米証券大手が最も不足すると見る材料は、AIサーバーの基板の芯になるガラス繊維の織物である。推奨銘柄の日東紡は、自社の新しい設備が完成するまでの間、台湾の南亜プラスチック工業に織布を委託している。
米モルガン・スタンレーは、次のAIの大きな波は下流のAIハードウェアではなく上流のボトルネックにあり、そこに投資の好機があるとの見方を示した。プリント基板やAIデータセンター、銅張積層板を含むAIの供給網全体を整理し、推奨の順位を高機能ガラスクロス、第4世代以降の高周波向け銅箔、光ファイバー、銅張積層板の順に並べた。ガラスクロスの供給不足は2026年に約40%、2028年に約30%、銅箔の供給不足は2027年に約30%と見積もる。投稿は対象の銘柄群の株価の上昇率と下落率、株価収益率も示しているが、本稿では株価に関わる数字は扱わない。
推奨銘柄のうち日本企業の有価証券報告書 (2026年3月期、2026年6月提出) を読むと、この見立ては材料ごとに確かめられる。日東紡 (3110) の電子材料事業は営業利益率が39.4%に達し (記者の計算)、最先端のロジック半導体向けTガラスクロスを最大3倍に増やせる150億円の設備は2026年12月に完成する予定だ。それまでの不足分を補うため、同社は2025年11月28日に台湾の南亜プラスチック工業と織布の製造委託契約を結んだ。上流材料の不足は各社の増産設備が完成するまでの需給の問題であり、推奨の順位は各社の設備の完成時期と並べて読む必要がある。
銅張積層板は銅箔・樹脂・ガラスクロスでできており、モルガン・スタンレーの一覧図で樹脂の7社はすべて日本企業
モルガン・スタンレーの図によると、銅張積層板は電気を通す銅箔、絶縁の役割を持つ樹脂、芯材となるガラスクロスを組み合わせた複合材料で、電気の特性、信頼性、加工のしやすさを担う。この積層板に回路を形成し、何枚も重ねたものがプリント基板になる。同社は銅張積層板の市場規模を約450億ドルと見積もり、AIサーバー1台あたりに使う量と単価がともに上がるとする。AI向けプリント基板の市場規模は2030年まで年平均18%で伸び、先端のAI向け基板は構造が複雑なため製造期間が約2.2倍長いという。銅張積層板は、エヌビディアの新しいGPUで求められる等級が上がることが需要を押し上げ、AI向けは2030年までに7倍になると見込む。市場規模と製造期間の算出方法は投稿に示されておらず、確かめられなかった (未確認)。
2025年を起点とすると、AI向け銅張積層板が2030年までに7倍になるには年平均47.6%の伸びが要る。年18%で伸びるAI向けプリント基板は5年で2.3倍、年20%で伸びる光ファイバーは2.5倍にとどまる (記者の計算。投稿は起点の年を示していない)。基板よりその材料の積層板が速く伸びるという見方で、上流の材料を推す理由はこの差にある。
同社の一覧図は、材料ごとに関連する上場企業を並べている。銅箔の欄は9社で、三井金属 (5706) と古河電気工業 (5801)、台湾のコーテック、韓国のソラス・アドバンスト・マテリアルズとロッテ・エナジー・マテリアルズ、中国の4社である。樹脂の欄の7社は、三菱ガス化学 (4182)、DIC (4631)、三菱ケミカルグループ (4188)、日本化薬 (4272)、クミアイ化学工業 (4996)、日本曹達 (4041)、デンカ (4061) と、すべてが日本企業だ。ガラス繊維・ガラスクロスの欄は日東紡 (3110)、旭化成 (3407)、香港のキングボード・ラミネーツ、中国の3社の計6社となる。
