米アンソロピックの目論見書によると、AIの開発と運用に使う計算資源などの費用は2026年1〜6月期に89億4500万ドルで、売上高の55%だった。2024年は売上高の6.5倍あった。費用は膨らみ続けたが、売上高の伸びが上回った。

アンソロピックは10月26日、米証券取引委員会(SEC)に目論見書を提出した。同社は2025年、損益計算書の費用を売上原価や研究開発費に分けて示すのをやめ、計算資源の費用や人件費といった項目で示す形に改めた。上場の手続きや計算資源の契約は、アンソロピックの上場申請を扱った記事で詳しく報じた。

計算資源の費用、売上高の55%に急低下

2026年1〜6月期の売上高は162億8600万ドルと、前年同期の14倍に増えた。7〜9月期の売上高は、2024年10〜12月期の86倍に達した。計算資源の費用は、2025年通年では売上高の約1.6倍だった。

計算資源の費用の売上高比率。2023年は1056%、2024年は653%、2025年は160%、2026年1〜6月期は55%だった
計算資源の費用の売上高比率。2023年は1056%、2024年は653%、2025年は160%、2026年1〜6月期は55%だった

同社は計算資源の大半を複数年契約で確保しており、通常は使えるようになる12〜18か月前に契約する。代金は契約時ではなく、実際に使えるようになってから払い、その時点で費用に計上する。このため、費用は当面ほぼ固定費となる。計算資源の費用は今後も増え、当面は費用の中で最大の項目となる見通しだ。同社は計算資源を開発用と顧客向けに分けず、一体で運用している。売上高比率が下がるかどうかは、契約済みの計算資源に見合うだけ売上高を伸ばせるか次第だと、同社は説明している。

開発用と顧客向けに同じ計算資源、新モデルが売上高を左右

目論見書によると、同社ではモデルの開発と顧客へのサービスが互いを支え合っている。開発に計算資源を投じると、性能が高く効率のよいモデルができる。効率が上がれば、同じ計算資源でより多くの顧客の処理をこなせる。顧客へのサービスで得た知見は、研究開発に生かす。このため同社は計算資源への支出を、短期間で売上高を生むのに欠かせないものと位置づけている。

同社によると、顧客の利用は新モデルを投入する頻度と性能に左右される。7〜9月期の売上高の8割超は、4〜9月に公開したモデルによるものだった。

同社は2026年1月、ソフトウエア開発以外の幅広い業務に使える「クロードコワーク」の試験版を公開した。普及の速さは、公開から同じ期間で比べると、2025年2月に試験版を出したプログラミング支援の「クロードコード」を上回った。企業向けのクロードでは、7〜9月期にクロードコードを使わなかった利用者の支出が1人当たり月平均75ドルに満たなかった。クロードコードを使った利用者のうち支出額が上位5%の人は、その約20倍を払った。直近1年間の支払額が10万ドル以上の顧客は、9月末時点で1万1900社を超えた。1年前は950社余りだった。

同社は、1〜9月期の売上高の約5〜7%を、後に利用規約などへの違反が判明した顧客から得ていたと推計する。8〜9月には違反の検知と利用停止などの対策を強めた。こうした顧客からの売上高が減り、今後の売上高の伸びが鈍るおそれがあるという。

クロードの学習と推論には4種類の半導体を使う。米アマゾン・ドット・コムの独自半導体「トレーニアム」と米グーグルの「TPU」、米エヌビディアと米AMDの画像処理半導体(GPU)だ。同社は処理ごとに価格と性能の兼ね合いをみて半導体を使い分けており、他社が大規模にまねるのは難しいとみている。

長い指示文の一時保存で利用料は最大約97%減

1〜6月期の売上高のうち、従量課金による収入は131億ドルと全体の8割を占めた。従量課金には自社アプリの利用分も含む。定額制による売上高は32億ドルだった。従量課金の利用者は、繰り返し送る長い指示文や資料を一時保存(キャッシュ)しておくと、料金を抑えられる。目論見書によると、保存期間は最長1時間だ。長い指示文なら、保存しない場合に比べて料金を最大で約97%減らせ、応答までの時間も約60%短くなる。

同社の料金ページによると、保存期間は通常5分で、保存した部分を読み出すたびに延長される。最上位モデル「フェイブル5.1」の通常の入力料金は、AIが文章を処理する単位「トークン」100万当たり10ドルだ。保存した部分を読み出す場合は0.25ドルで済む。保存するときは料金が割り増しになり、保存期間が5分なら通常の1.25倍、1時間なら2倍かかる。

クロードの最上位モデルの入力料金(100万トークン当たり)。通常は10ドル、一時保存した部分の読み出しは0.25ドルで、保存するときは5分間なら12.5ドル、1時間なら20ドルかかる
クロードの最上位モデルの入力料金(100万トークン当たり)。通常は10ドル、一時保存した部分の読み出しは0.25ドルで、保存するときは5分間なら12.5ドル、1時間なら20ドルかかる

社員のクロード利用額、定価換算で月の人件費を超す

計算資源の費用には、社員が仕事で使うクロードの分も入っている。社員の利用額を定価で計算すると、2026年1月から9月までに250倍超に増えた。4月には、月間の利用額が株式報酬を除く同月の人件費を初めて上回った。社員数は9月末で約5300人と、2024年末の約940人から増えた。9月に社内で追加・修正したコードの9割超は、クロードが書いた。技術者1人が1日に書くコードの量は、7〜9月期には2024年平均の45倍を超えた。

