10兆円の半導体支援枠で予算を計上した約3.3兆円は、6割近くが経済産業省のいうラピダス関係の予算だ。ルネサス・ローム・安川電機は増収の理由にデータセンターや半導体関連の需要を挙げ、フィジカルAI向けの売上高はまだ表れていない。

自民党の半導体戦略推進議員連盟は2026年5月22日、半導体支援の対象を広げるよう求める決議を採択した。ただし「2030年度までに10兆円以上」という枠そのものは、その1年半前の2024年11月22日に閣議決定した総合経済対策の別紙で決まっている。議連の決議は枠を作ったのではなく、枠の使い道を最先端のロジック半導体からアナログ・レガシー半導体やロボット向けへ広げるよう求めたものだ。経済産業省 (経産省) の予算資料と、支援の対象になりうる日本企業の直近の決算を突き合わせると、アナログ・レガシー半導体の生産設備には支援の対象がまだ広がっておらず、企業の決算で増収の理由に挙がるのも、フィジカルAIではなくデータセンター向けなどの需要だ。

10兆円の枠は補助・委託6兆円と金融支援4兆円で、2026年度までに3分の1を計上した

総合経済対策の別紙1「AI・半導体産業基盤強化フレーム」によると、政府は2030年度までに10兆円以上の公的支援を行う。内訳は、次世代半導体の研究開発やパワー半導体の量産投資への補助・委託が6兆円程度、次世代半導体の量産投資やAI向け計算基盤への出資・債務保証が4兆円以上だ。狙いは10年間で50兆円を超える官民投資を呼び込むことにある。補助・委託の財源は、財政投融資特別会計からエネルギー対策特別会計への繰り入れ2.2兆円程度、基金の国庫返納金や商工組合中央金庫の株式売却収入1.6兆円程度、脱炭素成長型経済構造移行債など2.2兆円程度で、支出が先に集中する分はエネルギー対策特別会計がつなぎの債券を発行して賄う。支援の条件は3つで、世界で競争できる戦略を持つこと、供給網の急所として経済安全保障上重要であること、国が中長期に関与しなければ民間だけでは投資できないことだ。

経産省が2026年4月3日の次世代半導体等小委員会に示した一覧では、この枠で計上した予算は2024年度補正予算から2026年度当初予算までの4回で3兆2,873億円になる。10兆円の32.9%にあたり、残る約6.7兆円を2027〜2030年度の4年で計上するなら、単純に割れば年約1.7兆円が要る計算だ (割合と年額は編集部の計算、以下同じ)。ただし10兆円には債務保証を含む金融支援4兆円以上が入っており、残りの全額が毎年の予算の計上を要するわけではない。

予算計上額 (億円)主な事業
2024年度補正14,630ポスト5G事業 9,916、先端半導体の国内生産拠点 4,714
2025年度当初3,328ポスト5G事業 1,617、次世代半導体への出資 1,000
2025年度補正2,525ポスト5G事業 1,537、半導体設計・製造基盤 988
2026年度当初12,390ポスト5G事業 6,738、次世代半導体への出資 1,500、マルチモーダル基盤モデル 3,873
合計32,873

一覧に並ぶのは、次世代半導体の製造技術を開発するポスト5G事業、先端ロジックとメモリーの工場への補助、情報処理推進機構 (IPA) を通じた出資、設計・製造の共用基盤、そして2026年度に新設した3,873億円のマルチモーダル基盤モデル開発事業である。マイコンやセンサー、パワー半導体といったアナログ・レガシー半導体の生産設備への投資を補助する事業は、この枠の一覧にはない。ロームと東芝の炭化ケイ素 (SiC) パワー半導体への1,294億円や、ルネサスのマイコンへの159億円といった既存の助成は、経済安全保障推進法に基づく別の基金から出ている。支援先の一覧と工場の立地は補正予算の累計5.6兆円を扱った記事にまとめた。

ラピダス向けは委託費の上限が累計2兆3,540億円、出資2,500億円で、2026年度分の枠の63%を占める

枠の中心はラピダスである。経産省が公表したステージゲート審査の結果によると、ポスト5G事業からラピダスへの委託費の上限は2022年度700億円、2023年度2,600億円、2024年度5,900億円、2025年度8,025億円、2026年度6,315億円で、5年分を足すと2兆3,540億円になる。2026年度分は外部有識者の審査で前工程・後工程とも進捗が認められ、前工程に5,141億円、後工程に1,174億円を配分した。2026年度の課題は、顧客が設計に使うプロセス設計キットの提供、千歳の試作ラインでの欠陥密度の年度目標の達成、2.5次元・3次元パッケージの製造工程の検証である。

