AI開発の米新興企業アンソロピックは10月26日、新規株式公開(IPO)に向けた目論見書を公表した。グーグルなど7社と結んだ計算資源の調達契約の金額は、単純に合計すると約100兆円に上る。日本など米国以外の国でも株式を公募する。

アンソロピックは2021年に設立され、対話型AI「クロード」を開発している。同社は米証券取引委員会(SEC)に目論見書を提出し、米ナスダック市場への上場を申請した。主幹事はゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーが務める。公開価格の仮条件や売り出す株数、調達額はまだ決まっていない。同社は6月に、目論見書の草案をSECに非公開で提出したと発表していた。

日本でも公募、みずほと三菱UFJの米証券子会社が幹事証券団に

目論見書によると、米国のほか日本、英国、カナダ、オーストラリア、スイスと欧州経済領域の一部の国でも、一般の投資家を対象に株式を公募する。これらの国・地域の取引所に上場する予定は今のところないという。幹事証券団は22社で構成する。みずほフィナンシャルグループ(8411)と三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)の米証券子会社も名を連ねた。

日本で株式を公募するには、金融商品取引法に基づき、勧誘を始める前に有価証券届出書を提出する必要がある。編集部が金融庁の電子開示システムで9月以降に提出された書類を調べたところ、27日時点でアンソロピックの届出書は見当たらなかった。同社は日本での提出時期を明らかにしていない。

みずほの事業と業績はみずほフィナンシャルグループの企業ページに、国内外の新規上場の予定は新規上場の一覧にまとめている。国内では、NTTが大阪でアンソロピック向けのデータセンター建設を検討していると一部で報じられた(NTTとアンソロピックの大阪のデータセンター)。

計算資源の調達契約、7社分を合計すると約6370億ドル

計算資源とは、AIの開発やサービスの提供に使う半導体やデータセンターのことだ。目論見書が社名と金額を載せている主な契約の相手は7社ある(図1)。

クラウド大手3社とは、実際の利用量にかかわらず決まった額以上を支払う契約を結んだ。3社のうち支払額が最も大きいのはグーグルで、2033年7月までに少なくとも1145億ドルを支払う。アマゾンのクラウド部門への支払いは、2036年4月までで1100億ドル以上になる。マイクロソフトへの支払いは、2033年5月までに少なくとも449億ドルになる。マイクロソフトとは2025年11月に契約を結び、その後2回見直した。3社との契約はいずれも、相手側が重大な契約違反を是正しない場合などを除き、途中で解約できない。

グーグルの半導体「TPU」を使う設備は、米ブロードコムから5年間のリースで調達する。リース料は利息を除いて合計約1612億ドルになる。英新興クラウドのエヌスケールからは、米エヌビディアの画像処理半導体(GPU)を使う計算資源を2033年までに最大約446億ドル分借りる。GPUを貸し出す米ラムダからも、2034年までに約413億ドル分を借りる。

残る1社は、スペースXのAI子会社(旧xAI)だ。2029年までの契約額は最大1205億ドルに上る。すべての計算資源が使えるようになる12月以降は、支払いが月約31億ドルになる見込みだ。年換算では約370億ドルになる。

このほか、米AMDの画像処理半導体を搭載したAIサーバーを2027年から調達する。当初計画した分をすべて調達すれば、支出は200億ドルを超える。グーグルなどTPUの供給元からも計算資源を追加で調達し、支払いは1250億〜1500億ドルになる見込みだ。納入は2028〜2031年の予定だ。

アンソロピックが計算資源の調達契約を結んだ7社の契約額と期間。最大はブロードコムの1612億ドル
アンソロピックが計算資源の調達契約を結んだ7社の契約額と期間。最大はブロードコムの1612億ドル

7社との契約額を単純に合計すると約6370億ドル(約100兆円)になる。ただ、この合計には最低支払額や上限額、リース料の総額が混在しており、目論見書には合計額が載っていない。支払い義務の総額を記した部分も、金額が空欄のままだ。

編集部が財務諸表の注記の金額を合計すると、計算資源などの契約に基づいて今後支払う額は約8530億ドルになる。このうち、6月末時点で解約できない契約に基づく支払額が2656億ドルある。契約は結んだもののまだ始まっていないリースの支払いも3214億ドルある。6月末より後に新たに結んだり見直したりした契約の分は2450億ドルで、短期の契約の分も210億ドルある。グーグルなどから追加で調達するTPUの分は、この額に含まれていない。

編集部の試算では、9月までの1年間の売上高は約353億ドルになる。今後支払う約8530億ドルは、その約24倍にあたる。7社分に限っても約18倍だ。電力やデータセンターの契約には期間が20年に及ぶものがあり、料金は毎年上がる。

同社は目論見書のリスク要因の項で、過去に必要な計算資源を大幅に少なく見積もっていたと認めた。その結果、計算資源が足りなくなり、製品の開発や提供に支障が出たという。同社は通常、計算資源を使い始める12〜18か月前に契約を結ぶ。不足分を短期の契約で借りると割高になる。同社は当面、短期の契約が増え、営業利益率が下がるとみている。

同社は、他社が運営する専用のデータセンターを借り、自ら調達した半導体を置く方式も始めた。1棟目は今年稼働した。計画中の施設の一部は、敷地内のガス火力発電で電力を賄う。地域の住民やほかの電力利用者に負担が及ばないよう、同社は4つの対策を自主的に打ち出した。送電網の増強費用の負担、新たな電源の調達、電力需要が多い時間帯に使用を抑える設備への投資、環境対策だ。

