光電融合で光集積回路と光ファイバーを直につなぐと、届く光は3分の1ほどに減る。AGCの説明するレンズ部品は光を太らせて差を埋めるが、ガウスビームの式で解けば、位置の精度の要求を角度の精度へ付け替える部品でもある。

AGC (5201) は自社の製品サイトで、光電融合 (CPO、光の送受信部をスイッチ用半導体と同じパッケージに載せる技術) におけるマイクロレンズアレイとファイバーアレイの役割を解説した。同社の図では、パッケージの中央にスイッチ用半導体があり、その周囲を光のチップ (シリコンフォトニクスの光集積回路) が囲み、外周のコネクターから光ファイバーの束が出ていく。拡大図には、マイクロレンズアレイが広がる光を平行光に変える様子が描かれている。AGCによれば、データセンターのスイッチやプロセッサ周辺の通信量はAIの拡大で急増し、電気配線は伝送距離と消費電力の両面で限界にある。光電融合の性能は電気を光に変えるだけでは決まらず、光のチップとファイバーアレイの間で失われる光が、回線全体で許される損失の配分と消費電力を左右する。光電融合の全体像はCPO・NPO・LPOの解説業界地図の記事で扱った。本稿はAGCの解説を、光結合の学術レビュー (Marchetti ほか、Photonics Research、2019年) とコーニングの光ファイバーの仕様書の数字で検算し、日本の部品5社の有価証券報告書を読む。

光の出口は2種類あり、効率の高い端面結合ほど位置合わせが厳しい

AGCは光のチップとファイバーアレイの接続方式を2つに分ける。回折格子 (グレーティング) を使う表面結合はチップの表面から垂直に光を出し、実装の自由度は高いが、結合効率と帯域に制約がある。端面結合はチップの縁から水平に光を出し、高効率で帯域も広いが、高精度な位置合わせが要る。Marchettiらのレビューも同じ整理で、端面結合の結合効率は一般に80%超、表面結合は効率が低く帯域が狭い代わりに、ウエハーのまま検査でき量産工程と相性がよいとする。表面結合の例では、入射する光の太さが10.4マイクロメートルで効率約64%・帯域約40ナノメートル、4マイクロメートルに絞ると効率約57%・帯域約85ナノメートルだった。

AGCは、光のチップとファイバーを直接つなぐときの最大の課題を「モードの大きさの不一致」に置く。モードとは光が通り道の中で広がる分布で、その直径をモードフィールド径と呼ぶ。レビューによると現在のシリコンの端面結合器のモードは約3×3マイクロメートルで、標準的なシングルモードファイバーのモードフィールド径は波長1.31マイクロメートルで9.2、1.55マイクロメートルで10.4マイクロメートルある。光の太さが3倍違う2本を突き合わせると、光の分布の重なりが小さくなる。ガウスビームの結合効率の式で記者が試算すると、3マイクロメートルの光を9.2マイクロメートルのファイバーへそのまま入れた場合に入る光は34.7% (損失4.6デシベル)、波長1550ナノメートルの10.4マイクロメートルなら28.4% (損失5.5デシベル) にとどまる。損失1デシベルで入る光は79.4%、3デシベルで50.1%である。

光のチップからファイバーまで: 直接つなぐと入る光は34.7%、レンズで光の太さをそろえる
光のチップからファイバーまで: 直接つなぐと入る光は34.7%、レンズで光の太さをそろえる

失われた光は、光源の出力で補うことになる。エヌビディアは2025年3月18日、1ポート1.6テラビット毎秒の光電融合スイッチを発表し、従来方式に比べてレーザーの数は4分の1、電力効率は3.5倍になるとした。協業先にはTSMCコヒレントコーニング、フォックスコン、ルメンタム、SENKOが並ぶ。レーザーの数を減らす設計では、1か所の結合で失う光が、残ったレーザーの負担としてそのまま効いてくる (記者の見立て)。AGCの図は、光のチップが出した光をプリズムとレンズ列を一体にした部品で横へ折り返し、V溝に並んだファイバーアレイへ入れる構成を示している。

