ジブチの中国軍基地は2024年半ば以降、短波から衛星通信まで5種類の通信・傍受設備を増やした。16km先の自衛隊拠点が守るアデン湾で、護衛艦の護衛は2025年に0回になった。海峡の通航隻数と海運3社の開示で、日本が負う費用を確かめる。

2025年、海上自衛隊の護衛艦はアデン湾で1隻も護衛しなかった。内閣官房の関係省庁連絡会が2026年3月にまとめた海賊対処レポートによると、2025年の護衛回数は0回、護衛隻数は0隻である。護衛する船がなくなったためである。この海域を通る日本関係船舶は2023年まで年間約1,800隻あったが、2023年11月以降に国内外の海運会社が紅海の航行を止め、2025年の航行実績は0隻になった。一方、中国国防部の発表では、2024年12月に舟山を出た中国海軍の第47次護衛隊は368日間で中国と外国の船舶102隻を護衛して2025年12月に帰港した。同じ海で、同じ1年に、日本の護衛は0隻、中国の護衛は102隻である。

この差を読み解く手がかりになるのが、米戦略国際問題研究所 (CSIS) が2026年9月17日に公表した衛星画像の分析である。ジブチの中国軍基地は2024年半ば以降、基地の南東と北西に通信施設を2か所増設し、短波から衛星通信まで5種類の設備をそろえた。CSISは、この基地が中東とアフリカの大部分を見渡す中国軍の前線の情報拠点になり、近くで活動する他国軍の電波を探る能力を支えるとみる。自衛隊の拠点は、その中国基地から16km以内にある。

本稿が確かめるのは次の1点である。自衛隊が守る海峡を日本の船は通れず、中国の船は通れる。中国基地の増強はこの構図を固めるものであり、対EU貿易22.9兆円を喜望峰回りで運ぶ日本の海運の費用は、海賊の件数ではなく、各国の基地と傍受設備が向き合うこの海峡の情勢で決まる。

5か国の基地が16km以内に並び、中国基地は2024年半ばから通信施設を2か所増やした

ジブチはアデン湾とバブ・エル・マンデブ海峡に面する。海峡の幅は約32kmで、CSISの推定では世界の海上貿易の16%が通る。この立地のため、各国が基地を置いている。ジブチ市の南東、国際空港の周りにフランスの空軍基地188、自衛隊のジブチ活動拠点、イタリアのアメデオ・ギレ基地、米海軍のキャンプ・レモニエが集まる。市街地から西へ離れたタジュラ湾沿い、ドラレ多目的港の隣に中国人民解放軍の保障基地がある。CSISによれば、米国・フランス・イタリア・日本の4か国の基地は、いずれも中国の基地から10マイル (約16km) 以内にある。

自衛隊の拠点は2011年に開設された、自衛隊で唯一の海外拠点である。海賊対処は2009年3月に始まった。海上警備行動として護衛艦2隻を派遣し、同年5月にP-3C哨戒機2機を送った。6月に海賊対処法が成立し、7月に施行された。派遣海賊対処行動支援隊は2014年に編成され、ジブチ国際空港の北西地区にある拠点の警備と維持管理を担う。2026年は拠点の開設から15年にあたる。

中国の基地は2017年8月1日、人民解放軍の創設90周年に合わせて開所式を行った。式典では中国とジブチの国旗を掲げ、白い制服の海軍兵と迷彩服の隊員が整列した前に、車体番号101・102・116・201・207の8輪装甲車が並んだ。横断幕には「中国人民解放軍駐ジブチ保障基地部隊 営区進駐式」と中国語とフランス語で書かれていた。中国が正式に認める海外の軍事基地はこの1か所だけである。令和8年版防衛白書によると、この基地の中国軍部隊とジブチ軍は2024年7月と10月、2025年4月と10月に共同演習を行った。

CSISが米プラネット社の衛星画像で確かめた変化は、2024年半ば以降に起きた。基地の南東の角に大きい方の施設、北西の角に小さい方の施設ができた。南東には管理棟のほか、高周波 (HF) 通信用の30mダイポールアンテナ3基、超短波・極超短波 (V/UHF) 用の小型アンテナ2基、衛星通信用の移動式パラボラアンテナ3基、5G基地局とみられる塔4基、中身の分からない装置を収めたレドーム (アンテナを覆う丸屋根) 1基がある。北西にはクロスダイポール型のHFアンテナ2基とレドーム1基、管理棟があり、2025年に掘られた補強付きのケーブル用の溝は、今後アンテナが増える余地を示している。

