米スペースXの7〜9月期の売上高のうち3割強、約50億ドルが1社向けだったことが、同社の四半期報告書で分かった。この1社は人工知能 (AI) 部門の顧客で、5月に同社とデータセンターの利用契約を結んだ米アンソロピックとみられる。

スペースXは10月22日に米証券取引委員会 (SEC) に提出した四半期報告書で、売上高の1割以上を占める大口顧客ごとの比率を開示した。顧客名は明かしていない。最大顧客向けの比率は、前年同期には1割に満たなかった。アンソロピックとの契約は、90日前に通知すれば解約できる。スペースXは売上高の3分の1を、この1社に頼る形になった。国内では、NTTが大阪府でアンソロピック向けのデータセンターの建設を検討していると報じられている。

最大顧客向けは約50億ドル、アンソロピックが払う利用料の3か月分を超す

7〜9月期の売上高は145億7500万ドルだった。前年同期の55億7600万ドルの約2.6倍に増えた。報告書が「顧客B」と記す最大顧客は売上高の34.5%を占め、金額にすると約50億3000万ドルになる。この顧客向けの比率は4〜6月期に19.5%となり、初めて1割を超えた。

スペースXは最大顧客向けの売上高を、すべてAI部門に計上している。AI部門は7〜9月期から「スーパーインテリジェンス」部門に名称を変えた。同部門の売上高は75億6000万ドルだった。このうち交流サイト「X」の広告収入が5億3800万ドルで、広告を除く売上高は70億2200万ドルだった。広告を除く売上高には、AI用データセンターの他社への提供やAIの有料サービスが含まれる。最大顧客向けの約50億ドルは、その約7割にあたる。

最大顧客をアンソロピックとみる根拠は、スペースXが6月の上場時に提出した目論見書にある。スペースXは5月3日、アンソロピックとデータセンターの利用契約を結んだ。アンソロピックは、データセンター「コロッサス」と「コロッサス2」にある米エヌビディア製の画像処理半導体 (GPU) 約32万5000個分の計算資源を利用できる。利用料は2029年5月まで毎月12億5000万ドルだ。スペースXは、提供する計算資源を段階的に増やした5月と6月の利用料を割り引いた。最大顧客向けの比率が1割を超えた4〜6月期は、この契約が始まった時期と重なる。

スペースXは6月5日、米グーグルとも同様の契約を結んだ。グーグルはGPU約11万個やCPU、メモリーなどを利用でき、契約上、スペースXは10月以降に毎月9億2000万ドルを受け取る。契約は29年6月まで続く。計算資源を段階的に増やす9月までは、利用料を割り引く取り決めだった。割引がなくても、グーグルが払う利用料は3か月で27億6000万ドルにとどまり、最大顧客向けの売上高に届かない。最大顧客はグーグルではないとみられる。

アンソロピックが払う利用料は、3か月で37億5000万ドルになる。最大顧客向けの売上高は、これを約12億8000万ドル上回る。この差について、スペースXは説明していない。報告書は、AI部門が前年同期から増収となった理由として、利用契約に基づく提供が7〜9月期は3か月を通じて続いたことや、同期に結んだ追加の契約などを挙げている。アンソロピックが契約を拡大した可能性もある。

(単位: 億ドル)1〜3月期4〜6月期7〜9月期7〜9月期の構成比
宇宙部門6.29.617.712.1%
通信部門 (スターリンク)32.642.952.536.0%
AI部門8.225.675.651.9%
 うち広告3.43.75.43.7%
 うち広告以外4.821.970.248.2%
売上高合計46.978.1145.8100.0%
最大顧客 (顧客B)1割未満15.250.334.5%
2番目の大口顧客 (顧客A)8.114.324.216.6%
カーソル (8月の買収後の計上分)――6.14.2%
カーソル (買収前の分を含む試算)――11.5―

部門別の売上高は四半期報告書から引いた。1〜3月期は、1〜6月期の累計から4〜6月期分を差し引いて求めた。顧客別の金額は、会社が開示した比率を売上高に掛けた試算だ。買収前の分を含むカーソルの試算額を実際の売上高で割ると7.9%になるが、分子と分母の基準がそろわないため、表には構成比を載せていない。