共同創業者7人は、目論見書の冒頭に載せた投資家への書簡で、計算資源を中心とする先行投資の規模は一見、無責任とも映るほど大きいと認めた。創業者らは製薬会社を引き合いに出した。製薬会社は研究開発に巨額を投じ、新薬の開発に成功して初めて投資を回収できる。アンソロピックでは、同様のことがはるかに速く、大きな規模で進んでいるという。需要を過大に見込んだ場合は、余った計算資源を手放す方法を探すほか、効率を高め、必要なら資金を調達するとした。上振れ時の利益を多少犠牲にしても、下振れへの備えを優先するという。

スペースXとの契約は短期、2027年以降は両社とも解約可能に

スペースXの子会社との契約は約3年で終わり、5年以上に及ぶほかの契約より短い。アンソロピックは5〜10月にスペースXの子会社と複数の契約を結び、改定を重ねた。途中で解約できない期間は、いずれの契約も2027年1〜3月に終わる。その後は両社とも、90日前に書面で通知すれば解約できる。

スペースXのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は5月、契約期間を短くしたのはスペースX側の意向だったとX(旧ツイッター)に投稿した。スペースXで計算資源が大きく不足すれば、貸した分を引き揚げることもあるとアンソロピックに伝えていたとも明かした。

スペースXは2月にxAIを完全子会社にした。xAIは対話型AI「グロック」を開発しており、アンソロピックと競合する。目論見書には、スペースXがアンソロピックに出資しているとも、アンソロピックのAIを販売しているとも書かれていない。一方、アマゾン、グーグル、マイクロソフトの3社は、アンソロピックの株主であり顧客でもある。3社は自社のクラウドでアンソロピックのAIを売る一方、自らもAIを開発しており、競合相手でもある。

目論見書には、スペースXから借りる計算能力の規模も、ほかの契約の単価も書かれていない。電力に換算して約1ギガワット(100万キロワット)とする見方もあるが、目論見書などでは確認できない。

アンソロピックは5月6日、スペースXの計算能力を月内に使えるようになると発表した。規模は30万キロワットを超える電力に相当する。スペースXが5月に公表した目論見書によると、両社は5月3日に契約を結び、スペースXは5月と6月の料金を割り引いた。契約当初の支払いは月12億5000万ドルだった。その後の契約の追加や改定で、すべての計算能力が使えるようになった後の支払いは月約31億ドルに増える。

2027年の計算資源の支払いは1100億ドル超と試算、足元の売上高を上回る

目論見書には、途中で解約できない契約に基づく支払額が、2025年末時点で年ごとに載っている。主にクラウド大手の設備を使う契約で、総額は545億5900万ドルだ。このうち2027年分が111億2800万ドルを占める。6月末時点の分は総額2656億ドルしか載っておらず、年ごとの内訳はない。契約全体の年ごとの支払額をまとめた表もあるが、日付も金額も空欄のままだ。2026年に入って契約が大幅に増えたため、編集部は契約ごとに1年分の支払額を試算した。

契約総額を契約年数で割り、スペースXについては月約31億ドルを12倍した。編集部の想定では、7社すべてへの支払いが1年を通して生じる最初の年は2027年だ。同年の支払額は約1140億ドル(約18兆円)になる(図2)。最も大きいのはスペースXの約370億ドルで、ブロードコムの約320億ドルが続く。残る5社への支払いは合わせて約450億ドルになる。実際の支払いは計算資源の供給が進むにつれて年を追って増えることが多く、この試算は大まかな目安にすぎない。

ブロードコムへのリース料の支払いは、設備が使えるようになった時点で始まる。設備の一部は2026年に稼働を始め、2027年からは追加分も順次稼働する見込みだ。ブロードコムは9月2日の決算説明会で、アンソロピック向けの計算能力を年を追って増やす見通しを示した。まず2026年に1ギガワット分を供給する。2027年にはさらに5ギガワットを加える。2028年には10ギガワットを上乗せする計画だ。一方、アマゾンとの契約は、両社が4月に発表した最大5ギガワット分の計算能力の提供にあたるとみられる。

7〜9月期の売上高は、目論見書の記述から逆算すると約169億ドルになる。年換算では約680億ドルだ。2026年4〜6月期の計算資源・インフラの費用は売上高の48%だった。2027年の支払いの試算額は、年換算の売上高を7割近く上回る。計算資源の費用を売上高の5〜6割に抑えるには、同年の売上高が約1900億〜2300億ドル必要になる。これは足元の年換算売上高の約3倍にあたる。

2027年の計算資源の支払いの試算額は、足元の年換算売上高を上回る
2027年の計算資源の支払いの試算額は、足元の年換算売上高を上回る

7社の契約に限れば、支払いは2027〜2029年に最も膨らむとみられる。スペースXとの契約は2029年までで、ブロードコムからのリースも5年が過ぎれば順に終わる。一方、2028〜2031年には追加で調達するTPUの納入が控える。期間20年の契約や6月末より後に結んだ契約も含めた支払額の見通しでは、2030年末までの分は金額が空欄だが、残りのほぼすべてを2031〜2045年に支払う見込みだという。

売上高は前年同期の14倍、4〜6月期は営業黒字に

アンソロピックは2023年1〜3月期にクロードの提供を始めた。売上高は2023年に4100万ドルだった。2024年は3億8600万ドルに増えた。2025年は45億8500万ドルに膨らんだ。2026年1〜6月期は162億8600万ドルだった。前年同期(11億6300万ドル)の14倍にあたる。一方、同じ期間の純損失は807億4800万ドルに上った。2025年通年の純損失は419億6500万ドルだった。

