車載電池で世界最大手の中国・寧徳時代新能源科技(CATL)は9月22日、ハンガリー東部デブレツェンに建設した新工場で、電池セルの試験生産を始めた。全面稼働すれば年産能力は100ギガワット時となり、中国国外で最大の拠点になる。

CATL(深セン300750・香港3750)はデブレツェンで2024年秋から電池モジュールを組み立てており、累計の生産数は53万7000個に達した。今回はモジュールに組み込むセルそのものの生産に乗り出した。同社は必要な許可を取得して準備を終え、まず2本の生産ラインを稼働させたと発表した。世界の生産体制を強化し、自動車メーカーへの供給を拡大できるとしている。本誌はCATLと中国の同業5社、日韓の電池大手4社の開示資料を比べ、欧州の電池供給でデブレツェン工場が占める位置を探った。

CATLのデブレツェン工場がセル生産に着手、目論見書の予定から約1年遅れ

電気自動車(EV)の電池は、セル、モジュール、パックの順に組み立てる(CATLにはモジュールを省き、セルを直接パックに収める方式もある)。セルは正極と負極、両極を隔てるセパレーター(絶縁膜)、電解液を容器に収めたもので、電池の最小単位にあたる。複数のセルをまとめたものがモジュール、モジュールに制御装置や冷却装置を組み合わせて車に搭載できるようにしたものがパックだ。

セルの製造では、電極の材料を混ぜて金属箔に塗り、乾燥させてから圧延する。これを所定の形に切断し、正極と負極をセパレーターを挟んで巻き取る。乾燥させた後に電解液を注入して封止し、初めて充電して電池として機能させる「化成」と呼ぶ工程を経て、性能を検査する。セルの製造はモジュールの組み立てより工程が長く、品質や歩留まり(良品率)を左右する要因が多い。

CATLは試験生産について、量産に先立ち製造設備や工程を調整・検証するためと説明している。同社は2022年8月に工場の建設を発表し、2023年夏に最初のセル工場棟を着工した。2026年春に設備の据え付けを終え、8月に建物の使用許可を得た。2025年5月の香港上場時の目論見書では、第1期(生産能力34ギガワット時)は2025年に生産を始める予定だった。試験生産の開始はこの予定から約1年遅れており、量産はまだ始まっていない。

電池セルの製造工程とデブレツェン工場の進捗
電池セルの製造工程とデブレツェン工場の進捗

図1 — 電池セルの製造工程と、CATLのデブレツェン工場の進捗(工程の名称と順序は一般的な製法をもとに本誌が整理)

モジュール生産は累計53万7000個、7月以降は生産ペースが鈍化

モジュールの生産は、2024年9月に賃借した6万平方メートルの建物で始まった。CATLのハンガリー法人は2026年5月12日、年間5ギガワット時の生産能力を持つ新しいモジュール棟が5月6日に稼働したと発表した。発表時点の累計生産数は24万個だった。7月1日には累計38万1000個に達し、同社はこれを電気自動車約8万7000台分と説明した。1台あたり約4.4個を使う計算になる。

発表日で区切り、累計生産数の差から1日あたりの生産数を本誌が試算した。5月12日から7月1日までの50日間の生産数は14万1000個で、1日あたり約2,800個だった。7月1日から9月22日までの83日間は15万6000個で、1日あたり約1,900個に減った。どちらの期間も新棟の稼働後にあたり、7月以降は1日あたりの生産数が減ったことになる。CATLはペースが落ちた理由を説明していない。従業員は7月時点で1,470人で、年末までに2,300人に増やす計画だ。ハンガリー政府は2022年、9,000人の雇用を見込むと発表していた。

セル工場の稼働前に組み立てたモジュールには、他の工場で生産したセルを使ったことになる。CATLは調達先を明らかにしていないが、中国の工場か、2022年からセルを量産するドイツ・テューリンゲン州の工場から運んだとみられる。セルの量産が始まれば、モジュールに使うセルも現地で調達できるようになる。

年産能力100ギガワット時はCATL全体の13%、2025年に欧州でEVに搭載された電池の約4割

CATLの2025年の生産能力は772ギガワット時で、デブレツェンの100ギガワット時はその13%にあたる。目論見書によると、会社全体の稼働率は2022年の83.4%から2023年に70.5%まで下がり、2024年は76.3%だった。2025年の年次報告書では、生産量が748ギガワット時、稼働率が96.9%だった。年次報告書と目論見書で稼働率の算出方法が同じかどうかは、開示からは分からない。2026年1〜6月期の稼働率は94.9%だった。2025年の販売量は661ギガワット時(前年比約39%増)で、このうち車載用が541ギガワット時、蓄電用が121ギガワット時だった(内訳は四捨五入のため合計と一致しない)。