中国基地に増設された2つの通信施設と5種類の設備
中国基地に増設された2つの通信施設と5種類の設備

5種類の設備は周波数帯が違い、傍受の対象が広がる

CSISは、2つの施設が一体となって基地全体の指揮統制・通信・コンピューター・情報・監視・偵察 (C4ISR) の機能を担う可能性が高いとみる。設備の種類と向きがそれぞれ違うのは、広い周波数帯で送信と受信の両方をこなすためである。

設備周波数帯通信に使う場合傍受に使う場合
HFアンテナ (30mダイポール3基・クロスダイポール2基)3〜30MHz水平線の先まで届く遠距離の無線通信短波の送信を傍受し、発信源の位置を特定する
V/UHFアンテナ (小型2基)約30MHz〜3GHz近距離の音声とデータの通信周辺の無線を傍受し、発信源を特定する
衛星通信用パラボラ (移動式3基)X・C・Ku帯衛星を介した遠距離の通信とデータのやり取り同じ周波数帯の衛星通信を傍受する
5G基地局とみられる塔 (4基)6GHz以下またはミリ波基地内の高速な無線通信周辺の携帯電話や無線の電波を監視する
レドーム (2基。中身は不明)不明中のアンテナを風雨と外からの目から守るレーダー、衛星通信、傍受装置のどれが入っていてもおかしくない

表1 増設された設備の周波数帯と用途 (CSISの整理による)。

通信の面では、新設備によって地域で活動する中国の艦船や航空機と水平線の先まで通信する経路が二重になり、中国本土の司令部との秘匿通信の経路も確保できる。情報収集の面では、近くで活動する他国軍の監視ができるようになる。通信の傍受 (シギント) が実際に行われているかどうかは、公開情報では確かめられないとCSISは断っている。それでも、軍用の通信が暗号化されていても、電波の方向、発信源、周波数、通信の頻度を追うだけで、米国など他国軍の作戦について多くのことが分かる、というのがCSISの見方である。

この設備の価値を高めたのが、2023年末以降の中東情勢である。フーシ派による紅海を航行する商船への攻撃と、米国とイスラエルの対イラン作戦の拡大で、米軍の大規模な部隊が地域に集まった。CSISによると、2026年7月までに空母打撃群2個と数百機の航空機を含む20隻超の米海軍艦艇が、対イラン作戦とホルムズ海峡周辺の作戦を支えていた。中国基地から16km以内にある自衛隊の拠点と護衛艦の通信も、同じ監視の対象になる。日本が自国の枠組みで行う直接護衛も、第151連合任務群の枠組みで行う区域の警戒も、電波の発信源と通信の頻度までは隠せない。

海峡の通航は日量74隻から33隻に半減し、日本関係船舶は通らなくなった

海峡を通る船の数は、国際通貨基金 (IMF) が公開する「ポートウォッチ」の日次データで数えられる。バブ・エル・マンデブ海峡の通航は2023年の年平均で1日74.0隻だった。2023年11月まで77隻台を保っていた数字は12月に65.2隻に落ち、2024年1月に39.4隻と前年同月比45%減になった。その後は戻っていない。2024年の年平均は32.5隻で2023年比56.1%減、2025年は33.5隻、2026年は9月20日までで33.8隻である。減った分はアフリカ南端へ回った。喜望峰の通航は2023年の49.1隻から2024年に87.0隻へ77.2%増え、2025年も89.5隻で高止まりしている。

バブ・エル・マンデブ海峡と喜望峰の通航隻数の推移
バブ・エル・マンデブ海峡と喜望峰の通航隻数の推移

船種で見ると、減り方は一様ではない。コンテナ船は2023年の1日18.5隻から2025年に6.7隻へ63.6%減り、自動車船などは3.7隻から0.7隻へ80.6%減った。タンカーは26.1隻から11.5隻である。日本関係船舶の内訳は2023年で自動車運搬船が約37%、コンテナ船が約20%を占めており、最も減った船種と重なる。海峡から姿を消したのは、日本の海運会社が最も多く通していた種類の船だった。

転機は2023年11月19日だった。日本郵船が英ギャラクシー・マリタイム社から傭船する自動車専用船ギャラクシー・リーダーが、インドへ向けてイエメンのホデイダ沖を航行中に拿捕された。貨物は積んでおらず、乗組員は25人だった。同社は翌20日に本店に対策本部を置いた。乗組員25人全員が解放されたのは1年2か月後の2025年1月23日である。この拿捕を境に、日本の海運会社は紅海を避けるようになった。内閣官房のレポートによれば、2023年11月以降に国内外の多くの海運会社が紅海の航行を停止して喜望峰回りに迂回したため、2025年の日本関係船舶の航行実績は0隻になった。