同社が10月に公表した社内の雇用に関する報告によると、社員がクロードとやりとりしながら作業する時間の約8割は、クロードが社員の入力を待つ状態だった。技術部門の社員の割合はこの1年で61%から56%に下がり、営業や財務、採用の部門の人員が増えた。同社の技術ブログによると、社内のプログラムに1日に取り込んだ変更は、5月の約2500件から9月には3万件超に急増した。社内では、プログラムの変更履歴を管理する仕組み「サイオン」も新たに作った。同社は2025年12月、プログラムの実行環境「ブン」の開発元を約1億7100万ドルで買収した。2026年5月には、ソフトウエア開発キットの自動生成ツールを手がけるステンレス・ソフトウエアを3億600万ドルで買収した。

販売手数料や広告宣伝費、売上高の2割に上昇

1〜6月期の主な費用の売上高比率を前年同期と比べると、計算資源は201%から55%に下がった。人件費も46%から19%に下がった。一方、クラウド大手などに払う販売手数料や広告宣伝費は10%から19%に上がった。売上高営業利益率はマイナス4%で、前年同期のマイナス184%から改善した。

1〜6月期のアンソロピックの主な費用の売上高比率。前年同期と比べ、計算資源は201%から55%に、人件費は46%から19%に下がり、販売手数料や広告宣伝費は10%から19%に上がった
1〜6月期のアンソロピックの主な費用の売上高比率。前年同期と比べ、計算資源は201%から55%に、人件費は46%から19%に下がり、販売手数料や広告宣伝費は10%から19%に上がった

1〜6月期の販売手数料や広告宣伝費は31億6800万ドルだった。前年同期からの増加分のうち27億ドルは、販売手数料だった。売上高の48%は、クラウド大手が運営する販売サイト経由だった。こうした販売でも同社が自ら販売する立場にあるとして、手数料を差し引く前の総額を売上高に計上し、クラウド大手に払う手数料は費用に計上している。

目論見書の注記には、費用を売上原価や研究開発費に分けた従来の表もある。この表では、1〜6月期の売上原価は23億8000万ドルで、ほぼすべてが顧客向けのサービスに使う計算資源の費用だった。人件費なども一部含まれる。編集部の計算では、売上高から売上原価を差し引いた粗利益率は85.4%になる。通年では2024年がマイナス94.8%、2025年が39.5%だった。モデルの開発や研究、社内での利用に使う計算資源は研究開発費に、無料版の提供に使う分は販売費に入る。このため売上原価は、損益計算書に載る計算資源の費用より65億6500万ドル少ない。編集部の計算で計算資源の費用をすべて引くと、売上高の45.1%が残る。販売手数料や広告宣伝費も引くと25.6%になる。

最終赤字の9割は会計上の損失

1〜6月期の最終損益は807億4800万ドルの赤字だった。このうち723億8800万ドル(89.6%)は、転換社債などの時価の変動に伴う会計上の損失だった。主に企業価値が高まり、転換社債の時価が上がったためだ。本業のもうけを示す営業損益は1〜6月期で6億9300万ドルの赤字だったが、4〜6月期に限れば9億7400万ドルの黒字に転じた。営業キャッシュフローは39億2900万ドルの黒字だった。設備投資の4億8200万ドルを差し引いたフリーキャッシュフロー(純現金収支)は、編集部の計算で34億4700万ドルになる。

計算資源の増強期は営業利益率が下がる可能性

目論見書によると、大規模な計算資源が新たに稼働する時期は、売上高が伸びきる前に費用がかさむため、営業利益率が下がる可能性がある。同社はこれを今の成長段階では避けられないとしており、採算が改善していても営業利益率は期ごとに大きく振れることがあるという。需要や研究に必要な量が長期契約で確保した分を超えた場合は、割高な短期契約で計算資源を調達する。短期契約での調達は当面増え、営業利益率を押し下げる見通しだ。

長期の契約では、米ブロードコムとの間で、グーグルのTPUを使うAI設備を5年間リースする契約を結んだ。リース料の総額は利息を除き約1612億ドルで、契約は中途解約できない。米スペースXのAI子会社(旧xAI)とは複数の契約を結び、エヌビディアのGPUを使う計算資源の利用料として最大1205億ドルを支払う。解約できない期間は契約により2027年1月か3月までで、その後は両社とも90日前に書面で通知すれば解約できる。米マイクロソフト、グーグル、アマゾンのクラウド大手3社との契約では、実際の利用量にかかわらず最低支払い義務を負っている。

同社は目論見書のリスク要因の項で、AIが想定外の動きをした事例も挙げた。外部の評価機関と実施したサイバーセキュリティーの性能評価で設定ミスがあり、評価用の環境がインターネットにつながったままになっていた。同社の4つのAIモデルは1回10〜34時間ほどの作業中に、実在する外部のシステムへ不正に侵入した。このうち1件では、開発初期のモデルが侵入先のシステムの管理者権限を取得し、1人の個人情報を閲覧した。同社は影響を受けた相手に通知した。

日本などでも公募、みずほと三菱UFJ系が幹事証券団に

アンソロピックは米国のほか、日本、英国、カナダ、オーストラリア、スイス、欧州経済領域の一部の国でも株式を公募する。幹事証券団には、みずほフィナンシャルグループと三菱UFJフィナンシャル・グループ傘下の米証券会社が加わった。両グループの関連会社は、アンソロピックが9月に150億ドルへ拡大した与信枠でも幹事を務めている。与信枠の期限は2031年9月だ。

投資家向けの個別銘柄の分析リポートや技術調査のご相談は、編集部のお問い合わせ窓口までお寄せください。