国際エネルギー機関(IEA)によると、2025年に欧州でEVに搭載された電池は、バスやトラックなどを含めて250.8ギガワット時だった。デブレツェンの100ギガワット時は、この約4割に相当する。乗用車のEV(プラグインハイブリッド車を含む)の販売台数は420万台で、新車販売の28%を占めた。乗用車に搭載された電池は230ギガワット時で、1台あたり平均約55キロワット時になる。この平均で計算すると、100ギガワット時は乗用車約180万台分にあたる(本誌試算)。ただし、全面稼働は早くても2027年末(2022年8月の開示から64か月後)で、2025年の実績と比べた数字は目安にすぎない。欧州委員会によると、欧州の電池セルの生産能力は2017年の1ギガワット時から、2026年1月時点で200ギガワット時超に拡大した。IEAによると、EU市場のEV向け電池に占める中国系メーカーのシェアは2025年に50%を超え、2023年のほぼ2倍になった。

投資規模も大きい。CATLは2022年8月に深セン証券取引所に開示した資料で、投資額の上限を73億4000万ユーロ(約1兆3200億円)、建設期間を64か月以内とした。円換算は欧州中央銀行の9月23日の参照レート(1ユーロ=180.2円、1フォリント=約0.495円、1元=約23.5円、1香港ドル=約20.1円、1ウォン=約0.116円)で計算した。ハンガリー政府は投資額を約3兆フォリント(約1兆4800億円)と発表した。

2025年5月の香港上場では、調達資金の約90%にあたる約276億香港ドル(約5,570億円)を、ハンガリー工場の第1期と第2期の建設に充てるとした。第1期は生産能力34ギガワット時、投資額27億ユーロ(約4,870億円)、第2期は生産能力38ギガワット時、投資額21億ユーロ(約3,780億円)だ。資料によって能力の数字は異なり、CATLのハンガリー法人は2026年7月の発表で第1期を年産40ギガワット時としている。ハンガリー工場への投資額は2025年に約52億元(約1,220億円)で、2026年6月末までの累計は約124億元(約2,910億円)となった。投資額の上限(約1兆3200億円)の約22%にあたる(本誌試算)。

ハンガリー外務貿易省の一覧によると、CATLは2025年12月19日、1,294億フォリント(約640億円)の補助金の支給契約を政府と結んだ。一覧に記載された投資額の約4.8%にあたる。英紙は2022年に補助金を8億ユーロ(約1,440億円)と報じたが、政府は2023年2月、最終的な支援契約はまだ結んでいないと回答していた。実際の契約額は報道の半分以下だった。

CATLの欧州の拠点はデブレツェンだけではない。ドイツ・テューリンゲン州の工場は2022年12月にセルの量産を始めた。当初の生産能力は8ギガワット時で、将来は14ギガワット時に増やすとしている。スペインでは、ステランティスと折半出資する合弁会社がサラゴサに最大50ギガワット時のリン酸鉄リチウム電池の工場を建設中で、2026年末に生産を始める予定だ。CATLの海外売上高比率は2025年に30.6%、2026年1〜6月期に31.5%だった。この比率には中国の工場からの輸出も含まれる。

CATLは2022年の発表で、メルセデス・ベンツがデブレツェン工場の最大の顧客になり、最初に供給を受けるとしていた。BMWは2022年9月、直径46ミリの円筒形電池をCATLとEVEエナジーに発注したと発表した。BMWによると、両社は中国と欧州にそれぞれ2工場を建設し、1工場あたりの年産能力は最大20ギガワット時となる。BMWは工場の所在地を明らかにしていない。デブレツェンで生産するセルの形状や正極材について、CATLは公表していない。CATLの企業情報はCATLの企業ページにまとめている。

欧州の主な電池工場の生産能力
欧州の主な電池工場の生産能力

図2 — 欧州の主な電池工場の生産能力(計画を含む)。稼働中か計画段階かを併記した

欧州連合統計局の貿易統計によると、ハンガリーの電池(関税分類8507、鉛蓄電池なども含む)の輸出額は2023年の約97億ユーロ(約1兆7490億円)が最高で、2025年は約54億ユーロ(約9,820億円)と2023年から44%減った。輸出額の減少には電池の値下がりも影響しているとみられる。工場ごとの内訳は公表されていない。2025年のリチウムイオン電池の輸出額は約53億ユーロ(約9,630億円)で、本誌が同局の統計で電池の輸出が多いEUの12か国を比べたところ最も多く、2位のドイツ(約52億ユーロ)をわずかに上回った。輸出先の約59%はドイツだった。