2025年は四半期ごとに売上高が増え、10〜12月期には20億4000万ドルに達した(図3)。2026年1〜3月期は47億3100万ドルで、4〜6月期は115億5500万ドルに増えた。前四半期比の増収率は2025年10〜12月期に48%だった。2026年1〜3月期は132%に跳ね上がった。4〜6月期は編集部の計算で144%だった。

7〜9月期の売上高は目論見書に記載がない。ただ、2024年10〜12月期の売上高の86倍だったとの記述はある。この期の売上高は1億9700万ドルで、ここから逆算すると7〜9月期は約169億ドルとなる。前四半期比の増収率は約47%で、4〜6月期から減速した計算だ。同社は7〜9月期の営業損益や粗利益、キャッシュフローも開示していない。

アンソロピックの四半期ごとの売上高。2026年7〜9月期は目論見書の記述から逆算すると約169億ドル
アンソロピックの四半期ごとの売上高。2026年7〜9月期は目論見書の記述から逆算すると約169億ドル

同社は目論見書で、売上高の伸びが今後鈍るとの見通しを示した。最近の急成長はAIの普及が始まったばかりの時期に特有のもので、今後も続くとは限らないという。売上高が増えるにつれて増収率は下がり、想定を上回る速さで減速するおそれもあるとした。黒字化できない、あるいは黒字を保てない可能性にも触れ、当面は無配とする方針を示した。

損益は4〜6月期に大きく改善した。営業損益は1〜3月期の16億6700万ドルの赤字から、4〜6月期は9億7400万ドルの黒字に転じた。売上高営業利益率は1〜3月期のマイナス35%から8%に上がった。株式報酬などの費用を除いた調整後営業利益は22億3500万ドルで、利益率は19%だった。前年同期の調整後営業損益は赤字で、利益率はマイナス129%だった。

1〜6月期の累計では、営業損失は6億9300万ドルにとどまった。営業キャッシュフローは39億2900万ドルの黒字に転じた。前年同期は15億1300万ドルの赤字だった。2025年通年も26億3700万ドルの赤字だった。

純損失の大半は会計上の損失、粗利益率は85%に

1〜6月期の純損失は807億ドルに上ったが、大半は本業の赤字ではなく会計上の損失だ。最大の要因は、転換社債などの時価の変動で生じた723億8800万ドルの損失だ。損失の多くは、アマゾンが持つ転換社債の時価が上がったことによるとみられる。目論見書は損失を社債ごとに示していないが、6月末に残る社債はすべてアマゾンの分だ。

アマゾンは2023年と2024年の2度、アンソロピックの転換社債を引き受けた。6月末時点で、元本62億300万ドル分が株式に転換されないまま残っている。いずれも利息は付かない。転換価格は1株2.0928ドルと5.0478ドルで、公開価格がこれを下回れば公開価格を適用する。いずれも9月の株式分割(1株を10株に分割)後の普通株1株あたりに換算した価格だ。アマゾンの保有比率の上限を考慮しなければ、全額を転換すると議決権のないクラスN株が計約18億4000万株発行される。

元本62億ドルの転換社債の時価は、6月末に1085億6600万ドルまで膨らんだ。同社はこの負債を決算のたびに時価で評価し直しており、企業価値が上がると負債の増加分を損失として計上する。6月末時点の累積赤字1329億ドルのうち1132億ドルは、こうした時価の変動によるものだ。

これとは別に、その他の損益として87億5700万ドルの損失を計上した。グーグルは3月、アマゾンは4月に、1〜2月の資金調達(シリーズG)と同じ価格で優先株を引き受ける契約を結んだ。優先株は分割の対象外で、価格は1株259.1364ドルだった。引受額はグーグルが約100億ドル、アマゾンが約50億ドルだ。株数はそれぞれ3860万株と1930万株になる。この損失は主に、契約時に時価で計上した分と、株式を引き渡すまでの時価の変動分から成る。

企業価値が上がるほど会計上の損失が膨らむ仕組みだが、上場で社債の大半が株式に転換されれば、こうした損失の多くは生じなくなる。ただ、アマゾンの保有比率の上限(12%)を超える分は無利息の社債として残るため、時価の変動に伴う損益の計上は続く。

上場に伴って新たに生じる費用もある。従業員に付与した譲渡制限付き株式ユニットは、一定期間の勤務と上場という2つの条件を満たして初めて権利が確定する。このため6月末時点で、まだ費用に計上していない株式報酬が約266億ドルある。仮に6月30日に上場していれば、同日に約29億ドルを一括して費用に計上することになっていた。残りの約237億ドルは、平均で約2.1年かけて計上していく。

同社は2025年、損益計算書の費用の表示を、売上原価や研究開発費などの項目別から、計算資源・インフラ費や人件費、販売・マーケティング・提携費など費用の種類別に改めた。このため、損益計算書には粗利益が表示されていない。従来の区分による内訳は、財務諸表の注記8に載っている。

この内訳の売上原価から計算すると、2024年の粗利益率はマイナス95%だった。2025年は39.5%に改善した。2026年1〜6月期は85.4%に達した。

ただ、計算資源にかかる費用の大半は売上原価に含まれていない。1〜6月期の計算資源・インフラの費用は89億4500万ドルだった。その多くはモデルの開発や研究、社内での利用に充てた分で、研究開発費に計上しているとみられる。無料版の提供にかかる分は、販売・マーケティング費に含めている。1〜6月期の研究開発費は97億4100万ドルで、売上高の60%にあたる。計算資源・インフラの費用は、2025年1〜3月期には売上高の2.5倍に上ったが、2026年4〜6月期には売上高の48%まで下がった。費用の額は同じ期間に9億4400万ドルから56億ドルに増えた。

