米ゴールドマン・サックスは、日本の半導体製造装置メーカー各社の明暗を分けるのは需要の大きさだけでなく、旺盛な受注を売り上げにつなげる生産能力だとみる。東京精密は2026年4〜6月期の半導体製造装置部門の受注高が532億円と売上高の1.87倍に達し、会社側も生産能力を5割ほど上回る受注があると説明している。

ゴールドマン、半導体製造装置メーカーの明暗は生産能力で分かれると分析

ゴールドマン・サックスは日本の半導体・電子部品株を分析したリポートで、今回の半導体の好況は規模と期間の両面で過去最大級だとみている。2027年の業績見通しは一段と強まり、28年までの先行きの確度も高まっているという。一方で、株式市場では28年以降に半導体メーカーの設備投資が減速するリスクを織り込む動きが出ているとした。

そのうえでリポートは、需要よりも生産能力が増収の足かせになりつつあると指摘した。需要をどれだけ取り込めるかに加え、旺盛な受注を売り上げと利益率の改善につなげる力が各社の明暗を分けるという。ゴールドマンは日本の装置メーカー10社の生産能力、納期 (受注から出荷までの期間)、価格決定力の目安とする市場シェアを一覧表にまとめた。

業界団体も強い需要を見込む。日本半導体製造装置協会が7月2日に公表した予測では、日本企業 (海外拠点を含む) の半導体製造装置の販売高は、2025年度実績の5兆1,986億円から26年度に26%増の6兆5,502億円、27年度に13%増の7兆4,017億円、28年度は5%増の7兆7,718億円になる見通しだ。協会は、すべての年度で1月の予測から大幅に上方修正したと説明した。27年度は半導体メーカーの新工場の建屋が順次完成し、顧客の希望する納期に合わせて装置を搬入できる環境が整うとしている。

東京精密は受注高が売上高の1.87倍、プロービングマシンの納期は4〜8か月に延びる

リポートが生産能力不足の例に挙げたのが、ウエハーの電気特性を検査するプロービングマシン (ウエハー検査装置) を手がける東京精密だ。リポートは、受注が生産能力の約1.5倍に上り、新工場ができるまでは生産能力を大きく増やせないとみる。

東京精密の決算もこの見方を裏付ける。2026年4〜6月期の半導体製造装置部門の受注高は前年同期の2倍の532億円、売上高は285億円だった。受注高は売上高の1.87倍で、前年同期の1.12倍から大きく上がった (当サイトの計算)。受注残高は3月末の651億円から6月末の899億円に増えた。同社は8月の決算説明会の質疑応答で「生産能力の1.5倍程度の受注がある状況」と説明した。

東京精密の半導体製造装置部門、26年4〜6月期の受注高は売上高の1.87倍
東京精密の半導体製造装置部門、26年4〜6月期の受注高は売上高の1.87倍

ただし、この四半期の受注は会社の想定を100億円以上上回り、半分弱が中国向けだった。7〜9月期に見込んでいた案件の前倒しも含むという。東京精密は前の中期経営計画の期間に、半導体製造装置の生産能力を売上高換算で年1,400億円強に高めた。4〜6月期の受注高532億円を年率に直すと約2,100億円で、前倒し分を含むものの、この能力の約1.5倍に当たる (当サイトの計算)。

納期は延びている。同社の説明では、プロービングマシンの納期は2025年11月に3〜4か月程度だったが、26年5月に5か月程度、8月には4〜8か月程度になった。ウエハーをチップに切り分けるダイシングソーも納期が同様に延びており、研削装置のグラインダーは6か月を超える状態が続く。リポートの表は、プロービングマシンの納期を現在6か月、通常は3か月としている。

同社は生産能力の増強を急ぐ。飯能工場 (埼玉県飯能市) に置いていた部材を外部の倉庫に移して空いた場所を生産に充て、社内の100人程度を生産の応援に回す。これらにより、27年4月ごろには生産能力が今の1.2倍程度になる見込みだという。これとは別に飯能工場の近くに新工場を建て、飯能地区の生産スペースを延べ床面積で1.5倍に広げる。有価証券報告書によると、新工場は26年5月に着工し、28年3月に完成する予定で、リポートの表の27年末より3か月遅い。同社は売り上げを伸ばすうえでの制約として、人員と生産スペースに加えて部材の調達を挙げ、通期予想には部材の確保が決まった分だけを織り込んだと説明した。同社は2027年3月期の半導体製造装置部門の売上高を1,475億円と見込む。