中国の同業5社は欧州でセルの量産に至らず、EVEエナジーと国軒高科が中欧で工場を建設中

中国の同業5社のうち、欧州でセルを量産している企業はまだない。中国の電池大手、EVEエナジー(深セン300014)もデブレツェンで、乗用車向けの大型円筒形電池の工場を建設している。投資額の上限は約100億元(約2,350億円)、建設期間は4年とした。同社は2026年1〜6月期の報告書で、自社の大型円筒形電池が中国企業で初めて量産車に搭載され、BMWの新世代モデルに採用されたとしている。国軒高科(ゴーション、深セン002074)はドイツ・ゲッティンゲンで電池パックを組み立てている。スロバキア・シュラニでは、同社と現地の新興電池メーカー、インオバットの合弁会社が第1期20ギガワット時のセル工場を2025年10月に着工した。

会社2025年の主な開示数値(会社により異なる)欧州の工場
BYD車載用と蓄電用を合わせた電池の出荷量285.6ギガワット時セル工場の開示なし(ハンガリー・セゲドは乗用車工場)
CALB売上高444億元(うち車載用303億元)ポルトガル・シネスに蓄電用15ギガワット時、投資額20億6700万ユーロ、2028年稼働予定
EVEエナジー出荷量は車載用約50ギガワット時・蓄電用約71ギガワット時、稼働率87.8%デブレツェンに建設中(乗用車向けの大型円筒形電池)
国軒高科電池の販売量約309億アンペア時ゲッティンゲンで電池パック(計画20ギガワット時)、スロバキアの合弁で第1期20ギガワット時
SVOLT非上場のため生産能力・業績は非開示2025年1月31日に欧州から撤退

各社の2025年の年次報告書、決算公告、月次速報による。BYDは香港1211・深セン002594、CALB(中創新航)は香港3931に上場し、SVOLT(蜂巣能源)は非上場。CALBのポルトガル工場の用途と投資額(約3,720億円)はポルトガル政府の発表による。国軒高科の販売量は電気量の単位であるアンペア時で開示されており、ギガワット時への換算には電圧の前提が必要なため換算していない。SVOLTは2024年10月、ドイツ西部ザールラント州で計画していたセル工場(24ギガワット時)などの建設を中止した。

日韓の電池大手4社は米国の税額控除を除くと赤字、韓国2社は2025年の稼働率が5割未満

韓国の3社は、CATLより早く中欧に工場を構えた。SKオン(非上場、親会社はSKイノベーション、韓国096770)はハンガリーに3工場を持つ。北部のコマーロムに2工場、ブダペスト南方のイヴァーンチャに1工場で、稼働中の生産能力は3工場の合計で37.8ギガワット時になる。LGエナジーソリューション(以下、LGエナジー、韓国373220)は、ポーランド・ヴロツワフの工場の生産能力を2022年の80ギガワット時から90ギガワット時に増やす計画だ。一部のラインは蓄電用に切り替えている。サムスンSDI(韓国006400)はハンガリーのゲードに工場を持ち、2025年10月に増産投資に対して1,330億フォリント(約658億円)の補助金を受ける契約を政府と結んだ。同社は2025年3月、直径46ミリ・長さ95ミリの円筒形電池「4695」の量産を韓国・天安で始めた。

会社会社全体の稼働率2025年の営業損益税額控除を除いた損益(本誌試算)欧州の工場
LGエナジー47.6%(2026年1〜6月期52.8%)1兆3461億ウォン約3000億ウォンの赤字ポーランド(90ギガワット時計画)
サムスンSDI非開示1兆8519億ウォンの赤字約2兆1300億ウォンの赤字ハンガリー(生産能力は非開示)
SKオン48.7%(2026年1〜6月期36.4%)9314億ウォンの赤字約1兆6500億ウォンの赤字ハンガリー(計37.8ギガワット時)
パナソニック非開示698億円(調整後721億円)約270億円の赤字なし

営業損益は、LGエナジーとSKオンが会社全体、サムスンSDIが電池部門(エナジーソリューション部門)、パナソニックがエナジー事業の2026年3月期の数値。税額控除は米インフレ抑制法(IRA)に基づく先端製造業生産税額控除で、LGエナジーが1兆6468億ウォン、サムスンSDIが2752億ウォン、SKオンが7186億ウォン。パナソニックの調整後営業利益721億円には、米国の税額控除991億円が含まれる。稼働率の算出方法は会社ごとに異なり、LGエナジーは生産額、SKオンはセルの生産数をもとに計算している。円に換算すると、2025年の営業損益はLGエナジーが約1,557億円の黒字、サムスンSDIが約2,142億円の赤字、SKオンが約1,077億円の赤字だ。税額控除を除くと、LGエナジーは約350億円、サムスンSDIは約2,460億円、SKオンは約1,910億円の赤字になる。