航行の停止は今も続いている。日本郵船が2026年6月16日に提出した2026年3月期の有価証券報告書は、「情勢が緊迫化している紅海・アデン湾、ホルムズ海峡においては、当社グループ船舶の航行を停止しています」と記す。さらに、紅海・アデン湾・ソマリア沖・ペルシャ湾を含む周辺水域が通常の戦争保険の除外地域に指定された場合 (一部の水域は既に指定済み) には保険料率が変動し得るとし、今後の見通しでは、コンテナ船事業は「スエズ運河迂回に伴う喜望峰ルートの利用が年度を通じて継続する」ことを前提に利益水準の低下を、自動車事業は中東情勢の緊迫が続くことを前提に輸送台数の減少を見込んでいる。同社は自動車船を所有56隻・傭船67隻の計123隻運航する。商船三井の有価証券報告書も「ホルムズ海峡の事実上の封鎖を含む中東情勢の更なる悪化」を記し、戦争保険を含む各種の保険をかけていると説明する。

海賊の件数そのものは減っていない。国際海事局 (IMB) の集計で、2025年の世界の海賊事案は137件で、ソマリア沖・アデン湾周辺は2011年に237件で世界の半数を超えたあと、2019〜22年は年0件か1件まで減った。それが2023年に1件 (2017年以来のハイジャック)、2024年に8件、2025年に5件と増えている。第52次水上部隊の護衛艦「おおなみ」が前部隊から任務を引き継いだ直後の2025年11月にも、航行中のタンカーが武装した小型船から携帯ミサイルと小銃で攻撃される事象が起きた。護衛する船が0隻になったのは、海が安全になったからではなく、日本の船が来なくなったからである。

自衛隊の護衛はゼロになり、拠点の役割は警戒監視と邦人退避に移った

護衛艦の護衛実績は累計で877回・3,955隻である。1回の護衛で平均4.5隻を連れて900kmの護衛航路を往復してきた計算になる。内訳は日本籍船26隻、邦船社が運航する外国籍船701隻、その他の外国籍船3,228隻で、運航会社の国籍では日本721隻、中国501隻、シンガポール408隻の順に多い。自衛隊の護衛艦が守った船の12.7%は、中国の会社が運航する船だった。船種では原油タンカー1,908隻、一般貨物船1,536隻、LPG船125隻である。

護衛が止まっても、拠点の活動は続いている。派遣部隊の編成は令和8年版防衛白書のとおりで、水上部隊は護衛艦1隻に海上自衛官約200人と海上保安官8人、航空隊はP-3C哨戒機1機に約60人、支援隊は陸上自衛官約90人と海上自衛官約40人など約130人がジブチの拠点を警備・維持する。護衛艦は2016年12月以降2隻から1隻に、P-3Cは2023年12月以降2機から1機に減った。第151連合任務群と連合海上部隊の司令部には計3人までの連絡要員を置き、日本は2015年・2017年・2018年・2020年の4度、第151連合任務群の司令官を出している。

自衛隊の海賊対処部隊の編成と3つの活動方式
自衛隊の海賊対処部隊の編成と3つの活動方式

2025年に実際に任務をこなしたのは哨戒機だった。P-3Cは飛行148回・約980時間で商船4,709隻を確認し、護衛艦・各国の艦艇・商船へ186回の情報提供を行った。累計は飛行3,517回・約25,030時間で、確認した商船は29万1,960隻、情報提供は16,591回である。防衛白書は2026年3月31日現在の累計を護衛4,076隻 (海上警備行動に基づく121隻を含む)、飛行3,549回・約25,240時間・情報提供16,657回とする。4,076隻から121隻を引くと3,955隻で、内閣官房の累計と一致する。つまり2026年1〜3月も護衛は0隻で、哨戒機は32回・約210時間飛んで66回の情報提供を行った。海賊対処の護衛艦1隻とP-3C 1機は、2019年の閣議決定に基づく中東地域での情報収集活動も兼ね、オマーン湾・アラビア海北部・バブ・エル・マンデブ海峡東側のアデン湾の公海で日本関係船舶の安全確保に必要な情報を集めている。

