トランプ大統領は宇宙軍になぞらえてAIフォースを作ると打ち出したが、目的に挙げたのは既存の刑事・民事の司法制度で「悪いもの」を探すことだった。その仕事は、州のAI法を訴える専任組織と2本の命令として、投稿の前から動いている。

米国のトランプ大統領は日本時間9月20日未明、交流サイトの Truth Social で「AIフォース」の創設と、AIを担当する責任者の近い発表を明らかにした。AIの成長を妨げも抑えもしないと約束し、悪いものは既存の刑事・民事の司法制度で探すと書き、そのための組織を「1期目に作った宇宙軍と同じように」作るという。日本語では「AI軍」とも訳されるが、投稿が役割として書いたのは軍の任務ではなく、司法制度を使った取り締まりである。その取り締まりの体制は、大統領がAIフォースを打ち出す前から、大統領令と司法省の決定で動いている。

AIフォースの目的は、既存の刑事・民事の司法制度で「悪い」AI利用を探すことにある

投稿は政治的な文脈から始まる。大統領は、急進左派が国を壊す目的で多くの「でっち上げ」を作ってきたとし、次の標的が人工知能 (AI) の破壊だと書いた。「地球温暖化」を「気候変動」と言い換えて疑いの範囲を広げたのと同じように、AIそのものに矛先が向いているという見方で、大統領としてそれを座視しないと続けた。

AIフォースが登場するのは、その後の段落である。大統領は、この産業の成長を妨げも抑えもせず、大切にし、助け、見守ると書いたうえで、悪いものも探し、それは既存の刑事・民事の司法制度で容易にできるとした。「この目的のために」AIフォースを作る、という順序で書かれている。組織の形、所管する省、人数、予算はまだ示されていない (未発表)。

たとえに使われた宇宙軍は、大統領の決定だけでは生まれていない。2019年12月20日に成立した2020会計年度国防権限法 (公法116-92) の第9編Dが「合衆国宇宙軍法」で、空軍宇宙コマンドを合衆国宇宙軍に改称し、合衆国法典に「空軍省の中の軍種として合衆国宇宙軍を設ける」という条文を加えた。新しい軍種を作るには議会の立法が要る。投稿が宇宙軍に重ねたのは作り方ではなく、名前を付けて旗を立てるやり方だと、記者は見る。司法制度の中で取り締まりの組織を作るのであれば、立法を待たずに行政の決定で進められる。

司法省は1月に州のAI法を訴える専任組織を設け、6月の大統領令はAIを使う犯罪の訴追を優先させた

AIフォースという名が付く前から、連邦政府は司法制度をAI政策の道具として使い始めている。出発点は2025年1月23日の大統領令14179「AIにおける米国の主導を妨げる障壁の除去」で、規制を減らす方向を最初に示した。

民事の側で具体的な組織を作ったのが、2025年12月11日の大統領令14365「AIの国家政策の枠組みの確保」である。州ごとの規制は「50の異なる規制の継ぎはぎ」になると書き、司法長官に30日以内に「AI訴訟タスクフォース」を設けるよう命じた。任務は、政策に反する州のAI法を訴えることだけと定めている。司法長官は2026年1月9日のメモでこの組織を設けた。委員長は司法長官か指名者、副委員長は同省で3番目の職にある司法次官で、司法副長官室・司法次官室・訟務長官室・民事局などで構成する。同じ大統領令は、商務長官に90日以内に州のAI法を評価させ、負担の重い法を持つ州にはブロードバンド整備の補助金のうち敷設以外の資金を渡さないとした。州の規制を裁判とお金の両方で抑える設計である。

刑事の側は、2026年6月2日の大統領令14409「先端AIの革新と安全の推進」が受け持つ。第4条は、AIを使って無断でコンピューターに侵入したり損傷させたりする者に対し、なりすまし (合衆国法典18編1028条)、コンピューター詐欺 (同1030条)、通信を使った詐欺 (同1343条) などの連邦刑法の執行を優先するよう司法長官に命じた。一方で第3条(c)は、新しいAIモデルの開発や公開について、政府の許認可や事前審査の制度を作る権限は与えないと明記している。

大統領令・決定司法制度での役割
大統領令14365 (2025年12月11日)州のAI法を訴える組織の設置を命令 (民事)
司法長官メモ (2026年1月9日)AI訴訟タスクフォースを設置 (民事)
大統領令14409 (2026年6月2日)AIを使う不正アクセスなどの訴追を優先 (刑事)。許認可制度は作らない

大統領が投稿で約束した「成長を妨げない」と「悪いものは既存の司法制度で探す」の2つは、この2本の大統領令と1本のメモの中身とそのまま重なる。AIフォースは、新しい権限を作るというより、既にある民事と刑事の2つの流れに名前を付ける動きとして読める。

AIをめぐる連邦と州の動きの時系列。2019年12月20日の宇宙軍法から、大統領令14179・14318・14365、司法省のAI訴訟タスクフォース、AI担当の特別顧問の退任、大統領令14409、ニューヨーク州の行政命令第62号を経て、2026年9月20日の投稿まで
AIをめぐる連邦と州の動きの時系列。2019年12月20日の宇宙軍法から、大統領令14179・14318・14365、司法省のAI訴訟タスクフォース、AI担当の特別顧問の退任、大統領令14409、ニューヨーク州の行政命令第62号を経て、2026年9月20日の投稿まで