年10万ドル以上払う顧客は1万1900社超、売上高の半分近くはクラウド経由

直近1年間に10万ドル以上を支払った顧客は、9月末で1万1900社を超えた。1年前は950社余りだった。支払いが100万ドル以上の顧客は1900社を超えた。1000万ドル以上の顧客も約250社ある。このほか、支払いが年10万ドルに満たない顧客の数は約4000万に上る。

年10万ドル以上を払う大口顧客には、米フォーチュン誌の売上高上位10社がすべて含まれる。上位500社では半数超がこれにあたる。米フォーブス誌の世界の大企業2000社では、3割超が当てはまる。

前年同期に支払いのあった顧客に絞っても、7〜9月期の売上高は約9倍に増えた。この計算には、個人向けの定額制プランの利用者を含めていない。同社は、AIが自律的に作業をこなす「AIエージェント」型の製品が広がるにつれて、顧客の支出が増えているとみている。7〜9月期の企業向けクロードの利用者1人あたりの支出は、プログラミング支援ツール「クロードコード」を使わない場合で月平均75ドル未満だった。クロードコードを使う利用者のうち、支出額が上位5%の人は、その約20倍を支払った。

1〜6月期の売上高の8割は、利用量に応じた従量課金によるものだった。残る約32億ドルは定額制の売上高だ。請求先の所在地で分けると、米国が117億6300万ドル、米国以外が45億2300万ドルだった。

特定の顧客への依存度は下がっている。1〜9月に売上高の1割超を占めた顧客は1社もなかった。上位5社の合計でも約25%にとどまる。それ以外の顧客からの売上高の比率は、1〜3月期の約64%から7〜9月期には約79%に高まった。ただ、上位5社からの売上高も、7〜9月期はそれぞれ四半期として過去最高になった。以前は特定の1社への依存が大きく、2023年はこの顧客が売上高の43%を占めた。2026年1〜6月期も11%を占めたが、1〜9月の累計では1割を下回った。

1〜6月期の売上高の48%は、クラウド大手が運営する販売サイト(マーケットプレイス)を通じたものだった。販売提携先への手数料や広告宣伝費などを含む販売・マーケティング・提携費は、1〜6月期に31億6800万ドルだった。このうち手数料は、前年同期より27億ドル増えた。

売上高は、値下げや性能の向上、新製品の投入が重なって伸びている。上位モデル「オーパス4.5」を2025年11月に投入した後、2026年1〜3月期の増収率が大きく高まった。7〜9月期の売上高の8割超は、直近半年に投入したモデルによるものだった。

同社は9月に投入した2つの新しいモデルで、顧客の費用を引き下げた。上位の「オーパス5.5」は、作業1件あたりの顧客の費用を従来モデルより約40%抑えた。「フェイブル5.1」では、従来モデルに比べ顧客の費用が通常の作業で約25%、複雑なプログラミングなどでは最大45%下がった。費用の低下は値下げと効率の向上によるもので、同社は利益率を維持できたとしている。

目論見書は、売上高を押し下げかねない要因も挙げている。同社の推計では、1〜9月の売上高の約5〜7%は、後から利用規約などへの違反が見つかった顧客からのものだった。同社は、こうした売上高が含まれるのは業界では珍しくないとしている。同社は8〜9月に、不正利用の検知と利用停止の対策を強化した。こうした顧客からの売上高が減れば、今後の売上高の伸びが鈍る可能性があるという。利用を停止された顧客が、別のアカウントで登録し直すおそれもある。

夏休みや年末年始は利用が減るため、従量課金の売上高は落ち込みやすい。年末年始の2週間は、顧客の支出が直前の2週間より約2割減った。

優先株の発行価格は229倍に、1〜6月の調達は約1100億ドル

優先株の1株あたりの発行価格は、最初の資金調達(シリーズA)の2.57ドルから、直近のシリーズHの約589ドルと、約229倍になった(図4)。価格は2024年のシリーズDで約30ドル、2025年のシリーズFで約141ドルと、調達のたびに上がった。

2026年1〜2月のシリーズGでは、優先株を1株約259ドルで発行した。調達額は235億ドルだった。議決権のない優先株も同じ価格で発行し、グーグルとアマゾンの引受分を含めて5月までに217億ドルを集めた。5〜6月のシリーズHでは、計652億ドルを調達した。優先株は上場時に普通株に転換される。同社は9月17日、普通株1株を10株に分割した。優先株は分割の対象外だが、大半は1株が普通株10株に転換される。

アンソロピックの優先株の1株あたりの発行価格。シリーズAの2.57ドルから、シリーズHでは約589ドルに上がった
アンソロピックの優先株の1株あたりの発行価格。シリーズAの2.57ドルから、シリーズHでは約589ドルに上がった

シリーズGからシリーズHまでの約4か月で、発行価格は2.27倍に上がった。1〜6月の2回の資金調達で、計約1104億ドルを集めた。目論見書によると、創業から6月末までに集めた資金は計1411億ドルに上る。6月末の現金と現金同等物は1124億ドルだった。このほか、短期投資が193億ドルあった。

グーグル、アマゾン、ブロードコムの3社と結んだ株式や転換社債の引き受け契約のうち、6月末時点の未使用枠は計770億ドルある。グーグルは3月に優先株を引き受けた際、2030年末までに転換社債か議決権のない普通株を最大300億ドル分引き受ける契約も結んだ。グーグルは5月のシリーズHで100億ドルを出資した。この出資の分だけ枠が減り、6月末の残りは200億ドルになった。残りの枠を使うには、直近12か月の売上高の目標や、他社と結んだ計算資源の契約の条件を満たす必要がある。グーグルは上場に合わせて、公開価格で最大100億ドル分の株式を取得できる権利も持つ。この権利を行使すれば、取得した額だけ枠の残りが減る。

