AIサーバー向け受動部品は同じ需要でも市場評価が約23倍開く。ムラタのデータセンター売上開示が株価を押し上げる一方、800V磁性部品やTLVRインダクターは日本勢が世界シェアを握りながら評価が遅れる。MLCC44万個から800V直流化まで、開示力が分ける明暗を読む。

人工知能(AI)サーバー向けの受動部品は、同じ需要の追い風を受けても銘柄ごとの市場評価が最大23倍開く。コンデンサ世界最大手のムラタ製作所(6981)が「データセンター関連」の売上を切り出して開示し株価評価を押し上げた一方、同じサーバーに不可欠な高速インダクターや800ボルト直流用の磁性部品では、世界シェアを握る日本勢の社名すら投資家に届いていない。技術的な隘路の所在、企業の開示姿勢、投資家の接近しやすさ——この三つが、一つの風を受ける四種類の部品の明暗を分けている。

【図表1】AIサーバー基板に載る4つの受動部品ファミリーと主要供給者

受動部品ファミリー形状・基板上の位置と役割AIサーバーでの搭載量・影響主要プレイヤー(日韓中心)見落とされやすい論点
AI-Grade MLCC(積層セラミックコンデンサ)小型矩形チップ。GPU周囲に数千〜数万個密集。低ESR/ESLで瞬時電流を吸収NVL72で約44万個/台。AIサーバーは汎用の10〜15倍(SEMCO)。低インピーダンスが核心の隘路Murata、SEMCO、Taiyo Yuden、TDK埋め込み型(1005=22μF/2012=100μF量産中)が基板を革新。価格引き上げ検討と容量再配分で車載・民生が品薄化
TLVR Power Inductor(高速電源インダクター)黒色SMD。GPU近傍VRM部。1000A/µs超の過渡に対応する結合インダクターコンデンサを最大40%節約可能。高密度・低DCRが必須TDK、Taiyo Yuden(金属磁性体)、Murata、Cyntec(台湾)専用コア材で日本勢が優位も、ハイパースケーラーとの共同設計(co-design)機会が国内で未活用
Hybrid Polymer Capacitor(導電性高分子ハイブリッド)赤色円筒。電源安定化部。低ESR・高リップル。バルク容量+瞬時応答一部MLCCに置換も、ripple 35A級の特定位置で不可欠TDK(B40910/B40640)、Taiyo Yuden/ELNA、Rubycon、Nichicon、Panasonic125℃高耐熱品は日本勢の独壇場。ESRの温度安定性(17mΩ級)が長期運用で差
800V DC Magnetics(高圧直流用磁性部品・固体変圧器)コア+巻線のトランス。電源入口部。高電圧DC変換800Vアーキで銅45%減・効率97.6%。TI/ST/NVIDIA主導TDK、Tamura、Sumida、Delta(台湾)、Core Power日本は磁性体・絶縁材で世界一も、電源設計アーキで後手。HVDC技術指針は国内で注目薄

出典:NVIDIAサーバー基板の電源供給網(PDN)構成図、各社製品資料を基に作成

ムラタ開示が映した分岐

市場が部品メーカーに与える評価は、AIサーバーへの搭載量ではなく「どれだけ語れるか」で決まりはじめている。投資家の間で共有される集計によれば、ムラタはデータセンター関連売上を前年比およそ8割増・約3,250億円規模と切り出して開示し、これを境に汎用コンデンサ銘柄から「AIインフラ銘柄」へと見方が変わった。韓国サムスン電機(SEMCO、韓国009150)も四半期売上で2桁増・営業利益で4割前後の伸びを示し、垂直統合の強みを前面に出した。

対照的に、同等以上の技術を持ちながら「産業機器」や「電子部品その他」の区分に数字が埋もれる日本メーカーは、AIの受益が外から見えない。MLCCはGPU直下の電源供給網(PDN)で電圧の揺れを吸収する部品で、等価直列抵抗(ESR)と等価直列インダクタンス(ESL)が低いほど瞬時の大電流に追従できる。技術の良し悪し以前に、その貢献を決算の言葉に翻訳できているかどうかが評価を分けている。開示は広報ではなく、資本市場に対する設計仕様だと見たほうがよい。投資家が次に問うべきは、TDK(6762)やTaiyo Yuden(6976)がいつ「AIサーバー比率」を分離して語るか、である。