光ファイバーの欄は、米国のコーニングとアンフェノール、フジクラ (5803)、古河電気工業、住友電気工業 (5802)、インドのHFCL、中国の1社の7社である。そのほかのAI向け材料として、希土類酸化物1社、旭ダイヤモンド工業 (6140) を含む人工ダイヤモンド2社、タングステン3社、モリブデン3社も載せている。記者が数えると延べ38社で、古河電気工業が2つの欄に載るため実数は37社になる。国別では日本14社、米国2社、韓国2社、台湾1社、香港2社、インド1社、中国15社で、銅張積層板の材料3分野に限ると実数22社のうち日本が11社と半数を占める。
ガラスクロスは日東紡で利益率39.4%に達し、Tガラスクロスを3倍にできる設備は2026年12月に完成する
モルガン・スタンレーが推奨の1位に置くガラスクロスは、ガラスの糸を布状に織った積層板の芯材である。日東紡の有価証券報告書によると、同社の電子材料事業は2026年3月期に売上高492億6,500万円 (20.4%増)、営業利益193億9,100万円 (39.7%増) となった。AIサーバー向けに、電気信号を損ないにくい低誘電のスペシャルガラスと、熱で伸び縮みしにくい半導体パッケージ基板向けの低熱膨張のスペシャルガラスが売れた。営業利益率は前の年の約33.9%から39.4%に上がった (記者の計算)。
需要の伸びは会社の計画を上回った。日東紡は2027年度の目標だった営業利益200億円を前倒しで達成し、2026年5月に2027年度の目標を売上高1,350億円から1,550億円、営業利益200億円から360億円に引き上げた。4年間の設備投資も約800億円から約1,200億円に増やし、低熱膨張ガラスの増産投資を前倒しする。2026年3月期の電子材料事業の設備投資は186億9,100万円だった。
増産はまだ途中にある。有価証券報告書の設備の新設計画によると、日東紡は福島事業センターにガラスクロスの生産設備150億円を2025年10月に着工し、2026年12月に完成させる予定で、支払済みは27億300万円と総額の18.0%にとどまる (記者の計算)。増強する能力をすべて最先端のロジック半導体向けTガラスクロスに充てると、現在の生産実績の3倍程度を生産できるという。完成までの間、日東紡は2025年11月28日に台湾の南亜プラスチック工業とスペシャルガラスクロスの織布の製造委託契約を結んでいる。自社で織りきれない分を外部に委ねる契約で、モルガン・スタンレーが2026年に約40%と見る不足と時期が重なる (記者の見立て)。2028年にも約30%の不足が残るという同社の見方は、福島の設備が完成しても需要の伸びに追いつかないことを示す (記者の見立て)。日東紡のTガラスの製法と競合については、日東紡のTガラスを扱った記事で取り上げた。
銅箔は三井金属の機能材料で経常利益が65.0%増え、古河電気工業は次世代品の量産を始めた
推奨の2位は、表面の凹凸を極めて小さくした高周波向け銅箔の第4世代以降である。表面が平らなほど高い周波数の信号の損失が小さくなる。モルガン・スタンレーは銅箔の供給不足を2027年に約30%と見る。
三井金属の有価証券報告書によると、銅箔を含む機能材料セグメントの売上高は2,461億円から3,284億円に33.4%増え、経常利益は403億円から665億円に65.0%増えた。経常利益率は20.2%になる (記者の計算)。AIサーバー向けの多層基板の需要で高周波基板用電解銅箔の販売量が増え、同社はこの銅箔の生産体制を増強したうえで、2026年度以降の段階的な追加増強を決めた。増強の規模と完成時期は有価証券報告書に書かれておらず、確かめられなかった (未確認)。
古河電気工業の機能製品セグメントは売上高1,611億円 (9.6%増)、営業利益154億円 (8.9%増) で、営業利益率は9.6%だった (記者の計算)。高周波基板用電解銅箔を拡販し、さらに周波数の高い基板に対応する次世代の高周波基板用銅箔の量産を始めた。同社は銅箔をデータセンター関連事業の一つと位置づけ、経営資源を集中するとしている。台湾のコーテックの業績は取得していない (未取得)。