レンズで光を太らせると、横ずれに強くなる代わりに傾きに弱くなる

マイクロレンズは、チップから出て広がる光を収束させるか平行光にし、ファイバー側に合う太さと波面を作る。AGCは、これでモードの重なりが高まり損失が減るうえ、開口数 (光が広がる角度の目安) をファイバーに合わせられると説明する。さらに、レンズでビームの形を整えると位置ずれに対する許容度が広がり、厳しい位置合わせに頼りすぎない設計になって歩留まりも改善するという。

では許容はどれほど広がるのか。ガウスビームの式で、損失を1デシベル以内に抑えられる横ずれと傾きを、光の太さ別に記者が計算した。

表1 光の太さと、損失1デシベル以内に収まるずれ (波長1310ナノメートル、記者の試算)

光の太さ横ずれの許容 (µm)傾きの許容 (度)
3µm (端面結合器)0.727.64
9.2µm (ファイバー)2.212.49
30µm (レンズで拡大)7.200.76
92µm (10倍の平行光)22.070.25

出所: 横ずれ η=exp(−d²/w²)、傾き η=exp(−(πwθ/λ)²) による記者の試算。3µmと9.2µmはMarchettiほか (2019)

表1のとおり、端面結合器のモードのままでは横ずれの許容が0.72マイクロメートルしかなく、レビューの言う「サブマイクロメートル」の世界になる。光を10倍の92マイクロメートルに広げると許容は22.07マイクロメートルまで緩む。レビューも、レンズアレイで平行光にしてビームのくびれを10倍にすれば相対位置の許容は同じ倍率で緩み、±30マイクロメートルに達するので、標準的な製造技術や樹脂の成形品でも組めるとしている。

ただし傾きの許容は逆に動く。光の太さ3マイクロメートルで7.64度あった許容は、92マイクロメートルでは0.25度になる。横ずれの許容と傾きの許容の積は、光の太さによらず一定である。AGCも、開口数を高くすると光の取り込みは増えるが位置ずれへの感度が上がり、結合効率を最大にする設計ほど公差が厳しくなると書く。レンズは精度の要求を消すのではなく、精度をどこで確保するかを変える。

光を太くすると横ずれに強くなり、傾きに弱くなる
光を太くすると横ずれに強くなり、傾きに弱くなる

40本を一度につなぐと、0.1度の回転で端が8.64マイクロメートルずれる

ファイバーアレイは、複数の光ファイバーを一定の間隔で並べて固定する部品である。AGCによると一般にV溝を彫った基板を使い、マイクロメートル単位の位置決め精度を出す。ファイバーの並びは127マイクロメートル間隔などの標準規格に基づくことが多い。レビューは、ガラスかシリコンの台にV溝を彫り、間隔はファイバーの外径 (クラッド径) で決まる127か250マイクロメートルになると説明する。コーニングの仕様書ではクラッド径が125.0±0.7マイクロメートル、開口数は0.14、光が通るコアの径は8.2マイクロメートルである。光電融合はチャネル数が多いことが前提なので、AGCは一括でつなぐファイバーアレイが実装効率と性能を大きく左右するとみる。

多数のチャネルを一度に合わせると、1本では小さい誤差が端に積み上がる。レビューは、1本目を完全に合わせたときのチャネル間の変位を d=(本数−1)×間隔×tanθ で見積もる (θはチップと部品の面内の角度)。127マイクロメートル間隔で40本並べると両端は4.95ミリ離れ、記者の計算では回転0.01度で40本目のずれは0.86、0.05度で4.32、0.1度で8.64マイクロメートルになる。端面結合器のモードのまま直接つなぐなら、0.01度の回転だけで表1の横ずれの許容0.72マイクロメートルを超える。

40本を一度に合わせると、わずかな回転と間隔の差が端に積み上がる
40本を一度に合わせると、わずかな回転と間隔の差が端に積み上がる

間隔も同じ理屈で効く。AGCは、ファイバーアレイの間隔、レンズアレイの間隔、光のチップの出射位置の間隔の3つが高精度に一致していることを前提とし、どれかがずれると多チャネルでずれが累積すると書く。同社はレンズ間の間隔の誤差を±0.3マイクロメートル以下に抑えるとする。仮に0.3マイクロメートルの差が1本ごとに同じ向きへ積み上がると、40本目では11.7マイクロメートルになる。同社が多列配置の例に挙げるのは40チャネル×2列と42チャネル×2列で、列が増えても全列で間隔の精度を保つことが製品の条件になる。