なぜ評価は23倍に開くのか

同じAIサーバーに入る部品でも、市場が払う対価は均一ではない。X(旧ツイッター)上で投資家が示した図表では、関連銘柄の年間成長率は最低の約+28%から最高の約+659%まで分布し、両端の差は約23.5倍に達した。棒グラフは最下層の+28%・+29%から、+143%・+198%といった中堅、+261%・+659%の上位へと段階をなし、上位に近づくほど開示が明確でモデル化しやすい銘柄が並ぶ。投稿者自身が「平均値(バスケット)は棒の高さを均すだけで、なぜこれほど開くのかを説明しない」と注記している点が示唆的だ。

【図表2】同じAIサーバー需要でも23倍開く、受動部品関連銘柄の年間成長率

順位(低→高)年間成長率解釈(部品ファミリー/企業プロキシ)戦略的含意
1〜2+28〜29%低可視性・非隘路(汎用部品)市場が無視
3+85%中間(一部可視)部分評価
4+102%Polymer/Inductor 初期徐々に注目
5〜6+143〜149%MLCC 中堅注目開始
7+198%MLCC/Inductor 強者再評価中
8+216%Polymer/Hybrid 強者タイミング差
9+261%高隘路急騰
10+659%最高可視+隘路(開示明確なMLCC=Murata/SEMCO型)市場が最も報いる

最低+28%対最高+659%で約23.5倍差。出典:投資家@NuttyCLDの公開図表ほか市場集計を基に作成

差を生む変数は三つに整理できる。第一に技術的な隘路の度合い——代替が利かない部品ほど価格決定力を持つ。第二に上場企業としての開示——AI向け売上を分離して語れる企業ほど資金が向かう。第三に投資家の接近しやすさ——非上場や事業の一部門に埋もれた供給者には、需要の風が株価まで届かない。MLCCはこの三条件を最もよく満たすため評価が先行し、後述する800V用磁性部品やTLVRインダクターは技術的な重要度に比して評価が遅れる。市場は「重要さ」ではなく「見えやすさ」に報いている。

NVL72が呑む44万個のMLCC

AIサーバーがMLCCを大量に必要とするのは、GPUの消費電流が桁違いに大きく、その変動が速いからだ。電源から遠い場所で電圧を作っても、配線のインダクタンスが瞬間的な電圧降下を生む。これを防ぐため、ESL・ESRの低いMLCCをGPU直下に数千〜数万個並べ、電荷の「貯水池」を負荷の至近に置く。エヌビディアのラック型システムNVL72では1台あたり約44万個が使われ、サーバー単位でもAI向けは汎用機の10〜15倍に達するとSEMCOは説明する。

需要の強さは数量だけではない。AI向けMLCC市場は2030年にかけて約3.3倍へ拡大すると見込まれる一方、各社の増産は年1割規模にとどまり、需給の張り詰めた状態が続く。Taiyo Yudenは自社のAI向け需要を「怖いほど」と表現し、SEMCOは1キロボルトを超える高耐圧品の採用拡大で容量と耐圧の両面の競争を仕掛ける。日本勢が握る次の一手が、基板内部に部品を埋め込む技術だ。Taiyo Yudenは1005サイズで22マイクロファラド、2012サイズで100マイクロファラドという高容量品を量産し、基板の表面積を空けながら容量を稼ぐ。前世代の表面実装に比べPDNの配線長を縮められる点が高速化に効く。

一方で各社はAI優先で生産能力を再配分しており、車載・民生向けの一部が品薄に向かっている。ムラタやSEMCOが検討する「AI向けプレミアム価格」は、需要の強さの裏返しでもある。MLCCは可視性で先行するが、その急騰は供給網全体の歪みと表裏にある。

