ドイツのロボット新興企業ニューラ・ロボティクスとミュンヘン工科大学は10月22日、人型ロボットに工場の作業を覚えさせる拠点を開いた。当初は約100台を使う。経済産業省も似た拠点の事業費を2027年度予算の概算要求に計上した。
拠点はミュンヘン空港の近くに設けた。広さは2300平方メートルを超え、施設内に48の区画を設けてロボットを置く。当初は人型ロボットなど約100台が作業を覚える。ニューラは3月の計画発表で、ロボットのAIを学習させる施設として「欧州最大」になるとしていた。
ロボットに覚えさせるのは、段ボール箱の組み立てや部品の組み付け、工具の扱いといった作業だ。当面は工場での作業と構内物流に重点を置く。自動車や医薬品、物流、介護など10を超える業種の企業が参加し、9月から自社の作業をロボットに教え込んでいる。
人工知能(AI)でロボットを自律的に動かす技術は「フィジカルAI」と呼ばれ、米国や中国の企業が開発を競う。生成AIはネット上の大量の文章や画像で学習できるが、ロボットが物をつかんだり運んだりする動作のデータは少なく、集め方が課題になっている。
投資額は3年で約30億円
事業は当初3年間の計画で、両者が約1700万ユーロ(約30億円)を投じる。このうち約1100万ユーロはニューラが出す。ニューラはロボットや計算資源を用意し、運営にも人員を充てる。大学は場所を提供し、研究と運営の一部も担う。拠点の責任者はミュンヘン工科大学のロレンツォ・マジア教授が務める。
ニューラは2019年創業で、本社はドイツ南西部のメッツィンゲンにある。同社は欧州や米国、中国でも同じような施設の開設を進めており、ドイツ国内ではアーヘン工科大学と組んで別の拠点を建設している。
データは3つの方法で集める
1つ目はロボットに実際に作業させる方法だ。動きや物に触れたときの様子、作業がうまくいったかどうかをセンサーで記録する。2つ目は人が作業を実演する方法だ。その動きを、センサーを付けた服やモーションキャプチャーで読み取る。人がロボットを遠隔操作したときの記録も使う。こうした手法は「模倣学習」と呼ばれ、ロボットに人の動きをまねさせて作業を覚えさせる。3つ目はコンピューター上の仮想空間を使う方法だ。実機で集めた記録をもとに、条件を変えた場面をいくつも再現し、データを増やす。
集めたデータはクラウドに蓄え、AIの学習に使う。ミュンヘン工科大学によると、拠点はクラウド上の計算設備も備え、シミュレーションや強化学習、大規模なAIモデルの開発に使う。強化学習は、ロボットに試行錯誤を繰り返させ、うまくいったときに「報酬」を与えて、より良い動きを身につけさせる手法だ。
ニューラは集めたデータを、自社開発の基盤モデルの学習に使う。基盤モデルは大量のデータで学習した大規模なAIで、さまざまな作業に応用できる。同社のAIはカメラの映像に加え、触った感覚や加わる力、音、ロボット自身の姿勢なども手がかりに、次の動きを決める。部品の留め具がはまったかどうかも、感触や音で確かめられるという。1台が覚えた作業は、ネットワークでつながったほかのロボットと共有できる。
ニューラは開所に合わせ、人型ロボットの第4世代機を発表した。新型機は従来機より2割軽く、体を細くして表面を布で覆った。手を改良したほか、腕や脚が個別に、周囲の変化へ反射的に動けるようにした。量産に向けた準備を進めているが、身長や運べる重さなどの仕様は明らかにしていない。ロボットを動かす仕組みは、当サイトの解説「制御と学習」で詳しく紹介している。
経産省、AIロボットの拠点に1,333億円を要求
日本でも同じような拠点づくりが動き出した。政府は7月に閣議決定した成長戦略で、AIを搭載したロボットの普及に向けた中核拠点を設ける方針を打ち出した。成長戦略と同時にまとめた工程表によると、拠点では工場や物流、介護などの現場を再現した施設でロボットを動かし、データを集めて性能を確かめる。規格づくりや人材の育成も併せて進める。
