320ポートのスイッチ120台で組み直した推論用の構成では、収容できるチップは光で経路を切り替える現行方式より1割多い。代わりにラック群の外との通信容量は4分の1に減り、故障した部分を光で迂回させる仕組みも手放す。
グーグルの推論用TPUから光スイッチを外す構成が、2026年9月に米半導体調査会社セミアナリシスの投稿で伝えられた。投稿の数字を積み上げると、接続できるチップの上限は1,280個になる。グーグルが2026年4月に公表した推論用 TPU 8i の上限は1,152個で、光スイッチを外した構成のほうがわずかに多い。第7世代の Ironwood (アイアンウッド) が光スイッチで9,216個まで接続できるのに対し、第8世代の推論用は最初から1,000個台に収まっており、光スイッチで規模を広げる利点をもともと生かしていない。この見方が正しければ、推論用TPUの接続は光から電気へ移り、需要が向かう部品も変わる。
投稿が伝えたのは、アンソロピック専用のTPUv9iから光スイッチとBoardflyを外すという観測である
TPU は、グーグルが自社で設計するAI半導体である。数百、数千のTPUを1台の計算機のように働かせるには、チップ同士をじかにつなぐ専用の配線が要る。これをチップ間接続と呼ぶ。セミアナリシスの投稿 (7本、取得日2026年9月14日) は、グーグルの次世代の推論用TPUである TPUv9i (開発名 Triggerfish、メディアテックが製造) で、このチップ間接続をすべて電気信号のスイッチで組む構成が業界で取り沙汰されていると書いた。
投稿によれば、要望はアンソロピックから出ているとみられ、同社専用の TPUv9i から「Boardfly」と「光スイッチ」を外すようグーグルに求めている。Boardfly は TPU 8i で採り入れた接続方式、光スイッチは光の通り道を小さな鏡で切り替える装置で、どちらも次の節で説明する。
この観測を裏付ける各社の公表はない。アンソロピックの要望、TPUv9i をメディアテックが製造すること、開発名の Triggerfish は、いずれもグーグル、アンソロピック、メディアテックの発表に出てこない。設計の分担も報道と会社の説明が食い違う。ブロードコムは2026年9月2日の決算説明会で「次の世代の TPU v8i をグーグル向けに量産出荷し始めた」と述べており (書き起こし)、推論用はメディアテックが担うとする報道と合わない。セミアナリシスは同じ時期に、学習用の TPUv9t は3次元トーラスを発展させた「6次元トーラス」を、推論用の TPUv9i は Boardfly の改良版を採るという観測も伝えていた。今回の投稿は、そのうち推論用のアンソロピック専用品だけが別の方式を採るという内容である。
グーグルは大規模な構成を光スイッチで広げ、推論用はBoardflyで1,152個に収めてきた
TPU の接続方式を知ると、光スイッチを外す意味が見えてくる。第7世代の Ironwood は、サーバー1台にTPUを4個、1ラックに64個を収め、この64個のまとまりを「キューブ」と呼ぶ。キューブの中は3次元トーラスという方式で、各チップは縦・横・奥行きの隣にある6個とじかにつながる (グーグルの公式ブログ、2025年11月7日)。3次元トーラスは、格子の端と端をつないで輪にした配線で、遠くの相手へはチップが隣へ隣へと通信を中継して届ける方式である。
キューブ同士をつなぐのが光スイッチである。光の信号を電気に戻さず、小さな鏡の角度を変えて光ファイバーの行き先を切り替える。Ironwood は4キューブ256個の構成から144キューブ9,216個の構成まで組め、チップ間接続の速度は毎秒9.6テラビット、全体で共有できる広帯域メモリー (HBM) は1.77ペタバイトに達する。キューブや配線が壊れたときは、光スイッチが壊れた部分を光のまま迂回させ、予備のキューブに差し替える。グーグルが2023年の国際学会で発表した TPU v4 の論文では、4,096個のチップを光スイッチ48台で8列64ラックにつなぎ、規模、稼働率、電力、性能が改善したと報告している。光スイッチは、グーグルが大規模な構成を組み替えながら運用するための装置である。
2026年4月23日、グーグルは第8世代で学習用と推論用を分けた。学習用の TPU 8t は3次元トーラスを保ち、1つの構成に9,600個をつなぐ。さらに Virgo (バーゴ) と呼ぶ別のネットワークで134,000個超を結び、通信容量は最大で毎秒47ペタビットとしている。推論用の TPU 8i は Boardfly という別の方式に替えた。基板1枚にTPU4個を輪につなぎ (基板の外への接続は16本)、基板8枚を銅線で互いにつないで32個で1グループとし、36グループを光スイッチで互いにつなぐ。上限は1,152個 (実際に使うのは1,024個) で、どのチップの間も中継は最大7回と、3次元トーラスの16回から56%減った (同ブログ)。2026年8月の半導体の国際会議ホットチップスでも、応答の遅れを抑えやすいこの方式が推論に向くと説明された (米技術情報サイトの報道、2026年8月25日)。TPU 8i は広帯域メモリーを288ギガバイト (TPU 8t は216ギガバイト)、チップに内蔵するメモリー (SRAM) を384メガバイト積み、多数のチップが一斉にデータをやり取りする処理を受け持つ回路を1チップに1つ持つ。