出資は2025年4月25日に成立した情報処理促進法等の改正法に基づく。赤澤亮正経済産業相は2025年11月21日にラピダスを出資先の事業者に選定し、IPAは2026年2月、第三者割当増資で1,000億円を出資し、27日に公表した。同時に民間32社が1,676億円を出資し、当初想定の1,300億円を上回った。赤澤経産相は2月27日の閣議後会見で、1,000億円の出資で得た議決権比率は11.5%と説明した。高市早苗首相は同じ時期の投稿で、政府は経済安全保障上の懸念に備えて拒否権付き株式 (黄金株) を保有する一方、ラピダスが民間企業として迅速に経営判断できるよう政府の議決権割合を抑えたと書いた。2026年度予算の成立を受けて、IPAは6月5日に1,500億円を追加出資し、出資の累計は2,500億円になった。ラピダスの村上敦子取締役専務執行役員 (最高財務責任者) は2月27日の会見で、追加出資を含めると資本金に占める政府の比率が6割になるとの問いに、平時は民間の議決権が8割を超え、民間主導で経営すると答えた。

経産省が示したラピダスの資金計画では、委託費を2027年度に3,000億円程度と見込み、2027〜2028年度の支援の詳細は進捗と民間の資金調達の状況を見て決めるとしている。ラピダス側は民間出資1兆円規模と、政府の債務保証を活用した2兆円以上の民間融資の確保を目指す。目標は2026年度にプロセス設計キットを提供し、2027年度に2ナノ世代の量産を始め、2031年度に株式を上場することだ。2026年度までに決めた政府の支援は、委託費の上限2兆3,540億円と出資2,500億円で計2兆6,040億円になる。2027年度は委託費3,000億円程度の見込みに加え、経産省が概算要求でIPAを通じた出資1,500億円を財政投融資の産業投資として新たに求めており、合わせると約3兆500億円に達する。債務保証の原資としてIPAへの出資金320億円もフレームの要求として計上した。

2026年度当初予算の枠1兆2,390億円のうち、ラピダス向けは委託費6,315億円と出資1,500億円の計7,815億円で63.1%にあたる。経産省は小委員会の一覧で、2024年度補正と2026年度当初のポスト5G事業の全額 (9,916億円と6,738億円) と2回の出資 (1,000億円と1,500億円) の4行を「ラピダス関係予算」として赤字で示しており、その合計1兆9,154億円は計上済み3兆2,873億円の58.3%にあたる。ラピダスの小池淳義社長は2月27日の会見で、60社以上と試作を重ねており、大半が海外企業で、高性能計算やAI半導体、ロボット関連が多いと語り、顧客の発表は2026年後半になるとの見通しを示した。

議連が求めたアナログ・レガシー半導体への支援拡大は、概算要求で金額が付かなかった

自民党の半導体戦略推進議員連盟 (会長・山際大志郎元経済再生担当相) は5月22日、国会内で総会を開き、決議を採択した。ラピダスへの研究開発と金融の支援を続けること、フィジカルAIの実現に向けてアナログ・レガシー半導体の競争力強化と生産能力の拡大に支援を広げることを政府に求めた。電子情報技術産業協会の半導体部会も同じ22日、提言書を経産省と文部科学省に提出したと発表し、先端ロジックに偏らずメモリー・センサー・パワー半導体・マイコン・アナログなど幅広い製品への大規模で長期的な支援の継続を求めた。このうちレガシー半導体では、小・中口径ウエハの製造ラインの維持への政府支援も挙げた。

経産省は、議連の決議より前に同じ方針を打ち出していた。同省は3月18日の半導体・デジタル産業戦略検討会議で、これまではデータセンターなどで使う先端ロジックとメモリーの生産能力の確保を重点的に支援してきたと説明した。今後は先端・次世代半導体の支援を続けたうえで、ロボットや自動車などの用途で「フィジカル・インテリジェント・システム」を実現するため、用途に必要な機能を逆算して半導体を作り込む考え方に立ち、用途に合わせた先端・次世代半導体とアナログ半導体 (センサー・マイコンなど)、電子部品の製造基盤を重点的に支援するとした。目標は国内で生産される半導体の売上高を2024年の9.4兆円から2030年に15兆円、2040年に40兆円へ増やすことである。政府は7月21日、日本成長戦略とともに官民投資のロードマップを決定し、2040年度までの官民投資をフィジカルAI (特にAIロボット) で10.5兆円、半導体で68.0兆円と見込んだ。世界の産業用ロボット市場 (約8,000億円) では日本のシェアが約7割ある一方、サービスロボット市場 (約2兆8,000億円) では1割強にとどまるとした。

