政府が戦略17分野で選んだ製品・技術の官民投資額を事業の段階別に合計すると、既に商用化や量産の段階にある項目が約7割を占める。項目別の最大は半導体の68兆円だ。実証段階の水素などは約4分の1、研究開発段階の量子などは約6%だ。
日本経済新聞は10月22日、高市早苗政権が年末にまとめる5カ年計画で、戦略17分野を事業の進み具合に応じて3つに分け、分類ごとに国の投資や支援を決めると報じた。政府の資料には、3つに分ける整理が2つある。1つは7月に公表した「官民投資ロードマップ」の参考資料で、62の製品・技術を商用化・量産化、実証、研究開発の3段階に分けた。それぞれを「足元の収益源」「次の稼ぎ頭」「未来に向けた成長の芽」と位置づけた。同じ月に閣議決定した日本成長戦略も、戦略分野には「時間軸の違いがある」とした。もう1つは、10月の会議の資料が挙げた計画の重点の例だ。
年末の実行計画、2030年ごろまでの投資額と複数年度の予算を盛り込む
政府は10月1日の日本成長戦略会議で、年末までに「日本成長戦略実行計画」をつくる方針を示した。会議の資料によると、政府は2030年ごろまでの5年間を「集中投資期間」と位置づけ、計画は主にこの期間を対象にする。計画には、重点的に取り組む分野で企業を中心に何にいくら投資するかを、「投資事業計画」として書き込む。資料は計画をつくる背景の一つに、2025年度の民間企業の設備投資が128兆円と過去最高の水準にあることを挙げた。
資料は、計画で重点的に取り上げる項目として3つの例を挙げた。「足下の収益源となるもの」「今後の稼ぎ頭であり波及効果が大きいもの」「経済安全保障の観点での波及効果が特に大きいもの」だ。7月の参考資料が研究開発段階を指した「未来に向けた成長の芽」は、この3つの例に無い。3つ目は事業の段階ではなく、経済安全保障の観点だ。
計画には、7月に創設を決めた「強く豊かな日本」投資枠を使い、数年にわたって予算を付ける事業も盛り込む。投資枠は予算要求の上限 (シーリング) の対象外とし、原則として複数年度の計画に基づいて予算を計上する。政府は予算編成と並行して計画の中身を詰め、年末の予算案の決定に合わせてまとめる。
官民投資の7割は商用化段階に、量子など研究開発段階は5.5%どまり
政府はロードマップの参考資料で、62項目の多くについて、主に2040年度までに見込む官民の投資額を示した。これを段階別に合計すると、商用化・量産化の段階にある項目の投資額が全体の7割を占めた。
| 段階 (かっこ内は政府の呼び名) | 項目数 | 官民投資額 | 構成比 | 主な項目 (投資額の大きい順) |
|---|---|---|---|---|
| 商用化・量産化 (「足元の収益源」) | 37 | 277.5兆円 | 70.2% | 半導体、データセンター・蓄電池、ゲーム |
| 実証 (「次の稼ぎ頭」) | 20 | 95.9兆円 | 24.3% | 次世代無線通信、バイオものづくり、フィジカルAI |
| 研究開発 (「未来に向けた成長の芽」) | 5 | 21.9兆円 | 5.5% | 量子コンピューター、月面探査、核融合 |
金額が示された60項目を単純に足すと395.3兆円になる。艦艇は2026年度予算の約3,400億円だけが示され、LNG運搬船の金額は「今後精査」とされているため、2項目とも合計に入れていない。商用化・量産化の37項目のうち、合計に入れたのは35項目だ。政府は項目間の重複を除いた総額を「370兆円超」としている。この記事の構成比は単純な合計をもとに計算した。
多くの項目の投資額は2040年度までの累計だ。ゲームなどのコンテンツは2033年度、次世代船舶は2034年度、クラウド・データセンターなどは2035年度、防災技術は2030年度までと、集計の期間が短い項目もある。政府は、項目の段階分けは目安で、「一定の幅をもったもの」だとしている。
政府が想定する経済波及効果でも、上位には商用化段階の項目が多い。最大は半導体の443.3兆円だ。2番目は実証段階の次世代無線通信 (衛星などを使う通信網や5G・6Gなど) の223.5兆円だ。3番目は商用化段階のバーティカルAI (特定の分野に特化したAI) の222兆円で、4番目はゲームの191.4兆円 (2033年度まで) だ。5番目は実証段階の自動運転技術の187.3兆円となる。政府によると、波及効果は項目同士で重なる部分があり、足し合わせることはできない。
半導体は投資額が最大、2030年に国内生産の売上高15兆円を目指す
半導体は62項目のうち官民投資額が最も大きい。ロードマップは2040年度までに68兆円の投資を見込む。単純合計の17.2%にあたる。ロードマップは、台湾積体電路製造 (TSMC) が工場を建てた熊本県や、ラピダスが工場を置く北海道で、関連企業の投資が増えていると記した。
日本の半導体産業は、かつて世界シェアの約5割を握ったが、いまは1割未満だ。ロードマップは、設計は米国、製造は台湾が強いと分析した。製造装置では日本が米国や欧州と肩を並べ、素材や部材では日本が優位にあるとみる。
ロードマップは次の重点として、AIを組み込んだ機械を動かす半導体を挙げた。これまでの支援は、データセンターで生成AIを動かす先端半導体が中心だった。今後はロボットや自動車が、組み込んだAIで周囲の状況を判断して動く場面が増える。このため、データセンターに頼らず機械の中で即座に計算する半導体が必要になる。政府は、ロボットや自動車などに組み込み、周囲をとらえて判断し、機械を動かす一連の仕組みを「フィジカル・インテリジェント・システム」と呼ぶ。計算と記憶を受け持つロジック半導体とメモリー、動きを制御するマイコン、周囲の状況をとらえるセンサーが中核になる。