学習用は逆の方向へ進む。セミアナリシスの投稿によると、6次元トーラスではチップ1個の接続が6本から12本に倍増し、4,096個の構成で最も遠い相手までの中継は3次元 (16×16×16) の24回から6次元の12回に半減する。その代わり、光部品と光スイッチの容量ははるかに増える。学習用は光を増やして規模を広げ、推論用は1,000個台で応答の遅れを抑えるというのが、第8世代からの分かれ方である。投稿が示す1,280個は Ironwood の上限9,216個の13.9%にすぎないが、推論用の TPU 8i と比べれば1.11倍になる (記者の計算)。
320ポートのスイッチ120台で計算すると、1,280個と4対1の数字が合う
投稿が示したのは、TPUとTPUの間にスイッチを1段だけ挟む構成である。TPUは光スイッチを通らず、電気信号のスイッチにじかにつながる。スイッチはアステラ・ラボの「Scorpio X」の改良版とされ、ポートの数は320。24台のスイッチからなる系統が5つ、あるいは5台からなる系統が24あり、スイッチ1台に4ラックがつながり、1ラックは24台のスイッチに伝送路1本当たり毎秒300ギガビットでつながる。残る64ポートはスイッチ同士の接続に使い、通信容量の比は4対1、接続できるTPUは最大1,280個と投稿は書く。
投稿の数字は互いに矛盾しない。24系統×1系統5台で120台 (5系統×24台でも同じ120台) になり、スイッチ1台が4ラックを受け持つので、1系統5台で20ラックになる。スイッチ1台の320ポートのうち、4ラックへ64ポートずつ計256ポートを割り当てると64ポートが残り、256対64で4対1になる。1ラック64個なら20ラックで1,280個、TPU1個は系統ごとに1本、合わせて24本の伝送路を持ち、24×300で片方向に毎秒7,200ギガビット (7.2テラビット) の計算になる (記者の計算)。
ポートの総数も合う。スイッチ側は120台×320で38,400ポート、そのうちTPU側の伝送路は1,280個×24で30,720本、スイッチ同士は120台×64で7,680ポート (配線は3,840本) で、足すと38,400に戻る。同じ4ラック256個の中の通信は、各系統で同じスイッチを1回通るだけで届き、別のスイッチにつながる相手へはスイッチ同士の配線を通って2回で届く。3次元トーラスや Boardfly のように、あるチップが別のチップの通信を中継することはない。
4対1という比は、4つのラックの外へ出る通信に使える容量が、ラックとスイッチの間の容量の4分の1しかないことを意味する。推論では1つのAIモデルを数十から数百個のチップに分けて載せることが多く、その範囲が4ラック256個に収まれば、この制約は表に出ない。1,280個すべてを一斉に使う処理では、4ラックの境目で通信が滞る。
投稿の速度の数字は、公開された規格とアステラ・ラボの開示では確かめられない
投稿は、改良版のスイッチでデータを高速の信号に変える回路の速度が、現行の毎秒128ギガビットから336ギガビットに上がり、複数の会社が製造する可能性があると書いた。このうち確かめられるのは製品名とポートの数までである。
アステラ・ラボは2026年5月5日に320ポートの「Scorpio X」を発表して同日出荷を始め、量産の立ち上げは2026年下期とした。多数のチップが一斉にデータをやり取りする処理の遅れは最大50%縮むとしている (社内の分析)。製品ページで速度が分かるのは PCIe 6 に対応する別系列の「Scorpio P」(32〜320ポート) だけで、「Scorpio X」は顧客の機器ごとに異なる通信方式と書かれ、伝送路1本当たりの速度は示されていない。
公開された規格と照らすと、128という数字は2025年6月11日に公開された PCIe 7.0 の伝送速度と同じだが、アステラ・ラボの現行品の速度としては確認できない。336という数字は、PCIe 8.0 (2028年までに公開予定) が掲げる256とも、伝送路1本当たり毎秒200ギガビットで最大1,024個を接続する UALink 1.0 (2025年4月8日公開) とも一致しない。投稿の「1本当たり毎秒300ギガビット」は、336ギガビットの信号から符号化による目減りを除いた実質の速度と読めるが、そうした仕様の公表はない (記者の見立て)。速度の数字は、この観測の中で根拠が最も弱い部分である。
アンソロピックが得るのは3種類のAI半導体の接続方式の統一で、手放すのは4ラックの外への通信容量と光による迂回である