スペースXの四半期ごとの売上高と、そのうち大口顧客2社向けの金額。売上高は1〜3月期の46億9400万ドルから、7〜9月期には145億7500万ドルに増えた。4〜6月期は78億1400万ドルだった。最大顧客向けは4〜6月期の約15億2000万ドルから、7〜9月期に約50億3000万ドルに増えた。2番目の大口顧客向けは、1〜3月期の約8億1000万ドルから7〜9月期には約24億2000万ドルに増えた。4〜6月期は約14億3000万ドルだった。
スペースXの四半期ごとの売上高と、そのうち大口顧客2社向けの金額。売上高は1〜3月期の46億9400万ドルから、7〜9月期には145億7500万ドルに増えた。4〜6月期は78億1400万ドルだった。最大顧客向けは4〜6月期の約15億2000万ドルから、7〜9月期に約50億3000万ドルに増えた。2番目の大口顧客向けは、1〜3月期の約8億1000万ドルから7〜9月期には約24億2000万ドルに増えた。4〜6月期は約14億3000万ドルだった。

契約は90日前の通知で解約可能、スペースXは特定顧客への依存をリスク要因に

目論見書によると、アンソロピックとの契約は、開始から3か月が過ぎれば、両社のいずれからも90日前に通知して解約できる。グーグルとの契約も、26年末以降は同じ条件で解約できる。スペースXは4〜6月期の四半期報告書で、AI用データセンターを他社に提供する事業の売上高が少数の顧客に集中していることを、リスク要因として挙げた。大口顧客を失えば、業績が大きく悪化するおそれがあるとしている。

イーロン・マスク最高経営責任者 (CEO) は10月20日の決算説明会で、AI用データセンターの計算能力を自社のAI開発と他社への提供にほぼ半分ずつ振り向ける考えを示した。他社向けは、料金を長く固定する契約より、市場価格に近い料金で提供することを重視するという。短期契約は料金を引き上げて更新しているとも述べた。契約期間が短いほど値上げはしやすい半面、顧客が更新せずに離れるおそれも高まる。

アンソロピックの側から見ても、スペースXとの契約は解約しやすい。ロイター通信は9月29日、アンソロピックが非公開で提出した上場申請書類をもとに、同社が契約した計算資源などの調達額の約8割は、途中で解約できないか、利用量にかかわらず支払う必要がある契約だと報じた。アンソロピックはグーグルから少なくとも1111億ドル、米アマゾン・ドット・コムから1100億ドルの計算資源などを調達する契約を結んでいるという。一方、26年2月にスペースXが買収したxAIとの契約は29年までに最大845億ドルで、その大半は90日前に通知すれば解約できるという。

スペースXが開示したアンソロピックとの契約の利用料を、29年5月まで単純に積み上げると約460億ドルになる。ロイターが報じた最大845億ドルの半分ほどにとどまり、残りは開示されていない別の契約などによるものとみられる。

NTTの大阪データセンター、投資回収は契約条件次第

日本経済新聞は10月13日、NTTが大阪府でアンソロピック向けのデータセンターを建設する方向で最終調整に入ったと報じた。建設費は最大1兆円規模になるという。共同通信も14日、NTTが大阪府内に建設費1兆円程度の施設を設ける方向で検討しており、NTTデータグループが建設を担うと伝えた。報道によると、施設の受電容量は最大50万キロワットで、早ければ28年に一部を稼働させる計画だ。NTTとアンソロピックは26年度内の契約締結を目指しているという。10月24日時点で、両社は正式に発表していない。アンソロピックは日本で事業を広げており、25年10月に東京にオフィスを開設し、26年4月にはNECとの提携を発表した。

スペースXと、アンソロピックとみられる最大顧客との取引は1四半期で約50億ドルに達したが、アンソロピックとの契約は短い予告で解約できる。大阪の施設で、中途解約できない長期契約を結ぶのか、解約しやすい契約にするのかは報じられていない。計画の詳細はNTTの大阪データセンター計画の記事で伝えた。NTTの決算や適時開示の資料は同社の銘柄ページにまとめている。

2番目の大口顧客は米政府機関か、取引額は約24億ドル

報告書が「顧客A」と記す2番目の大口顧客は、売上高の16.6%を占めた。金額は約24億2000万ドルだった。前年同期の約13億3000万ドルから82%増えた。比率が前年同期の23.9%から下がったのは、AI部門の売上高が急増したためだ。