位置合わせのずれには3つの向きがある。AGCによれば、横 (XY) のずれはビームの中心の不一致を、光軸方向 (Z) のずれは焦点位置のずれによるビーム径の変化を、角度 (θ) のずれは入射条件の変化を招き、角度は端面結合で特に大きな損失要因になる。3つが重なると損失はさらに増える。

設計はチップの光を測るところから始まり、4つの要素を同時に合わせる

AGCは設計の流れを3段に分ける。まずモード解析で、光のチップから出る光のモードフィールド径、広がる角度、波面を実測や高精度の計算で把握する。次にレンズ解析で、得られた光の特性から曲率半径、焦点距離、配置を決め、ファイバーのモードフィールド径と開口数に合わせる。最後にファイバーアレイとの統合で、レンズとファイバーの位置関係と間隔を含めて全体を最適にする。個々の部品ではなく、系全体の整合を重視する工程である。

表2 結合効率を左右する4つの要素 (AGCの整理と、関連する数字)

要素ずれたときに起きること関連する数字
間隔の精度各チャネルが横にずれ、多チャネルで累積するレンズ間の誤差±0.3µm以下 (AGC)
レンズの曲率半径焦点が合わず、絞りすぎても足りなくても損失合わせる先はファイバーの9.2µm (波長1310nm)
開口数の整合小さすぎると一部しか入らず、大きすぎると広がるファイバーの開口数0.14 (コーニング)
位置合わせ横・光軸・角度のずれが重なって損失が増える1デシベルの横ずれ許容0.72〜22.07µm (試算)

出所: AGC 技術解説と製品ページ、コーニング SMF-28 仕様書 (PI1036)、表1の試算

AGCはシングルモードファイバーでは開口数の許容範囲が狭く、開口数の設計が結合効率を左右する支配的な要素になるとみる。レンズの曲率が合わないと光はファイバーの端面で最適な太さにならず、絞りすぎれば細くなりすぎ、足りなければ広がって取りこぼしが増える。

同社の製品ページによると、マイクロレンズアレイはガラス製で、レンズ形状はサブミクロンの精度で加工し、数十マイクロメートルの間隔の微細な配列も作れる。片面と両面のレンズを選べ、反射防止膜は850ナノメートル・1310ナノメートル・1550ナノメートルなどの動作波長に合わせて仕様を変えられる。円錐定数を調整できる非球面レンズや四角いレンズにも対応する。プリズム一体型は、光のチップ側のシリコンレンズへ斜めに光を当てられ、別体のプリズムが要らなくなるので、端面結合と表面結合のどちらでも光学部品の組み立てが簡単になるという。用途は光電融合のほか、スイッチや光送受信器などの光通信機器、高輝度LED・有機EL・マイクロLEDである。試作から量産まで一貫して対応するとしている。

接着剤は固まるときに最大1.5%縮み、組み立てた後にもずれる

AGCは、設計で最適化した光学特性も実装の工程で大きく変わりうると注意を促す。接着や封止では材料の収縮や応力で位置がずれ、温度変化による熱膨張の差は長期の信頼性に関わる。レビューによると、紫外線で固める光学用の接着剤は硬化時に0.4〜1.5%縮み、機械的な固定用の接着剤は約0.08%にとどまる。現在の先端の実装では、ファイバーアレイを透明なガラスの台に載せ、収縮の小さい接着剤で光のチップの台と固定し、縮む力が結合器の方向へ働くようにしている。衝撃や振動、熱膨張だけでも位置合わせに大きな影響が出るという。

熱膨張の影響も大きさを見積もっておく。幅4.95ミリの部品で、光のチップとの熱膨張率の差が1度あたり100万分の1、温度差が50度なら、端のずれは記者の計算で0.25マイクロメートルになる。表1の横ずれの許容と比べると、光を太らせない直結ではこの差だけで許容の3分の1に達する。AGCはCES 2026で、熱膨張率を調整できる微細孔付きのガラス基板 (穴径50マイクロメートル以上、パネル510×515ミリ) と、高分子とガラスの光導波路を展示した。材料の熱膨張を合わせ込めることは、ガラスメーカーが光結合の部品で持つ強みの1つといえる (記者の見立て)。