投稿は、アンソロピックにとっての利点を2つ挙げた。1つは、経路を決める回路をスイッチに任せてTPUから外せば、その分のチップの面積を演算やメモリーに回せること。3次元トーラスや Boardfly ではチップ自身が他のチップの通信を中継するため、その回路を持つ必要がある。ただ、外した回路がチップの面積のどれだけを占めるかは、グーグルもメディアテックも公表しておらず、未取得である。
もう1つは接続方式の統一である。アンソロピックは2026年4月6日の発表で、Claude をトレイニアム (アマゾン・ウェブ・サービスのAI半導体)、グーグルのTPU、エヌビディアのGPUで学習させていると書いた。トレイニアム3を積む「UltraServer」は、「NeuronSwitch-v1」でチップ同士をスイッチ経由ですべて結び、最大144個をつなぐ。次のトレイニアム4は、エヌビディアの「NVLink Fusion」を採用して1ラックで最大72個の自社設計の半導体を同じように結ぶ。エヌビディアのGPUも NVLink のスイッチでつなぐ。3種類のうち光スイッチでチップ同士をつなぐのはTPUだけで、TPUv9i がスイッチ経由の構成になれば、3種類すべてが「チップ、スイッチ、チップ」という同じ接続方式になる。
接続方式が同じなら、AIモデルを複数のチップに分けて載せる方法、故障したチップの切り離し、通信ソフトの調整を3種類の間で共通にできる。アンソロピックの年換算の売上高は300億ドルを超え (2025年末は約90億ドル)、2025年10月にTPUを最大100万個確保したうえ、2026年4月には2027年から数ギガワット分の次世代TPUを加えた。これだけの規模で3種類を並べて運用する企業にとって、接続方式の違いはそのまま運用の手間になる (記者の見立て)。
手放すものもはっきりしている。1つは4ラックの外への通信容量で、前の節の4対1がそれに当たる。もう1つは光スイッチによる迂回である。Ironwood では壊れたキューブを光のまま切り離して予備に差し替えられたが、スイッチを1段挟む構成では、その役目をスイッチの経路の変更と予備のラックで担うことになる。推論は学習と違って1つの計算を数カ月止めずに続ける必要性が低く、壊れた部分を外して処理を他へ回せる。推論用に限った製品で光スイッチを外す判断は、この性質と合う (記者の見立て)。
この見方が正しければ、アステラ・ラボの顧客の構成と推論用TPUの光部品の数に表れる
アンソロピックがグーグルに専用品の作り分けを求められる根拠は、その規模にある。ブロードコムのホック・タン最高経営責任者は2026年9月2日の決算説明会で、「2026年に展開する1ギガワットの Ironwood に続き、アンソロピックは2027年に TPU v8i をさらに5ギガワット展開する見込み」と述べ、2028年にはさらに10ギガワットとし、アンソロピックが2027年に同社の特注AI半導体の最大の顧客になる見通しを示した (書き起こし)。2027年の主力が TPU v8i であれば、観測の TPUv9i が効いてくるのはその次の世代で、2028年の10ギガワットがその受け皿になる (記者の見立て)。
電気信号のスイッチの側で数字を追えるのはアステラ・ラボである。2026年4〜6月期の売上高は3億9,240万ドルで前年同期比104%増え、同社は増収の理由として「Scorpio」を含む製品の出荷増と、「Scorpio」の比率が高まったことによる単価の上昇を挙げた (米証券取引委員会に提出した四半期報告書、2026年8月5日)。売上高の10%以上を占める顧客は、顧客A 29%、顧客B 25%、顧客C 15%、顧客D 13%で、上位4社で82%になる (記者の計算)。顧客名は伏せられており、一部は最終顧客の製造委託先である。2026年2月5日にはアマゾンの投資子会社に、最大326万2,299株を1株142.82ドルで取得できる新株予約権を付与し、購入額に応じて権利が確定する契約を結んでいる (年次報告書、2026年2月20日提出)。同社は7〜9月期の売上高を5億4,000万〜5億6,000万ドルと見込み、「Scorpio」が同期に最大の製品になるとした。
この見方が正しければ、変化は3つの形で表れる。アステラ・ラボの顧客の構成に、グーグルかその製造委託先とみられる新しい顧客が10%以上の比率で加わること。グーグルかブロードコムが、推論用TPUの接続方式を Boardfly 以外の名前で説明すること。そして、学習用の TPUv9t で光部品と光スイッチが増える一方、アンソロピック向けの推論用ではそれが減り、TPU1個当たりの光部品の数が製品によって大きく分かれることである。どれも2026年9月14日時点では確認できない。
光スイッチを外した TPUv9i は、推論用の規模を1,280個に保ったまま、アンソロピックが使う3種類のAI半導体を同じ接続方式にそろえる選択であり、手放すのは4ラックの外への通信容量と光による迂回である。推論用TPUの接続は光から電気へ移り得るというのがこの観測から読むべき点で、その向きはアステラ・ラボの顧客の構成と、グーグルが推論用TPUの接続方式をどう説明するかで確かめられる。
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