ロードマップは「System to Silicon (システムから半導体へ)」という考え方を政策の柱に据えた。半導体を使うロボットや自動車の側から必要な機能を割り出し、それに合わせて複数の半導体を設計・製造し、システムとして最適に組み合わせるという考え方だ。ロードマップは日本の強みとして、センサーや制御の技術、アナログ半導体やレガシー (成熟世代) 半導体の設計力を挙げた。アナログ半導体は、電圧や温度など連続して変わる信号を扱う半導体だ。
目標は、国内で生産する半導体の売上高を2030年に15兆円にすることだ。40年には40兆円を目指す。取り組みは3段階で進める。まず足元で必要な製造基盤を国内に整え、続いて次世代品の量産技術を開発し、その先の新技術の研究に進む。AIと半導体への公的支援の枠組みと、ラピダスへの支援額は、半導体10兆円枠の記事とラピダスのページで詳しく伝えた。
水素は実証段階、商用化の壁は需要と価格
水素は技術で先行しながら、実証段階にとどまる。政府は水素やアンモニアをまとめた「水素等」の項目を実証段階に分類した。官民投資額は2040年度までの累計で6.2兆円を見込む。金額が示された60項目の単純合計の1.6%にとどまる。経済波及効果は85.3兆円とみている。
日本のメーカーは、水素やアンモニアを燃料にできるガスタービンを世界に先駆けて実用化した。ロードマップは、日本がガスタービンの「市場シェアの約4割」を占めるとしているが、水素対応の機種に限った数字かどうかは示していない。川崎重工業は2019年12月、世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」を神戸工場で進水させた。水素はマイナス253度に冷やすと液体になり、体積が気体の800分の1に縮むため、船で大量に運べる。同社は進水の後に、容量1,250立方メートルの液化水素タンクを積むとしていた。ロードマップによると、液化水素の供給網に必要な設備をすべて自国でつくれる国は、世界で日本だけだ。ロードマップは、水を電気分解して水素をつくる水電解装置と、水素と酸素から電気を起こす燃料電池も、重点製品に挙げた。川崎重工の決算や適時開示は銘柄ページで確認できる。
ただ、水素の供給網全体としては、まだ商用化の段階に進んでいない。ロードマップは最大の課題に、需要の創出と価格の引き下げを挙げる。ガスタービンではメーカーが安定した需要を見込めず、生産能力を増やす投資に踏み切れないという。液化水素の大量輸送は世界に前例がなく、商業ベースの実績も乏しいため、企業は事業化への投資を決めかねている。
政府は水素社会推進法に基づき、水素と既存の燃料との価格差を補う助成や、供給拠点の整備への支援で需要を掘り起こす方針だ。政府は2030年に水素などを最大で年300万トン導入することを目指す。40年には年1,200万トンに増やす。50年には年2,000万トン程度を見込む。政府は水素とアンモニアの関連市場が2050年に世界で30兆〜40兆円規模に育つとみる。同じ年に、製品やサービスの輸出で年10兆円程度を稼ぐ目標を掲げる。
研究開発段階は量子、核融合、月面探査の5項目
研究開発段階の5項目は、量子コンピューター、量子通信・ネットワーク、量子センシング、核融合 (フュージョンエネルギー)、月面探査と地球低軌道での宇宙活動だ。官民投資額は5項目で21.9兆円となる。最大は量子コンピューターの10.3兆円で、政府は量子コンピューターの経済波及効果を127.5兆円と見込む。
核融合の3.1兆円は、発電の実証プラントを1基と仮定した試算だ。政府は、2030年代に発電を実証した後は、産業界の見通しが立つにつれて投資額が増えるとみている。富士通は、1024量子ビットの量子コンピューターを2026年度中に公開する予定だ。詳しくは富士通の量子コンピューターの記事で伝えた。
量子や核融合など研究開発段階の5項目が、経済安全保障の観点から計画の重点に入るかどうかは、年末の計画を待つことになる。
経済安保の重要分野は特別会計で別枠に、つなぎ国債の法整備を検討
投資枠のうち、政府が「経済安全保障上、特に重要」とみる分野などの予算は、特別会計で一般会計と別に管理する方針だ。7月の日本成長戦略で決めた。複数年度の財源を先に確保し、その財源で返すつなぎ国債を発行して、支出を前倒しできるようにする。
10月の会議の資料は、特別会計で支える事業の条件を示した。基本は、国が後押しする理由がはっきりしていることだ。例として、一定期間の支援で利益を出せるようになり、企業の投資を引き出すきっかけになる事業を挙げた。他国に頼らずに済む力 (資料の言う「自律性」) や、他国にとって欠かせない立場 (同「不可欠性」) を得られる事業も挙げた。
資料はつなぎ国債の例として3つを挙げた。東日本大震災の復興債、脱炭素投資に使うGX経済移行債、AIと半導体の支援に充てる先端半導体・人工知能関連技術債だ。政府は2027年度予算から新しい仕組みを使えるよう、つなぎ国債の発行や特別会計の新設に必要な法整備を検討している。
どの項目が特別会計とつなぎ国債の対象になり、国が何年分の予算を確保するのか。年末の実行計画と予算案で決まる中身は、半導体や水素の企業が工場や設備への大型投資を決める際の判断材料になる。
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