この顧客との取引は、宇宙、通信、AIの3部門にわたる。目論見書によると、25年の売上高の約5分の1は米航空宇宙局 (NASA) や国防総省など連邦政府機関向けだった。2番目の大口顧客が25年の売上高に占めた比率は20.9%で、政府機関向けの割合とほぼ一致することから、米政府機関とみられる。ブレット・ジョンセン最高財務責任者 (CFO) は説明会で、通信部門の法人・政府向け売上高が前年同期比91%増えたと述べた。増加の要因には、政府向け衛星網「スターシールド」の拡大を挙げた。

法人・政府向けの取引の大きさは、前受金にも表れている。9月末の前受金は175億2000万ドルで、主に宇宙部門と通信部門の法人・政府向け契約によるものだ。会社全体の受注残高は629億5900万ドルだった。このうち約67%は、1年以内に売上高に計上する見込みだ。

カーソルの売上高は6億800万ドル、買収前を含めると約11億5000万ドル

スペースXは8月14日、AIを使ったプログラミング支援サービス「カーソル」を運営する米新興企業エニースフィアの買収を完了した。6月16日に買収で合意していた。買収完了から9月末までにスペースXが計上したカーソルの売上高は、6億800万ドルだった。ジョンセン氏は、広告を除くAI部門の売上高が、カーソルの買収による上積みを差し引いても前四半期比192%増えたと述べた。新たな利用契約が始まったことが主な要因だという。

四半期報告書は、買収が25年1月1日に完了していたと仮定した売上高の試算も開示した。7〜9月期の試算は151億1400万ドルだった。実際の売上高を5億3900万ドル上回る。この差は、買収完了前の7月1日〜8月13日のカーソルの売上高にほぼ相当する。スペースXが計上した分と合わせると、カーソルの同じ四半期の売上高は約11億5000万ドルになる。同じ方法で求めると、カーソルの1〜6月期の売上高は約17億ドルになる。試算は一定の前提に基づく値で、買収前のカーソルの売上高そのものではないため、いずれも概算だ。

AI用データセンターは定格電力で170万キロワット、アンソロピックの契約はGPU1個あたり1時間約5ドル

スペースXは、AI用データセンターの規模をGPUと関連機器の定格電力の合計で示している。この値は実際の消費電力とは異なる。9月末は170万キロワットだった。1年前の60万キロワットから約2.8倍に増えた。6月末からは30万キロワット増えた。ジョンセン氏は、10月中に約220万キロワットになるとの見通しを示した。年末には250万〜300万キロワットを見込む。

アンソロピックとの契約の利用料をGPU1個1時間あたりに換算すると、約5.3ドルになる。毎月の利用料を、GPUの個数と1か月の時間数 (730時間) で割って求めた。グーグルとの契約では、同じ計算で約11.5ドルになる。ただ、グーグルとの契約にはGPUのほかにCPUやメモリーなども含まれる。GPUの世代別の内訳や稼働率も開示されていないため、単純には比べられない。ジョンセン氏は、新たに導入した設備への投資を1年以内に回収できていると述べた。

スペースXのAI用データセンターの規模と、広告を除くAI部門の売上高。規模はGPUと関連機器の定格電力の合計で、9月末は170万キロワット。2025年9月末は60万キロワット、2026年6月末は140万キロワットだった。10月中に約220万キロワット、年末には250万〜300万キロワットになる見通しだ。広告を除くAI部門の売上高は、前年同期が3億5900万ドル、2026年4〜6月期が21億9400万ドル、7〜9月期が70億2200万ドルだった。
スペースXのAI用データセンターの規模と、広告を除くAI部門の売上高。規模はGPUと関連機器の定格電力の合計で、9月末は170万キロワット。2025年9月末は60万キロワット、2026年6月末は140万キロワットだった。10月中に約220万キロワット、年末には250万〜300万キロワットになる見通しだ。広告を除くAI部門の売上高は、前年同期が3億5900万ドル、2026年4〜6月期が21億9400万ドル、7〜9月期が70億2200万ドルだった。

AI部門の売上高は1社向けの取引がけん引し、7〜9月期に前四半期の3倍近くに膨らんだ。グーグルとの契約も、10月からは割引のない利用料に切り替わる。顧客別の売上高構成がどう変わるかは、次の決算で明らかになる。NTTにとっても、大阪の施設でどんな契約を結ぶかが、1兆円規模の投資の採算を左右する。

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