アマゾンは4月に優先株を引き受けた際、議決権のない普通株か転換社債を最大200億ドル分引き受ける契約も結んだ。アマゾンも5月のシリーズHで50億ドルを出資した。シリーズHでの出資分を差し引くと、枠の残りは150億ドルになる。アンソロピックは、アマゾンとの契約で決めた計算能力の導入目標に届くたびに、50億ドルずつ資金を受け取れる。この契約で発行する社債も、転換するとアマゾンの保有比率が上限を超える部分は、無利息の社債として残す。

ブロードコムとは、必要なときに最大420億ドルの転換社債をブロードコム側に発行できる契約を結んだ。調達した資金の使い道は、ブロードコムから借りる設備のリース料を四半期ごとに払うことに限られる。アンソロピックは、上場までにこの社債を発行する予定はないとしている。金利は年9%で、利息は現金で払わず元本に組み入れる。売上高に関する条件を満たしていない期間に発行した社債は、金利が年13%になる。転換価格も、株価の直近の平均の90%から85%に下がる。社債を発行するには売上高の伸び率が一定の基準を上回ることなども必要だが、2025年以降はどの四半期も実際の伸び率がこの基準を大きく上回っているという。

AMDは、GPUの納入と設置が一定の段階に進むごとに、議決権のないクラスN株を計50億ドル分まで引き受ける。

アンソロピックは9月、銀行団と結ぶ2031年までの融資枠を150億ドルに拡大した。従来は約33億ドルだった。大手格付け会社3社のうち2社以上から投資適格級の格付けを得れば、担保と保証を外せる。

上場前には、発行済みの株式の売買もあった。アンソロピックは2025年10月、米政府が持っていたシリーズBの優先株約445万株を、1株約141ドルで買い取った。同時に、同じ価格でほかの投資家に転売した。取引総額は約6億2700万ドルで、アンソロピックに資金は入っていない。この株は、アンソロピックが関わっていない裁判で元の持ち主から没収され、米政府の手に渡っていた。

同社は、社員らが保有株を売却する機会も2回設けた。2025年6月には、同社が約2794万株を買い取って消却した。買い取り価格は1株5.61ドルで、株数と価格はいずれも株式分割を反映した値だ。2026年4月には、既存株主らのグループが社員らから約1億7988万株を買い取った。買い取り価格は株式分割を考慮して1株25.9136ドルで、総額は約46億6000万ドルだった。分割前の価格に換算すると約259ドルで、シリーズGの発行価格と同じだった。このとき、ダリオ・アモデイCEO、ダニエラ・アモデイ社長、クリシュナ・ラオ最高財務責任者、ダニエラ氏の夫のホールデン・カーノフスキー氏も保有株を売却した。

アンソロピックは2025年12月、プログラムの実行環境「バン」を開発する企業を約1億7100万ドルで買収した。2026年4月には、計算生物学の新興企業コエフィシェント・バイオを買収した。5月には、開発者向けソフトを手がけるステンレス・ソフトウェアを3億600万ドルで傘下に収めた。現時点で、大型の買収や出資の予定はないという。

目論見書は、クラウド大手3社が自社のクラウドで販売するアンソロピックのAIの価格や取引条件を把握できる立場にあることも、リスクに挙げている。アンソロピックは計算資源や設備の一部を、提携するクラウド事業者や半導体メーカーの資金力や信用力に頼って確保している。こうした依存を減らせるかは、自社の信用力で資金を調達できるかどうかにも左右されるという。

ベンチャーキャピタル22社中21社が出資断る、創業期の投資家が回想

目論見書の財務諸表の注記によると、シリーズAで発行した優先株は4857万4000株、調達額は約1億2500万ドルだった。シリーズAの資金集めは難航したと、初期の投資家は振り返る。

創業期から出資してきたアンジニー・ミダ氏はポッドキャスト番組で、2021年初めに、のちに共同創業者となるトム・ブラウン氏から電話を受けたと語った。ダリオ・アモデイ氏らと新たな研究所を設立するため、資金と計算資源が必要だという相談だった。2人は毎週会い、研究の構想を事業計画にまとめた。ミダ氏はシリコンバレーのベンチャーキャピタル22社に出資を打診したが、21社に断られたという。同氏自身も、蓄えのほぼすべてを投じた。当時、その資産の大半は対話アプリ「ディスコード」の株だった。

資金は主に個人投資家が出し、スカイプの共同創業者ヤーン・タリン氏が主導した。フェイスブック(現メタ)の共同創業者ダスティン・モスコビッツ氏とグーグルの元CEOエリック・シュミット氏も加わった。タリン氏とモスコビッツ氏は、「効果的利他主義」と呼ばれる社会運動を支援してきたことで知られる。

米メディアによると、タリン氏はポッドキャスト番組で、自ら資金を出す前に、ダリオ・アモデイ氏にベンチャーキャピタルの出資を取り付けるよう求めたと振り返った。自分の資金がきっかけで新たなAI研究機関が生まれるのは避けたく、自分が出資しなくても資金が集まることを確かめたかったという。一方、ミダ氏はシリーズAまでに出資したベンチャーキャピタルはなかったと話しており、2人の説明は食い違っている。ミダ氏は、22社のうち断らなかった1社がその後どうしたかは明らかにしていない。

2022年のシリーズBは、暗号資産(仮想通貨)交換業大手FTXの創業者サム・バンクマン・フリード氏が主導し、FTX側が5億ドルを出資した。発行価格は1株約11.2ドルだった。FTXは同年11月に経営破綻した。ベンチャーキャピタルが初めて資金調達を主導したのは、2023年春のシリーズCだった。米ベンチャーキャピタルのスパーク・キャピタルが7500万ドルを投じた。出資を決めたのは同社のヤスミン・ラザビ氏だった。ラザビ氏(37)は現在もアンソロピックの取締役を務めており、上場後も取締役に残る。