樹脂は三菱ガス化学とデンカで需要が計画を上回り、積層板の推奨銘柄に挙がった村田製作所の有報に積層板の記載はない
樹脂の推奨銘柄は三菱ガス化学とデンカである。三菱ガス化学の有価証券報告書によると、同社はタイで半導体パッケージ用BT材料の能力増強を終え、AIサーバー向け基板材料の需要は計画を上回って伸びているため、製造拠点の整備を検討している。電子材料は、一部の原材料の供給懸念から顧客が在庫を確保する動きもあり増収増益となった。ただし電子材料を含む機能化学品セグメント全体では、売上高が4,441億円から4,483億円に0.9%、営業利益が413億円から438億円に6.1%増えるにとどまる (記者の計算)。
デンカの電子・先端プロダクツ部門は売上高1,044億3,000万円 (13.3%増)、営業利益138億8,600万円 (51.5%増) で、営業利益率は13.3%だった (記者の計算)。低誘電の有機絶縁樹脂「スネクトン」の販売が伸び、千葉工場でその製造プラントを建設している (建設中の設備への支出は92億2,300万円)。
投稿は銅張積層板の推奨銘柄に村田製作所を挙げるが、この点は同社の開示と合わない。村田製作所の有価証券報告書 (2026年3月期) には「銅張積層板」「積層板」の記載が1件もない。売上収益は1兆8,308億5,600万円 (5.0%増) で、伸びたのはサーバー向けを中心とする積層セラミックコンデンサであり、同社が手がける樹脂多層基板はスマートフォン向けで減った。モルガン・スタンレーの一覧図にも村田製作所は載っていない。投稿の転記の誤りか、積層板以外の部品を指した可能性がある (記者の見立て)。投稿の推奨銘柄9社のうち日本企業は、日東紡、三井金属、古河電気工業、三菱ガス化学、デンカ、村田製作所の6社となる。
光ファイバーはコーニングの光通信事業で売上高が32%増え、古河電気工業は250億円を投じて製造能力を増強する
推奨の3位の光ファイバーについて、モルガン・スタンレーはAIデータセンターが従来のデータセンターの5〜10倍のケーブルを使い、2030年まで年平均20%で伸びると見る。推奨銘柄のコーニングの四半期報告書 (2026年7月29日提出) によると、光通信事業の売上高は2026年4〜6月期に20億7,200万ドルと32%増え、部門の純利益は4億3,800万ドルと77%増えた。純利益率は21.1%になる (記者の計算)。同社の説明では、光通信事業の法人向け部門が巨大なデータセンターを含む光通信網を扱う。
古河電気工業は2026年度の設備投資計画1,500億円のうち、250億円を光ファイバーの製造能力の増強に充てる。ケーブルが5〜10倍に増えるという見方の根拠となる数量は、投稿にも両社の開示にも示されていない (未確認)。
推奨銘柄の材料事業では、6事業のうち5事業で利益の伸びが売上高の伸びを上回り、古河電気工業の機能製品だけが売上高の伸びを下回った。付加価値の高い製品の比率が上がり、利益が売上高より先に伸びる局面にあるとみられる (記者の見立て)。
AI向けの上流材料の不足は、推奨銘柄の開示の中に数字として表れている。ガラスクロスの日東紡は利益率を4割近くまで高め、新しい設備が完成する2026年12月まで台湾に織布を頼り、銅箔の三井金属は2026年度以降の追加増強を決めた段階にある。モルガン・スタンレーの推奨の順位は、こうした設備が完成するまでの時間の長さの順と読むことができる (記者の見立て)。
投資家向けの個別銘柄レポートと技術デューデリジェンスのご相談はこちら。データ・調査のご相談
💬 この記事へのコメント 0
まだコメントはありません
最初のコメントを投稿してみましょう!⚠️ エラーが発生しました