方針と予算には開きがある。8月の2027年度概算要求で、経産省はAI・半導体・ロボットに1兆9,913億円を求めた。このうち10兆円の枠として計上するのは5,272億円で、このほかに財政投融資でIPAを通じた出資1,500億円を要求している。2026年度当初予算で枠の中にあったマルチモーダル基盤モデル開発事業 (3,873億円) は、2027年度の要求では政府の「強く豊かな日本」投資枠のうち10兆円の枠の外の事業として8,964億円を求め、増額した。新たに設けるAIロボティクス戦略事業に3,209億円、AIロボティクスの中核拠点に1,333億円も求めている。一方、アナログ・レガシー半導体の生産設備を対象に明記した事業は要求にない。経産省は「AI・半導体・ロボット分野における量産投資・研究開発・社会実装に向けた重点支援」を、金額を示さない事項要求とした。6月5日に成立した2026年度補正予算 (第1号) は、中東情勢に対応する予備費2兆5,000億円など予備費の積み増しが中心で、半導体の計上はなかった。議連が求めた拡大に金額が付くのは、早くても今後の追加の補正予算か年末の2027年度予算の編成で、現時点では予算額は決まっていない。

ルネサス・ローム・安川電機の増収の理由に挙がるのはデータセンター関連で、フィジカルAIではない

アナログ・レガシー半導体やロボットを手がける日本企業の決算を見ると、売上高を伸ばしているのは政策が描くフィジカルAIとは別の需要だ。ルネサスエレクトロニクス (6723) の2026年12月期第2四半期 (4〜6月) は、一時的な費用などを除いた調整後の基準で売上収益が4,053億円、営業利益が1,327億円 (利益率32.7%) だった。部門別の売上収益は自動車向けが1,871億円 (前年同期比15.9%増)、産業・インフラ・IoT向けが2,163億円 (同40.0%増) で、2部門の増収の合計875億円のうち産業・インフラ・IoT向けが618億円と7割を占める (自動車向けは257億円増)。どちらの事業もマイコン、システム・オン・チップ、アナログ半導体、パワー半導体を中心に製品を提供しており、議連が支援の拡大を求めた製品群と多くが重なる。

柴田英利社長兼CEOは7月31日の決算説明会で、産業向けはデータセンター関連と中国で非常に強く、インフラ向けではこれまで大きな顧客だった画像処理半導体 (GPU) の顧客に加えて特定用途向け半導体 (ASIC) の需要も強く立ち上がり、想定を大きく上回ったと説明した。自動車向けは第4世代の車載用システム・オン・チップの立ち上がりと、一部の顧客が減らしすぎた在庫を戻した動きで需要が強かったという。新開崇平最高財務責任者は、売上収益が予想の中央値を4.5%上回った要因の半分強は為替で、残りが自動車と産業・インフラ全般の需要増だったと述べた。データセンター向けの売上高そのものは開示していない。同社は7〜9月を含む1〜9月の調整後の売上収益を前年同期比24.0〜25.6%増と見込む。1〜6月の売上収益 (国際会計基準) のうち中国の顧客向けは2,417億円で、全体の30.3%を占めた。

会社 (証券コード)期間部門売上 (億円)前年同期比部門の利益 (億円)
ルネサス (6723)2026年4〜6月自動車1,871+15.9%644
ルネサス (6723)2026年4〜6月産業・インフラ・IoT2,163+40.0%690
ローム (6963)2026年4〜6月半導体素子589+25.2%△9
ローム (6963)2026年4〜6月LSI621+13.3%73
安川電機 (6506)2026年3〜8月モーションコントロール1,373+21.7%160
安川電機 (6506)2026年3〜8月ロボット1,184−0.7%60