AI担当責任者の席は3月から空き、大統領令が相談相手に定めた職でもある

投稿は、AIの「ツァー」(担当責任者) を近く発表するとし、知能指数の高い人だけ応募するようにと添えた。この席は新設ではない。AI・暗号資産担当の特別顧問を務めたデビッド・サックス氏は2026年3月26日に退任した。CNBC とロイターによれば、理由は特別政府職員として働ける日数の上限130日を使い切ったことで、同氏は大統領科学技術諮問会議の共同議長に移り、特別顧問の職には後任が置かれていない。

空席の意味は小さくない。大統領令14365は、AI訴訟タスクフォースが訴える州法を選ぶ際に、この特別顧問と随時相談するよう定めた。州法に優先する連邦の統一の枠組みを立法案にまとめる役も、特別顧問と大統領補佐官 (科学技術担当) に割り当てている。司法長官メモも同じ相談先を書き写した。相談相手の席が半年近く空いたままだったことになり、責任者の任命は、訴訟の対象を選ぶ流れと連邦法の案づくりを再び動かす人事になる。記者の見立てでは、投資家が見るべきはAIフォースの名前より、この人事で誰が立法案を持つかである。

データセンターへの反対は失敗したと投稿は書くが、ニューヨーク州は7月から大型施設の審査を止めている

投稿は、AIへの攻撃がデータセンターへの攻撃から始まったとし、データセンターが建つ地域はより高い給料、より低い税、より安全な街を得たと書いた。そのうえで、データセンターへの攻撃はおおむね失敗したとした。地域への効果について、本稿は裏づけとなる統計を取得していない (未取得)。

連邦の側では、2025年7月23日の大統領令14318「データセンター基盤の連邦許認可の迅速化」が、AIの推論や学習などに100メガワットを超える新たな電力を使う施設をデータセンター事業と定義した。商務長官に融資、債務保証、補助金、税の優遇、引き取り契約による資金支援の仕組みを立ち上げさせ、国家環境政策法の審査を省く区分の活用と新設を関係機関に求めている。

州の側の動きは、「失敗した」の一言では片づかない。メイン州のミルズ知事は4月24日、20メガワット以上のデータセンターを2027年11月1日まで止める法案 LD 307 に拒否権を使い、全米で初めての州法にはならなかった。一方でニューヨーク州のホークル知事は7月14日の行政命令第62号で、50メガワット以上を使うデータセンターの建設や拡張について、州が裁量で出す許可の審査を保留した。経緯は データセンター新設を止めたNY州の記事 で詳しく追った。連邦が許認可を速める一方で、州は大型施設の許可を止められる。AI訴訟タスクフォースが州のどの規制を訴えるかは、データセンターの立地の見通しにも直接かかわる。

GDPの25%は、AIに関わる設備投資の約5倍で、民間の固定投資全体も上回る

投稿の後半で大統領は、AIは次の産業革命かインターネットであり、それよりも大きく影響も大きいとし、米国のGDPの25%にもなりうると書いた。米国は中国と世界の他の国をリードしており、それを保つとも書いている。

25%の物差しを、米商務省経済分析局の国内総生産の統計で当ててみた (2026年8月26日更新、名目・季節調整済み年率、2026年9月21日に FRED から取得)。2026年4〜6月期のGDPは32兆4,861億ドルで、その25%は8兆1,215億ドルになる。これに対し、AIに関わる支出を最も直接に表す「情報処理機器とソフトウェアへの民間設備投資」は1兆6,115億ドルで、GDPの4.96%だった。25%はその5.04倍にあたる。設備と住宅を合わせた民間の固定投資全体でも5兆8,090億ドル、GDPの17.88%で、25%はその1.40倍である。

米国の2026年4〜6月期のGDPに対する割合。情報処理機器とソフトウェアへの民間設備投資は4.96%、民間の固定投資全体は17.88%、大統領が挙げたGDPの25%は8兆1,215億ドル。投資のGDP比は2025年1〜3月期の4.36%から4.96%へ上がった
米国の2026年4〜6月期のGDPに対する割合。情報処理機器とソフトウェアへの民間設備投資は4.96%、民間の固定投資全体は17.88%、大統領が挙げたGDPの25%は8兆1,215億ドル。投資のGDP比は2025年1〜3月期の4.36%から4.96%へ上がった

伸びは速い。情報処理機器とソフトウェアへの投資は2025年1〜3月期の1兆3,112億ドルから22.9%増え、同じ期間の名目GDPの伸び8.1%を大きく上回った。GDP比は4.36%から4.96%へ、1年3か月で0.60ポイント上がっている。それでも、投資だけで25%に届くには、民間の固定投資全体より大きくならなければならない。大統領の言う25%は、投資の規模ではなく、AIを使って生み出される売上や付加価値まで含めた広い意味で読むのが自然で、統計で確かめられる範囲の外にある。

投資の観点では、AIフォースという名前より政策の方向が大事になる。成長を妨げる規制には否定的、米国のAIの優位は保つ、産業の成長は支えるという3点は、投稿と大統領令の両方で一貫している。その方向が米国のAI・半導体の関連企業に追い風になるという見方も、大統領令14318の資金支援と許認可の迅速化、大統領令14409の「許認可制度は作らない」という明記で裏づけられる。

トランプ氏のAIフォースは、投稿の文面では、宇宙軍のような軍の新設ではなく、既存の刑事・民事の司法制度で州の規制とAIの悪用を取り締まる体制に名前を付けるものとして示された。その体制は、州のAI法を訴える司法省の専任組織と、AIを使う犯罪の訴追を優先させる大統領令として既に動いている。次に決まるのは、3月から空いたAI担当責任者に誰が就き、州法に優先する連邦の枠組みをどこまで立法に持ち込むかである。

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