日本勢では、パナソニックホールディングス(証券コード6752)の車載電池事業は北米が中心で、欧州には工場を持たない。有価証券報告書によると、2026年3月期のエナジー事業は売上高が9,842億円、営業利益が698億円だった。売上高のうち車載電池は4,314億円で、データセンター向け蓄電システムを含む産業・民生向けの5,470億円を下回った。北米工場の電池の販売量は2024年度の38.1ギガワット時から2025年度は38.7ギガワット時とほぼ横ばいで、2026年度は46ギガワット時を見込む。カンザス州デソトの工場では2025年7月14日に、直径21ミリ・長さ70ミリの円筒形電池「2170」の量産を始め、年産約32ギガワット時を目指す。直径46ミリ・長さ80ミリの「4680」は、2026年7月時点でも量産の開始時期を顧客と調整していた。

米国の税額控除の額は、有価証券報告書と決算説明資料で異なる。有価証券報告書では、米国の税額控除2,134億円を2026年3月期の売上原価から差し引いている。決算説明資料は、調整後営業利益に含まれる額を991億円としている。両者の差の内訳は、本誌が確認した資料では分からなかった。721億円から991億円を差し引くと、エナジー事業は約270億円の赤字になる(本誌試算)。この数字には、産業・民生向けの利益も含まれる。パナソニック エナジーの企業情報はパナソニック エナジーの企業ページにまとめている。

CATL・EVEエナジーと韓国2社の会社全体の稼働率
CATL・EVEエナジーと韓国2社の会社全体の稼働率

図3 — CATL・EVEエナジーと韓国2社の会社全体の稼働率。算出方法は会社ごとに異なり、単純には比較できない

試験生産の約1か月前に当局が第2期の申請を却下し作業停止を命令、新政権は環境違反に厳しい姿勢

試験生産は、当局との摩擦が続くなかで始まった。オルバン前政権が誘致したCATLに対し、5月に発足した新政権は環境面で厳しい姿勢を示している。運輸・投資相は8月16日、交流サイト(SNS)への投稿で、環境法令に違反した企業には少なくとも6か月は新たな許可を出さない方針を示し、CATLを名指しした。

ハンガリーの経済ニュースサイト「ポートフォリオ」などの報道によると、ハイドゥー・ビハール県の行政当局(以下、県当局)は8月19日、配置図の不備を理由に、第2期の建屋の使用許可申請を却下した。県当局は8月25日、従業員9人の体内から基準を超えるニッケルが検出されたとして、レーザー切断、巻き取り、セル乾燥の3工程に作業停止を命じた。いずれもセルの生産に欠かせない工程だ。同じ日に、第1期のセル工場棟には使用許可を出した。県当局は8月、環境許可に違反したとして1,000万フォリント(約490万円)の罰金も科した。

CATLは9月22日の発表で、統合環境許可(大気や水、廃棄物などの環境への影響をまとめて審査する許可)の条件をすべて満たし、以前に指摘した不備が解消されたことを県当局も確認したと説明した。ただ、作業停止命令が解除されたかどうかについて、CATLも県当局も公表していない。

統合環境許可をめぐっては、住民と市民団体が2023年3月に取り消しを求めて提訴し、裁判が続いている。次回の審理は9月29日と報じられている。これとは別に、最高裁は2023年11月30日、手続きの不備を理由に防災当局の許可を取り消し、当局に手続きのやり直しを命じた。

EUの電池規則では、2027年2月18日からEV用電池へのバッテリーパスポート(原材料や製造履歴などの電子記録)の付与が義務づけられる。域内で生産したか輸入したかを問わず、EU域内で販売する電池が対象になる。製造時の温暖化ガス排出量の申告は、算定方法を定める委任規則が採択されておらず、開始時期は決まっていない。EUは2024年10月、中国製のEVに相殺関税(補助金の効果を打ち消すための関税)を課した(BYD 17.0%、吉利汽車18.8%、上海汽車集団35.3%)。対象は完成車で、中国から輸入する電池には課されない。この関税が電池の欧州生産を直接促すわけではない。

CATLの稼働率は2025年が96.9%、2026年1〜6月期が94.9%と高水準にある。同社は欧州でも年100ギガワット時規模の生産体制を築こうとしている。今回動き出したのは、まだ2本の生産ラインだけだ。量産に移行できるかは、試験生産で歩留まりを高められるかに加え、当局の審査や9月29日の審理を含む裁判の行方にかかっている。

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