ローム (6963) の2027年3月期第1四半期 (4〜6月) は、売上高1,357億円 (16.8%増)、営業利益96億円 (前年同期は2億円) だった。同社は増収の理由に自動車市場に加えて産業機器市場とコンピュータ・ストレージ市場を挙げ、営業利益の改善は売上高の増加と、前期に実施した減損処理に伴う減価償却費の減少によると説明した。SiCのパワー半導体を含む半導体素子部門は、売上高が589億円 (25.2%増)、部門の赤字が前年同期の63億円から9億円に縮小した。SiCのパワー半導体は電動車向けとサーバー向けが堅調で、シリコン製のパワー半導体はサーバー向けが大幅に伸びたという。LSI部門 (売上高621億円、13.3%増、部門利益73億円) は自動車向けが伸び、サーバー向けは大幅に増えた。同社は、生産拠点の再編・事業構成の見直し・価格の適正化とSiC事業の収益化を進め、生成AIの普及で需要が増えるサーバー向け製品の開発と拡販に重点を置く。

安川電機 (6506) の2027年2月期中間期 (3〜8月) は、売上収益2,856億円 (9.8%増) に対し営業利益は221億円 (5.5%減) だった。同社は需要環境について、AI関連投資にけん引されたデータセンターと半導体関連を中心とした設備投資需要が好調に推移したと説明した。米ドルの平均レートは前年同期の146.23円から159.82円へ円安に振れている。伸びたのはサーボモーターとインバーターのモーションコントロール部門で、売上収益は1,373億円 (21.7%増)、営業利益は160億円 (32.8%増) だった。同社は、データセンターや半導体工場の設備投資に伴う需要を米州・中国・韓国・台湾で取り込んだとしている。ロボット部門は売上収益1,184億円 (0.7%減)、営業利益60億円 (43.3%減) で、国内で社内の基幹システムを切り替えた影響で販売が減り、欧州の事業の構造改革の費用が響いた。米州の自動車向けと中国の半導体ロボットは伸びたが、AIロボット向けの需要は決算の区分では確認できない。ロボット技術の体系解説で整理した減速機やモーターは、ロードマップが「駆動系」と呼ぶ部品にあたる。

3社とも、増収の理由にデータセンターや半導体工場の設備投資を挙げ、フィジカルAIやAIロボットには触れていない。データセンター向けの需要は、先端ロジックやメモリーだけでなく、アナログ・パワー半導体やモーターの売上高も押し上げている。

枠の残り6.7兆円の行き先を決めるのは、年末の予算編成とラピダスの2027年度の量産だ

政府は10兆円の枠のうち2026年度までに約3分の1を予算に計上し、経産省がラピダス関係と示す予算がその半分強を占めた。2027年度の要求で枠に計上する額は5,272億円 (マルチモーダル基盤モデル事業は枠の外へ移した) で、AIとロボットの3事業に1兆3,506億円を求めた。議連が求めたアナログ・レガシー半導体の生産支援は、要求の一覧に名指しされていない。3社とも直近の決算で増収の理由にデータセンター関連を挙げ (ルネサスとロームは自動車向けも伸びた)、フィジカルAI向けの需要はまだ売上高の数字に表れていない。

今後の焦点は3つある。今後の補正予算と2027年度予算で、枠の残り約6兆7,000億円のうちどれだけをアナログ・レガシー半導体やロボット部品の生産設備の支援に充てるか。ラピダスが2026年度中に顧客へプロセス設計キットを提供できるか、2027年度の量産に向けて民間出資1兆円と融資2兆円をどこまで集められるか。そして2027年2月ごろに出るルネサスの通期決算で、産業・インフラ・IoT向けの伸びがデータセンター以外の用途に広がるかである。半導体製造の工程と各社の立ち位置は半導体技術の体系解説に、各社の決算などの開示資料はルネサス・ローム・安川電機の銘柄ページにまとめている。

※2026年10月13日、一次資料に基づき全面的に書き直しました。旧版の「2026年5月の議連の提言に呼応して政府が10兆円の支援ロードマップを確定した」は誤りで、10兆円の枠は2024年11月22日の閣議決定で決まっており、議連の決議は枠の使い道を広げるよう求めたものでした。「議連の新方針で支援枠が10兆円規模へ拡大した」「政府がラピダス中心の支援から転換した」との記述、「シリコンウエハの世界シェア55%以上」、中国の政策に関する記述の3点は出所を確認できなかったため削除しました。企業名を並べていた部分は、各社の決算短信の数字に基づく記述に改めました。

投資家向けの個別銘柄レポートと技術デューデリジェンスのご相談は、編集部のお問い合わせ窓口までお寄せください。