拠点の役割は広がっている。2023年の閣議決定で現地部隊に在外邦人等の保護・輸送を見据えた臨時の態勢整備の任務が加わり、同年12月には2009年の日ジブチ地位取極を準用する交換公文を結んだ。2025年6〜7月には中東情勢の悪化を受け、拠点が邦人等輸送用の輸送機の前進待機場所として使われた。2025年8月に中谷防衛大臣 (当時) はジブチ国防大臣代行との会談で、拠点の土地提供など長年の支援に感謝を述べ、日本はジブチ海軍に沿岸監視レーダー (供与額11億円) と巡視艇2隻を供与した。令和8年度予算の概要は、海賊行為に対処しなければならない状況に変化がみられないとして、護衛艦とP-3CまたはP-1による海賊対処の継続を掲げる。2025年11月7日に閣議決定された海賊対処要項の期間内に、哨戒機はP-3CからP-1へ替わる予定である。海賊対処の経費の金額は予算の概要には記載がなく、本稿では未取得とする。

中国船だけが通れる海峡は、日本の迂回の費用を長引かせる

日本の船が通らない海峡を、中国の船は通る。米財務省は2025年3月5日、フーシ派の指導者8人を制裁対象に指定した発表で、最高政治評議会メンバーのモハメド・アリ・アルフーシが「フーシ派の海上攻撃作戦のさなか、ロシアと中国の当局者と連絡を取り、フーシ派の戦闘員がロシア船と中国船を攻撃しないようにした」と記した。中国船が「乗組員は中国人」と掲げて紅海を航行しているとの指摘は、この米財務省の認定と符合する。ただし、中国船の通航が保証されているわけではない。中国海軍が護衛を続けていることが、それを物語る。第47次護衛隊の102隻に続き、2025年10月11日に青島を出た第48次護衛隊は駆逐艦唐山、フリゲート大慶、補給艦太湖の3隻で、2026年9月17日にバングラデシュのチッタゴンを訪問した。新華社によれば、2008年12月の第1次以来、中国海軍は1,600回余の護衛で7,200隻余を護衛してきた。ジブチの基地は、この護衛隊の補給と通信を支える拠点である。

ここに増強された通信・傍受設備が加わる。CSISが挙げた能力は、中国の艦船との通信の二重化と、他国軍の電波の監視である。前者は中国船の通航を支え、後者は日米欧の護衛の動きを読む材料になる。日本の船は通れず中国の船は通れるという構図は、フーシ派による船の選別と中国基地の設備の両方が支えており、どちらか一方がなくなっても変わらない。

日本側の費用は貿易統計で測れる。内閣官房のレポートによれば、日本は貿易量 (トン数) の99.5%を海上輸送に頼る。財務省の貿易統計によると、2025年の対EU貿易は輸出10兆931億円・輸入12兆7,586億円の合計22兆8,517億円で、日本の貿易総額223兆7,306億円の10.2%にあたる。西欧全体では27兆3,517億円 (12.2%) である。対EU輸出のうち自動車は1兆8,523億円で、乗用車が1兆7,690億円を占める。このほぼすべてが、紅海が安全なら海峡を通り、今は喜望峰を回る。内閣官房のレポートは、紅海が不安定化する前は海峡を年間約1万9,000隻の商船が往来し、その約1割が日本関連船舶だったとする。海峡の通航が2023年比で56%減ったまま3年目に入り、日本郵船が年度を通じて喜望峰回りを前提にした以上、この10.2%にあたる貿易は当面、迂回による航海日数の増加と戦争保険料の負担を抱え続ける。原油から見た同じ海峡の話は、サウジの3つの輸出経路が塞がった記事ホルムズ危機の戦争保険の記事で扱った。

基地を受け入れるジブチの側にも、数字がある。IMFの2025年の4条協議によると、ジブチの2024年の実質成長率は6.5%で、紅海の緊張のさなかに積み替え貨物が増えたことが主因だった。2025年も約6%の見通しである。一方、中央政府と政府保証の債務はGDP比で2023年69.9%、2024年68.9%、2025年67.2%と高く、IMFは債務の持続可能性がないと評価している。IMFのスタッフ報告の要約は、中国輸出入銀行との返済猶予と軍事基地の賃料による歳入の増加は一時的な財政の余地しか生まないと指摘した。基地を貸す側の国は、海峡の通航が減っても積み替えで潤い、債務の返済猶予では中国に頼る。日本と欧米の連携を示すことが中国への牽制になるという見方は、この国では、基地の賃料と港の積み替えという経済の土台の上に成り立っている。

自衛隊がジブチから守る海峡を日本の船は通れず、中国の船は通れる。中国基地の通信・傍受設備の増強はこの構図を固めるものであり、対EU貿易22.9兆円を喜望峰回りで運ぶ日本の海運の費用は、海賊の件数ではなく、各国の基地と傍受設備が向き合うこの海峡の情勢で決まる。

投資家向けの個別銘柄レポートと技術デューデリジェンスのご相談はこちら。