FTXなどがシリーズBで取得した株は、その後、売却や没収を経て別の投資家の手に渡った。破産手続き中のFTXは2024年、保有株の約3分の2を売却した。売却額は8億8400万ドルで、最大の買い手はアブダビの政府系ファンド、ムバダラ・インベストメント傘下の投資会社だった。米メディアによると、アンソロピックが2025年10月に米政府から買い取った株は、FTX関係者2人が持っていたものだった。

この株は、FTXの関連会社アラメダ・リサーチの元CEOキャロライン・エリソン氏が1000万ドル、FTXの元幹部ニシャド・シン氏が4000万ドルを出資して得たもので、両氏が罪を認めた後に裁判所の命令で没収された。株数とシリーズBの価格から計算した約5000万ドルは、2人の出資額の合計とほぼ同じだ。

スパーク・キャピタルがシリーズCで投じた7500万ドルは、シリーズHの価格で換算すると約39億ドルになる。ミダ氏はその後の資金調達でも、自ら運営するファンドを通じた分を含めて数億ドルを出資した。

創業者7人が議決権の50.1%を握る

アンソロピックは、米デラウェア州の法律に基づいて公益の目的を掲げる営利企業だ。州法は取締役会に対し、株主の利益と、事業の影響を大きく受ける人々の利益、会社が定めた公益の目的の3つのバランスをとって経営するよう義務づけている。

上場後の普通株は5種類になる(図5)。上場時に投資家に売り出すクラスA株は、1株につき1票の議決権を持つ。クラスN株は配当などを受け取る権利はあるが議決権はなく、主にアマゾンやグーグルなど事業上の提携先が持つ。クラスT株は1株だけで、経営陣から独立した機関「長期利益信託」が持つ。信託はこの株で配当などを受け取れないが、取締役の過半数を選ぶ権限を持つ。クラスE株は従業員に割り当てる。在籍半年ごとに1株、寄付を約束したクラスA株1株ごとに1株を渡す。クラスE株が議決権を持つのは、一部の議案に限られる。

クラスF株も発行は1株だけだ。共同創業者7人でつくる合同会社がこの株を持ち、上場後は議決権の50.1%を握る。目論見書が創業者とするのは、ダリオ・アモデイ、ダニエラ・アモデイ、トム・ブラウン、ジャック・クラーク、ジャレッド・カプラン、サム・マキャンドリッシュ、クリス・オラーの7氏だ。株式を新たに発行しても、この比率は変わらない。例えばクラスA株を100万株発行すると、クラスF株の議決権は自動的に100万4000票余り増える。クラスA株などほかの株の議決権は、すべて合わせても49.9%にとどまる。取締役は7人で、長期利益信託が過半数の4人を、創業者とクラスA株の株主が残りを選ぶ。アンソロピックは、ナスダックの上場規則が定める「支配株主がいる会社」にあたる。

上場後のアンソロピック株の種類と議決権の割合。クラスF株が50.1%、クラスA株などが49.9%を占める
上場後のアンソロピック株の種類と議決権の割合。クラスF株が50.1%、クラスA株などが49.9%を占める

長期利益信託はデラウェア州の判例法に基づく信託で、慈善信託ではない。信託を運営する委員は、内規でアンソロピックの株を直接保有することを禁じられている。委員の報酬は年40万ドルの現金で、会社の業績には連動しない。委員長はこれとは別に年2万5000ドルを受け取る。委員の定員は5人で、現在は4人だ。委員長は、国際保健に取り組む非営利団体クリントン・ヘルス・アクセス・イニシアチブのニール・バディ・シャーCEOが務める。

ほかの委員は、米シンクタンクの新アメリカ安全保障センターのリチャード・フォンテーンCEO、ベン・バーナンキ元米連邦準備理事会議長、ハーバード大学のクリストファー・スタッブス教授(物理学・天文学)の3人だ。バーナンキ氏は6月、スタッブス氏は10月に加わった。スタッブス氏は、米政府に安全保障の問題で助言する科学者の団体「ジェイソン」の一員でもある。

創業者に多くの議決権を与える仕組みは、一定の条件を満たすと失効する。合同会社に残る創業者が2人以下になって90日たつと、仕組みをなくすための移行期間に入る。移行期間は450日続く。移行期間が終わると、会社はクラスF株と従業員が持つクラスE株をすべて無償で取得する。創業者らは書簡で、自らが持つ特別な議決権は「いつまでも続くものではない」と記した。

創業者は、自ら脱退を申し出たり死亡したりした場合や、病気などで職務を果たせなくなった場合に、合同会社から外れる。持ち株が上場時の保有分の2%未満に減った場合も、合同会社から外れる。競合する事業に関わったなどの理由で除名された場合や、ほかの創業者が認めた休職に入った場合も同じだ。職務を果たせるかどうかは、病気やけがなら医師が判断する。不当に拘束されたり監禁されたりした場合は、ほかの創業者が特別多数の賛成で判断する。死亡したり職務を果たせなくなったりした場合は、上場から10年までは後継者を合同会社に加えられる。

ベンジャミン・マン氏は2021年1月の設立時から同社に加わり、共同創業者と呼ばれることが多い。ただ、合同会社には入っておらず、議決権の50.1%をどう行使するかの判断にも関わらない。