ディスコは契約負債が730億円に増加、受注高は開示せず

リポートは、ディスコの契約負債 (主に顧客からの前受け金) が6月末に3月末比46%増の730億円になったと指摘した。同社はウエハーの切断・研削装置の大手だ。ディスコは受注高を2022年度から開示しておらず、有価証券報告書では「中長期の会社業績を予測するための指標として必ずしも適切ではない」と説明している。リポートは、受注の勢いが強まっているとみる。

リポートは、先端半導体の後工程 (パッケージング) で広がる技術がディスコの出荷をさらに押し上げるとみて、米インテルのEMIB-T、ハイブリッドボンディング、光電融合 (CPO) を挙げた。EMIB-Tは、基板に埋め込んだ小さなシリコン片 (ブリッジ) でチップ同士をつなぐEMIBのブリッジに、シリコン貫通電極 (TSV) を通した技術だ。ハイブリッドボンディングは、はんだのバンプ (突起) を使わずに、ウエハーやチップの銅の電極同士を直接つなぐ技術だ。ディスコは2025年12月の技術説明会で、この用途の研削装置を開発したと説明した。光電融合は、通信機器の前面に差し込む光トランシーバーに代えて、光と電気の信号を変換する部品をスイッチ用の半導体と同じパッケージに組み込む技術だ。EMIB-Tと光電融合を押し上げ要因とするのはゴールドマンの見方で、ディスコの決算資料や技術説明会の資料にはこの2つの記載がない。

決算短信で確かめると、3月末の契約負債は500億円で、増加率は45.9%だった (当サイトの計算)。ただし、契約負債をそのまま受注の目安とみるには注意が必要だ。同社は決算説明資料で、契約負債に「出荷時入金のものを含む」としている。装置の売上高を顧客の検収時に計上するため、出荷後、検収前に受け取った代金も契約負債に入る。

ディスコの契約負債、6月末は730億円に
ディスコの契約負債、6月末は730億円に

契約負債には季節要因もある。2025年と26年はいずれも1〜3月期に減り、4〜6月期に増えた。4〜6月期の増加率 (3月末比) は2024年が36.0%、25年が27.3%で、今回の45.9%は3年で最も高い (当サイトの計算)。前年同期末と比べると30.5%増だった (同)。ただ、2024年3月末以降で最も多かったのは2024年12月末の785億円で、今回はこれを下回る。

出荷額は伸びている。4〜6月期の連結出荷額は1,359億円で過去最高だった。10月6日の速報では、ディスコ単体の7〜9月期の出荷額は前年同期比60%増の1,239億円と、四半期として過去最高だった。単体の数字のため、連結の1,359億円とは比べられない。出荷額の実績は、直近5四半期続けて同社が事前に示した見通しを上回った (5四半期のうち3四半期の見通しは、会社が示した累計の見通しから当サイトが逆算)。同社は7〜9月期決算を10月22日に発表する。

アルバックとレーザーテックも納期が延び、東京エレクトロンはエッチング装置の能力を約3倍に

ゴールドマンの一覧表で、10社のうち生産能力を「十分」としなかったのは東京精密、アルバック、SCREENホールディングスの3社、納期が延びているとしたのは東京精密、アルバック、レーザーテックの3社だった。当サイトは各社の決算資料と質疑応答で、リポートの記述を確かめた。

ゴールドマン・サックスがみる日本の半導体製造装置メーカー10社の生産能力・納期・価格決定力と各社の開示
ゴールドマン・サックスがみる日本の半導体製造装置メーカー10社の生産能力・納期・価格決定力と各社の開示

真空装置大手のアルバックは8月の決算説明会で、半導体製造装置の納期が「従来の6ヶ月程度から2~3ヶ月程度」延びたと説明した。電子モジュール全般や、ポンプなどに使うレアアース磁石の調達に時間がかかっているためだ。従来の6か月に2〜3か月を足すと8〜9か月になり、リポートの見方と一致する。リポートは部品の調達が長引き、工場がすでにフル稼働の状態にあるとしたが、同社は「現在の生産キャパシティは足元の需要に対応できる体制」と述べている。一方で「部材供給や生産面の制約により、獲得した豊富な受注を十分に売上・利益へ転換できていない」とも認めた。2026年6月期の全社の受注高は過去最高の3,242億円で、売上高は2,691億円だった。