日本の部品各社の有価証券報告書に、光電融合の接続部品が現れた

光のチップとファイバーの間の精度を担う部品は、日本の電線・ガラス・光部品の各社が手がける領域と重なる。EDINETで各社の最新の有価証券報告書を全文検索し、光電融合の接続にかかわる記述を拾った。

表3 日本の部品5社の有価証券報告書に書かれた光電融合の接続部品 (最新の決算期)

企業 (コード)有価証券報告書の記述関連する数字
AGC (5201)電子部材はオプトエレクトロニクスが高機能化への移行期で減収。マイクロレンズアレイの記載はない電子部材の売上高1,685億円 (−8.2%)
古河電気工業 (5801)光のチップとファイバーをつなぐ小型光コネクターを開発し、40チャネルと表面結合型で低損失を確認研究開発費284億円 (+11.7%)
フジクラ (5803)光電融合向けに偏波面保持ファイバーの採用が進み、2025年度に出荷が増えた
住友電気工業 (5802)データセンター向けの光配線製品・光ケーブル・光デバイスの需要が増加情報通信の売上高3,266億円 (+46.3%)
精工技研 (6834)光電融合の実用化に向けた技術開発に注力し、MTファイバーアレイの生産能力を増強光製品関連の研究開発費5.7億円

出所: 各社の有価証券報告書 (EDINET)。AGCは2025年12月期、他の4社は2026年3月期

AGCの2025年12月期の電子部材の売上高は、前期の1,835億円から1,685億円へ8.2%減り、連結売上高2兆588億円の8.2%を占める。有報は減収の理由に、オプトエレクトロニクスが「更なる高機能化に向けた移行期」だったことと、EUV露光用フォトマスクブランクスの出荷減を挙げた。同社は電子部材の売上目標の未達などを理由に2026年の財務目標を修正し、2026年度のROE5%以上を掲げている。電子セグメントの設備投資は529億円 (日本の電子部材関連の製造設備の増強など) で、2026年度の計画は470億円、研究開発費は133億円だった。マイクロレンズアレイは製品サイトの解説にとどまり、有報の事業の説明には出てこない。

古河電気工業は2026年3月期の研究開発で、光のチップと光ファイバーを高密度かつ高い信頼性でつなぐ光電融合向けの小型光コネクター (Snap-Beam Connector) を開発し、40チャネルのコネクターと表面結合型のコネクターで低損失を確認した。成果はECOC2025で発表し、OFC2026に出展して、事業化に向けた顧客評価を進めている。40チャネルは、AGCがレンズアレイの多列配置の例に挙げる本数と一致する。研究開発費は前期比11.7%増の284億円だった。

フジクラは、光電融合向けに偏波面保持ファイバー (光の振動の向きを保つファイバー) の採用が進み、2025年度に出荷が増えたと書く。住友電気工業の情報通信関連事業は、データセンター向けの光配線製品・光ケーブル・光デバイスの需要増で売上高が46.3%増の3,266億円、営業利益は774億円、利益率は23.7%に上がった。精工技研は光製品関連で5.7億円の研究開発費を使い、光電融合向けの技術開発に注力した。光送受信器の部品であるMTファイバーアレイの引き合いが急速に強まり、2026年1月に中国河南省に生産子会社を設けた。

AGCの解説が示すのは、光電融合の損失を決める場所が光のチップの外側、つまりレンズとファイバーの並びと接着にあるという事実である。表1の試算では、光を10倍に広げれば横ずれの許容は0.72から22.07マイクロメートルへ緩む一方、傾きの許容は0.25度まで縮み、40本を並べれば回転と間隔の誤差が端に積み上がる。要求はレンズの間隔誤差±0.3マイクロメートル、ファイバーのクラッド径±0.7マイクロメートルという部品の寸法に移っており、各社の有報に現れた40チャネルのコネクター、偏波面保持ファイバー、ファイバーアレイの増産は、その寸法を量産で守る工程に投資が向かっていることを示している。

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