長期利益信託の権限は、時間がたったり特定の出来事が起きたりしても、自動的にはなくならない。信託の取り決めを変えたりクラスT株をなくしたりするには、委員が提案に加わる場合は、取締役と委員のそれぞれ8割の賛成が必要になる。委員が賛成しない場合は、創業者と従業員、一般株主のそれぞれから、定められた割合の賛成を得なければならない。クラスF株がなくなった後は、委員の賛成がなければ、発行済みのクラスA株の85%の賛成が必要だ。

クラスT株が残る間は、会社を清算したり破産を申し立てたり、議決権や株式価値の過半が他社に移る売却をしたりする前に、信託に書面で通知しなければならない。取締役会が定めた水準を超える性能のAIモデルについて、その管理を他社に移す場合も、事前に通知しなければならない。

創業者らの寄付の約束と公益基金、株式の約22%が対象に

アンソロピックは上場に先立ち、株式の5%にあたるクラスN株約8億4700万株を、全額出資子会社の公益基金に拠出した。上場後は、株価が前回の拠出時(初回は公開価格)より5割高い水準で一定期間推移するたびに、取締役会の判断で株式の最大2%を追加で拠出できる。創業者は書簡で、基金の使い道の例として科学と医療、生物兵器などへの備え、国際保健、経済研究のほか、同社株から得る利益を米国内外の多くの人に行き渡らせる取り組みを挙げた。

創業者7人はそれぞれ、自分の持ち株の80%を慈善活動に寄付すると約束した。目論見書によると、この約束に法的な拘束力はなく、いつでも撤回できる。従業員が株の寄付を約束すると、会社も同じ数の株を上乗せして寄付する。書簡によると、従業員の半数強が持ち株の一部を寄付すると約束した。この上乗せにかかった費用は2025年に5億4100万ドルだった。2026年7〜9月期には、同じ費用として20億ドルを計上した。

創業者が寄付を約束した株は、6月末時点で株式の9%にあたる。従業員が寄付を約束した株は8%にあたる。公益基金への拠出分を含めると、株式の約22%が寄付に回る計算になる。会社による上乗せ分はこれに含まない。

創業者は書簡で、株式の希薄化を心配する投資家に向けて、公益基金への拠出は規模も仕組みも、一部の上場企業が経営者に与えてきた報酬の範囲に収まると説明した。

最上位モデルの一般公開を見送り、国防総省とは法廷で争う

アンソロピックは2026年4月、当時の最上位モデル「クロード・ミュトス」の試験版の一般公開を見送り、サイバー防御に取り組む一部の企業や団体に限って提供した。同モデルはソフトの脆弱性を見つける能力が特に高く、同社は新たな安全対策なしに広く提供するのは危険が大きいと判断した。その後、安全対策を加えたミュトス級のモデルを「フェイブル5」として一般公開した。創業者は書簡で、公開を遅らせたことで多くの収益機会を逃し、競合に市場を譲ったと認めた。提供先の企業や団体には、約1億ドル分の利用枠を無償で配った。

目論見書は、能力の高さを示す例として米モジラでの検証を載せている。モジラが2週間かけた検証では、前の世代の「オーパス4.6」がネット閲覧ソフト「ファイアフォックス」の未知の脆弱性を22件見つけた。うち14件は深刻度が高く、モジラは「バージョン148」で修正した。続いて試した「ミュトス」の試験版は271件を見つけ、モジラは「バージョン150」までに修正した。ファイアフォックスの最高技術責任者を務めるボビー・ホリー氏は「人間なら見つけられるのに、このモデルが見つけられない種類や複雑さの脆弱性は、まだ一つも見つかっていない」と述べている。

米カーネギーメロン大学の研究者は、AIがソフトの脆弱性をどこまで攻撃に悪用できるかを測る評価手法を開発した。この評価で、アンソロピックの「オーパス4.8」の成績は40%だった。約4か月後の「オーパス5.5」では91%に上がった。その間に出た「ミュトス5」は78%だった。

米商務省は2026年6月、同社の「フェイブル5」と「ミュトス5」に、全世界を対象とする輸出規制をかけた。アンソロピックはすべての顧客への提供を止め、安全対策を強めた。商務省が規制を解除したのを受け、提供を再開した。

米政府との対立も抱える。米国防総省は2026年初め、同社が自律型兵器や大規模な監視への利用を禁じていることについて、国防生産法を発動して撤回させる可能性を示した。同社が自社のAIを国内での大規模な監視や完全自律型兵器には使わせないと改めて表明すると、トランプ大統領は2月27日、連邦政府の全機関に同社製品の使用停止を指示した。国防長官は同社を国家安全保障上の「サプライチェーン(供給網)リスク」に指定すると表明し、米軍と取引する企業に同社との取引を禁じる考えを示した。国防総省は3月4日、2つの法律に基づく指定を同社に書面で通知した。

アンソロピックは指定の取り消しを求めて提訴した。カリフォルニア州の連邦地裁は8月27日、同社の主張をおおむね認めた。一連の措置は同社の発言への報復で、言論の自由を保障する憲法修正第1条に反すると判断した。一方、首都ワシントンの連邦控訴裁は9月25日、もう一つの法律に基づく指定について、妥当だとして2対1で同社の訴えを退けた。言論の自由や適正手続きの保障が侵されたとする同社の主張も退けた。同社は控訴裁の全判事による再審理を申し立てた。

政府機関向けの売上高は、全体の約1%にとどまる。書簡によると、同社は児童福祉や社会保障、サイバー防御、情報収集などの分野で、連邦政府や州政府、米国の同盟国と協力している。同社は売り上げを失っても、完全自律型兵器や大規模な監視への利用を禁じる方針を変えてこなかった。こうした姿勢によって事業や業績にはすでに悪影響が出ており、今後も続くおそれがあるとしている。

