ長距離の送電で、建物の中の800ボルト直流の給電とは別の事業だ。データセンターの電源設備に近いのは、配電用変圧器やUPSを扱う産業機器の事業 (インダストリアルプロダクツ) で、第1四半期の売上収益は1,320億円と14%増えた。第1四半期の増収は新しい省エネ基準に対応した配電用変圧器の拡販によるもので、日立は通期見通し (5,797億円、8%増) では、データセンター向けを含むUPSの拡販も増収要因に挙げている。
ロームとルネサスは半導体の協業先、ロームは三菱電機とパワー半導体の統合を協議中
ラックの中の変換に使う半導体の区分に入ったのは、ロームとルネサスエレクトロニクスだ。ルネサスは2025年10月13日、GaNを使い、48〜400ボルトで動作するDC-DCコンバーターを積み重ねて800ボルトに対応できると発表した。「LLC DCX」と呼ぶ回路方式で最大98%の効率を実現するとし、交流を直流に変える回路には電流を双方向に流せるGaNのスイッチを使う。変換器の部品として、自社のパワー半導体 (MOSFET) や駆動用IC、制御用の半導体も組み合わせる。
ロームの2026年3月期の売上高は4,811億円と7.3%増えた。同社は決算短信で、コンピューター・ストレージ市場ではAIサーバー向けを中心に需要が大きく増えるとの見通しを示した。2027年3月期第1四半期 (2026年4〜6月) の売上高は1,357億円と16.8%増えた。LSI (大規模集積回路) 部門は621億円と13.3%増え、サーバー向け製品がけん引した。トランジスタなどの半導体素子の部門は589億円と25.2%増え、サーバー向けではSiCパワー半導体が堅調で、シリコン製のパワー半導体は大きく増えた。
ロームは2026年3月27日、東芝デバイス&ストレージの半導体事業、三菱電機のパワーデバイス事業との統合に向けた協議を始めたと発表した。いずれも基本合意の段階だ。三菱電機は質疑応答で、3社の協議を毎週のように開いているが、どの社が主導するかは決まっていないと説明した。目指すのは、東芝とロームが分離するパワー半導体事業と、三菱電機の同事業の統合だという。協議がまとまれば、エヌビディアの一覧で半導体の区分に入るロームのパワー半導体事業と、電源システムの区分に入る三菱電機の同事業が、1つの会社に集まる。
方式も時期も、エヌビディアと業界団体の仕様しだいでまだ決まっていない
エヌビディアは2026年8月11日の公式ブログで、米グーグル、米マイクロソフトとともに業界団体のオープン・コンピュート・プロジェクト (OCP) で直流800V給電の方式を開発し、2026年3月に共同で白書を公表したと明らかにした。2026年7月には、低圧直流 (LVDC) 向けの半導体変圧器の仕様の0.3版を公表した。既存のデータセンターでも使える電源ラックは2026年後半、ラック1列分を受け持ち1列あたり最大2MWを送る電源設備は2027年に製品化される見込みだ。新設の施設向けには、受電した交流を1段で800ボルトの直流に変える設備を挙げている。
OCPの年次の国際会議に合わせて2026年10月12日に出した公式ブログによると、エヌビディア、米AMD、グーグル、米メタは施設設計の共通仕様の0.7版を公表した。グーグル、メタ、マイクロソフト、エヌビディアは、送電網に障害が起きても2秒未満でほぼ全出力の稼働に戻す仕様も公表した。同じブログで示したラックの仕様「MGX 1.2」は5,000アンペアのバスバーを備え、ラック1台あたり250キロワットまで対応する。同社はバスバーの電圧を示していないが、250キロワットを54ボルトで送ると約4,630アンペアで5,000アンペアに収まり、1MWではその4倍の電流が必要になる計算だ。エヌビディアは2025年5月の記事で、ラックが200キロワットを超えると54ボルトの方式は物理的な限界に近づくと説明していた。
変圧器を使う方式が残るのか、半導体変圧器に置き換わるのかは、パワー半導体の耐圧と、OCPとエヌビディアが出す仕様に左右される。
各社の概要は三菱電機、ローム、ルネサスエレクトロニクス、エヌビディアの企業ページにまとめている。開示は三菱電機 (6503)、日立製作所 (6501)、ローム (6963)、ルネサスエレクトロニクス (6723) の銘柄ページで読める。パワー半導体の仕組みは半導体の体系解説で扱っている。
※2026年10月13日、一次資料に基づき全面的に書き直しました。旧版が骨格に据えた「モルガン・スタンレーによるブラックウェル (Blackwell) NVL72の分解調査のデータ」は出所を確認できないため削除し、エヌビディアの技術記事と各社の開示に置き換えました。「ルービン・ウルトラは2027年後半に大規模採用」は「2027年のカイバーと同時期に本格展開」に、「給電設備がラックの空間の80%以上を占める」は「電源シェルフがラックの高さの最大64Uを占める」に、エヌビディアの協業先の区分を「4つ」としたのは「3つ」に改めました。中国のイノサイエンスとメグミートを「エヌビディアの供給網に入れていない」とした記述は、2社とも協業先の一覧に入っているため改めました。日立と三菱電機が変圧器や開閉設備で世界最高水準のシェアを持つとした記述は、各社が自ら説明する範囲 (三菱電機は北米の大容量UPSでシェア首位、日立エナジーは変圧器などで世界首位と説明) に改めました。SiCの変換効率98.5%、富士電機がSiCウエハーの供給元とした記述、ルネサスが車載で培ったゲート駆動IC (ゲートドライバー) を供給するとした記述、市場の年平均成長率27.5%、普及率30〜60%などは、裏づけを確認できないため削除しました。
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