半導体検査装置のレーザーテックは、EUV (極端紫外線) 露光に使うフォトマスクの欠陥をEUVの光で検査する装置「ACTIS」の納期を、4月に「1年ぐらい」、8月に「1年強」と説明した。ACTISの納期はリポートの見方と一致する。同社の2026年6月期の受注高は2,375億円と、前の期の2倍を超えた。

成膜装置のKOKUSAI ELECTRICは、生産リードタイムを「8カ月程度」としており、リポートの納期8か月とほぼ一致する。4〜6月期の受注高は約1,400億円で、売上高754億円の約1.9倍だった (当サイトの計算)。同社は2027年3月期の売上高予想3,400億円に見合う生産体制を確保したと説明し、工場の稼働率は上期平均で70〜80%程度、下期は80%以上を見込む。リポートは売上高4,000億〜4,500億円分の生産能力があるとするが、この数字は同社の開示では確かめられなかった。2028年3月期に4,000億円台半ばの売上高を支える能力があるかとの質問に、同社は「断言はできません」と答えている。

リポートによると、半導体洗浄装置のSCREENホールディングスは、28年3月期末までに半導体製造装置の生産能力を売上高換算で9,000億円超に増やす計画だという。この数字も同社の開示では確かめられなかった。同社は7月の質疑応答で「来年度(2028年3月期)までの需要をカバーできる生産キャパシティはある」と説明した。滋賀県彦根市の工場では効率を上げるために設備を改修しており、京都府長岡京市の工場の設備も増産に向けて改修する予定だ。同社によると装置の納期は平均4.2か月で、リポートの4〜5か月と一致する。

リポートは、国内最大手の東京エレクトロンの生産能力を「十分」とみる。同社は4月に「盤石なキャパシティを確保」と説明した。一方、8月の質疑応答では、世界の前工程装置の市場が28年に3,000億ドルに達するとの見方を問われ、その規模に対応できる生産能力が今すぐにあるとは言えないと答えた。同社によると、顧客からは納期の前倒しや追加購入の要請が続いている。同社は27年夏に完成予定の宮城県の生産新棟で、エッチング装置の生産能力を約3倍にする計画で、生産リードタイムを3分の1に縮める目標も掲げる。

このほか、荏原製作所の研磨装置 (CMP装置) と日本電子の電子ビーム描画装置の納期は、両社の開示では確かめられなかった。

半導体製造装置のシェア「高」はディスコとアドバンテストだけ、焦点は受注残の消化

リポートでシェアを「高」としたのは、後工程の装置を手がけるディスコとアドバンテストの2社だけだった。リポートは2社とも生産能力を十分とし、納期も変わらないとみる。前工程では東京エレクトロンとレーザーテックが「中〜高」、アルバックだけが「低〜中」だった。レーザーテックは、部材の値上がり分を「概ね価格転嫁できて」いると説明している。

各社の開示を並べると、受注高を開示している会社ではいずれも伸びが確かめられたが、それを売り上げにつなげる速さには差がある。東京精密とKOKUSAI ELECTRICは4〜6月期の受注高が売上高の約1.9倍に達し、アルバックは2026年6月期の受注高が過去最高だった。このうち東京精密とアルバックは、生産能力や部材の調達の制約を自ら認めている。主な増産拠点の完成予定は、東京エレクトロンの宮城の生産新棟が27年夏、東京精密の飯能の新工場が28年3月だ。それまでは、生産能力に制約のある会社ほど、受注の多さより、出荷できる量と納期が業績を左右しそうだ。

10月22日のディスコなど、7〜9月期の決算発表が本格化する。受注をどれだけ売り上げにつなげたかと、各社が示す納期の変化が、ゴールドマンの見方を確かめる材料になる。各社の詳しい情報は、東京精密、ディスコ、レーザーテック、SCREENホールディングス、KOKUSAI ELECTRIC、東京エレクトロンの企業ページ、東京精密とディスコの銘柄ページ、日本の半導体製造装置メーカーの一覧にまとめている。

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