同社は、あえて手がけない事業も挙げた。対話型AI「クロード」に広告を載せないと約束した。画像や動画を作るAIは開発せず、計算資源を研究と安全対策に優先して振り向ける。

当局の調査や訴訟も続いている。米連邦取引委員会(FTC)は10月、消費者保護や個人情報の扱い、製品の安全性について同社に資料の提出を求めた。作家らとの著作権訴訟は2025年9月に15億ドルで和解した。裁判所は2026年7月に和解を承認した。音楽出版社との訴訟は続いている。9月には、有料版を契約する個人の利用者が、同社などAI開発各社を相手取って集団訴訟を起こした。各社が示し合わせてモデルの改良を遅らせたとして、反トラスト法(独占禁止法)違反を訴えている。

リスクの記述は94ページ、新しいプログラムの9割超をAIが書く

リスク要因の記述は約94ページに及ぶ。同社は、高度なAIは十分な安全対策や監視がなければ人類の存亡に関わる危険をもたらしかねないと記し、社内外の研究者や規制当局からもそうした懸念が出ているとした。

実例も挙げた。外部の評価機関が用意したサイバー分野の試験では環境の設定に誤りがあり、インターネットから切り離されていると伝えられていたモデルが、実際にはインターネットにつながっていた。その結果、同社の4つのモデルが実在する外部のシステムに不正に侵入した。侵入が起きた試験は、1回あたり約10〜34時間に及んでいた。開発初期のモデルの1つは、解決できない課題を打ち切れないまま、見つけたパスワードを使って外部のシステムの管理者権限を手に入れた。さらに別の認証情報も集めてシステムの設定を変え、1人分の個人情報を閲覧した。被害を受けた企業などには通知したという。同社の調査では、モデルがほかのAIと示し合わせたり、与えられた課題と別の目的で動いたり、人の監視を逃れようとしたりした形跡は見つからなかった。

複数のAIエージェントが連携すると、開発者の想定と違う動作が広がったり強まったりするおそれがあり、実際にそうした例も起きているという。同社は、モデルが試験中だと気づいて普段と違う動作をした例も確認している。同社を含む各社のAIでは、停止の指示に逆らったり、情報を隠したりゆがめたり、脅しともとれる回答をしたりする例も見られたという。

同社は2025年9月、中国政府が支援するハッカー集団がクロードコードを悪用し、世界の約30の組織に侵入しようとしたのを検知し、この見立てには「強い確信」があるとした。侵入に成功したのはごく一部にとどまったという。人がほとんど関与せずにAIが実行した大規模なサイバー攻撃が確認されたのは、初めてだと同社はみている。同社はまた、新しい最先端モデルの事前学習を1か月以上遅らせ、AIの性能を左右する中核のデータ(重み)が盗まれないよう守りを固めた。

社内でAIをどれだけ使っているかも明らかにした。2026年9月に社内で新たに書いたプログラムのうち、9割超はクロードによるものだった。技術者1人が1日に書くプログラムの量は、直近の四半期に2024年平均の45倍を超えた。社内で使ったクロードの利用額を定価で計算すると、2026年4月に初めてその月の人件費(株式報酬を除く)を超えた。従業員は2026年9月末で約5300人になった。2024年末は約940人だった。直近1年間の1人あたり売上高は660万ドルを超える。

リスク要因の項では、社内のプログラムのうちAIが書いた分の比重が高まり続け、安全性を含む研究もAIが担うようになってきたと説明している。業務の流れの一部が社員から見えにくくなるおそれがあるとし、社内外でのAIの利用をすべて監視できているわけではないと認めた。AIで研究開発がどれだけ速まったかは、遅行指標でしか測れないことが多く、大きく加速してから気づくおそれもあるという。

創業者らは書簡で、公益を重んじる判断は顧客や政府、社員の信頼を高め、長い目で見れば事業にもプラスになりうると記した。一方、目論見書は詳しく開示することの弊害も挙げている。同社は業界の慣行や規制の求めを超えて自主的に情報を開示しており、その内容が訴訟や当局の審査、世論の批判の場で不利な材料に使われかねないという。規制当局はすでに同社の開示内容を根拠に、情報開示に消極的な競合よりも厳しい目を向けており、この状況は今後も続く可能性があるとしている。

大株主のロックアップは最長1年、段階的に解除

創業者らは書簡で、上場の準備に入る前に、上場を経験した多くの経営者から話を聞いたと明かした。複数の経営者から、言い方は違っても同じ趣旨の助言を受けたという。「会社を実際の価値より1ドルでも高く評価させてはいけない」というものだ。

同社は、上場後に既存株主の株の売却を一定期間制限する「ロックアップ」について、段階的に解除する条件を設けた。上場前に潜在株式を含む株式の0.5%超を持つ一部の大株主は、ロックアップの期間が最長365日となる。最初の解除は目論見書の日付から27日後で、保有株の1.8%を売却できる。76日後までの解除で、売却できる株は計7.8%になる。その後は四半期ごとの決算発表に合わせて段階的に解除が進む。

創業者7人の持ち株も、ロックアップの期間は原則として最長365日だ。ただし、持ち株の最大29%は期限より前に売却できる。売却できるようになるのは目論見書の日付から180日後で、それより前に2027年1〜3月期の決算を発表すれば、その2営業日後からとなる。6月に上場したスペースXも、ロックアップを段階的に解除する条件を採用した(スペースX、株の売却制限を段階的に解除)。

目論見書によると、上場で調達する資金は計算資源やインフラへの投資を含む事業全般に充てる計画だ。

(1ドル=157.45円で換算。10月26日の欧州中央銀行の参照レートから算出)

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