800V直流化が呼ぶ磁性部品需要

次の風は電源そのものの構造変化から吹く。AIラックの消費電力が1台あたりメガワット級に達すると、従来の低電圧配電では銅の損失と発熱が無視できない。そこで施設からラック、サーバーへと800ボルトの直流(DC)を通し、負荷の近くで降圧する設計が2026〜27年に本格化する。電圧を上げれば同じ電力を細い導体で送れるため、テキサス・インスツルメンツ(TXN)やSTマイクロエレクトロニクスが示す設計例では銅の使用量が約45%減り、電力変換効率は97.6%に達する。電流の二乗に比例する導体損失を、電圧側で逃がす発想だ。

この高電圧化で需要が膨らむのが、高周波で動く磁性部品と、半導体で変圧を担う固体変圧器(SST)である。コアの材料特性と絶縁設計が性能を左右する領域で、TDKの磁性体技術やタムラ製作所、スミダの変圧器が強みを持つ。ムラタも高圧直流(HVDC)向けの技術指針を公開しているが、国内での注目は薄い。ところが電源アーキテクチャの設計主導権は、TIや台湾のデルタ電子(台湾2308)、Core Powerが握りつつある。材料で世界一でも、どの電圧階層でどう変換するかという「箱の設計図」を他社が描けば、日本勢は部品供給者の位置に固定されかねない。800Vは2027年以降の本番に向け、評価がまだ織り込まれていない数少ない領域だ。

日本勢はTLVRで勝てるのか

GPUの電流変動に最後に立ちはだかるのが、TLVR(トランスインダクター・ボルテージ・レギュレーター)と呼ぶ結合インダクター方式だ。複数相のインダクターを磁気的に結合し、1000A/µsを超える急峻な電流要求に追従させる。応答が速いほど手前のコンデンサを減らせ、AIサーバーでは最大4割のコンデンサ削減につながるため、基板面積と費用を同時に削れる。Taiyo YudenのLSCN系は電流密度25A/平方ミリ・耐熱165℃をうたい、金属磁性体の飽和特性でこの用途に向く。台湾のCyntec(デルタ系)も強いが、コア材の作り込みでTDK・Taiyo Yudenが先行する。

ハイブリッドポリマーコンデンサも、MLCCの高容量化に押されつつ独自の居場所を保つ。導電性高分子を使うこの種は低ESRと高リップル耐性が持ち味で、TDKのB40910系はリップル電流35A級、ESR17ミリオームを125℃で維持する。高温で長期間動くAIサーバーでは、温度に対するESRの安定性が信頼性の差になる。ルビコンやニチコン(6996)、パナソニック(6752)、Taiyo Yuden傘下のELNAが持つ導電性高分子(PEDOT)技術は、中国勢を寄せ付けていない。課題は技術ではなく接続にある。ハイパースケーラーと設計段階から組む共同設計(co-design)に日本勢が入り込めるか——そこにTLVRと埋め込み部品を束ねた次のモジュール事業の芽がある。

日本企業が直面する選択

機会は二つある。
第一に、開示による再評価だ。ムラタが見せたように、AI向け売上を分離して語るだけで市場の見方は変わる。TDK、Taiyo Yudenが次の決算で「AIサーバー比率」を切り出せば、800VやTLVRの技術的優位が初めて株価の文脈に乗る。
第二に、共同設計への参入だ。ムラタは部品を束ねたパワーモジュール事業を2026年に量産し、2027年度に売上500億円規模を目指す。エヌビディアやハイパースケーラーが部品段階から関与を深める今、埋め込みMLCCとTLVRを統合したモジュール提案は、部品単価競争から抜ける数少ない経路になる。

リスクも二つ見える。一つはサムスン電機の垂直統合だ。基板(FC-BGA)・MLCC・シリコンキャパシタを束ねる韓国勢に対し、日本は「材料×信頼性」で応じるしかない。もう一つは需要配分の歪みである。AI優先の能力再配分は車載・民生の品薄を招き、価格上昇が供給網の下流に波及する。投資家にとっての落とし穴は、図表2が示した23倍の格差を「平均」で均してしまうことだ。ムラタやSEMCOが急騰する一方、800V磁性部品は待機の局面にある。同じ風でも帆ごとに受け方が違う以上、銘柄選別は部品ファミリーの単位で行う必要があると、現場の数字は告げている。