経済産業省は8月末にまとめた2027年度予算の概算要求に、この拠点の事業費として1,333億円を新たに計上した。拠点の場所や数、事業の期間は示していない。福島の復興関連の予算にも同じ事業を同額で盛り込んでいるが、福島県内に設けるかどうかは明らかにしていない。
ミュンヘンの施設に投じる約30億円と比べると、要求額は約45倍になる。ただ、ミュンヘンは1カ所の3年分の額で、日本は拠点の数も期間も示していないため、単純には比べられない。
経産省は、この拠点を含む次の4事業を、いずれも政府が今回の概算要求で新設した「強く豊かな日本」投資枠に計上した。投資枠は要求に上限を設けない仕組みだ。
| 事業 | 2027年度の要求額 | 2026年度の当初予算 |
|---|---|---|
| AIロボットの中核拠点 | 1,333億円 | 新規 |
| AIロボットの開発・量産支援 | 3209億円 | 新規 |
| AI基盤モデルの開発 | 8964億円 | 3873億円 |
| 廃炉向けフィジカルAI開発 | 470億円 | 新規 |
基盤モデルの開発は、文字だけでなく画像や音声も扱うAIをつくる事業で、経産省はロボットへの活用を見込む。開発・量産支援の事業では、AIロボット本体や重要部品の量産設備への投資も支援する。
国内企業もデータ収集拠点を相次ぎ開設
国内では民間企業も、ロボットの学習用データを集める拠点を相次いで開いた。山善(8051)やツムラ(4540)など5社が参加する企業連合は8月26日、千葉県習志野市の拠点を本格稼働させた。拠点には人型ロボット35台を置き、常駐するオペレーターが操作して、模倣学習に使うデータを集める。
新興企業のアトムも同じ日、東京・豊洲にデータ収集拠点を開いた。人がロボットを遠隔操作して実際の作業をさせ、その際の映像や触った感覚、加えた力のデータを記録する。2027年末には200台を常時稼働させる計画だ。
日本精工(6471)は8月20日、アトムと人型ロボットの開発で提携することで基本合意した。両社は日本精工の工場でアトムのロボットを動かし、データを集める。日本精工が開発中の人型ロボット向けアクチュエーター(駆動装置)をアトムのロボットに搭載し、性能も確かめる。
産業用ロボットで世界シェア7割の日本、AIロボットでも3割超目指す
成長戦略の工程表によると、日本は産業用ロボットで世界シェアの約7割を占め、モーターや減速機など主要部品にも強い。一方、サービスロボットのシェアは1割強にとどまる。工程表は市場規模を、サービスロボットで約2兆8000億円、産業用ロボットで約8000億円としている。
政府は工程表で、AIを搭載したロボットの世界市場は2030年ごろから急拡大するとみている。2040年には約60兆円に達する見通しだ。日本企業のシェアを3割超に高め、この市場で20兆円を獲得する目標も掲げた。2040年度までの官民の投資額は10兆5000億円と見込む。工程表の参考資料は、フィジカルAIをまだ事業化に至っていない「実証」段階と位置づけている。
工程表はAIロボットの普及を妨げる要因も挙げる。メーカーは需要を見通せず、量産投資に踏み切れない。量産が進まないため価格が下がらず、導入する企業も増えない。AIとロボットの両方に詳しい人材も足りない。
減速機の仕組みは当サイトの解説「減速機」で取り上げた。ファナックと安川電機の中国でのロボット販売は別の記事で伝えた。
経産省の要求がどこまで認められるかは、年末にまとめる政府予算案で明らかになる。
(1ユーロ=175.97円で換算。10月22日の欧州中央銀行の参照レート)
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